なんのランクですかこれは
──午後三時。
ゆきおんなは、昨日と同じ公園の入口で、もう何度目になるか分からないほど空を見上げていた。
真夏の太陽はまだ高く、遠くの道路から聞こえてくる車の走行音に混じって、アブラゼミの鳴き声が絶え間なく響いている。木陰に入れば多少は暑さが和らぐものの、彼女の周囲だけは事情が違っており、足元の草には薄い霜が降り、近くのベンチには細かな水滴が浮かんでいた。
昨日よりも冷気を抑えられているつもりだったが、時間が近づくにつれて落ち着かなくなり、気づけば何度も袖口を握り直している。
ケータが来る。そう思うたびに胸が弾んで、どうにもじっとしていられなかった。
昨日、帰り際に交わした約束は何度も思い返していた。午後三時になったら、またここに来てくれる。彼は確かにそう言っていたし、前の日にも約束を守ってくれたのだから、きっと今日だって来てくれるはずだった。
それでも、もしかしたら何か用事ができたのではないか、途中で気が変わってしまったのではないかと考えてしまうのは、これまで誰かとの約束を楽しみに待った経験があまりにも少なかったからだろう。
ゆきおんなは、自分の胸元へそっと手を当てた。昨日から、どうも様子がおかしい。
ケータのことを考えると嬉しくなるのに、同時に胸の奥が締めつけられるように苦しくなる。彼の笑顔を思い出すだけで自然と頬が緩み、また会えたら何を話そうかと考え始める。
すると今度は想像することが多すぎて、どれから口にすればいいのか分からなくなる。
こんなに誰かに会いたいと思ったのは、生まれて初めてだった。
「……ケータくん」
せめて彼に会う前に外見を整えておかないと、と前髪を整えようとした所だった。
「おーい! ごめーん!」
聞き慣れ始めた少年の声に、ゆきおんなは弾かれたように顔を上げた。
公園へ続く道の向こうから、ケータがこちらへ向かって走ってくる。今日は手に何も持っておらず、代わりに首から虫取り網を下げ、肩には小さな鞄を掛けていた。その隣ではウィスパーがふわふわと浮かびながら、走る少年に何かを注意している。
「ケータくん! そんなに急がなくても大丈夫ですよ。慌てて転んでしまっては、それこそ大変なのですから!」
「だって、遅れそうだったんだもん!」
「約束の時間にはまだ少し余裕がありますって。ほら、時計をご覧ください。こういうときこそ落ち着いて──」
「あっ、いた!」
ウィスパーの話が終わるより先に、ケータはゆきおんなを見つけ、嬉しそうに手を振った。
「よかった! 今日も会えたね!」
その笑顔を見た途端、ゆきおんなの胸に残っていた不安は、嘘のように消えてしまった。
「……ええ!」
気づけば、彼女も笑っていた。
昨日は何度も考えていたはずの挨拶が、いざ本人を前にすると全部飛んでしまう。もっと落ち着いて、可愛らしく迎えたいと思っていたのに、ケータが自分を見つけて笑ってくれたことが嬉しくて、ほかのことなど考えられなかった。
「こんにちは、ケータくん。……待っていたわ」
「こんにちは! 今日も暑いねぇ。そっちは相変わらず涼しそうでいいなぁ」
「うふふ。そうかしら」
ケータが額の汗を拭いながら近づくと、ゆきおんなは反射的に冷気を抑えようとした。しかし、彼が気持ちよさそうに息をつくのを見て、少しだけ力を緩める。ひんやりとした空気が二人の間を通り抜け、ケータの髪を軽く揺らした。
「あー、気持ちいい! これならずっと外にいられそう」
そんな二人を眺めていたウィスパーは、満足そうに頷くと、何か思いついたように口を開いた。
「いやぁ、実に微笑ましい光景ですねぇ。昨日まであんなに緊張していたゆきおんなさんが、こうして笑顔を見せてくださるとは。これもひとえに、わたくしの適切な助言があったからこそ──」
「えっ、そうだっけ?」
「そこは少しぐらい認めてくださいよ、ケータくん!」
すかさず返ってきた抗議にケータが笑い、ゆきおんなもつられて口元を押さえるが、ケータを見上げるとゆきおんなは彼がいつもより少し落ち着かない様子でいることに気づいた。
「……ケータくん? 何かあったの?」
「ん? ああ、実はさ。ここへ来る途中で、ちょっと気になるものを見つけたんだ」
ケータは公園の向こうに続く道を指差した。
「あっちに小さな川があるでしょ? 橋の下で、何か変な音がしてたんだよ。ウィスパーが妖怪じゃないみたいだって言うから、ちょっと見に行ったんだけど……」
「どうにも困ったことになっていましてねぇ」
ウィスパーが珍しく神妙な顔で続きを引き取る。
