転生TS美少女ゲス外道猫獣人は異世界の勇者の玉の輿を狙いたい 作:苦慮緑了
閑散とした厩舎の外、カラッと照りつける陽の光は眩しい。
生暖かい風は磯の匂いを感じさせ、湿度が高い。街はところどころ汚れてはいるが、大部分は建物の白色を見せ、魔物の血でも人の血でも汚れていない。
俺はまだ少し痛む気がする体を伸ばし大きく伸びをした。
街は慌ただしく、どこも忙しそうだが、ここはそうでもない。何せ中に馬などいないから。
大体が出払ってしまっていて、今中にいるのは数頭の馬と、厩務員である男一人、あと、俺が依頼した商人だけである。
ハルとベルはいない。
今日の正午、俺は病院で目覚めた。病院といっても簡素なもので、それほど設備も揃っていなかったが、とにかくそこで目が覚めた。
昨晩、キングオクトを殺したあと、俺はスキルの代償により気絶していた。その後駆けつけたハルに見つけられ、療養のためそこに入れられたらしい。
目が覚めた時、ハルもベルも街の復興作業を手伝っていた。俺もそれを手伝おうかとも思ったが、やめたのだ。
なにしろ今この街には俺を恨んだり食べようとしたりする人間や、こちらを詮索しようとしてくるであろう領主などがいる。触らぬ神に祟りなし、さっさとこの街を出るのである。
二人には伝言を伝えてある。もう来てもおかしくはないはずだが。
そう思いながらぼうっとしながらのんびりと待っていると、人通りの激しい表通りからハルがやってきた。
「ハレ! ごめん、待たせちゃった?」
「いや。問題ねえよ」
「体は大丈夫? 痛い所無い?」
こちらを心配するような目で見るハルに、俺はサッと回り込みその背中に飛び乗った。
「えっ?」
「このッ……馬鹿が!!」
一発思いっきり引っ叩き、懐から魔道具を取り出し驚いた様子のハルの顔に狙いを定める。
水が勢いよく吹き出し、ハルの顔を濡らした。
「わっ、ちょ……なに!?」
「何じゃねえこのアホ! 昨日の事だ!」
魔道具から出る水が止まる。安物だからだろう。だがハルはしっとりと濡れ、不快そうだ。レベルが高くとも嫌なものは嫌なのである。ダメージは無いが。
「お前、キングオクトには勝てないって話したよな!?」
「あ……いや、あれは……」
背中から降り、振り返るハルと目線を合わせる。
問い詰めるのは昨日の事だ。ハルは俺がほんの少し目を離している間に、無謀にもキングオクトへ立ち向かってしまった。ハルはしどろもどろになりながら言い訳をした。
「いや、僕もそうしようと思ってたんだけど、ベルさんが……」
「あの女が何を言ったか知らんが、あいつについていったのはお前だろう」
「それは……でも、ベルさんを見捨てるわけにも……」
「アホ、あの女が死のうが知らん、見捨てろ!」
ベルはいいんだ。だってあいつが死んでもそれはあいつの責任だから。いやよくないが。ハルが死ぬより万倍マシだ。
「お前が死んだら誰が魔王を倒すんだ? 後先考えて死んでもいいと思って行動をしたのか? だとすればそれは間違ってるぜハル。ベルは死んでもリカバリーが効くが、お前の代わりはいないんだ」
「……」
ハルがムッとした顔で怒っている。まあちょっと非人道的というか非倫理的だが、間違ってはいない。
だがそれでは心象が悪いな。俺の目的はハルとの結婚であり、贅沢な生活なわけで、嫌われたりしたら元も子もない。
「……それに、俺も心配した」
「……!」
「別に、俺なんて悲しませてもどうとも思わないかもだけどよ……でも、心のどっかで、覚えといてくれよ」
ハルはハッとして、それから目を伏せて頭を下げた。
「……ごめん」
「いーよ別に」
ちょろすぎるぜ……少し悲しそうにしただけだっていうのに……。
「……考えてみれば、ハレにはお世話になりっぱなしだよね。それに、すっごく心配してくれて……」
「……うん?」
『すっごく』心配なんてしていないが……演技なので、実は心配なんて微塵もしていないわけだが……。
「本当に、ごめん。僕にできることがあったらなんでもするから」
「……」
すごい言葉である。まあ俺は実際はそんなに心配していないのでハルの勘違いなんだが。流石の俺も良心が痛むというもの。
