転生TS美少女ゲス外道猫獣人は異世界の勇者の玉の輿を狙いたい 作:苦慮緑了
「おどれ調子に乗ってんじゃぁねえぞ!!」
「クソボケがぁーッ!」
「ぎょえええええええ!!! やめてくれぇ!!」
俺は複数の黒スーツの男たちから酷い暴行を受けていた。男達の怒りは深く、到底収まりそうにない。
「なめとんちゃうぞワレェ! ぶち殺したろかぁ!?」
「ホワアアアアアアッ! や、助けてぇ!!」
骨が折れあざができるだろう蹴りを入れられつつ、俺は痛みを無視して内心で冷静に思考した。
ひとしきり蹴られてその辺に捨て置かれれば良し。もしも身売りでもさせられそうになったらしょうがない、とっとと逃げる。
「お前……この闇カジノを仕切ってんのが誰か分かってんのか……!? クェロプール様の顔に泥を塗ったら……一生表で生きてけねえぞ」
「ひぃん……もうしませんからぁ! 許してくださぁい!!」
クェロプールといえば周辺一帯の裏社会を取り仕切る闇のドンだ。中々のビッグネームが出てきたが、果たして俺は許されるのだろうか?
胸元に隠した非常時用の金貨袋を意識する。この手だけは使いたくなかったが……いや待て、泣きながら土下座したら許してくれないかな……。
俺が蹴りを受けながら思案していると、不意に声がした。
「何をしている」
「……!?」
いつの間にか俺のそばに立っていたハルは、黒スーツの男達を地面に叩き伏せていた。
俺の目には過程が映らなかった。ただ気づけば、ハルだけが立ち倒れる男達を睨みつけていた。
「……なかなか帰ってこないから心配したよ……でも、探しに来て良かった」
「ハルゥ!」
「君たち、どういうつもりかな、返答次第によっては斬る」
どこまでも頼りになる奴だなこいつは……さすがは勇者、というわけか。
男達はただ単に地面に倒されただけなのか、すぐに立ち上がってハルと俺を睨んでいる。
「グ……て、めえ! 分かってんのか!? そいつの味方をするってこたぁクェロプール様に逆らうってことだ!」
「それが誰だかは知らないけど、君達の行いを見逃すことは無い……申し開きがあるなら聞くよ」
「いやハル、そんな奴らの話なんて聞く必要ないぜ、それよりさっさと逃げ――」
俺が嫌な予感がしてハルを下がらせようとしたら、黒スーツの男達は口々に俺を弾劾した。
「そいつが持ってもねえ金を賭けて勝負をしやがったんだよ!」
「金貨百枚も足りなかったんだぞ! 絶対に後で支払うからって言っといてよぉ!!」
「……え」
ハルがそれを聞いてギョッとして俺の方を見る。
「何見てんだハル、今はさっさとここを離れようぜ」
「……え、いや、あの……」
「裏のカジノは非合法、逃げても公権力には怒られねえよ。そして裏社会の奴らが暴力に頼ろうがお前とベルには全く問題が無い」
「え、ちょ、ちょっと待って……!」
俺がそう捲し立てていると、ハルは慌ててそれを止めた。
思わず不審そうにハルを見ると、ハルも不可解そうに俺を見た。見つめ合いだ。恋の始まりかも分からん。頬でも染めれば雰囲気が出るだろうか……?