「古い水路に、大きな枝やら枯れ葉やらが詰まってしまっているようなのです。そのせいで水がうまく流れなくなり、下流の浅瀬にいた小魚たちが取り残されているのですよ」
「そうなんだ。で、何とかしてあげたいんだけど、オレ一人じゃ手が届かなくてさ」
事情を説明しながら、ケータは少し困ったように笑った。
ゆきおんなは、彼が何を言おうとしているのか、まだよく分からなかった。
「……それで?」
「よかったら、一緒に来てくれないかな?」
「…………」
少女は、ぱちぱちと瞬きをした。
一緒にと、ケータが自分にそう言ってくれた。ただ会いに来てくれるだけではなく、何かをするために自分を誘ってくれている。
それが嬉しくて、思わず大きく頷きそうになったものの、次の瞬間、冷気をうまく扱えない自分のことを思い出し、少しだけ不安になった。
「……でも、私が行っても、お役に立てるかしら」
「うーん、分かんない。でも、いろいろ試してみたら何とかなるかもしれないし。それに、一緒に遊びたかったんだ」
ケータは何でもないことのように言った。
「どうせなら一緒に行こうよ!」
ゆきおんなは、胸の奥がふわりと温かくなるのを感じた。
役に立てるかどうかではなく、一緒に来てほしい。その言葉を聞いてしまえば、もう断る理由などなかった。
「……ええ。私でよければ、喜んで」
彼女が微笑むと、ケータも嬉しそうに頷いた。
「よし! じゃあ行こう!」
そうして三人は、夏の日差しが降り注ぐ公園を後にした。
問題の水路は、公園から少し離れた川沿いの遊歩道の脇にあった。
小さな橋の下を通る古いコンクリートの水路で、上流から流れ込んだ水が細い溝を伝い、さらに下流の浅い池へと続く構造になっている。
普段は穏やかな水が流れているだけの場所だが、前夜に吹いた強い風のせいで折れた枝や枯れ葉が運び込まれ、橋の下にある金網へ引っかかってしまったらしい。
詰まりの上流には水が溜まり始めていたものの、その先の浅瀬はすっかり水量が減っていた。日差しに温められた水たまりの中では、小さな魚が何匹も身を寄せ合うように泳いでおり、ときどき水面へ口を出している。
「ほら、あそこ」
ケータが指差すと、ゆきおんなも水路を覗き込んだ。
魚たちはまだ元気に動いていたが、水はひどく浅く、コンクリートの底がところどころ見えていた。詰まりを取り除けば済みそうなものの、金網の奥に絡まった枝は思った以上に大きく、外側から手を伸ばしても届きそうにない。
「……かわいそう」
「でしょ? だから、何とかできないかなって」
ケータは水路の縁にしゃがみ込み、金網の奥を覗き込んだ。
もちろん、直接降りるつもりはなかった。足元は滑りやすく、深いところには急な段差もある。ウィスパーにも危ないから近づきすぎないよう念を押されていたし、ケータ自身も、こういう場所で無茶をしてはいけないことくらい分かっている。
「でもさぁ、この枝をどうにかしないと、水が流れないんだよね」
「ええ。むやみに引っ張れば、溜まっている水が一気に流れてしまう可能性もあります。下にいる魚たちを流してしまっては本末転倒ですから、少し考える必要がありますねぇ」
ウィスパーは金網の形と水の流れを確かめながら、どうすれば安全に詰まりを取り除けるか考えていた。
ゆきおんなも何かできないかと周囲を見回したが、まだ自分にできそうなことは見つからない。水を凍らせることならできるものの、魚たちまで凍らせてしまうかもしれないと思うと、安易に手を出す気にはなれなかった。
そのとき、ケータがぽんと手を打った。
「あっ、そうだ! こういうときこそ、ノガッパに聞けばいいんじゃない?」
「おお、それはよい考えです! ノガッパなら水辺の事情にも詳しいでしょうし、何より水の中で活動することに慣れていますからね!」
「よし、呼んでみよう!」
ケータは肩に掛けていた鞄を開き、中から妖怪メダルの入った大辞典を取り出した。
その様子を、ゆきおんなは興味深そうに見つめていた。
昨日、ケータから妖怪ウォッチについて少しだけ話を聞いていた。友達になった妖怪からメダルを受け取れば、その妖怪を呼び出すことができるという、不思議な道具なのだという。
実際前にもジバニャンを呼び出しているのを見ている。ケータは慣れた手つきで一枚のメダルを取り出すと、妖怪ウォッチに差し込んだ。
「出てきて、ノガッパ!」
軽快な召喚音が響き、ケータの前に青い光が集まった。
次の瞬間、その中からひょいと姿を現したのは、小柄な河童の妖怪だった。
青い身体に黄色いくちばし、頭には水を湛えた皿があり、背中には小さな水筒を背負っている。彼は呼び出された場所を一度見回すと、目の前に広がる水路へ視線を向け、何だか嬉しそうに肩を揺らした。
