転生TS美少女ゲス外道猫獣人は異世界の勇者の玉の輿を狙いたい 作:苦慮緑了
「ハル……そこは罠がある、左に曲がれ」
「あ、うん、分かった」
削れた脇腹を包帯で簡単に手当した後、俺はハルを連れてダンジョンからの帰還を開始した。
道中ゴブリンやオーク、ウツボマンサーにでかい狼、そして石造りのゴーレムなどが現れたが、ハルはその全てを一太刀で切り捨てた。
強い、が、これはレベル200越えという優れた能力の一端にすぎない。
おそらくレベルを上げずとも、鍛錬を積むだけで今の百倍は強くなれる。戦う覚悟を決めただけで、これだ。力量の差を見せられてちょっと気分が落ちる。
「……そういやハル、お前罠を踏んでも発動しないとか、罠の影響を受けないとか、そういうスキルを持ってるのか?」
「ああ……『歩く蛇足』って言うスキルを、最近取ってたみたい。ハレを助ける前に、ダンジョンの外にいた女の人に教えてもらったんだ。それで、罠は効かないから急いでハレを探せって言われて……」
「……お前、やっぱり最初は逃げようとしてたんだな」
「ちがっ……街に助けを呼ぼうと思って……」
同じである。俺は鍛錬を付けてやってる時に散々レベルの優位性については言っていたはずだ。
「へっ、びびって逃げようとしたヘタレがよぉ! 何が助けを呼ぼうとしただ!」
「……すごい、全然助けてもらった人の態度じゃない。なんでそんなに偉そうにできるの……?」
「俺の中の反骨心が暴れちまってナ……頼むから俺より劣っててくれよぅ……!」
「最低だよ……」
沈んだ声を出すハルを引き留め、道を変える。
「こっちだ、ようやくこのクソダンジョンから抜けれるぞ」
「あ、階段こっちだったんだ」
道を曲がれば地上へと向かう階段が見える。俺は荒れそうな息を必死に整え、階段に足をかけた。
足を上げる、それだけで脇腹に痛みが走った。僅かに顔を顰めて、すぐにそれを隠して平静を保つ。
「ハレ? 怪我が――」
「そういやよぉ、お前に俺を探すように言った女ってどんな奴だったんだ? まだいるかな? お礼を言った方がいいだろ?」
無駄に目ざとく俺の不調を見抜きかけたハルの声を遮る。ハルは違和感を感じながらも、俺の問いに答えた。
「……水色の髪の、すっごい綺麗な人だったよ」
「水色……?」
……ハルと旅をする前に会った嫌な奴を思い出す。が、あいつは俺が排除したはずなので、この場には来れないはずだ。
具体的に言うと崖際の道を歩いているところを爆薬により土砂崩れを起こし生き埋めにしてやったのでもう半年は出てこないはずだ。
「……そいつ、シスターか?」
「多分……」
俺はなんとなく嫌な予感がして眉を顰めた。
二人、黙って階段を登る。
それから数分、俺たちは階段の終わりに……地上に、たどり着いた。
古めかしい石造りの壁は終わりを告げ、明るい青空が広がっている。
雲一つない晴天の空の下、ダンジョンの出口に、そいつは立っていた。
「……お待ちしておりました、勇者様……そして、お久しぶりですねハレ、元気にしておられましたか?」
気狂いシスター、ベル・ライトハウスは、むかつくくらいの笑顔を浮かべて俺たちを歓迎した。
***
この世界のすべての生物はレベルを持つ。そんなレベルとは別に、スキルと呼ばれる特別な力を持つ者がいた。
勇者であるハルは『勇者の証』というスキルと、最近新しく生えてきた『歩く蛇足』とか、あとなんか色々なスキルを持っている……ちなみに、スキルというのは生まれついてから持っているものがほとんどで、後から獲得するというのはあまり無い、その基本原則を無視しているのも、『勇者の証』の効果だ。
スキルというのは基本パッシブ、常時発動型のものがほとんどで、そして目の前の気狂いシスターもその例に漏れず常時発動型のスキルを一つ持っている。
『聖女』と呼ばれるそのスキルは、自身の信仰心を示すこと……ようは神に祈りを捧げる事でレベルを上げることができる。
このぱっと見綺麗で清楚で完璧っぽく見える女のレベルは、常軌を逸している。
そのレベル――999。
カンスト疑惑があり、現在のハルはおろか世界トップを独走するレベルは、この女がいかに神に人生を捧げているかを如実に表していると言えるだろう。
「……知り合い?」
「ええ、ハレさんとは少々ご縁がありまして、よく知っていますよ」
「へ、へへへ、そりゃどうも、覚えてくれてるなんてびっくりだなぁ……忘れてくれてると思ったんだが」
「まさか、忘れませんよ、あの日、あんな仕打ちを受けて、忘れるはずがないでしょう」
俺のこともしっかり覚えているらしい。思わずうげえッと顔に出してしまった。
ハルは何にも分かっていなさそうな顔で気軽にベルに声をかけに行く。
「申し訳ないけど、僕はハレの怪我を治療しに行かなくちゃいけないんだ。話は後でも良いかな……?」
「怪我? ああ、それくらいなら……」
ベルは小さく呟きながら指を振った。俺の怪我は治った。
遅れて光の粒子がパラパラと降り注ぐようなエフェクトが起こったが、その頃には俺の傷は完全に消え去っていた。あまりにも回復力が強いためである。
「はい、治しましたよ」
「……すごい……! 回復魔法……!?」
「……礼は言わねえぞ」
俺が不満を隠さずにベルを睨むと、ハルは少しムッとして俺を詰めた。
「お礼は言わないとダメだよ」
「嫌だ、オレ、コイツ、キライ」
「なんでカタコト?」
「頼むからその辺でのたれ死んでてほしい」
「あらら……嫌われたものですね」
ベルは俺のド直球の敵意を涼やかに受け止め笑っている。ムカつくぅ〜っ!! 死ね〜〜!!
