転生TS美少女ゲス外道猫獣人は異世界の勇者の玉の輿を狙いたい 作:苦慮緑了
俺は頭がおかしくなりそうなくらいの悔しさをバネに、宿屋に戻ってへそくりを取り出した。
左腕はまだ折れていたが、気合いで接合したため痛みはあれど動きはする。
「このまま終われるかよ……!」
夜のカジノ、リベンジだ。
***
翌日の夜。自分の足元すら見えない暗闇の中、俺は歩いていた。
ここは大カジノから南東に少し歩いた住宅街である。とても、あのカジノと関係があるようには見えない。
だがしかし、俺の予想が正しければおそらくここら辺に従業員用の出入り口があるはずだ。
地下の裏カジノではバニーガールやボーイ、用心棒の黒スーツの男たちなど、結構な数の従業員がいた。あの人数が全て地上にある秘密の入り口を用いていたとは考えにくい。
表の大カジノから裏カジノへ繋がっているというのも、同様に考えづらい。大カジノは裏カジノは表向きは関係が無い。立地的にどう考えても実質的に協力関係にはあるだろうが、大カジノは清廉潔白を謳って、実際に兵士などを監査に入れたこともある。
また、裏カジノ内での主な従業員の出入りについても観察していたが、食事やドリンクなどを裏から持ってくる場合と単純に休憩や退勤を行うであろう奴らは方角で言うところの南東の扉を用いていた。
もちろんそこから地下通路がどこか全く別の方向へ繋がっている可能性もあるが、そんなものを考慮していても結局問題は解決しない。まずは調査である。
昼に聞き込みを行ったところ、カジノ南東周辺に人が住んでいない住居がいくつかあることが分かった。
倉庫として利用されていたり、誰も住んでいなかったり。
裏カジノは百年以上前から経営されている。調査の結果怪しい建物は七つに絞られた。
そのうち四つは建物の構造や埃の感じから候補から外れた。人の出入りの気配が無さすぎるためだ。
そして残り三つのうち二つはもう侵入して確認したが、特に怪しいものは見つからなかった。
最後の一つ、食糧庫として利用されているという建物に俺は来ていた。そこそこに大きい。一見すると平凡な平家にしか見えない。
俺は大きな扉に猫耳を合わせ耳をすませた。内部に人の気配は無い。
続けて鍵穴に金具を突っ込んで解錠する。この世界の鍵はどれも単純で、少しコツを掴めば簡単にピッキングができる。
数秒もせず鍵を開け、開いた扉に体を滑り込ませる。薄暗い室内には誰もおらず、背後で閉まる扉の音を除きシンと静まり返っていた。
「……ふぅ」
警戒を解き周囲を見渡す。そこはなんの変哲もない倉庫のように見えた。
明かりは無く、猫獣人特有の猫目とレベルによる補正がなければ自分の指先すらおぼつかないであろうことが分かる。
部屋には果物が入った木箱が数個と、山と積まれた麻袋に、吊るされた干し肉など、事前の調べ通りに食料が詰め込まれていた。
倉庫の奥へ進む。積まれた麻袋と壁の間に、結構な隙間があった。
一切光が無く、俺ですら見通せないそこを見ながら懐からマッチを取り出し一本擦る。
小さな火が勢いよく灯り、眩しいくらいに辺りを照らす。目を細めながら麻袋と壁の間を見据え……。
そこに何もないことを、確認した。
床には木箱を引きずったような跡があり、隙間ができたのは単純にそのせいだったことが分かった。
「……ま、そう上手くはいかねえよな」
元々周辺に裏カジノの入り口があるというのから俺の推測だ、そこから見当外れって事もありえた。
「……しっかし、ここら辺にあるんだと思ったんだがなぁ……」
俺の勘はまあまあの的中率を誇っている。今回もなんとなくここにビビッと来るものがあったのだが。
そう思いながらマッチで明るくなった周辺を見渡す。初めはよく見えなかった室内も、マッチ一本程度でも明かりがあるためよく見える。
そうして改めて見ていると、部屋の隅の木箱が不自然なことに気づいた。
二つ、中が全く見えない無骨な木箱が並んでいるが、縦に積み込んだ方がいい気がする。それに床にも擦ったような跡が無く、長い間そこに置かれていた事が伺えた。
「……」
短くなったマッチの火を握り潰し灰をポケットに突っ込みながら、興味本位で木箱を開けてみる。
