仮面ライダーアステラ/仮面ライダーフェイル 霧幻の恒星 作:赫牛
「方角は?」
「合ってる……と思う」
玲奈の直感に従ったナビの元、変身した俺と玲奈は空を飛んでいた。目的地は宇宙……ではなく、空にぽっかりと開いたままの霧幻界への入口だ。
「うおっと」
「わっ……」
風にあおられ、身体が傾く。現在俺の背中には4対の翼の形をしたブースター、『フリューゲル』が展開されており、推進力は段違いだが大きい分風の影響を受けやすくある。加えて左腕に玲奈がしがみついているのもあり、速度もあまり出せないのも相まって突風に流されないためにかなりの集中力を要していた。
「大丈夫?」
「ああ……っ!」
霧が一段と濃くなる。入口はもうすぐそこだ。
開いた世界の向こうを見ながら、繋いだ手が強く握られるのを感じた。だから俺も強く握って、一緒に霧幻界へと突入する。
「くっ……」
「ん……!」
誰かの見た景色、誰かの聞いた音、誰かの感情。相変わらず無数に漂うそれらは、前よりかは鮮明に感じ取れる。穴が開いた事で情報の総数が減り、その分一つ一つが際立つ様になったのだろうか。つい覗いてしまいそうになる気持ちに蓋をして、俺達が作った『裂け目』に向かって飛ぶ。
どのくらい遠いかは覚えていない。あの時は俺も玲奈も無我夢中だったから、そんな事を考える暇もなかった。だけど感覚が、何となくあの場所を覚えているから、それを目指して飛んだ。
体感ではほんの数分だったけど、本当はどれくらいかかったかは分からない。俺達が作った裂け目が見えてきた。
「もうちょっとだ!」
「うん!……え?」
「どうした?」
「……声が」
「声?」
玲奈に問いかけると同時に、かすかに耳鳴りの様な感覚がする。前に視線を戻すと裂け目の向こう側、光の中に何かが見える。目を凝らすと、それはどんどん鮮明になって……そして俺と玲奈を弾き飛ばした。
「うああああああっ!?」
「きゃあああああ!」
視界が回転する中玲奈の手を離さない様に強く握る。が、向こう側から幾つも伸びる謎の腕は容赦なく俺達を打ち据え、翼にダメージを与える。
「まずい……!」
咄嗟に羽根を分離させ、霧で操って腕を切りつける。しかし高速移動する羽根の剣でも腕を傷つける事はできず、次々に腕が絡みついて砕かれていく。
「何なんだこいつ……うあっ!」
背後から何発も拳を受け、体勢が崩れる。
そして手が離れていく。
「玲奈っ!」
「奏多……!」
伸ばした手は届かず、俺は流されるままに墜ちていった。
「ん……?」
車に揺られて心地良く眠りかけていたのに、目が覚めた。
「どした、花鹿?」
「なんか……変な感じが」
何となく遠い向こうで、今まで感じた事が無い何かの気配がした気がした。勘違いかもしれないけど、けれども妙な確信がある。おかげで安眠妨害されてしまった。
「行った方が良いやつ?」
「……かも」
「分かった!」
陽子ちゃんがハンドルを切って方向転換する。人型が出た時みたいに僕の直感で分かる方に車は進んでいく。
その先に見えるのは、
情けない悲鳴を上げながら、俺は木々をなぎ倒して地面に激突した。
「ぅ……ああっ……こほっ、こほっ……」
自動的に変身が解け、汗ばんだ肌に土が付く。呻きながら立ち上がった俺は、ざっと辺りを見渡した。が。
「どこだよここ……」
森……と言うか、山の中って事は分かる。だがそれ以外は全く手がかりが無く、獣道すら見当たらない。
「星羅さん?……おーい、玲奈ー!?」
二人に通信を試みるも応答は無い。電波が飛んでないだけなのか、それともまた別の何かなのか。
いずれにせよ、こんな所でうじうじしてたらその内動物とかに襲われてお陀仏、なんて事になりかねない。早く移動しよう。
「はぁ……フェイルさまさまだな」
フェイルの装備が頑丈に造られていた事に感謝しつつ、痛む体を引きずって歩き出す。
山中を歩く事、数十分。
「どこなんだよ……」
迷った。言い訳のしようが無い程に迷った。
ここ何年かで根振市周辺の土地勘は良くなったのだが、それでも見覚えが無さ過ぎるし、方向感覚もいまいち掴めない。もしかしてとんでもなく遠くまで飛ばされてしまったのか、だとしたら玲奈との合流も難しいかもしれない。
そもそも玲奈は無事なのか?あの謎の腕は一体何だったんだ?