「勇者様、こうしてハレに嫌われてしまっている身ではありますが、先程のお話、覚えていらっしゃいますよね?」
「あぁ? 話? なんだよなんか面倒事か? 断っとけよハル、碌な結末が浮かばねぇ」
「いえ、面倒事ではありませんよ」
ベルはにっこりと笑みを深めた。
「私を、勇者様のパーティーに入れていただけませんか? という話です」
「……それは――」
「断る。誰がお前なんぞと一緒に旅をするか、一人でどこぞに消え失せて死んでろ」
面倒事じゃねえか、嘘つき聖女が。
「ハレ、そんな言い方……!」
「待て待てハル、今回は俺は正しいことを言っている、コイツはやめろ、もっとマシな誰かがいるはずだ、マジでやめとけ」
俺は珍しく心の底から善意でハルを説得した。いつもならば私欲が入ったりもするが、今回は無い。
「何が目的だこのイカれ女、俺のハルに近寄ろうってんならぶっ殺してやるぞ」
「……ふふ、そんな事はできませんよ、それに、既に私は勇者様のパーティーメンバーです」
自信満々に言うベルに、俺は背筋にゾッとしたものを感じながらハルを見た。
「……お前、もう返事をしたのか?」
「え? うん、さっき入っていいかって聞かれた時、良いよって……」
俺は深く深くため息を吐いた。どうやらもう手遅れだったらしい。
「……え? もしかして僕、何かダメなことをしちゃった?」
「……あいつには、嘘を吐けないんだ」
スキル『聖女』の効果の一つに、虚言を許さない、というものがある。
ベルに対して何かを言うと、ベルはそれを強制させる。
金を返すと言っているのに返さない奴は無理やり返させられるのだ。俺のも一度所持金を全て土地に変えてバックれようとした借金を無理やり返済させられた。
このクソ女の前で不用意な発言は文字通り致命的になる場合がある。一度やると言ってしまったが最後、言った側は絶対にそれをしなくてはならない。実行不可能な事、実行する気が一切無いことはそもそも口にできない。
俺がそんな感じのことをハルに説明しても、まだハルは納得していないらしい。
「……でも、ベルさんの回復魔法は便利そうだったし……パーティーに入れるのがなんでダメなの?」
「その前に、少し良いですか? ハルさん」
俺たち二人の密談に、突然ベルが押し入ってくる。俺の口を塞ぎながら、ハルににこやかに聞いた。
「勇者様、全てが終わってからで構いません。六里光園へと近づくため、ひいてはいと高き天へ近づくため、共に霊郷へと入りませんか?」
「はい……? 六、なんて?」
「六里光園へと近づくため、ひいてはいと高きへ近づくため、共に霊郷へ入りませんか?」
「んーー!! んんーー!!」
俺のベルに口を塞がれながらも必死に行った抵抗を見て流石に危機感を抱いたのか、ハルは頭を下げた。
「えっと……ごめんなさい」
「……そう、ですか。残念です、同志を見つけられると、直感していたのですが」
「はあ……」
ベルが俺を解放し、背を向ける。
「……新たな神のお告げは未だ来ず、ひとまず、街へ戻りましょうか?」
「……先行ってろ、俺はちょっとハルと話がある」
「わかりました、街の入り口で待っていますよ」
ベルが去っていくのを確認してから、俺はハルと顔を合わせた。
「……それで、六里光園ってなんだったの? とりあえず断ったけど」
「教会と、あいつが主張する神のおわす場所だ、どこにあるかは分からん」
俺はそこで言葉を切って、忌々しいクソ女の顔を思い出し胸糞の悪い気分を抱えた。
「六里光園だの、いと高き天だのは重要じゃない、重要なのはその後、霊郷の方だ。お前、霊郷って聞いてなんだと思った?」
「……何かのサークルとか?」
「奴の考えでは、六里光園というのは地中奥深くにあるらしい。霊郷というのはその六里光園に近い……つまり、ありていに言うと、すっごい深い穴だ」
『ヴラヅィ・ルーの大縦穴』 そう呼ばれているダンジョンの一種が、奴の言う霊郷である。
「……深い穴? ってことは……」
ハルが答えを察したようだ。
そうだ、それこそが奴がスキル『聖女』を持ち、レベルを999まで上げて善行を積み上げても『気狂いシスター』と呼ばれて憚れない理由であり、奴が活動していた王都で道行く人の十人に一人に「その辺でのたれ死んで行方不明になってくれねえかな」と言われるまでに至った理由。
「スキルにより嘘を許さない性質と、専門用語で煙に巻いた言い回しであいつは投身自殺予定者を増やし続けている……気をつけろ、奴の目の前で不用意に頷くな、既に奴が身投げした後に続くことを約束してしまった奴が百人は軽く超えているからな」
ハルが口をあんぐりとあけ驚き、そしてかろうじてか細く声を絞り出した。
「そ、その辺で勝手に死んでてくれないのかな……」