転生TS美少女ゲス外道猫獣人は異世界の勇者の玉の輿を狙いたい 作:苦慮緑了
カッと照りつける陽に、熱く熱された砂。一面に広がる砂浜に、青い海、青い空。
そして……ごった返すような人の海。
若干テンションの下がる光景を前にしながら、俺は手に持ったサーフボードを地面に刺し、星型のサングラスを掛けて日陰でハルとベルを待った。
持っていたビーチバッグから水筒を取り出し水を飲む。
一流の海の女は水分補給を忘れない。
数分、日陰にいても呆れるような暑さの下待っていると、同じ時間に更衣室に入ったはずなのにようやくハルが薄墨色の建物から出てきた。
上体はノースリーブのラッシュガードを着て、ハーフパンツタイプの若干ゆったりとしたサーフパンツを履いている。
首にゴーグルを掛け、無意味にもじもじとしながら辺りを見回していた。
俺を見つけるとそそくさとこちらに寄ってきた。
「……お、お待たせ」
「……なんだその女々しい水着は」
俺は不機嫌そうにそう言った、ハルは気まずげに目を逸らし、もごもごと何かを言った。
俺が昨日買って送った水着はピチッとした海パンである。上は当然用意していない。男なんだから上裸でいいだろうという判断だった
「自分で買っておいて良かったよ、あんなの人前で着れないし……」
「はっ、何を言ってる、この海にそんなもったいない事を考える奴がいるかよ」
辺りを見渡せば、色々な奴が見えた。ほぼ痴女みてえな格好をした頭にツノを生やした女。どぎついメイクを顔に施し砂浜に置いたビーチチェアに寝転びくつろぐオカマ。そして全裸で走り回り爆笑する男。
笛の音が鳴り監視員が男が取り押さえた。
「……」
「……まあ多少は恥じらいを持った方がいいだろうが……」
ハルはそれを見て馬鹿らしくなったのか、一つため息を吐いてから振り向き残ったベルが出てくるのを待った。
俺もそうしていると、なんの前触れもなくハルが呟く。
「……水着、綺麗だね」
「そりゃ良かった」
「……でもビキニってのがなぁ……もうちょっと肌の露出を抑えてさ……」
「なんだお前もスクール水着でも着ろって言うのか?」
「あるんだ」
ハルが意外そうにそう言うと、俺の体を無遠慮に見て目を細めた。
「……本当にそれ着た方が良かったんじゃないの?」
「ガキじゃねーんだ、そんな野暮ったいもん着れるかよ」
俺の今世の年齢は十五、前世で言うと……あれ、スク水を着てもおかしくないというか、中三なら現役なんじゃ……?
俺は不都合な真実に気づきかけたため必死にその真実から目を逸らし、ハルの視線を避け建物の出口をじっと見つめた。
「……ベルさん遅いね」
「もう置いてこうぜ」
「だめだよ、一人にしたら可哀想じゃん」
俺はそうは思わないが……。まあ、ハルがそう言うのであれば文句は言うまい。
ベルが出てきたのはそれから少し経った後、じっとりと汗が滲み、いい加減日焼け止めを塗るとか準備を先にしてしまおうかと思った頃だった。
建物の出口からひょっこりと顔だけを出し、ベルが慎重に辺りを見渡す。
そのすぐ後ろを二人の女子が通り過ぎ、ベルはあからさまにびっくりして思わず建物から出てきた。
ベルはそのバカみたいに長い水色の髪を金具でまとめ、手首まで覆うラッシュガードで上半身を隠し、僅かに見えるショートパンツ型のスウィムパンツの下、太ももから下の不健康そうな白い肌を晒してサンダルで砂を踏み締めていた。
出口の横にいた俺たちを見つけ砂に足を取られながらなんとか俺たちの前に辿り着いた。
「あ……あの、お、お待たせしました」
「なんだその舐めたチャック位置はァーーッ!!」
叫びながらベルのラッシュガードのチャックを半分ほど下げる。
全く血の気の無い陶器かなんかかと見紛う程真っ白な肌に薄水色のビキニがしっかりと存在を主張していた。
ベルはいきなりの事に一瞬止まってから、顔を真っ赤にしてラッシュガードを掴み抑えしゃがんだ。
「ひゃぁあ……! な、何をするんですかっ」
「それはこっちのセリフだアホ! 何を恥ずかしがってるんだお前は! 閉めるのは泳ぐ時にしなさい!」
「な、な、な……これは下着では!? 正直脚を出しているのだけでも褒めて欲しいのですが!!」
下着……? 確かに下着のように思えるだろう。ビキニというのは一見するとブラとパンツにしか見えない。これは初心者にはありがちな見方である。かくいう俺もどうやってもパンツとボトムスの違いが分からない。こんなんどう見たって下着である。
「じゃあ何か? 俺は下着もろだしで歩く痴女かなんかか?」
「ハレさんってそういう羞恥心って持っていなさそうじゃないですか」
「言うじゃないか小娘が……!」
「ハレ、無理強いは良くないよ。日も強いし、肌を隠すのはいいんじゃない?」
横からハルが口を出してくる。俺は思わずムッとして反論した。
「二人とも見ろ! このビーチを見てもまだそんな羞恥だの目が気になるだの言えるのか!? 自分を解放したくはないか!?」
俺が手を広げビーチに向ける。ビーチには様々な奴がいた。無意味にポーズを決める肌をこんがり焼いた猫獣人の細マッチョ二人。あからさまにすけべ心をのぞかせ道ゆく美女にナンパを決める男。そしておっぱい丸出しで何かを叫びながら走り回る犬獣人。
犬獣人に監視員のタックルが決まり、即座に拘束された。
「あまり良い解放には見えませんが……」
「黙れぃ!」
俺は見えなかった事にして日陰から出て歩き出した。何はともあれ、海である。ハルのパワーアップは済んだ。この街に来た目的を果たす時だ。
強大な魔王を討伐せんと旅に出た勇者一行は、旅を始めて二ヶ月目にして――海辺で大はしゃぎするのだ!