分からない事を考えても仕方が無いのだけれど、かといって今の状況をどうこうできる有益な思考ができるかと言うとそうでもなく。気になるものは仕方無い。なんせ――。
「っ!」
一人心中で言い訳をしようとした所で、妙な気配が近づいてくるのを感じて足を止める。玲奈の血が混じってから、俺もミストの気配が何となく分かる様になったのだが、今感じているものはそれらとは違う、兎に角妙としか言えない気配だった。
ポケットの中でヘイズチューブを握りしめ、次第に近づいてくる足音を待ち構える。藪をかき分ける音がして、それが大きくなって――。
「おえ、最悪……あっ」
現れたのは、何の変哲も無い見た目の少女だった。
こちらに気付いた少女は、眉をひそめつつ俺をじっと見る。多分俺も同じ様な顔をしていると思う。やっぱり妙な気配は彼女から感じられて、しかし彼女はどう見たって人間で、こっちに何かする様な気配も無い。
ここは思い切って、ここがどこなのか尋ねてみても良いかもしれない。
「あの、ここってどこか分かったりします?」
「……その前にちょっと」
「え?」
少女は深刻そうな顔をしたと思ったら、顔を背けた。
「虫、口に入っちゃって……吐き出して良いですか?」
「……どうぞ」
どうしよう。
妙な気配を辿ってみると、男の人に出くわした。
男の人に会った事自体は別に良くて、そのまま道案内を頼まれたのも良くて。
問題は。
「
「そうなんですか、へぇー……」
隣を歩くこの男が、明らかに人間じゃないって事だ。
正確には人間と何かが混じった様な感じなんだけど、そこは別にどっちでも良くて。このまま街まで連れていってしまって良いのか、が問題。困っていた人を助けたと思ったら実は地球を侵略しに来た宇宙人で、そのまま街は壊滅してしまった……っていう映画を、最近陽子ちゃんにおすすめされて観たばっかりだ。この人だってそうじゃないとは言い切れない……よね?
聞けば根振市という所から来たらしいけど、この近くにそんな名前の街は無い。余計に怪しい。
「あの……なんで街に行きたいんですか?」
「え?……こんな辺鄙な所にずっといる方がおかしくないです?」
「そ、そうですよね、あはは……」
疑うばかりに変な質問しちゃった。あまり動揺を悟られてはいけない。伝わった瞬間に相手が何をしてくるかは分からないからね……。
「そう言えばその」
「は、はいなんでしょう」
「ええと花鹿さんは……この辺の人、ですよね?」
「ええ、まあ」
「その……ミストとか、この辺どうですか?」
「みすと……?」
ミスト……霧? 霧がなんなんだ?
「あー、いや、やっぱ何でもないです……ミストがいない? でもニュースとかで報道は……」
一人で納得したと思ったら急にぶつぶつ言いだした……やっぱり怪しい。
疑いつつもぽつぽつとお話しして、いつの間にか麓まで降りてきた。陽子ちゃんの乗っている車が近づいてきて、窓が開く。
「花鹿ー、その人誰ー?」
「えー、うーん……、迷子の人?」
「ふーん、まいっか、乗って」
「……てことなんで」
「あ、はい。お邪魔します」
後部座席に乗った奏多さんを注意深く見つつ、助手席に乗った僕は帰り道のナビを入力する。
「で、どうだった?」
「何が?」
「変な気配。何か分かったの?」
「あー……ん」
「え」
小声の問いかけに対して僕が顎で後ろの奏多さんを示すと、陽子ちゃんは奏多さんを二度見して……分かりやすく動揺しちゃった。
「うん、あー、うん。分かった。オーケーありがとう。じゃあ帰ろっか」
「……降りた方が良いなら――」
「あー全然! ぜんっぜん大丈夫だから! ね花鹿!」
「う、うん」
どうにか平静を装って、陽子ちゃんは車を走らせる。僕と付き合ってるくらいだし、別に怖くはないんだろうけど、それでも心の準備はいるんだと思う。
僕が思った通り、陽子ちゃんはすぐに奏多さんに話しかけ始めた。
「お兄さんどうしてこんなとこにいたの? この山別になんもないよ?」
「まあ事故って言うか、ある意味事件って言うか……」
「事件? お兄さん大丈夫?」
「大丈夫なんですけどその……えー友達とはぐれちゃって、どうしたもんかなって」
「え、大変じゃん! 連絡も取れないの?」
「連絡って言うか……あ」