「おっ、ケータじゃないっすか! 何か面白いことでもあるんすか?」
「面白いっていうか、ちょっと困ったことがあってさ。あそこの水路、詰まっちゃってるみたいなんだ」
「へぇ……。ちょっと見せてほしいっす」
ノガッパは話を聞くなり水路の縁へ近づき、ひょいと身体を屈めた。水面の様子を確かめると、慣れた手つきで頭の皿を整え、詰まりの奥を覗き込む。
「なるほど。上で枝が引っかかって、水が下まで来てないんすね。これなら、水をちょっと足してやれば……いや、待つっす。急に流したら、下の魚まで持っていかれそうっすね」
ケータから長い説明を受けなくても、ノガッパはすぐに状況を理解したようだった。水の流れを読み、どこが危ないのかを確かめ、必要なことを自然に話している。
ゆきおんなは、その様子に思わず目を見張った。
先ほどまで、ケータの隣にいたのは自分だった。
しかし、ノガッパが現れると、ケータはすぐに彼へ相談を始め、二人はまるで以前から何度も一緒に何かをしてきたかのように、親しげに言葉を交わしている。
実際、その通りなのだろう。ケータとノガッパは、もうずっと前から友達なのだ。
「……そうなんだ」
ゆきおんなは、無意識に袖口を握りしめた。
昨日までは、ケータが自分に会いに来てくれることだけで胸がいっぱいだった。けれど今、目の前で彼が別の妖怪と当たり前のように笑い合う姿を見ていると、胸のどこかが小さく疼いた。
ケータには、ほかにも友達がいて。自分が知らない時間を、彼と一緒に過ごしてきた妖怪たちがいるのだと。それは当然のことで、昨日、ジバニャンだって彼を助けるために駆けつけてくれたのだから、今さら驚くようなことではない。
それなのに、どうしてだろう。
自分だけが、まだ彼のことをほとんど知らないような気がしてしまう。
ゆきおんながそんなことを考えている間にも、ケータは次のメダルを取り出していた。
「じゃあ、セミまるにも来てもらおうかな。あの隙間なら入れそうだし」
「おっ、セミまるっすか。あいつなら、金網の内側を調べられるかもしれないっすね!」
「でしょ? よーし!」
ケータがメダルを差し込む。
「出てきて、セミまる!」
再び召喚音が響いた。
現れたのは、セミを思わせる姿に忍者の装束をまとった、小さな妖怪だった。身軽そうな身体をくるりと回転させ、地面へ降り立つと、どこか得意げに両腕を広げてみせる。
「ミーン!ケータ殿、拙者をお呼びかミン!」
「セミまる、ちょっとお願いがあるんだけどさ」
「ミン?」
「この水路の奥に、大きな枝が引っかかってるみたいなんだ。どんなふうになってるか、見てきてもらえる?」
セミまるは金網の隙間を覗き込む。彼の身体なら、確かに通れそうな広さだった。
ただし、水路の奥は暗く、足場も不安定である。ケータが無理そうなら戻ってきていいと伝えると、セミまるは小さく胸を張り、いかにも忍者らしい仕草で頷いた。
「ミーン! 任せるミーン!」
そう叫ぶや否や、彼は軽やかに跳び上がった。
金網の細い縁へ着地したかと思うと、隙間をするりと抜け、暗い水路の奥へ姿を消してしまう。あまりの身軽さに、ゆきおんなは思わず感心した声を漏らした。
「……すごい。あんな狭いところに入れるのね」
「うん! セミまる、すっごく身軽なんだ。前にもいろいろ助けてもらったんだよ」
ケータは嬉しそうに答えた。
その笑顔を見て、ゆきおんなも微笑みを返したが、胸の奥ではまた同じ感覚が広がっていた。
二人とも、ケータに頼られるだけの力を持っていて、彼もそのことをよく知っている。
では、自分はどうなのだろう。
ゆきおんなはそっと両手を見下ろし思案する。触れたものを凍らせ、近づいた者を寒がらせる手。昨日、ケータが温かい麦茶を持ってきてくれたのは、この冷たい身体を気遣ってくれたからだった。
あのときは、ただ嬉しい思いでいっぱいだったが、今はほんの少しだけ、違うことを考えてしまう。
──自分も、ケータの役に立ちたい。彼が困ったとき、当然のように名前を呼んでもらえる妖怪になりたい。
しばらくすると、水路の奥から乾いた羽音が聞こえてきた。
「ミーン! ミーン!」
「あっ、セミまる!」
金網の隙間から飛び出してきたセミまるは、ケータの肩へ軽やかに着地すると、忙しなく身振りを交えて奥の様子を説明し始めた。枝が一本引っかかっているだけではなく、折れた木の板や枯れ葉が複雑に絡まり、ちょうど水路の真ん中に栓をするような形になっているらしい。
さらに厄介なことに、詰まりを支えている古い板は、すでに半分ほど割れているという。うかつに枝を引き抜けば、溜まった水と一緒に板まで崩れ落ちてしまうかもしれなかった。
