原神の世界に通えるようになったので、モンドを拠点に異世界生活を楽しみます 作:ところてんの
次の週末。
平日の仕事を終えた俺は、自宅でスメールの地図を広げていた。
先週はガンダルヴァー村を訪れ、ティナリやコレイと一緒に森を巡った。植物や動物について教えてもらい、森の環境を守るために何が大切なのかも知ることができた。
そして、村の人たちにカレーを振る舞った。
固形ルーとパンを使い切ることになったけれど、みんなが喜んでくれたのは嬉しかった。
スメールでは、街だけでなく、森にもそれぞれの暮らしがある。
ならば、もうひとつ気になる場所にも行ってみたい。
「今度は砂漠に行ってみるか」
地図に目を落とす。
目的地はアアル村だ。
ゲームで何度も見た場所だけれど、実際に訪れれば、画面越しでは分からない発見もあるだろう。
砂漠の暑さはどれくらいなのか。村の人たちは、どんな家に住んで、何を食べているのか。水や食料はどうやって確保しているのだろう。
気になることはいくつもあった。
もちろん、砂漠の景色も楽しみだ。
スメールシティの市場や建物とは、また違った風景が見られるはずだ。
俺は必要な荷物をバックパックに入れ、飲み物も用意した。
砂漠へ行く以上、水分補給は欠かせない。現地の人たちが暑さに慣れているからといって、俺まで平気だとは限らないのだから。
準備を終え、自宅のパソコンを通じてテイワットへ移動する。
◇
解放済みのワープポイントを利用し、アアル村の近くへ移動した。
光に包まれた感覚が消えると、目の前には乾いた大地が広がっていた。
「うわ……暑いな」
思わず声が漏れた。
日差しが強く、肌にじりじりと熱が伝わってくる。森の中で感じる木陰の涼しさとは、まるで違う。
空を見上げれば、強い日差しが降り注いでいる。
俺は額の汗を拭い、バックパックから水筒を取り出した。
まだ村に着いていないのに、すでに暑さを実感している。
「これは、こまめに水を飲まないとな」
ひと口飲んでから、水筒をしまった。
ゲームで遊んでいたときは、砂漠の景色を眺めたり、探索したりすることが中心だった。実際に立ってみると、暑さや乾燥まで身をもって感じることになる。
景色を楽しむのと、そこで暮らすのとでは、ずいぶん違うのだろう。
地図を確認して、村へ向かって歩き始める。
遠くに見えていた建物が、少しずつ大きくなっていった。
アアル村だ。
近づくにつれて、人々の姿も見えてきた。
荷物を抱えて歩く人がいれば、建物の前で道具を手入れしている人もいる。店先には商品が並び、商人が客に声をかけていた。
「そっちの荷物、こっちに置いてくれ!」
「この布なら、まだ何枚かあるよ。見ていくかい?」
「今日は日差しが強いな。少し休んでからにしよう」
さまざまな声が耳に入ってくる。
子供たちが話しながら通りを走っていく一方で、建物の陰に座り、休憩している大人の姿もあった。
どこかの家からは、食事の支度をしているらしい音も聞こえる。
砂漠の中にある村ということで、静かな場所を想像していたけれど、実際には人々がそれぞれの生活を送っていた。
もちろん、スメールシティの市場ほど大勢の人が集まっているわけではない。それでも、村には村のにぎわいがある。
「さて、まずは村の中を見て回るか」
俺は歩きながら、建物や通りの様子を眺めた。
壁や屋根は周囲の景色になじむ色合いで、日差しを避けられる場所も多い。
少し歩いただけでも汗が出てくる。村の人たちが建物の陰を利用している理由が、なんとなく分かった気がした。
ただ、初めて訪れた場所で、何も知らずに歩き回るのももったいない。
村の暮らしについて話を聞ける人がいればいいのだが。
そんなことを考えていると、近くから声がした。
「おい、そこの人。村を見て回っているのか?」
振り向くと、こちらを見ている男性がいた。