「……実はさっきのは嘘だ。あんまり心配してなかったぞ」
「いや、さっきハレの顔を見て気づいたんだ。ハレは、僕のことを大事に思ってるって」
「は〜ん?」
どうやらこのハルという男は思い込みが激しいやつらしい。まあ勇者と呼ばれるんだから多少そういう面があってもいいが、だがまあ騙されやすいというのは正直心配……ではないが、まかり間違っても心配などしていないが、他人に騙されやすいというのは直した方がいいだろう。
「大事にも思ってないし心配もしてない」
「……うん、ごめん。今後はハレに心配させないように気をつける」
「???」
は、話が通じねえ。
「心配してないししないししたこともない」
「いや、してた」
「してないしてないしてない」
「いや、絶対してた」
なんだぁ……? ハルが壊れた機械になってしまった。おそらく修理は絶望的だろう。
俺はハルを睨みつけながら、どう説明したものかと言葉を探した。
そこで、ハルがふと視線を逸らし、何かに気づく。目線の先は俺の背後だ。
「……あ、ベルさん! ちょうどいいところに――」
「じゃあ俺はおっさんに馬車を出してもらうぜじゃあなハルちょっと待っててくれよな」
早口でそう言い終え、俺はベルが近寄る前に厩舎の中へ入っていった。ベルに余計な事を言われることを恐れたためである。
***
ガタゴトと揺れる馬車の中、俺たち三人はそこそこに広い馬車の中で休んでいた。
御者の男は見覚えのある男、俺とハルがこの街へ来るのに協力してもらった商人である。
どうやら男は俺たちがこの街の騒動を解決したということを人伝に聞いたらしく。そのお礼として次の街まで送ってくれることになったのである。
「それでねベルさん。ハレはそこで僕を心配してるって言ってね」
「ふむふむ」
「でも後から嘘だって言ったり、全然心配してないって言い直したり、とにかく支離滅裂なんだよ」
「えー、それはやはり、彼女も素直に認めるのが恥ずかしかったのではないでしょうか」
「やっぱりそう思う!?」
御者の男は特に金銭なども要求することもなく、にこやかに俺たちに協力を申し出てくれた。やはり良いことはするものである。
「ハレはあまり本心を明かしたがらないところがあります。自分を見せないというか、あまり弱みも見せないようにしているようですし」
「えー、でもそれって仲間じゃなくない?」
「なるほど確かにそうですね。ハレ、あなたはどう思いますか?」
何やらベルが何かを言っているが、まあ俺には関係のないことなので無視することにする。馬車は道を進み、後ろを見れば置いてけぼりにした街が遠くに見えた。
楽しかった思い出も嫌な思い出もあったが、統括してみれば良い街だったと言えるだろう。
「無視……図星ですか」
「図星じゃねえよ、意味不明だから無視してるだけだ、別に身内にだって隠し事くらいするだろ」
「ムキになっている……図星ですか」
ぶっ殺してやろうかなコイツ。
「ところでハレ、僕のこと心配して――」
「そういえばベル、報酬の件はどうなった?」
俺はハルの言葉を遮りベルに聞いた。事前に頼んでおいた報酬がどうなったか気になったからで、特に他意は無い。
ハルは特に気にした様子もなく、なぜかニヤニヤと俺を見つめた。
……今回の俺の働きはハルとベルを除けばギュンターと、あとリビしかしらない。だがギュンターは領主だ、キングオクトをぶっ殺し街を救った英雄である俺に、正当な報酬を支払う義務がある。
今回金貨五百枚を消費してしまったので、その補充という面もあるが、とにかく金はあったほうがいいというのも事実。
俺はできれば領主の屋敷なんて近寄りたくもなかったため、ベルに伝言をして報酬を求めるように頼んでおいたのだ。まあ、ベルは正直だからある程度値切られるかもしれないが、そこもしょうがない。
最低でも金貨千枚は支払われるはずだ。そうでなければ今すぐ戻ってぶっ飛ばすだろう。ハルが。
「ああ、断っておきました」
ベルは特に荷物を持っている様子はないが、それはおそらく現在の領主に余裕がないからで後から……待て、なんて?
