転生TS美少女ゲス外道猫獣人は異世界の勇者の玉の輿を狙いたい 作:苦慮緑了
それから俺たちは海で色々遊んだ。
美味しい食事、ビーチフラッグ、砂遊び、水泳、日向ぼっこ、そして俺の五倍は大きい巨人族の男がやっている海へ投げられる通称「巨人投げ」、そして遠泳。
サーフィン。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。
休憩。
巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。
食事。
巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳。巨人投げ、遠泳……。
気づけばいつの間にか陽は沈み始め、鮮やかなオレンジ色の夕焼けが綺麗だった。
「いやです! もう一回! もう一回だけで良いですから!!」
砂浜に山ほどいたはずの人はどこかへと消えていて、今このビーチにいるのは俺たちと巨人族の男だけだった。巨人族の男はその逞しい髭越しにも見えるくらい顔を引き攣らせており、駄々をこねるベルを見ている。
「帰りたくありません! まだ陽は沈んでいませんよ!! もうちょっと! もうちょっとだけいましょう!」
「ふざっけんなこの馬鹿!!!」
子供のようなわがままを抜かすベルを、俺は思いっきり引っ叩いた。
気持ちの良い破裂音が鳴りつつ、少しもダメージはない。ベルには全く堪えた様子がなかった。
「ハレ、人を叩かないでください」
「うるせえガキ! わがままばっかコキやがって殺すぞっ!!」
まるで悪い事をした自覚の無さそうな顔をするベル。
体はもうクタクタでダルい、なぜこんな馬鹿クソを相手に必死になっているんだ俺は……!
「あ、ははーん、さてはハレ、怖いんですね? 確かに夜になると海は危ないですけど、私がいるから大丈夫ですよ」
そんな事を言って俺を挑発しているつもりになっているベルに俺は口の端が痙攣するのが分かった。
「ハル、殺れ、遠慮はいらねえ」
「だめだよ……」
「勇者様、ハレが私に付き合うように説得してください」
「いやだよ……」
ハルも今日一日遊び通しだ。後半は俺とベルの二人は無限に巨人に投げられていたため分からないが、海水浴を楽しんだらしい。
レベルの恩恵は強く、体力は尽きないが、しかし精神的には確実に疲労するはずだ。
「まだまだ遊び足りません! 早くしないと暗くなってしまいますよ! さあ! さあ!」
だが目の前のアホ狂信者には疲れた様子が無い。一体どういう事なのか。チートか?
「……ハレは無理だって言ってるんでしょ? 人に無理強いするのはダメだよ、ベルさん」
「う……ですが……」
「どうしても遊びたいなら一人で……ね?」
「……分かりました」
ハルの出した折衷案を受けることにしたらしいベルを見て、俺は銀貨を一枚、巨人族の男の足元の籠に入れた。巨人族の男は文句も漏らさずベルを引っ掴み、そして構える。
一瞬、その姿がブレる。地面を踏み締め腕を振れば、ベルは遥か向こうへ飛ばされていた。今日見た中で一番飛ばされている。流石にレベル50未満は遊べないだけはある。
「結構飛んだなぁ……」
「……おい」
「お、あんたもご苦労だったな、うちのが悪かったよ」
「……いいや、金は貰っている。俺は帰って良いのか?」
「ああ、もう今日は俺たちも帰るだけだ、これ以上は何もねえよ」
巨人族の男はのっそりと立ち上がり、銀貨のたっぷり入った籠を持ち上げた。
「……俺は確かに、今日は何度でも投げてやると言った」
「……? ああ、助かったぜ」
「……だが、だからと言って、強制的にやらせるというのは……あまり、良くないように思う」
一瞬何を言っているのか理解できなかったが、すぐに察する。ベルのスキル『聖女』は、他者の嘘を許さない。
「ああ!? あ、まさか、ずっと帰りたかったのか!? す、すまねえ、俺はてっきり……」
「いや、良い、金は貰った。仕事は仕事だ、今更文句を言う事もない」
「いや、だが……!」
巨人族の男は背を向け砂浜を歩き、そして背後の俺たちに向けて親指を立て去っていく。
「俺が少しでも、あんたらを楽しませれたのなら、それで良い」
「おっさん……!」
「俺は帰る。妻が、家で待ってるからな」
「おっさん…………!!」
そして砂浜が似合うナイスガイは帰っていった。俺はただ申し訳なさを心に感じながらも、それを見ることしかできなかった。
「……行っちゃったね」
「マジで申し訳ねえよ、あいつ帰ってきたら叱らねえと……」
「ベルさんも、わざとじゃないだろうから……」
わざとでないから問題なのだ。だが俺では引っ叩いてもダメージにならないだろう。あるいは剣で思いっきり叩き切れば少しは通じるかもしれないが。
……外聞が悪すぎる。やはり俺ではあのガキの矯正は無理か。
「……海、楽しかったね」