旅人らしい俺の格好が目に入ったのか、男性は興味深そうに声をかけてきた。
「そうなんです。今日は観光で来たんですよ」
「へえ、観光か。砂漠の村までわざわざ来るとは珍しいな」
「スメールシティとは違う景色を見てみたくて。それに、村の人たちがどんな暮らしをしているのかも気になっていたんです」
「なるほどな。それなら、俺が少し案内してやろうか?」
思いがけない申し出だった。
「いいんですか?」
「ああ。俺はラシードだ。村の中なら、それなりに知っているからな」
「ありがとうございます。俺は悠真です」
「悠真か。よろしくな」
ラシードさんは気さくに頷いた。
こうして、俺はラシードさんに村を案内してもらうことになった。
◇
ラシードさんと一緒に歩き始めると、村の人たちが次々と声をかけてきた。
「ラシード、今日は案内役か?」
「まあな。初めて来た旅人なんだ」
「そうかい。暑いから、無理はさせるなよ」
「分かってるよ」
そんなやり取りを聞きながら、俺は軽く頭を下げた。
顔見知り同士が気軽に声をかけ合っている。村の中では、誰がどこで何をしているのか、お互いにある程度分かっているのだろう。
「ラシードさんは、村の人たちと仲がいいんですね」
「まあ、ここで暮らしていれば、顔を合わせることも多いからな」
ラシードさんはそう答え、通りの先を指さした。
「まずは、あっちを見てみるか。村の中には、暮らしに必要な物を売っている店もある」
「ぜひお願いします」
建物の間を歩きながら、俺は周囲を見回した。
店先には生活用品が並び、客と商人が値段や品物について話している。
「この品物、前に買ったものと同じかい?」
「ああ、同じ種類だよ。こっちの方が少し丈夫だな」
「なら、そっちをもらおうか」
商人は品物を包み、客に手渡した。
店の前では、別の住民が荷物を整理している。少し離れたところでは、子供たちが笑い声を上げながら遊んでいた。
どれも特別な出来事ではない。
けれど、そうした普段の光景を見ていると、ここが人々の暮らす場所なのだと実感できる。
「砂漠だと、生活に必要なものをそろえるのも大変そうですね」
俺が尋ねると、ラシードさんは頷いた。
「そうだな。村で手に入るものもあるが、外から運んできてもらう品物もある。必要なものが全部この村だけでそろうわけじゃないからな」
「やっぱり、商人の人たちが大切なんですね」
「ああ。品物を運んできてくれる人がいるから、手に入るものもある。砂漠を移動するのは楽じゃないが、それでも行き来してくれる人たちがいるんだ」
「暑さもありますし、荷物を運ぶのも大変そうです」
「日差しの強い時間に無理をするわけにもいかない。水も必要だし、道の様子にも気をつけないとな」
ラシードさんの説明を聞きながら、俺は店先に並んだ品物を眺めた。
街の市場では、たくさんの商品が並んでいることに目が向きがちだ。
けれど、その商品がどこから来たのか、誰が運んできたのかまでは、普段あまり考えない。
砂漠の村では、品物を運ぶことそのものが、生活を支える大切な仕事になっている。
俺も小規模ながら商売をしているので、こういう話は興味深い。
商品を用意するだけではなく、どこで売るのか、誰が必要としているのかを考えることも大切なのだ。
「なるほど。街で買い物をするだけじゃ分からないこともありますね」
「実際に暮らしてみると、いろいろ分かることもあるさ」
ラシードさんはそう言って、次の通りへ歩き出した。
◇
少し歩いたところで、食料品を扱っている店が目に入った。
店先には、食材らしい品物が並んでいる。
俺は足を止めた。
「ここは食べ物も売っているんですね」
「ああ。食料を買いに来る住民もいる。旅人が必要なものを探すこともあるな」
せっかく砂漠の村に来たのだから、食べ物についても知っておきたい。
俺は店の方へ近づいた。
「こんにちは。少し聞きたいことがあるんですが」
