現代社会で死んだ俺は、平行世界の俺へと転生する。   作:足を攣る時、足もまた攣っている。

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転生

 2060年12月1日。

 

 きっと俺は助からない。

 

『ピィー、ピィー、ピイー』

 

 暴漢達との喧嘩で、重症の怪我によって病院に運び込まれた俺は、無機質な病室で無機質な音を鳴らす機械に繋がれていた。

 

「しっかりするんだ!」

 

 懸命に医者は俺の蘇生を行なっているが、命の灯火は今、まさに消えようとしている。

 

「君は死なない、絶対に死なせない!」

 

 俺の身体を治す為に必死な表情で治療する医者に、俺は【生きよう】なんて感情よりも別の感情が真っ先に浮かぶ。

 

(嗚呼、俺の人生は一体何だったのだろうか……)

 

 後悔。

 

 その二文字が真っ先に噴出した。

 

(何の為に力をつけてきたのだろうか?)

 

 幾ら自分が強くなったって肝心な時に使えないのなら、そんなのは無いのと同じ。

 

(力(勇気)のない俺に、彼女は一体何を思ったのか……)

 

 それでも彼女は俺に「助けて」と言葉を投げた。

 

(ゴメン、俺に勇気が無かったばかりに……)

 

 俺は彼女を助けられなかった。

 

 恐怖で足が震え、傍観者に成り下がったゴミだ。

 

 その結果、彼女は暴漢達に襲われ、薬を打たれ、長い時間尊厳を踏み躙られる。

 

 ──そして彼女は壊れた。

 

 彼女が壊れてから、俺はやっと立ち向かったのだが結局は後の祭り。

 

 遅かった。

 

 全てが遅すぎたんだ。

 

 もっと早くに立ち向かっていれば、彼女が壊れる事は無かったかもしれない。

 

 助けられなかった時に聞いた悲鳴は、俺の脳裏から今も離れてくれない。

 

 もしも……もし(・・)が有るのなら。

 

(最初の時に立ち向かえていたのなら、別の可能性(未来)もあったのだろうか?)

 

 そんな思考が過ぎる。

 

(はは……きっと無駄になる……か)

 

 しかし、選択肢を間違え続けてこんな風になっている俺には、可能性も糞も無いなと自笑した。

 

 何か出来たとしても結局のところ、俺は"後悔"しかしないだろう。

 

(後悔だらけの人生だったな)

 

『ピィー……ピィー……』

 

 俺の灯火が弱くなると共に、無機質な音もまた小さくなっていく。

 

「諦めちゃダメだ!」

 

 名前も知らない医者は、泣きそうになりながら、今も俺を治療してくれている。

 

(この先生、本当に俺を救おうとしているんだな……だけど……)

 

 自分はもうダメだと申し訳無い気持ちが生まれて後悔した。

 

(もっと生きたかったな……)

 

 俺は死ぬ事に後悔した。

 

 さっき迄は【生きよう】なんて感情は二の次だったのに、今は【生きたい】と思っていた。──だが、それは叶わない感情だと直ぐに理解する。

 

 刻一刻と自分の命が無へと突き進んでいる。

 

 俺は生きれない事に後悔した。

 

 もしも、次があるのなら。

 

(後悔し……ない人生を……送りたい、な……)

 

『ピィーーーーー』

 

 無機質な音が終わりを告げ、桐島海斗(きりしまかいと)生涯が終わる。

 

 俺の虚ろな意志はゆっくりと消えていった。

 

・

 

 俺が次に眼を覚ますと見知った染みのある天井があった。

 

(ここは……俺の実家の天井?)

 

 一体どう言う事だろうか?