「……は?」
「え? こ、断った? え?」
「ええ、断っておきました」
馬車は揺れ続けた。路面の状態は悪く、振動で尻が痛い。とても夢だとは思えない。
震えながら顔を歪め笑みを形作り、なんとか微笑む。
「ベル? な、冗談はやめてくれよ……ほうしゅ、報酬は? 金、金貨は!?」
「ですから断っておきました」
「こと、お、おま……お前、お前、ハッ……? な、は……?」
意味不明にして不可解な言葉だった。
脳みその血管がはち切れそうだった。地面がぐにゃりと曲ったかのような衝撃。開いた口が塞がらなかった。ひどい悪夢を見ているのだと思いたかった。
「……は? は? じゃ、えぇ? 報酬は、無いってことか?」
「はい」
「……」
殺さなければ。おそらく魔王軍のスパイだったのだろう。だが尻尾を出したな前々から怪しいと思っていたんだ死ねッ!
「死ねえええええ!!」
「ちょ、ハレ! 待っ、待って!」
剣を抜き思い切り振り上げると、ハルが必死に俺を制止した。
「止めるなハル! こいつはここで息の根を止めるッ!!」
「ダメだよ! 事情、事情を聞かないと!」
事情……? 事情? この悪びれもしていないアホに事情なんかあるか!?
殺せーっ! この世には生きていてはならない者もいるッ!!
「そうですハレ、私にも訳があったのです」
「ハルッ! 殺れ! 今なら殺せるはずだッ!!」
「ちょ、落ち着いて……!」
ハルが俺を羽交締めにして止める。ま、まさかハル、お前も裏切り者なのか……!?
「ベルさん、何があったの!? どうして報酬を断ったの!」
「いえ、あの……ギュンターさんに話をお聞きしまして、どうやらあの街は今、余裕が無いらしいのですよ」
「え、あ、うん、それはそうだと思うけど……」
そうだろう、ちょっと一晩全住民を避難して戻してなんてわけにもいかない。多大な苦労があったはずだ。ギュンターも相応に苦労しているようだ。だが、正直言ってそんなのは些事だ、たとえ大変だろうが労働は労働、報酬は報酬だ。受け取る権利があり払う義務がある。
「本来なら、王家から魔王軍四天王を討伐したことに対する褒賞金が支払われるはずです。ですが、折悪く彼は王家との関係を悪くするようでして」
「……」
アーリスか? ハイハーン家もギュンター個人も王家に疎まれるというような情報は無かった。ならば、あの街にいた厄介の種、アーリスが原因だ。きっとそうに違いない。おのれアーリス……!!
「その上、彼は個人的な案件を抱えており、それにもある程度のお金が必要なのだそうです」
「そんなもん領主のわがままだろうがァーッ!! 無視しろそんなもんッ!!」
「いえ、無辜の平民を救うための必要な出費なのです、決してわがままではありませんでした」
アーリスか? 無辜の平民を救うなんておそらくあの性悪クソ女が絡んでいるに違いない。おのれアーリス……!!
「ハレ、あなたは自らの報酬のため、無実の人間が不幸になっても良いと考えているのですか?」
「思っている! 知らん奴が何人死のうが知ったことか! タダ働きなんざしてたまるかよッ!!」
「ええ……」
ハルがドン引きしているが、本音である。
金貨千枚……いや、ごねれば二千枚まで上げれる。金貨二千枚もあればなんだってできる。金は力である。俺の場合、戦闘力的な意味でもそうだ。
それが、それがゼロ、タダ。
俺が最も嫌う言葉はタダ、無料だ。
やはり……殺すしかない。聖女の討伐報酬は知らんが多分大金が貰えるはずだ。ぶっ殺せっ!
「そもそもそんなお金をもらって何をしようというのですか? 別に、これからの旅で稼げば良いではないですか」
「このっ……!」
金貨二千枚が稼げるわけねーだろうがこの世間知らずのボンボンバカがッ!