「あ、あの……あの人の言ってること、本当なの?」
「……? 何言ってるんだ」
思わず聞き返してしまう。安堵の表情を見せたハルに俺は告げた。
「当然その通りだ。絶対勝てると思って後で必ず払うと約束して所持金以上に賭けたんだが、負けてな」
「……ちなみにそれ、いくら?」
「金貨百枚ぴったり」
ハルが愕然としながら俺から一歩遠ざかり、辺りを見渡す。
黒スーツの男達は全員無力化されているが、なんとか痛む体を抑えながら立ち上がっている。
ハルはしばらくそうしてぼうっとその様子を眺めていたが、突然ハッとして前に出た。そして……。
「すいませんでした!!」
通りに響く大きな声を出しながら、ハルは頭を下げていた。
***
「ハレ、ギャンブルっていうのはね、必ず胴元が勝つように出来てるの、そんなものに熱くなるなんてハレらしくないよ」
「ちげえよ、途中までは勝ってたんだ! イカサマだよイカサマ! 最後の最後、あそこで負ける筈がねえ!」
「……脳がやられてる……」
失礼なことを抜かすハルと共に、暗い夜道を歩く。行きの時にあった金貨の重みは何処へと消え、懐は寂しい。だが、俺の財布の中身以上に失われたものがあった。
「ハルゥ……なーんであそこで払っちまったんだよ、逃げればちゃらだったんだぜ?」
「僕にはあんな強面の人達の恨みを買うことをチャラだなんて思えないよ」
そう、ハルはパーティー基金から俺が不正に賭けた金貨百枚を立て替えて払ってしまったのだ。
今思い返しても腹の立つことである。裏カジノに行ってる奴なんて九割犯罪者だ、邪悪な犯罪者どもが潤うくらいならドブに捨てた方がマシだろう。
ちょっと恨みを買ったところでレベル200越えの人間相手にできることなど存在しない。堂々と逃げるべきだったというのに……。
いやあるいは、裏カジノを襲撃して金貨を奪うのもありかもしれない。クェロプールがいるならベルも必要だろう。だが、三人で協力すれば裏カジノ程度……。
そんな風に考えながら歩いていると宿に着いた。
「……ほら、着いたよ、今回もまたベルさんの助言でハレを探したんだ。お礼言える?」
「ケッ、余計な事をしやがって……」
「ハレ」
「わーってるよ、俺はガキか」
宿屋の扉を開き二階へと上がる。皆寝静まっているのか音一つない。
予約した部屋で止まり、扉を開く。
部屋の中ではベルが一人立っており、じっとこちらを見つめていた。
「……何やってんだお前」
「おかえりなさい、ハレ」
「ただいまベルさん」
いつもの法衣を着たベルはにこやかにハルを迎え入れた。俺もそれに続こうとして、ベルに阻まれる。
「……なんだよ」
「賭けに、負けたのですね?」
「あぁ? なんでお前が知ってんだよ」
「お告げがあったのです。神はなんでも見ていますよ」
そう言うベルに目は静かに俺を射抜いていた。
本当になんでも見ているのならびっくりである。とんだ出歯亀野郎だ、閲覧料を貰わなければなるまい。
「ハレ、ギャンブルは辞めなさい、賭け事は身を滅ぼしますよ」
「なーんで俺がお前の説法を聞かなきゃいけねえんだよ、そもそも、俺は途中まで勝ってたんだ、あそこで止めてりゃ身を滅ぼすどころか財布を一杯にしてたっつーの」
「いやあのですね……最終的に負けているんですよね? 何故過程を重んじるのですか? 結果です、大事なのは結果ですよ。あなたはその途中の勝利で何かを得たのですか?」
「うるせ〜……! そもそも最後も俺が勝ってた筈なんだよ、あれはイカサマだ、間違いないね」
ベルは胡乱げな顔で俺を見ていたが、ふと何かに気づいた。
「……いえ、待ってください、イカサマ? それは本当ですか?」
「当たり前だろ? 俺が嘘言ったことあるか?」
ベルのスキル『聖女』は相手の嘘を禁じる。それは発言内容の強制か、そもそも発言の禁止という形で現れる。
今ので俺が嘘をついていないというのが分かっただろう。
ベルは口をつぐみ、何かを考え込んでいる。
俺は奥で寝る準備をしているハルをチラリと見てからベルに言った。
「……外で詳しく話そう」
***
「ベル、お前はポーカーって知ってるか?」
「いえ……名前だけは聞いたことがありますが」
「じゃあトランプは?」
「それなら知っています。一から十三までの数字と、四つのマークが記されたカード、計五十二枚の組み合わせの事ですね?」
ポーカーもトランプも、過去の勇者が広めたものである。後はチェスとか、将棋、テーブルゲームは大体広まっている。
あの裏カジノにあったスロットマシン、ルーレットなんかもそう。というか、あの裏カジノ自体の発祥が勇者である。