 

 俺は死んだと思ったのだけど……。

 

「おぉ、目を覚めしたか!」

「そうですね、貴方!」

 

 その言葉を紡ぐ人は俺が良く知る人物、両親が俺の顔の近くまで顔を寄せてきた。

 

(何だかんだ俺は助かったのか……)

 

 どうやら奇跡的に、俺の命は繋ぎとめれた様だ。

 あの医者が最後まで俺を諦めなかったお陰なのだろう。

 

(感謝しかないな)

 

「海斗〜パパですよ!」

 

 俺が思考に耽っている間も父は煩かった。

 

「いないいないバァ〜」

 

 父がバカにする様な言葉で俺に変顔を決めてくる。

 

(父さん、俺はパパとか呼ぶ様な年齢じゃないのは知ってるだろ? バカにしてるのか)

 

 そんなふざけた父に、母は「貴方、海斗は起きたばっかりなのですから」とクスクス笑っていた。

 

(どれ位の時間眠っていたのか分からないが、きっと両親が俺の介護をしてくれてたのだろう)

 

 二十五歳の大人を介護するなんて、良い歳した両親には大変な迷惑をかけたと思う。

 

「海斗〜、ベロベロバァ〜!」

 

 ……取り敢えず、尚も気持ち悪く顔を寄せてきた父を遠ざける為に手で顔を押し返そうとする。

 

 しかし、思う様に俺の身体は動かない。

 

(やっぱり身体は動かす為の筋力も落ちてる)

 

 此処まで筋力が落ちてるとなると、どれ程の期間寝たきりだったのか、想像するのが怖くなる。

 

(一年? 二年? もっとかもしれないな……)

 

「海斗〜お顔スリスリ〜!!」

 

 長い時間の再会なのだとしたら、はしゃぎ過ぎな父の気持ちも分かる。

 

(それでもこれはやり過ぎだよ父さん)

 

 俺は頑張って小さな手を使い、父の顔を押す。

 

(んっ、小さい手……何だこれは?)

 

 自分の手を見た時、一瞬だけ頭の中が真っ白になる。

 

「小さなお手てもかわいいね!!」

 

 尚も父が訳が分からない事をしているが、正直それどころでは無い。

 

「あ、あっ」

 

 状況を確認する為、声を出してみたが、声は言葉にならない。

 

「なんでちゅか〜? 海斗はパパが好きなのかな?」

 

 最初は長年の寝たきり生活によって、退化した声帯が言葉を発せないのかと思った。

 

「おっ! おっ!」

 

 何度も俺は声を出そうとするが、やはり声にならない。

 

(これはまさか……)

 

 幾つかの可能性が頭の中に過ぎる。

 

「あら〜お腹空いたのかな? それじゃおっぱいにしましょうね」

 

 そうして俺は抱きかかえられると、自身の体に浮遊感を感じる。

 幾ら寝たきりになって体重が落ちたからといっても浮遊感を感じさせる程、大人を抱きかかえるのは容易じゃない。

 

 考えられる事は、

 

(成る程、これはアレかな? ……子供まで時が遡ったとかか?)

 

 確かに、そう認識してから両親を見ると、二人はかなり若そうに見える……って言うか実際若い。

 

(SF作品とかファンタジー作品とかみたいに、俺は人生を逆行したという事なのだろう)

 

 そうだとしたら、過去の後悔を払拭出来るチャンスかもしれない。

 

(神様も後悔だらけの俺に温情をくれたのかな? ──それなら、俺がやるべき事は一つ)

 

 彼女を救う事が出来るかもしれない。

 そんな期待。

 

 後悔なんてしなくて良いのかもしれない。

 そんな希望。

 

 死ぬ前に感じた後悔の心に希望が燃え広がっていく。

 

 だったら、

 

(俺はやってやる。悔いに塗れた人生を今回は幸福な人生に塗り潰してやる)

 

 そんな俺の決意は母の次の一言で霧散する事となった。

 

「はい、どうぞ一杯飲んで大きくなってね」

 

 心の中で誓った俺は羞恥で早速後悔してしまった。

 

・

 

 幼少期は羞恥と後悔の連続だった。

 

「まぁ、幼少期はノーカンと言う事で……」

 

 あれから時は過ぎ、俺はあっと言う間に五歳になった。

 

「それはともかくとして」

 

 俺はパソコンで歴史を調べる。

 