金貨の使い道も……いや、説明は、確かにしなかったが……。
「……今回と同じことがあったら、また金が必要になる。今回は金貨五百枚も使ったぞ、最低でもそれを回収しねーとやってらんねーよ」
「……金貨、五百枚……? 使ってしまったのですか?」
「ああそうだよ。お前ね、金を稼ぐことの大変さを――」
「そんな大金どこで得たのですか?」
やばい話題になった。
俺は咄嗟に口を回した。
「まあまあ良いじゃないかそんなどうでも良いことは、今回のことはしょうがない、水に流すよ、ところで景色が綺麗だぜ二人とも――」
「確かに僕も気になってたな。あの日鞄を渡されて、あの時は中身が金貨だなんて知らなかったから流しちゃったけど、あれどこから持ってきたの?」
あの日、というのはアーリス達がパーティから抜けた日のことだろう。確かに金貨がたっぷり詰まった鞄を黙ってハルに預けた。
だが、あれは……いや、法的に正しいのは俺だ、問題はない。きっと分かってくれるはずだ。
「……あれは、あー、アーリス達が泊まってた宿から、ちょっと持ち出した物だな」
「えっ」
「……犯罪では?」
ベルが訝しげに聞き返すが、犯罪ではない。そこだけは間違いない。
「犯罪じゃないぞ」
「いえ、でも……アーリス様から、盗んだのでは?」
「違う。盗んでない。そもそもあれはアーリス達のものではない」
「アーリス達のものじゃない……? ど、どういうこと?」
そこで俺は一度全身の力を抜いた。ハルも、警戒しながらも俺を離す。
「そもそも、あれは国王が勇者パーティへ送った軍資金、法的にはパーティ基金と呼ばれる金だ」
「パーティ基金……?」
「パーティ運営のためメンバーからリーダーへ善意と信頼の元贈与される募金だ」
パーティ基金は煩雑で揉めやすいパーティの運営費を簡略化した制度だ。雑駁に言うと、リーダーにお金を渡してパーティのために使ってもらうが、最悪の場合リーダーが持ち逃げしても文句を言えない、法的にリーダーに所有権が移る金である。
トラブルは当然起きるが、そもそもトラブルの起きそうな奴にパーティ基金を任せるな、何が起ころうが自己責任である。という冒険者ギルドの無責任さ、放任加減が分かる制度だろう。
「パーティ基金はパーティリーダーのもの、すなわちハルのものだ、俺が持ち出しても一切問題は無い」
「……え、ですが、それは……アーリス様がいらっしゃるから国王から下賜された物では? いえ、法的には勇者様のものでも、その、それを勇者様が全て貰うのは……」
「うるせえな、あいつらはパーティを抜けたんだ、なら基金だって俺らが貰うに決まってるだろ」
まあアーリスはあれをパーティのものとして認識せず、自分で好き勝手使っていたようだが……法的に正しいのは俺たちである。
呆然と押し黙ってしまったハルにそう弁明しようとしたところ、ハルが口を開いた。
「え、じゃあハレは今まで盗んだお金で水着を買ったり、ギャンブルに溶かしてたりしてたの?」
「それは違う」
「何が違うの?」
なぜだか怒った様子のハルに、俺は当然に返した。
「さっきも言った通り法的に俺は盗んでいない」
「今は法の話じゃなくて道徳的にどうかの話をしたいんだけど」
道徳的に……? 道徳的にって言ったら、そりゃ盗みだろ。あれが送られたのは国王がアーリスを溺愛していて、かといって大っぴらにアーリスだけを支援するのは角が立つからパーティ基金という口実の元送られたお小遣いなのだ。実質的にアーリスの個人資産なわけで、それを取るのは盗みだ。
が、そんなことを言っても俺に不利になるばかりなのでここは一旦無視する。
「そもそもだ、盗んだということにしてやっても良いかもしれないが、盗んだのがよくなかったとは思わないな。俺があれを持ち出していなければ今頃キングオクトは大暴れだっただろう。キングオクトを殺せたのは俺が金貨を持ち出したおかげだ、そうだろう?」
「うーん、いや、でも……」
「それより問題なのは俺たちが受け取るはずだった正当な報酬を断ったコイツだァーッ!! 良いのかハル! 俺たちになんの相談もなく金貨千枚は超える報酬を断ったこいつを許して! 俺は五百枚、ベルは千枚! 被害額で考えたら圧倒的だろうがっ!!」
「いえ待ってください、私はそもそもハレが金貨を大量に使っていたというのを知りませんでした。これからの旅に支障が出るのであれば当然私も報酬を受け取っていました、これはハレの説明不足が原因では?」
あまりにもエクストリームすぎるぜその弁護は……!