店の主がこちらを向いた。
「いらっしゃい。何が知りたいんだい?」
「アアル混ぜご飯っていう料理があると聞いたんです。この村で食べられるお店はありますか?」
店の主は少し考えたあと、首を横に振った。
「料理の名前は聞いたことがあるが、うちでは出していないね。食材を売る店だからな」
「そうですか。ありがとうございます」
礼を言って店を離れた。
アアル村という名前から、村の中で食べられるものだと思っていたのだが、そう簡単にはいかないらしい。
せっかく本場の村まで来たのだから、どんな味なのか確かめてみたかった。
俺はラシードさんの方を向いた。
「ラシードさん、アアル混ぜご飯って知っていますか?」
「ああ、名前なら知ってるぞ」
「この村で食べられるお店はないんでしょうか?」
ラシードさんは少し考えてから答えた。
「うーん……。この村で出している店は、俺も知らないな。食べたいなら、ほかの場所で探した方がいいかもしれない」
「そうですか……。せっかくアアル村に来たので、食べてみたかったんですけどね」
「残念だったな。でも、村の中で食べられるところがあるとは限らないからな」
「そうですね。教えてくれてありがとうございます」
アアル村に来たからといって、アアル混ぜご飯を食べられるわけではないらしい。
少し残念ではあるけれど、仕方がない。
今回は料理の名前と、村で食べられる店がないことを知れただけでもよしとしよう。
「ほかにも、村の中で見ておいた方がいい場所はありますか?」
俺が尋ねると、ラシードさんは村の奥へ目を向けた。
「そうだな。村の中をもう少し回ってから、景色がよく見える場所にも案内してやるよ」
「景色が見える場所ですか?」
「ああ。砂漠を見渡せるところがある。せっかく来たんだから、そっちも見ていくといい」
「それは楽しみです。ぜひお願いします」
俺はラシードさんの後について歩き出した。
◇
通りを進むと、少し開けた場所に出た。
建物の陰では、何人かの住民が休憩している。近くでは、荷物を運んできた人が水を飲み、別の住民と話をしていた。
「今日は暑いな。もう少し涼しくなってから仕事を続けるか」
「そうした方がいい。水も忘れるなよ」
そんな会話が聞こえてきた。
俺も額の汗を拭う。
村に着いてから、思っていた以上に歩いている。暑さに慣れていない俺にとっては、少し休憩した方がよさそうだ。
「ラシードさん、少し水を飲んでもいいですか?」
「もちろんだ。無理せず休めばいい」
俺は建物の陰に移動し、水筒を取り出した。
ひと口、ふた口と水を飲む。
直射日光を避けるだけでも、少し楽になった気がした。
「砂漠の暑さって、想像していたよりきついですね」
「慣れていないと、そう感じるだろうな。日差しが強いときは、こうやって休むのも大事だ」
「村の人たちも、暑い時間は休むんですか?」
「仕事によって違うが、休めるときは休むさ。無理をして倒れたら、それこそ大変だからな」
ラシードさんの言葉に、俺は頷いた。
当たり前のことではあるけれど、実際に暑さを感じると、その大切さがよく分かる。
スメールシティでは、店に入ったり、建物の陰を歩いたりできる。けれど、砂漠を移動している最中は、いつでも休める場所があるとは限らない。
水を持ち歩き、体調に気を配り、無理をしない。
砂漠で暮らす人たちにとっては、そうした行動が日々の生活に組み込まれているのだろう。
「少し休んだら、また行きましょう」
「ああ。まだ見せたい場所があるからな」
俺たちはしばらく日陰で休み、それから再び歩き始めた。
◇
村の中を進んでいると、少し先で子供たちの声が聞こえた。
「待ってよ、そっちじゃないって!」
「こっちだよ!」
何人かの子供たちが、楽しそうに走り回っている。
その中に、見覚えのある少年の姿があった。
イザークだ。
ゲームで知っている人物が、村の中で普通に暮らしている。そんな姿を見ると、少し不思議な気分になる。