「なるほど……。思ったより面倒なことになってるみたいっすね」
ノガッパは顎に手を当て、しばらく水路を眺めていたが、やがて小さく頷いた。
「水の勢いを抑えながら、枝を少しずつ外せば何とかなると思うっす。ただ、その板が途中で崩れちゃったら、下の魚たちが危ないっすね」
「じゃあ、オレが網で魚をすくうとか?」
「うーん……この深さじゃ、網がうまく届かないっす。無理に入れたら魚を傷つけそうだし、ケータまで滑って落ちたら大変っすよ」
「そっかぁ……」
ケータは持ってきた虫取り網を見下ろし、残念そうに肩を落とした。
水路に手が届くなら、できるだけ自分でも手伝いたかった。しかし、ノガッパの言うことにも一理ある。魚を助けるために自分が怪我をしたら、みんなに迷惑をかけてしまう。
そのとき、少し離れたところで話を聞いていたゆきおんなが、おずおずと口を開いた。
「……あの、ケータくん」
「ん? どうしたの?」
「……その、板が崩れないようにすれば、いいのよね?」
ケータが頷くと、彼女は水路の奥へ視線を向けた。
古い板が今にも崩れそうになっているなら、何かで支えてやればいい。もちろん、人間の手では届かない場所だし、ノガッパやセミまるでも、重たい板をずっと押さえ続けるのは難しいだろう。
けれど自分には、ほかの妖怪とは違う力がある。
「……私、氷で支えられるかもしれないわ」
「えっ、本当!?」
ケータの顔がぱっと明るくなった。
その反応を見ただけで、ゆきおんなの胸が嬉しさに跳ねた。しかし、次の瞬間には自分の言葉の重さを思い出し、慌てて付け加える。
「で、でも、まだうまくできるか分からないの。もし冷気を出しすぎたら、水の中の魚まで凍らせちゃうかもしれないし……」
「そっか。じゃあ、ちょっとずつやってみる?」
「……ちょっとずつ?」
「うん。急にいっぱい凍らせないで、板のところだけ凍らせるんだよ。もしダメそうだったら、途中でやめればいいし」
あまりにも簡単そうに言うので、ゆきおんなは思わず目を瞬かせた。
彼にとっては、それだけの話なのだろう。
彼女にとってはそう簡単ではなかった。これまで冷気の加減を間違えるたび、周囲の妖怪から嫌な顔をされ、ときには怒鳴られることもあった。
自分だって好きで失敗しているわけではないのに、結果が悪ければ責められるのだから、いつしか何も試さないほうが安全だと思うようになっていた。
「……でも、もし失敗したら……」
「そのときは、別の方法を考えようよ」
ケータは笑って答えた。
「一人で全部やらなくてもいいんだしさ」
その言葉を聞いたゆきおんなは、ふと顔を上げた。
ケータの隣にはノガッパがいて、肩にはセミまるが座っている。ウィスパーも水路を覗き込みながら、何か良い方法がないか考えていた。
彼らは誰も、ゆきおんなが失敗することを責めようとしていない。むしろ、彼女が何かできるかもしれないと聞いて、嬉しそうに相談を始めている。
「だったら、氷を溶かせる妖怪にも手伝ってもらえばいいんじゃないでしょうか?」
ウィスパーが提案した。
「万が一、冷気が広がりすぎた場合でも、火の妖術を使う妖怪がいれば、必要な部分だけ溶かせるかもしれません。こういうときは、得意なことが違う妖怪同士で協力するのが一番です!」
「あっ、そっか! じゃあ、コマさんだ!」
「うぃす! まさしく適任でしょう!」
ウィスパーが嬉しそうに頷く横で、ケータは再びメダルケースを開いた。
ゆきおんなは、また胸の奥が小さく疼くのを感じた。
ケータのメダル辞典には、いったいどれほどたくさんの妖怪たちがいるのだろう。彼は迷うことなく必要なメダルを探し出し、慣れた手つきでウォッチに差し込んだ。
「出てきて、コマさん!」
召喚音とともに妖気が渦を巻き、その中心から、白くて丸みのある小さな妖怪が姿を現した。
青い渦巻き模様の眉に、頭の上には炎を思わせる飾り。背中に風呂敷を背負ったその妖怪は、地面へ降り立つなり周囲を見回し、目の前に広がる水路を見て驚いたように声を上げた。
「もんげ~! ケータくん、こんなところに川があるズラ!」
「こんにちは、コマさん! ちょっとお願いがあるんだけど……」
「おらにできることなら、何でも言ってほしいズラ!」
コマさんは嬉しそうに頷いた。
ケータが事情を説明すると、彼は何度も相槌を打ちながら真剣に聞いていた。途中で取り残された魚の姿を見つけると、眉を下げて心配そうに水路を覗き込み、助けるためなら自分も頑張ると申し出る。
「なるほどなぁ……。おらの炎で、氷を溶かせばいいズラね?」
「うん! でも魚がいるから、熱くしすぎないようにね」