「楽しかったのか? それなら、まあ、良かったが」
俺はあまりハルに付き合ってやることができなかった。今日の目的は二つ、俺の水着姿でハルをメロメロにしてやることと、もう一つ。
「……そういや、この前のダンジョンでのアレ、謝ってなかったよな」
「え?」
「あん時は悪かったな、俺も冷静じゃなかった、酷い事も言っちまったし……」
あの時、俺は自分を助けてくれたゴブリンを殺したハルを、咄嗟に責めてしまった。だが、あれは良くなかっただろう。
ハルは現代人なのだ。生き物を殺すということはそれなりに重い行動だし、半ば冗談であってもあの行動を責めるべきではなかった。
「ありがとうよ、俺を助けてくれて。感謝してる。何かやってほしいことがあるならなんでも言えよ」
「……うん、ところでハレの言う酷いことって……」
「あ? あれだよほら、ゴブリンがさ……」
「ああ! あ、いや、全然大丈夫だよ! 気にしてないから!」
ハルの言葉に少しも嘘は無く、揺らぎもなかった。
だが、あり得るのだろうか? 現代に生きてまっとうに育った、そんな男が、人間が、何かを殺してそれを一切気にしていないなんてことが。
「それより、ハレ、こちらこそありがとう」
「……何がだよ」
「海、楽しかったよ! 前の世界であった食べ物も、おもちゃも、色々あった。すっごく楽しかったし、懐かしかったよ!」
ハルはほんの少しの憂いも後悔も見せず、ただ夕焼けに照らされ笑みを浮かべている。
そこには一片も負の感情は無く、しかし俺にはそれが無性に恐ろしかった。
そこにいるのは、そこで笑っているのは、単なる子供ではない。何かを殺すことを、俺が未だなんの感慨も無く行うという事ができない事を、平然とやってのける、そういう……この、男の、本質は……。
「……まだまだ、旅は始まったばっかだぜ?」
「……!」
俺はそんなくだらない考えを捨て去って、平然と笑うハルに合わせて笑った。
心に引っかかったしこりから目を逸らし、ただ真っ直ぐとハルの瞳を見つめた。
「……これから、だ」
そうだ、これからだ。ハルが何を思ってるのか、何を考えているのかも、ここで答えを出すことではない。
「これから、もっともっと楽しい旅になる。そうして、魔王を倒した後に、笑って振り返ろうぜ」
「……うん!」
夕焼けは落ちきり、空は暗く、海は静まりきっている。
俺はベルが戻ってくるまでしばらくの間、ハルの方を見ることができなかった。
***
そんなわけでベルが戻ってきて、俺たちは暗くなったビーチを後にした。
着替え含む荷物は全てハルのディメンションポケットスキルで出し入れした。便利である。
俺は最後まで不満をたれていたベルが法衣を着てから不思議と文句を言わなくなったのを若干不審に思いながらも、特にそれ以外におかしな点は無く。すっかり暗くなった道を歩き、そして程なくして宿に着いた。
「……ハル、ちょっといいか?」
「何?」
「小腹が空いちまってよ、俺の財布出してくれ」
「良いよ、ついて行こうか?」
「いや、一人で行く、早く寝ろよ」
ハルがどこからともなく取り出した財布を受け取り、その重みを確かめる。
さっきまであんな元気だったのに静かにしているベルと、ハルに手を振り、夜の街に駆け出した。
行き先は当然飯屋……ではない。
街の狭い通路をいくつか通り過ぎ、迷路のような裏通りを進む。
広い通りに出た時、通りの最奥には色とりどりの飾りやライトに照らされた豪奢な建物……この街に存在する第二の目玉、大カジノが見える。
目的地は当然そこ……でもない。
俺は大カジノの建物の正面から時計回りに少し回り込み、薄暗く人通りの少ない通路へ入っていった。
少し進めば、大カジノの建物の側面に位置するボロい扉がある。
五度、特殊なリズムでノックをした。
「……合言葉は?」
「知らねえよ」
「なら入れられないね」
「空の財布なら渡せるぜ」
「出る時に渡しな」
「帰る時には渡せない、中身がぎっしり詰まってるからな」
「通りな」
扉が開く。
俺は少しも恐れずに先に進んだ。暗く何も見えないが、階段になっていて地下に繋がっているのが分かる。
最奥にはもう一つ扉があった。
扉を押し開く。
扉の向こうに広がっていたのは光り輝く遊技場だった。
トランプゲーム、スロット、ルーレット……配置されているのは上とそう変わらない。違うのはレートだ。
ここは上の大カジノの地下で、表の人間には知られない違法闇カジノ。
特殊な入り口と合言葉を言わなければ入れない秘密の場所であるここでは、上のお遊びのような賭けではなく、もっともっと大きな、一歩間違えれば人生を終わらせる金額の賭けを行うことができる。
俺は歩いているバニーガールからドリンクを受け取り、そして財布の金貨の重みを確かめた。
俺の必勝必殺の策は絶対だ。誰にも負けるはずが無い。
俺はドリンクで唇を湿らせ、そして笑い。一歩踏み出した。
夜はまだ始まったばかりだ。