俺が目を向けていることに気づいたのか、ラシードさんが声をかけてきた。
「イザークだな。村で暮らしている子供だ」
「そうなんですね」
子供たちは遊びの途中で立ち止まり、近くの大人に声をかけている。大人たちも手を止めて返事をしたり、笑顔を向けたりしていた。
やがてイザークがこちらに気づき、ラシードさんへ近づいてきた。
「ラシード、今日はどうしたの?」
「この人に村を案内しているところだ。観光で来たんだとさ」
ラシードさんが俺を紹介してくれた。
「こんにちは。俺は悠真です。今日は村の暮らしを見せてもらっています」
「こんにちは! 村はどう?」
「いいところだと思います。みんな忙しそうですけど、楽しそうに話していますね」
「うん。みんな、ここで暮らしているからね」
イザークは当たり前のことを話すように答えた。
「暑いときは、あそこの日陰で休むんだ。外で遊ぶときも、水を飲むのを忘れちゃいけないって言われてるよ」
「それは大事ですね。俺もさっき、日陰で休んだところです」
「そうなんだ。砂漠では、水が大事だからね!」
イザークは少し得意そうに頷いた。
子供たちにとっても、暑さへの対策は身近なことなのだろう。
大人に教えられながら、日陰で休むことや水を飲むことを自然に覚えていく。
「イザーク、遊びの途中だったんじゃないのか?」
ラシードさんが尋ねる。
「あっ、そうだった! じゃあ、またね!」
イザークは元気よく手を振り、友達の方へ駆けていった。
その後ろ姿を見送っていると、子供たちの笑い声が再び聞こえてきた。
「元気な子ですね」
「ああ。村の子供たちは、みんなあんな感じさ」
ラシードさんはそう答え、歩き始めた。
俺もその後についていく。
砂漠の村というと、厳しい環境のことばかり考えてしまいがちだ。
でも、そこにも子供たちの遊びがあり、大人たちの仕事があり、いつもの会話がある。
当たり前の日常が続いていること。それも、実際に訪れてみなければ分からないことだった。
◇
村の中を歩いていると、前方から女性の声が聞こえてきた。
「荷物を運ぶときは、周囲にも気を配ってくださいね。通路をふさがないようにお願いします」
声の主は、青い髪の女性だった。
村の様子を確認しながら、住民に声をかけている。
キャンディスだ。
俺が立ち止まると、ラシードさんも彼女に気づいた。
「キャンディスだな。巡回中みたいだ」
キャンディスは荷物を運んでいた住民と短く言葉を交わしたあと、こちらに気づいた。
「ラシード。こんにちは。そちらの方は?」
「観光に来た旅人だ。村を案内しているところだよ」
ラシードさんが答えると、キャンディスは俺に向き直った。
「こんにちは。私はキャンディスです。アアル村へようこそ」
「こんにちは。俺は悠真です。今日は村の中を見て回っています」
「そうでしたか。村の様子はいかがですか?」
「いろいろな人が仕事をしていて、にぎやかですね。砂漠の暑さには驚きましたけど」
そう答えると、キャンディスは穏やかに微笑んだ。
「砂漠の暑さは、慣れていない方には大変だと思います。水分補給を忘れず、休めるときには休んでくださいね」
「ありがとうございます。さっきもラシードさんに言われて、日陰で休んでいました」
「それならよかったです。砂漠では、無理をしないことが大切ですから」
キャンディスは村の通りを見回した。
「私はこれからも村の様子を確認して回ります。何か困ったことがあれば、遠慮なく声をかけてください」
「分かりました。ありがとうございます」
「では、私はこれで」
キャンディスは軽く会釈すると、再び住民たちの方へ歩いていった。
荷物を運ぶ人に道を譲るよう声をかけたり、店先で話をしている人に挨拶したりしている。
ただ見回っているだけではない。村の人たちが安心して暮らせるよう、普段から細かいところまで気を配っているのだろう。