「ま、任せるズラ! おら、頑張るズラ!」
勢いよく答えたコマさんは、そこでようやくゆきおんなの存在に気づいたらしい。
「あれ? ケータくん、そちらのお方は?」
「あっ、そうだった! この子はゆきおんな。最近知り合ったんだ」
ケータに紹介され、ゆきおんなは慌てて姿勢を正した。
「……は、初めまして。ゆきおんな、です」
「初めましてズラ! おら、コマさんっていうズラ。ケータくんのお友達なら、おらとも仲良くしてほしいズラ!」
そう言って、コマさんは屈託なく笑った。
その言葉に、ゆきおんなは一瞬だけ返事を忘れた。
ケータのお友達だと、何のためらいもなくコマさんはそう言ってくれた。
けれど、同時に思った。
コマさんも、ケータの友達なのだ。
ノガッパも、セミまるも、コマさんも。昨日会ったジバニャンだって、ずっと以前から彼を知っている。
自分が知っているケータは、まだほんの少ししかいない。
昨日はどんなことをしていたのか、その前の日は誰と遊んでいたのか、どんなものが好きで、何をすると嬉しいのか。ほかの妖怪たちは、きっと自分よりずっとたくさん知っているのだろう。
そのことが、少しだけ羨ましかった。
しかし、コマさんが心配そうに顔を覗き込んできたので、ゆきおんなは慌てて微笑みを作った。
「……ええ。こちらこそ、よろしくね」
「よろしくズラ!」
作戦は、思っていたより慎重に進める必要があった。
まずノガッパが水の流れを確かめ、詰まりの上流に溜まった水を、妖術で少しずつ横へ逃がしていく。
強い水流を一度に起こせば古い板ごと崩れてしまうため、彼は水筒の紐を締め直すと、集中した表情で両手をかざし、細い水の筋を作り出した。
「よし……このくらいなら大丈夫っすね。セミまる、そっちはどうっすか?」
「もうちょっとミーン!」
セミまるは金網の内側に入り込み、枝へ絡まっていた枯れ葉を少しずつ取り除いていた。小さな身体を生かして狭い隙間を動き回り、ときには弱いつむじ風を起こして、奥に溜まった細かな葉を外へ吹き出している。
その間、ケータは少し離れた安全な場所から、枝が動きそうになったら知らせる役目を引き受けていた。虫取り網の長い柄で水路の縁を指し示しながら、ノガッパたちに位置を伝えている。
「そこ、ちょっと動いたよ! セミまる、右のほう!」
「ミン!」
「ノガッパ、水が増えてきた!」
「了解っす! もう少し流れを弱くするっす!」
ゆきおんなは、そんな彼らの様子を見つめながら、静かに深呼吸を繰り返していた。
自分の役目は、ひび割れた板を氷で支えること。それだけでいい。水路全体を凍らせる必要はないし、魚のいるところへ冷気を広げる必要もない。
分かってはいるけれど、いざ力を使おうとすると、胸の奥に不安が込み上げてきた。
もし失敗したら。もし、せっかくみんなで頑張っているのに、自分のせいで台無しになってしまったら。そう考えた途端、指先から漏れた冷気が足元の草を白く染めた。
「……っ」
ゆきおんなは慌てて手を引っ込めた。
それを見ていたケータが、そっと声をかける。
「大丈夫?」
「……ごめんなさい。まだ、うまくできなくて……」
「ううん。別に急がなくていいよ」
ケータは水路を覗き込んでから、少女の隣へしゃがみ込んだ。
「ほら、あの板のところだけでいいんでしょ? だったら、まずは端っこからやってみようよ」
「……端っこ?」
「うん。少しずつ凍らせて、ちょうどよくなったらやめるんだ。コマさんもいるし、もし凍らせすぎても何とかなるよ!」
「おらも手伝うズラ!」
コマさんが小さな前足を上げる。
ノガッパも水路から顔を出し、気楽な調子で頷いた。
「こっちの水は任せるっす。ゆっくりやれば大丈夫っすよ」
ゆきおんなは、三人の顔を順番に見つめた。
誰も怒っていない。失敗するかもしれないと分かっているのに、それでも自分を信じてくれている。これまでなら、冷気を抑えられないというだけで、迷惑そうな顔をされていたのに。
どうして、こんなにも違うのだろう。
「……分かったわ」
ゆきおんなは小さく頷いた。
「……やってみる」
両手を前へ差し出し、意識を集中させる。
冷たい妖気が指先へ集まり、透き通った白い息のようなものが水路の奥へ伸びていった。最初は水面の上に薄い霜が広がりかけたものの、彼女は慌てずに呼吸を整え、ケータが指差してくれた板の端へ冷気を集中させる。
ぱき、と小さな音がした。
板のひび割れた部分に、白い氷が生まれる。
それはゆっくりと広がり、木材とコンクリートの隙間を埋めるように固まり始めた。
「……あっ」
ゆきおんなの目が見開かれる。
(できてる……! やった……!)