「異議あり! そもそもそこを確認しようとしなかったベルに責任があるっ! 仲間に黙って報酬を断った行動は擁護できない!」
「うっ……ですが、人を救うためだったので仕方がありません。もちろん、これは私のわがまま、今後別の形で返済を行いたいと考えています」
「おいおいおい旅の最中に金が足りないことがあったら挽回すらできねえだろうがっ! 返済は無事に旅が続けられることが前提なんだ、お前の軽率な行動によりそもそも旅が続けられるか分からないんだが?」
「いえ、キングオクトの襲撃前夜までにハルさんがギルドで依頼を受けていました。もちろん金貨千枚には遠く及ばないでしょうが、少なくない金額稼いでいたはずです」
「あっ」
ベルと俺が議論を進めていると、不意に傍観していたハルが声を漏らした。
「……なんだ、どうした?」
「どうしました? 勇者様」
「えっ……と、その、お金、なんだけど……」
ハルが言いづらそうに、小さくチェス盤、と呟き、手を伸ばした。
空中からチェス盤が現れる。
馬車の床に音を立てて落ちたチェス盤は木製のバッグのような形をしていて、両開きに開くと中にはチェスの駒が仕舞われていた。
俺はそれに見覚えがあった。過去の勇者が開発してブームとなった……魔法の自動チェス機能があるチェス盤である。ひとりでに駒が動く様は見もので、俺も昔死ぬほど欲しかった覚えがある。
ただ、一点問題がある。ただ一つだけ。
高いのである。
「は、ハル……ま、まさか」
「だ、だって……褒賞金が入るって、だから、その……街で見かけて、つい……」
「……ベル、金持ってるか?」
「……? いえ」
当たり前だろう。ベルに金を任せるはずがない。俺も持っていない。一応銀貨を一枚持っているが、それだけだ。
「……ハル、金持ってるか?」
「………………銀貨が六枚と、銅貨が……」
終わり……いや、始まりである。
俺の窃盗疑惑を有耶無耶にするには今しかないッ!!
「は〜〜ッ!? そんなんほぼ持ってないも同然だろッ!! ゆーしゃ様は人の泥棒を咎めるくせして自分は知らん顔して盗むんですかぁ〜〜??」
「いやっ、ちがっ……」
「違くありませんよ勇者様、みんなのお金を勝手に使うのはダメだと思います。そもそもこんな役に立たないもの買ってなんになるんですか」
それは完全にベルのセリフではなかった。そして魔法のチェスのロマンも解していなかった。
「みんなの報酬を断ったベルさんに言われたくはないな……! そもそもこれはかっこいいしっ!」
「役に立つ立たないじゃねーだろこういうのは! 勝手に報酬断った奴は黙っとけよッ」
「な……! いえ、待ってください! そもそもハレは数日前にカジノで金を勝手に使っていましたよね!? あれは純然たる盗みであり、窃盗です! 犯罪者のハレさんにとやかく言われたくありません!」
やばいッ!!
「い、言われてみれば……!」
「おいおいおいおいおいおいあれが要因で魔王軍の計画を知れたんだからあれはファインプレーなんだが!?」
「今話してるのはあの行いが結果的に良かったかではなく行動自体が犯罪であることです!」
俺は必死に口を回した。とにかく何も考えずにぺちゃくちゃと喋り続けた。
馬車は止まらない。目的地はまだ遠く、もう後ろを見ても過ぎ去った街は見えなくなっていた。
御者はうるさく騒ぐ俺たちに文句一つ漏らさない。
馬車は止まらない。俺たちはそうして言い争い続け、そしてそのうちに疲れてやめてしまった。
道はどこまでも続き、たまに出てくる魔物は護衛がすぐに駆除していた。
馬車は止まらない。俺たちの旅は、まだ始まったばかりであった。
20261102 一章完です。続きはまたしばらくかかります。感想などもらえれば嬉しいです。