「キャンディスさんは、いつも村を巡回しているんですか?」
俺が尋ねると、ラシードさんは頷いた。
「ああ。村を守る立場だからな。何か問題が起きてから動くんじゃなくて、普段から様子を見ておくことも大切なんだ」
「なるほど。村の安全を守るって、戦うことだけじゃないんですね」
「そういうことだ。住民が困っていないか、何か変わったことがないか、気を配ることも必要なんだよ」
俺はキャンディスの後ろ姿を見送った。
村の安全は、誰かひとりの力だけで守られているわけではない。住民同士が助け合い、村を守る人が日々の様子を確かめているからこそ、こうした生活が続いているのだろう。
「さて、そろそろ景色を見に行こうか」
ラシードさんが声をかけてきた。
「待ってました。どこから見えるんですか?」
「村の外れに、砂漠を見渡せる場所がある。そこからなら、遠くの景色もよく見えるぞ」
「それは楽しみです」
俺はラシードさんについて、村の外れへ向かった。
◇
建物の間を抜けていくと、視界が少しずつ開けてきた。
村の家々の向こうに、広大な砂漠が広がっている。
乾いた大地と、赤みを帯びた岩山。日差しを受けた砂地は明るく、遠くの景色は少しかすんで見えた。
「おお……」
思わず声が漏れた。
村の中から眺める景色とは、また違う。
目の前に広がる砂漠は、どこまでも続いているように感じられた。視線を遠くへ向けると、巨大な建造物の姿も見える。
「あれがキングデシェレトの霊廟ですか?」
俺が尋ねると、ラシードさんは遠くを見ながら頷いた。
「ああ。あれがキングデシェレトの霊廟だ」
砂漠の中にそびえる巨大な建造物。
ゲームで見たことのある景色だけれど、実際に目の前にすると、その大きさが違って感じられる。
「遠くからでも、かなり大きいですね……」
「そうだろう。砂漠を旅していると、あの霊廟が見えることもある。昔から、この砂漠に残る大きな建造物のひとつなんだ」
「キングデシェレトって、昔この砂漠を治めていた王なんですよね?」
「ああ。キングデシェレトは、この砂漠の歴史に深く関わる存在だ。あの霊廟も、その時代を今に伝えるもののひとつだな」
ラシードさんは、遠くの霊廟を眺めながら説明してくれた。
「砂漠には、昔の人たちが残した遺跡がいくつもある。今でも分かっていないことがあるくらいだ。興味があっても、むやみに奥へ入るのはやめておいた方がいい」
「遺跡の中には、危険な場所もあるんですか?」
「そうだな。場所によっては、簡単に近づけるものじゃない。砂漠そのものも、慣れていない人には危険が多いからな」
「なるほど……。遠くから眺めるだけでも、十分迫力がありますね」
俺はもう一度、キングデシェレトの霊廟へ目を向けた。
ゲーム画面では、探索できる場所のひとつとして見ていた。
けれど、こうして砂漠の景色の中に立っている姿を見ると、単なる探索場所ではなく、この土地に残された歴史の一部なのだと感じる。
ここで暮らす人たちにとっても、見慣れた景色のひとつなのだろう。
「ラシードさん、説明してくれてありがとうございます。あれが何なのか、改めて知ることができました」
「どういたしまして。景色を眺めるだけでも、来た甲斐があっただろう?」
「はい。実際に見ると、やっぱり違いますね」
俺は砂漠を見渡した。
強い日差しに汗がにじむ。涼しい場所に戻りたくなる暑さではあるけれど、この景色を見られたのはよかった。
スメールシティの市場も、ガンダルヴァー村の森も、それぞれ違う魅力があった。
そして、アアル村から眺める砂漠にも、この土地ならではの魅力がある。
「そろそろ村に戻ろうか。ここに長くいると、暑さがこたえるだろう」
ラシードさんに言われ、俺は頷いた。
「そうですね。もう少し景色を眺めていたいですけど、暑さには気をつけないといけませんね」