***
「ハレ〜、あんまりはしゃぐと危ないよー」
「お前は俺の保護者かよっ」
ハルの注意を聞き流し俺は手頃な場所にシートを敷き、そして中心にあいた穴目掛けて折りたたみ式パラソルの芯を突き刺す。
パラソルを広げビーチチェアを展開してその影に置き、ビーチバッグから瓶詰めの日焼け止めと、ついでに水筒を取り出した。
瓶の中の日焼け止めはベージュ色の固形物だ。俺はそれを日にあたるところに半分埋め、水筒をベルに投げた。
「ベル、水分補給はしておけよ、一流は水分補給を欠かさない」
「……はあ、ありがとうございます。なんの一流ですか?」
「海の女の一流だよ」
「……?」
ハルが俺の埋めた日焼け止めをみて不思議そうに聞いた。
「ハレ、これ何?」
「日焼け止めだよ、水に溶けづらく肌触りが良くて色もほとんど無い上変な炎症なんかも起こさない。『中山』の最新作。注意点は二つ、冷めると固まる事と日焼け止めを落とす時は一旦冷まさないと落とせないこと」
「何それすごい、高かったんじゃないの……?」
「ああ、まあ金の事は心配すんな、俺が払ったから」
まあそれなりに高い買い物だった。ベルの水着もまあまあな値段がした。さすがは貴族御用達の店である。
「ハレ、ありがとうございました。これで私も一流、ですね」
「……?」
水筒を返しながらなんぞ訳の分からない事を言うベルは覚悟を決めたのかラッシュガードを半分まで開いている。それでも周囲の視線を気にしないことはできないのか目線は頻繁に移動していた。
ハルはそれを見て眉を顰める。
「ハル、やっぱりベルの水着は良くないよ」
「まだその話をするのか? 俺は意見を変えるつもりは無い。なんで海にまで来てダサい格好をしなくちゃならねーんだよ」
「もっと肌を隠す水着でも良かったでしょ、脚はレギンスか、パレオで隠すとか」
「パレオはダメだ、好き勝手泳いだり走り回ったり出来ない。せっかくの海なんだ、楽しんで欲しいだろ?」
「ならワンピーススカートは? ショートなら動きやすいよ」
「暑いだろ。レベルが高くとも不快感は拭えないぞ、汗も出るしな」
「露出が少ない以上それは仕方ないでしょ、というかベルさんみたいな体のラインが綺麗な人はビキニよりそっちの方が似合うと思う」
「それは偏見だ、サイズが小さいならどっちを着ても綺麗に着こなせる」
「あの……ちょっとお買い物に行ってきますね」
***
「……かき氷を買ってきましたよー」
「お前の言う小手先の技術はベルには必要ないだろう、すでにその顔で度肝を抜けるんだから奇をてらう必要は無い」
「確かにストレートに水着を着ればそれだけで頭一つ抜けたビジュになるけど今言ったそれは違うでしょ、奇をてらってるんじゃなくて魅力を最大限引き出そうと努力してるの」
「色々味がありましたよー」
「それは俺も認めるところではあるがベルの水着とは関係がないだろう。要素としてワンポイントの加点を狙い視線を散らすよりも基礎を固め素材の味を最大限活かすべきだ」
「あの……かき氷……」
「それはそうなんだけどさぁ……! おしゃれってのはもっと地味で、細かくって……!」
「ほらこの、赤いのとか……うぅ……青いのとか……」
「諦めろよ、素材が良いやつは何着たって似合うんだ、イケメン無罪とか知らねえの?」
俺がそう言ってハルに勝利宣言をしていると、いい加減ちょっと泣きそうなベルが哀れになってきたのでそちらを向いてやる。
ベルは三つかき氷を持っていた。カップはこの世界では珍しく紙製で、これもまた異世界の勇者がもたらしたものであろうことが予測できる。
「……はいはい、ありがとうよ、俺はこの赤いやつを貰うよ」
「うぅ……ごめんねベルさん、負けちゃった……チャック下げるね……」
ハルがベルから青いシロップのかかったかき氷をもらいながらベルのラッシュガードのチャックを半分より少し下に下げる。そう、その位置がベストだ、分かっているじゃないか。
「わ、私の知らないところで私を賭けに使ったのですか……!」
ベルが震えて怒り出す前に、俺はビーチチェアに寝そべりながらかき氷を一口食べた。マンゴーっぽい何かの果汁の味がじんわりと広がる。日焼け止めは陽の光を反射しキラキラと輝いた。
海はまだ、始まったばかりだ。