「俺がやっていたのはポーカー、テキサスホールデムと呼ばれるルールだ……このゲームでは自分に配られた二枚の手札と、場に出ている五枚の場札の七枚から好きな五枚を選んで相手と戦う」
「相手、というのは……?」
「自分と同じように二枚の手札を配られた他プレイヤーだ、当然他のプレイヤーの手札は見えない」
「勝敗はどのように付けるのですか?」
ベルはそういうゲームに興味があるようだ。これが終わったら一緒に遊ぶのも……いや、いくら人間の様に見えても気狂いシスターだ、やめておいた方が良いだろう……。
「……ハレ?」
「っと、ああ、勝敗だったな、ポーカーは選んだ五枚のカードの組み合わせで役が強い方が強い。役というのは例えば『ワンペア』同じ数字のカードが二枚ある状態。『ツーペア』同じ数字のカード二枚が二セットある状態……とまあ色々ある。基本的に珍しければ珍しいほど強い」
「なるほど……相手と自分で同じ役が出た場合はどうなるのです?」
「役に使われている数字が高い方が勝つ」
ベットやコール、レイズなんかのルールは今は良いだろう。少し複雑すぎる。ポーカーの醍醐味ではあるのだが……。
「……あの時の状況を話そうか、俺はあの時数字が連番になった『ストレート』とマークが全て同じ『フラッシュ』を同時に達成する必要がある役、『ストレートフラッシュ』を揃えていた……」
「ふむ……」
今思い返してもあの手札は神がかっていた……あれ以上の手札はそうそう無いだろう。
「俺の手札はスペードの5、6。場札にはスペードの7から9が出ていた。それ以外はゴミで、俺の手札はほぼナッツ……絶対に勝てる手札に限りなく近かった。あの状況で相手が勝つにはスペードの10、J……11を持っている必要があったんだ」
「勝敗は?」
「俺は持っている全てを賭け……ついでに持っていない分まで賭け……そして負けた、あんなのはあり得ねぇ、確実にイカサマだ」
ベルは俺の話を聞いてしばらく考え込み、それから不思議そうに首を傾げた。
「……聞いてもあなたが単純に自分の運を過信して負けただけの様に思えますが……」
「いや、俺は全てのカードに魔力を塗布して判別を付けた、最後の最後、奴のカードはディーラーの持つ山札内のカードと入れ替わっていた……あれは確実にイカサマだ」
ベルはそこで目を見開き固まって、声を絞り出した。
「それは……え?……? あの、相手のカードを把握していたんですか?」
「そうだが?」
「……?」
ベルは衝撃の抜けきらぬ様子で更に続けた。
「……それは……もしや、イカサマでは?」
「何言ってんだお前」
アホなことを抜かすベルに俺は思わず呆れてしまった。
「当然イカサマだ、俺が大金をギャンブルに賭けるような女だと思ったか?」
「……!?」
結構大変だったのだ。カードに魔力を塗布して判別を付けるのは良かったが、それにはカードに触れなければならなかった。序盤は純然たる実力で勝たなければならなかった。
カードの判別がある程度進んできた中盤以降も、勝てるからと言ってオールインばかり仕掛ければ当然怪しまれる。オールインをしてもおかしくない手札だったり、あえてレイズして負けて見せたり……とにかく調整が大変だった。
最後の最後負けた時も、俺のイカサマは完璧だった。相手の卑劣なイカサマがなければパーフェクトに勝てていただろう。
「どれ、くらい……負けたんですか……?」
「ハルが払っちまった分を合わせるなら金貨二百枚ポッキリ、だが待って欲しい、最後に負けるまでは勝っていたんだ、次また機会があるなら今度は上手くやる、確かに今回の敗北は痛手だが、次は――」
ベルは腕を振った。俺は殺気に反応してなんとか防御を行ったが、腕は目にも止まらぬ速さで俺の腕を砕いた。
「ぎゃあああああ!」
「最低ですね、死んだ方がいいですよ」
「て、てめえ何しやがんだ!」
「どうしたの!?」
ハルが慌てた様子で出てくる。
俺は折れた腕を抑えながら涙目でハルを見つめた。
「流石に早いな、ヨシ、さっさとこのイカれ女を殺そうハル。こいつ無実の俺の腕を突然折ってきたんだ」
「え……ちょ、ベルさん……」
「然るべき罰を与えたまでです。真面目に聞いて損しました」
「あ、そ、そうなんだ……」
「一旦宿に戻りましょう。勇者様、ハレは心配ありませんよ」
ハルはベルが言った謎の理論に納得して俺を心配そうに見つめながらも二人で宿屋へ帰って行った。
一人取り残された俺は冷たくて硬い地面に倒れてそれをただ見つめていた。
左腕を持ち上げると、とてつもない痛みが走る。朝日が登り、空が白んできた。
「ぅ……く、そ……なんだ、目が霞んで……」
涙で空は滲んで見えた。
俺の夜は……終わった。