「それがいい。帰りも日陰を通っていこう」
俺たちは村の中へ戻ることにした。
◇
村へ戻ると、通りでは相変わらず人々が仕事をしていた。
商人が客に品物を見せ、住民が荷物を運び、子供たちが友達と話している。
さっき見たときと同じような光景なのに、村のことを少し知ったあとでは、違った印象を受けた。
暑さを避けるための休憩。外から運ばれてくる品物。村を守るために巡回するキャンディス。そして、日々の暮らしの中で知恵を身につけていく子供たち。
ひとつひとつは何気ないことだ。
でも、そうした積み重ねが、この村の生活を支えているのだろう。
「今日はありがとうございました、ラシードさん。おかげで、村のことがいろいろ分かりました」
俺が礼を言うと、ラシードさんは軽く手を振った。
「気にするな。村を見て回るのが目的だったんだろ? 楽しめたならよかったよ」
「はい。砂漠の景色も見られましたし、いい経験になりました」
「それなら何よりだ」
俺はバックパックを開けた。
お礼に何か渡せるものがあればと思い、持ってきていた品物を取り出す。
稲妻を訪れたときに買っておいた金平糖だ。
小さな粒が、まるで色とりどりの宝石のように見える。
「これ、案内してくれたお礼です。よかったら受け取ってください」
ラシードさんは差し出された包みを見て、少し驚いたようだった。
「これは何だ?」
「金平糖っていう菓子です。稲妻で買ったものなんです。小さいですけど、甘くておいしいですよ」
ラシードさんは包みを受け取り、中を確かめた。
「へえ……。小さな宝石みたいだな」
「見た目もきれいですよね」
「ああ。こんな菓子があるんだな」
ラシードさんは興味深そうに金平糖を眺めていた。
「案内してくれて本当にありがとうございました。おかげで、ただ村を歩くだけじゃ分からないことも知ることができました」
「そう言ってもらえるなら、案内した甲斐があったな。菓子もありがたくいただくよ」
「どういたしまして」
ラシードさんが笑顔で包みをしまうのを見て、俺も嬉しくなった。
旅先で誰かに親切にしてもらったら、感謝を伝えたい。
大げさなお礼ではないけれど、こういうやり取りも旅の楽しみのひとつだ。
「またアアル村に来ることがあったら、声をかけてくれよ」
「はい。そのときは、またよろしくお願いします」
俺たちは挨拶を交わした。
◇
ラシードさんと別れたあと、俺は村の景色をもう一度眺めた。
アアル混ぜご飯を食べられる店が見つからなかったのは、少し残念だった。
それでも、村の人たちの暮らしを見て、ラシードさんに案内してもらい、キャンディスとも話すことができた。
遠くに見えたキングデシェレトの霊廟も印象に残っている。
ゲームで見た景色を実際に眺めるだけでなく、そこに暮らす人たちの話を聞くことで、知っているつもりだった場所にも新しい発見がある。
俺は水筒を取り出し、最後にもうひと口飲んだ。
「さて、そろそろ帰るか」
日差しはまだ強い。無理をせず、帰ることにしよう。
俺は解放済みのワープポイントへ向かい、帰る準備をした。
光に包まれ、次に目を開けたときには、自宅に戻っていた。
バックパックを下ろし、椅子に腰を下ろす。
「今日も、いい休日だったな」
砂漠の景色。村の建物。人々の声。水を大切にする暮らし。商人が運ぶ品物。そして、キングデシェレトの霊廟。
どれも、実際に現地を訪れてみたからこそ、印象に残ったことだった。
今回は、砂漠の暮らしを少し知ることができた。
アアル混ぜご飯を食べられなかったのは心残りだけれど、いつか別の場所で食べられる機会があるかもしれない。
そのときは、ぜひ味を確かめてみたい。
スメールには、まだ知らない場所がある。
そして、まだ出会っていない人たちもいる。
次に訪れるときは、どんな景色や出会いが待っているのだろう。
そんなことを考えながら、俺は休日の余韻を楽しんだ。