少しずつではあるが、狙った場所だけを凍らせることができている。しかし、喜んだ拍子に妖気が強まり、氷の縁が一気に水面へ伸びかけた。
「……っ!」
慌てて止めようとしたものの、焦れば焦るほど力が乱れる。
そのとき、ケータの声が聞こえた。
「もうちょっとだけ! そこまででいいよ!」
ゆきおんなは、その声に意識を向けた。
ケータは笑顔で、まるで怖がっていない。冷気を嫌がることも、失敗を責めることもなく、ただ自分を信じて見守ってくれている。
その表情を見ているうちに、不思議と呼吸が落ち着いてきた。
ゆきおんなはゆっくりと手を下ろし、冷気を弱めると伸びかけていた氷はそこで止まり、板の周囲にだけ、白い支えが残った。
「……できた」
自分でも信じられないような声が漏れた。
「できたよ! すごいじゃん!」
ケータが嬉しそうに声を上げる。
「ほら、ちゃんと板が支えられてる! これなら大丈夫そうだよ!」
「……本当?」
「うん! すごいよ、ゆきおんな!」
褒められた瞬間、ゆきおんなの胸が強く跳ねた。
顔が熱くなる。今まで何度も、自分の冷気について悪く言われてきた。
けれど今、ケータはその力を見て、すごいと言ってくれた。自分が生まれながらに持っていた、どうしようもなく厄介な力。
それを彼が、嬉しそうに褒めてくれている。
「……うふふ」
思わず笑みが零れた。
しかし、その直後だった。
「おおっ、今ならいけそうっす!」
ノガッパが声を上げる。
セミまるが最後の枯れ葉を吹き飛ばし、絡まっていた枝の端を外したのだ。古い板は氷で支えられているため崩れず、ノガッパが水流を調整しながら、詰まりを少しずつ押し出していく。
「セミまる、もう一回お願い!」
「ミーン!」
セミまるが素早く跳び、最後に引っかかっていた細い蔓を切った。次の瞬間、長い枝が水路の外へ流れ出し、溜まっていた水がゆっくりと動き始める。
「やった!」
ケータが歓声を上げた。
しかし、まだ終わりではない。
氷の支えが残ったままでは、水の流れが十分に戻らない。ここから少しずつ氷を溶かし、安全な速さで水を流していく必要があった。
「コマさん、お願い!」
「分かったズラ!」
コマさんは真剣な顔で頷くと、頭の上の青い炎を揺らしながら、小さな火の妖術を放った。
炎は氷の支えの端を柔らかく包み込み、少しずつ溶かしていく。ノガッパが水流を整え、セミまるが残った枯れ葉を払うと、詰まっていた水路には、ようやく以前のような穏やかな流れが戻り始めた。
下流の浅瀬へ、新しい水が流れ込んでいく。
日差しに温められていた水たまりは少しずつ深さを取り戻し、取り残されていた魚たちも、広くなった水の中を元気に泳ぎ始めた。
「……よかった」
ゆきおんなは、小さく息を吐いた。
自分の冷気が、誰かの役に立った。そう思った途端、胸の奥にじんわりとした喜びが広がっていく。
「やったー! みんな、ありがとう!」
ケータが満面の笑みで振り返った。
「ノガッパも、セミまるも、コマさんも! それから、ゆきおんなも!」
名前を呼ばれた瞬間、ゆきおんなは顔を上げた。
ケータは嬉しそうに笑っている。自分のことも、みんなと同じように褒めてくれている。
「みんなのおかげで助かったよ! 一人じゃ絶対できなかった!」
その言葉を聞いて、ゆきおんなは嬉しくて静かに目を伏せた。しかしその幸福の中に、ほんのわずかな寂しさが混じっていることにも気づいてしまった。
ケータには、たくさんの友達がいる。
自分がいなくても、きっとほかの妖怪たちと協力して、今日の出来事を解決できたかもしれない。
それは素敵なことだと思う。彼には頼れる友達が大勢いて、困ったときには誰かが助けてくれる。
もし、そのたくさんの友達の中に、自分も加わることができたなら。そう考えた瞬間、胸の奥にある小さな願いが、急にはっきりとした形を持ち始めた。
水路の様子が落ち着いた後、ケータたちは川沿いの遊歩道で少し休むことにした。
ノガッパは仕事を終えた満足感からか、近くの浅瀬に足を浸しながら気持ちよさそうに伸びをしている。セミまるは橋の欄干に腰を下ろし、胸を張っていた。コマさんは流れを取り戻した水路を見つめ、魚たちが元気になったことを自分のことのように喜んでいる。
「いやぁ、何とかなってよかったね!」
ケータは額の汗を拭いながら笑った。
「そうですねぇ。今回はみなさんの連携が見事でした。特にゆきおんなさん、あれだけ慎重に冷気を扱えたのは立派なことですよ」