「どした?」
「スマホ、確かに見てなかったなって……!」
奏多さんが懐からスマホを取り出して操作する。でも。
「繋がらない……玲奈……」
「そっか……取り敢えず街まで行くで大丈夫? 待ってる?」
「いや、同じ所に墜ちたか分かんないし……でも待つべき――」
さっきまで焦っていた様子の奏多さんの言葉が急に途切れた。
「大丈夫?」
「いや……」
急にきょろきょろしだして、何かを探しているみたいだ。その様子を見ていると、不意に僕の全身が逆立つ様な感覚がした。
「え、花鹿?」
「何か、いる……?」
いつの間にか辺りの霧が濃くなって、周りがほとんど見えなくなってしまった。だけど確かに感じる。奏多さんみたいな、でももっと濃い何かの気配が……。
「……前だ!」
奏多さんが叫んで、その声で前を見た陽子ちゃんが急ブレーキをかけた。
霧がかかる道の向こう、僕達が行く道に、いつの間にか怪物が立っていた。クマの様な見た目で、歯をむき出した人のシルエットの何か。
「人型……!」
咄嗟に車から飛び出て、車を背にして対峙する。視界の端で車から降りようとしている奏多さんを陽子ちゃんが制しているのが見えた。そのままバックしていく車を見送って、僕はクマの人型に向き直った。
「変身!」
腰に光を集めて叫んで、僕はアステラに変わる。腰を落として左脚を引いて、右腕を地面につける。いつもの儀式をやって気持ちを切り替えて、人型に向かって走る。
素早い動きに人型は反応できずに、もろに膝蹴りが人型の腹に入る。思った通り、相手は前にも戦った事のあるタイプの人型だから、それと同じ様に攻撃すれば倒せるはず。
壁を蹴って勢いをつけて、反応しづらい角度から蹴る。キックで吹き飛んだ人型を壁に追い詰めて、膝蹴りを何度か腹に入れて、そして投げ飛ばす。立って突進してきたのを受け身を取る様にして転がっていなして、足を引っかけて転ばした。
今がチャンス。
右脚に光を集めて、大きく跳ぶ。右脚を突き出して、人型に向かって放つ。
「やああああっ!」
胸にキックを撃ち込んで着地すると、人型はよろめきながら後退って、そして爆発する。炎はすぐに霧に紛れて、まるで何も無かったみたいに静かになった。
「花鹿! 大丈夫?」
駆け寄ってきた陽子ちゃんに頷いて見せると、次にこっちに来た奏多さんと眼が合った。
「それは……一体?」
「あ、あーえと、話せば長くなるから、今は一旦ね――」
陽子ちゃんが僕を隠そうとしてか、大きく手を振っているのを見ていると、不意にまたさっきと同じ気配がした。それに気付いた奏多さんの顔も険しいものになる。
「え、二人ともどうし――」
「しっ……何かおかしい」
僕が呟くと同時に、さっき人型が爆発した場所、そこに霧が集まって一段と濃くなっていく。
それは寄り集まって、固まっていき……さっきと同じクマの人型に変わった。
「なんで……っ!」
疑問を口にしたのと同時に、人型が僕に向かってくる。それを受け止めるけど抑えきれずにどんどん押されて、壁に叩きつけられる。がら空きのお腹に膝がめり込んで、そして投げ飛ばされる。
「これ、なんで……」
さっきの僕と同じ動きだ。でも急にどうして、そもそも倒したのに何でまた……?
「そいつは『ミスト』だ!」
疑問を吹き飛ばす声と同時に、奏多さんが人型にタックルして吹き飛ばした。
「下がってろ」
色々分からない僕の前で、奏多さんは懐から妙な機械を取り出して腰に着け、右側に筒を差し込む。
【Order:Code.FAIL】
何かの音が鳴って、奏多さんは人型を見据える。
そして。
「変身!」
僕と同じ言葉を叫んで、機械を操作する。
【Approval The Executioner FAIL】
灰色のラインが体全体に伸びて、さらに塵のような濃い灰色の霧が全身を包んでいく。
灰の霧が晴れると、奏多さんの体は灰色の身体に変わって、灰がふわふわと浮かび上がっていた。
腰の機械から球みたいなのが出て、そこからまた機械が出て奏多さんの身体に纏われる。腕、脚、頭、そして最後に胸、中心の青い球が蒼く強い光を放つ。身体から出る霧が収まると、そこに立っていたのは見た事の無い戦士だった。
「行くぞ……!」
黒鉄の戦士はそう呟くと、人型に向かって走り出した。