中に入っていたのは衣服だった。どれも女物で……結構際どいというか、公衆の面前で着たら確実に痴女扱いは免れない衣装だ。傍にはうさぎのつけ耳と尻尾、ついでにメイク道具があった。
つまり、総括すると……バニー衣装が、そこにあった。
側には着替えと思しき普通の衣装もあり、袋で分けられている。
「……なるほどな」
一人そう呟き、俺は静かに息をした。
***
それから数日経った日の夜。日が沈んだばかりの頃、俺は倉庫の屋根の上から入り口を見張っていた。辺りは暗く、俺の姿は夜闇に紛れている。
ここ数日に調査した通り、どこからか現れた数人の女が倉庫へ入っていった。辺りを警戒した様子で、静かに倉庫の扉を開く。
耳をすませば中で何か気配がすることが分かる。小一時間ほど経った頃だろうか、ローブを羽織り顔を隠した女が数人、倉庫から出てくる。最後に出てきた女が倉庫に鍵を掛けた。
俺は自作のバニー衣装を身に纏いながら、女衆と同じようにローブを羽織り全身を隠し、その中にこっそりと紛れ込んだ。
暗闇で目の前すらおぼつかない様子の彼女らは、ひっそりと動いた俺に全く気づかなかった。
先頭の女が小さなランタンに火を灯し、先導する。
歩く。誰も口を開かない。ただ静かに、時折夜警を警戒しながら、歩く。
女衆が止まったのは五分ほど歩いた後だった。日が暮れてしばらく経ったというのに明かりがついている酒場だ。
先導していた女が扉を開く。俺も周囲の女達と同じように続いた。
ほんのわずかな明かりがついている薄暗い店内では、カウンターでグラスを磨いている店主以外には誰もいなかった。
髭の似合うダンディなおっさんである。
「お客さん、今日はもう閉店だよ」
「夜鳥とウサギ」
「お疲れさん」
店主がカウンターを開ける。先導する女は何の躊躇いもなく店の裏の奥へ進んでいった。
店の裏は狭く、人一人がギリギリ通れるくらいのスペースしか無かった。酒やつまみが壁に並んでいて、最奥の床にはハッチがあった。
先導する女に続き、開いたハッチに掛かっているハシゴを降りていく。
ハシゴを降りた先は下水道だった。鼻に薄らと嫌な匂いが漂い、水滴の音が辺りに反響している。
今しがた降りてきたハッチが閉じられたのを確認した女は、再びランタンを掲げ進み出した。
……そろそろ良い頃合いだろう。今は全員フードを被っているが、いつそれを外すのか分からない。いつまでも列に混じっている訳にはいかない。
水が流れている中央の水路を挟むようにある通路を歩く。向かう先に十字路があった。
俺は先導する女が曲がり、ランタンの明かりが見えなくなった頃を見計らって列から音も無く抜け出した。
ひとっ飛びに水路を飛び越え、向こう岸の通路へ着地、四足で静かに、さっき来た道を戻るように走る。
「……っ、ちょ、ちょっと待って……! 一人いない、前にいた子が消えたわ……!」
「はあ?」
俺の後ろにいた女がランタンの曲がり角を曲がり、ランタンに照らされた頃合いだろう。囁き声が水路に響いた。
流石に暗いとはいえさっきまで前を歩いていた奴が消えたら気づくか。
「1、2、3……今日は……七人ね、ちゃんといるわ、誰も欠けてない」
「え……? いや、でも……」
「早く行くわよ、遅刻でもしたら大変なんだから」
「……」
不満を隠さずにいる女も、それ以外の女も、再び歩き出した。俺はもう一度水路の対岸に飛び、そして足音を殺し一定の距離をとりながら後を追っていった。
それからしばらく歩いた後、女衆はふと立ち止まり扉に入っていった。
通路の角から頭を半分出してそれを見ていた俺は猫耳をそば立てながらすぐに出て、扉の先の音を聞く。
……特に何も聞こえない。小さく足音が遠ざかっていくのが分かるため、どうやら合言葉なんかは無さそうだ。
人の気配も無い。見張りも、さっきの女衆もいないだろう。
裏カジノの営業時間までもうしばらくはある。裏カジノの開場時にはスタッフ総出で客を出迎えるイベントがあったはずだ。
体内時計によれば開場までの時間は後十分。スタッフの出迎えがどれほど余裕を持って行われるかは分からないが……出迎えと同時刻に調査を開始したい。
「……ひとまず先に行ってから考えるか」
俺は慎重に扉を開き、体をするりと滑り込ませた。