ウィスパーが褒めると、ゆきおんなは少し照れくさそうに頬を染めた。
「……ありがとう。でも、みんなが手伝ってくれたからよ」
「それでいいのです。得意なことを持ち寄って助け合えるのが、友達というものですからねぇ」
ウィスパーは、珍しく落ち着いた調子でそう言った。友達という単語が無意識に頭の中で繰り返される。
「そういえばさ」
「……なあに?」
「ゆきおんなって、ほかにもいるんだよね?」
唐突な質問に、ゆきおんなは少し驚いたものの、やがて頷いた。
「……ええ。私と同じ、ゆきおんなの妖怪なら、ほかにもいるわ」
「そっか。じゃあ、名前で呼んだほうが分かりやすいよね」
「……名前?」
「うん。だって、いつも『ゆきおんな』って呼ぶのも、何か変じゃない?」
ケータは少し考えるように首を傾げた。
ジバニャン、ノガッパ、セミまる、コマさん。
普段から呼んでいる妖怪たちの名前は、それぞれに親しみがあり、呼び慣れている。
もちろん、ゆきおんなという呼び方だって間違いではないのだろう。しかし、せっかくこうして仲良くなったのだから、もっと気軽に呼べる名前があったほうがいいような気がした。
「ねえ、『ユキ』ってどうかな?」
「…………え?」
少女は、ぽかんと口を開けた。
「ユキ?」
「うん! ゆきおんなだから、ユキ。……あれ、ちょっと簡単すぎるかな?」
ケータは照れくさそうに頭を掻いた。
「でも、呼びやすいし、かわいい名前だと思うんだけど……どう?」
二文字が何度も胸の奥で反響している。生まれた時から自分はゆきおんなだった。それ以上でも、それ以下でもない。
強いゆきおんなは人間に化けられると噂には聞いたことはあるが、自分は弱いどころか今まで戦ったこともない妖怪だ。
けれど今、ケータが、自分だけの名前を考えてくれた。大勢いるゆきおんなの中の一人ではなく、目の前にいる自分を呼ぶための名前。
それを、この人が。
「……ユキ」
気づけば、笑っていた。胸の奥がいっぱいになって、何と言えばいいのか分からなくなってしまう。
「……とっても、素敵な名前ね」
「ほんと?」
「ええ。……すごく、好き」
彼女は頬を染めながら、小さく頷いた。
「……ねえ、ケータくん」
「ん?」
「……もう一回、呼んでくれる?」
思わず口にしてから、少しだけ恥ずかしくなったが、どうしても聞きたかった。
自分のために考えてくれた名前を、彼の声で。ケータは不思議そうな顔をしたものの、すぐに笑って答えた。
「いいよ! ……ユキ!」
「…………っ」
ユキは両手を胸元へ当て、幸せそうに笑った。
しばらくして、ノガッパたちがそれぞれの用事へ戻っていくことになった。
「じゃあ、そろそろ帰るっす。魚たちも元気になったし、ひと安心っすね!」
「ありがとう、ノガッパ!」
「また何かあったら呼ぶっすよ!」
次々に妖怪達が消える姿を見送るユキの胸には、先ほどから同じ考えが浮かんでいた。
みんな、ケータの友達なのだ。呼ばれればやって来て、彼のために力を貸してくれる。そして、用事が終われば、またそれぞれの場所へ帰っていく。
ケータはそんな妖怪たちを当たり前のように大切にしている。
自分も、そうなりたい。
彼に名前を呼んでもらい、困っているときには力を貸し、何もないときには一緒に笑って過ごす関係になりたかった。
「……ケータくん」
「ん? どうしたの、ユキ?」
「ぅぁ」
一瞬だけ、甘い痺れが走るが、ギリギリで踏み止まり口を開ける。
「あのね。私も……」
声が震える。自分がこれから言おうとしていることを、彼がどう受け取るか分からない。
もし断られたら……もし、もう十分友達がいるから必要ないと言われたら。
そんなことはないと信じたいのに、胸の奥にはまだ小さな不安が残っていた。
「私も、ケータくんの……」
そこで言葉が止まる。
ケータは急かさず、少しだけ首を傾げながら、彼女が続きを話すのを待っている。
その表情を見て、ユキはそっと深呼吸した。
「……私も、ケータくんのともだちになりたいの」
ようやく言えた。
言ってしまえば、もう後戻りはできない。
ユキは緊張した面持ちで、ケータの返事を待った。しかし、返ってきたのは、彼女が想像していたどんな言葉とも違うものだった。
「えっ?」
ケータが目を丸くして当然のように言った。
「何言ってるの? もうともだちじゃん!」
「…………え?」
今度はユキが目を丸くする番だった。
ケータは、少し可笑しそうに笑っていた。
