ある朝、廃ビルの中の空間が歪み渦の中から龍が降り立った。
龍は赤い刺し色の黒い外套につばの深い帽子で顔を見る事は出来ない。
「フゥ、送ってくれたのはいいがいつも強引なんだよな…」
龍がビルの中から外を見ると、ソコは町というには些かさびれ―――否、ボロかった。
ボロいというかボロボロだ、あちらこちらに見える崩落の後を切り拓くように修繕された家屋や
施設がチラホラと見て取れる。
「うん?…今どのタイミングだ?少しずつ復興してる毛はあるし黎明期ではないだろうけど…」
龍はビル窓から飛び降り裏路地を巡りながら街並みの細かな部分に目をやった。
電気は通ってる。見た限りでは焚火の痕は無い。ヤカラは…目の前に二人。
「おぅ兄ちゃんこんな裏路地までご苦労なこった。道に迷った後で悪いが…」
「金目のモン置いてきな、素直に聞けばこのまま返してやるぜ?」
二人の両肩を砕いて地面に寝転がしジャケットからスマホを抜く。
スマホ…つまり電話会社は生きている訳か…
「4ケタのPINは?」
「クッ…誰がいう『PINは?』グハッ!?8938だよ…」
西暦は知った所で意味は無し、必要なのは現在地だ。
「電波悪いな…岐阜か。静岡は…アッチか。」
輩にスマホを投げ捨てて龍は空へ旅立った。
せっかく送ってくれるなら静岡直送が良かったな。
これだけ高度を稼げば飛行系の個性でも酸欠でまともに動けないし空気抵抗も少ないから
速度もでるし一石二鳥。とはいえ郊外でも空から何か落ちてきたら流石に誰か気づきそうだ。
大回りで港から泳ぐとしますか…
港から市街地に移動して少し経った頃、気になる後ろ姿を見つけた。
今の街並みに不相応、一周まわってソレっぽい武士の格好をした男。静岡が本拠地じゃない筈の
彼が何故ここにいるのかはこの際どうでもいいが…
「ヨロイムシャ…んん~、まだ少し若いな。やっぱ来るのが早すぎたか。」
「35前後だった筈です」
「…腕は良いが目上に隠形とは感心できんぞ?竜人。」
「これはとんだ失礼を、クセでして…」
4本指・逆関節の足・耳・ついでに鱗肌。
あまりにも竜人然とした姿の男がそこにいた。
かつてのあの時、戦火から罪なき者を逃がす為に異界を使った事がある。
当の本人かその末裔か、目の前の男はそうした者の縁者なのだろう。
「貴方様のご来訪を我らが大いなる祖より言づてられております。曰く暫く厄介になる…と。」
「適当に野良で過ごすつもりだったが…そうか、なら世話になる…性と名は?」
大神 狼牙と名乗る竜人に連れられて今後の本拠地となる場所に身を置く龍だった。