「だって、もう何回も一緒に遊んでるし、今日だって一緒に魚を助けたでしょ? オレ、もうとっくに友達だと思ってたよ」
「…………」
ユキは、何も言えなくなってしまった。
言葉が次々に胸の奥へゆっくりと染み込んでいく。
自分はずっと、どうすればこの人に必要としてもらえるのか、どうすればもっと仲良くなれるのか、そればかり考えていた。
ケータはそれとは違う。ただ、一緒に笑って、一緒に過ごしただけで、彼はもう友達だと思ってくれていたのだ。
「……そっか」
ユキは俯いた。
唇が震える。胸の奥から溢れ出してくるものを、どうしても抑えられなかった。
「……うふふ。そっか……」
笑っているはずなのに、目元がじんわりと熱くなる。
それをごまかすように、彼女は袖でそっと目元を拭って顔をあげる。
「……じゃあ、これを受け取ってくれる?」
そう言って、ユキは両手を胸元へ重ねた。
淡い雪のような妖気が集まり、指先の間に小さな光が生まれる。やがてその光は一枚の円い形を取り、彼女の掌の上に、妖怪メダルとなって現れた。
水色の少女の姿が刻まれた、ゆきおんなのメダル。
彼女自身が、友達になった証として渡せるものだった。
「……私のメダルよ」
ユキはそれを、宝物でも差し出すように、両手で大切に持っていた。
「ケータくんに、持っていてほしいの」
ケータは、そのメダルを見つめて嬉しそうに笑う。
「もちろん!」
差し出されたメダルを、彼は両手で受け取った。
「ありがとう、ユキ!」
その瞬間、ユキは息を呑んだ。
ケータの手の中に、自分のメダルがある。それは、ほかの妖怪たちもしている、ごく当たり前のことなのだろう。
友達になった妖怪がメダルを渡し、ケータがそれを受け取る。たったそれだけの儀式。
今のユキにとっては違った。自分という存在の一部を、彼に受け取ってもらえたような気がした。この世界に、ケータと自分が友達であるという証が生まれた。
それも、ほかでもない彼の手の中に。
「……うふふ、ふ」
思わず笑みが零れた。
ケータはメダルをしばらく眺めてから、大切そうに辞典へしまった。その仕草を見ている間、ユキは不思議なほど目を離せなかった。
辞典にはほかにもたくさんのメダルが並んでいて、自分の知らない妖怪たちのものも、まだまだたくさんある。ケータがそれぞれの妖怪と出会い、友達になってきた証が、そこには収められているのだ。
ユキは、ほんの一瞬だけ羨ましくなった。
自分が彼と出会うよりずっと前から、彼の傍にいた妖怪たちと、自分よりたくさんの思い出を持ち、彼のことをよく知っている友達たち。
きっと、メダルを受け取ってもらったときには、自分と同じように嬉しかったのだろう。
今は、そこに自分もいるのだ。ケータのメダルたちの中に、自分のメダルが加わった。ほかの誰かではない、自分のものが。
彼が持ち歩くものの中に、彼が出かけるときも、遊びに行くときも、誰かを助けに向かうときも。これからは、その中に、自分が彼の友達であるという証が入っている。
そして、もしケータが自分のことを思い出し、妖怪ウォッチへメダルを差し込んでくれたなら。
自分は、彼の呼びかけに応えて駆けつけることができる。
何度でも……何度だって。
「…………」
ユキは、そっと胸元へ手を当てた。
何かが繋がった感覚がある。
もちろん、実際に彼の心が読めるようになったわけでも、遠く離れた場所から様子が分かるようになったわけでもない。自分とケータの間に、今までなかった確かな繋がりが生まれたように感じられた。
胸の奥が甘く締めつけられ、指先から力が抜けそうになった。
「……ユキ?」
ケータが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「どうしたの? 何か顔、赤いけど」
「……っ!?」
慌てて顔を上げたユキは、自分でも驚くほど動揺してしまった。
「う、ううん! 何でもないの! ほんとに、何でも……!」
「えっ、そう?」
「え、ええ……!」
必死に頷きながら、ユキは袖で口元を隠した。
ケータはそんな彼女を見て少し不思議そうな顔をしていたが、やがて何か思いついたらしく、ぱっと笑った。
「あっ、そうだ! じゃあ今度、一緒にどこか遊びに行こうよ!」
「……え?」
「せっかくちゃんとともだちになったんだしさ! ユキも行きたいところがあったら教えてよ!」
固まっていたが、やがて彼女は小さく笑った。
「……ええ。ぜひ、いつまでも、一緒に」