「何となくそんな気はしていたけど……」

 

 そして、ある一文が眼に入る。

 

 1853年7月8日エンシェントドラゴン襲来。

 歴史を見れば、黒船来航なんて重大なイベントはファンタジー要素に塗りつぶされていた。

 

(これ(歴史)を見た以上、信じない訳にもいかないよな)

 

 この五年間、俺は自分の状況把握に努め分かった事がある。──まず、俺は世界を遡った訳じゃないらしい。

 

 此処は確かに前の世界とは似た世界ではある。

 

 しかし、この世界ではファンタジー要素がモリモリに追加されていたのだったのだ。

 

「何だよエンシェントドラゴン襲来って!」

 

 そのままカチカチとマウスをクリックして色んな歴史を読み進めてみると、

 

「閃光殲滅焦燃呪文(アトミック)」

 

 才能ある魔法使い達から魔力を集約させて放つ禁呪との事らしい。

 

「この世界では核兵器はこういう扱いなのか……」

 

 どうやら昔あった世界大戦も魔法が飛び交う戦いだったみたいだ。

 

「この世界、細かい内容はともかくとして、大筋は前の世界と同じ結果を迎えている。──それに俺が経験した幼少期イベントも大体起こっていた」

 

 それもファンタジーな要素が追加されてだが……。

 

「これってそう言う事なのだろうか?」

 

 このまま同じ事をすれば、俺が進む結末も同じになる可能性がある?

 

「いやいや、俺は今回こそ彼女を救うって決めた……絶対に後悔なんてしてやるかよ」

 

 同じルートを辿るなら要所要所で結果を変えれば望む未来にたどり着ける筈だ。

 

 結果を変える為には力がいる。

 

 それなら前の世界と同じく、あの人に師事するしかない。

 

「あの人が変わらずこの世界に居るのなら、俺は彼女にも逢えるはずだ」

 

 彼女に会う為、俺はそろそろ父に甘えてみようと思う。

 

・

 

 その夜、俺は父におねだりをする。

 

「父さん、僕、剣術を習いたい」

 

 精神年齢三十歳な俺は猫撫で声で父に甘えていた。

 

(ハハッ、自分でやってて鳥肌が立ちそうだな)

 

 俺の心境とは反対に、父は破顔する。

 

「おっ? 海斗も男の子だな! ようし、パパの親友に古流剣術をやってる奴がいるから連れて行ってやる」

 

 古流剣術……やはり、あの人と父はこの世界でも親友と見て間違いないだろう。

 

「本当? 何て剣術なの?」

「興味津々だな!」

 

 当たり前だ。

 俺にとっては大事な事だから。

 

「天川流って言うんだよ」

 

 嗚呼、やっと君に逢える。

 

 天川瑞稀(あまかわみずき)──。

 

 今度こそ君を不幸にはさせない。

 

・

 

 今日は日曜日、早速父に連れられて天川流の剣術道場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、ここがパパの親友がやってる道場だ!」

「……わぁ」

 

 そこは俺のよく知る道場とは似ているものの、何処となくファンタジー味を感じる道場になっていた。

 

「それじゃ入るぞ」

 

 父がそう言って道場の引き戸に手を伸ばす。

 

 ──しかし、それよりも早く、

 

「ギャァァァァ!!!!!」

 

 叫びと共に道場から人が吹っ飛んできた。

 

(うん、同じイベントだけどスケールはファンタジー基準になってるね)

 

 吹っ飛ばされた男はヤクザみたいな風体の男であり、将来、俺と瑞稀……いや、桐島家と天川家の敵になる奴の一人だ。

 

「糞がっ! さっさと土地を渡せばい──」

「──とっとと帰りやがれ!!」

 

 そんな怒鳴り声が響くと、男は「ヒィ〜」と情けない声を挙げながら帰っていった。

 

 父は今のイベントに「またやってんのか……」なんて、驚きすらしなかった。

 

(人が吹っ飛ぶ様な出来事もやっぱり当たり前なんだな……)

 

「今日来る事伝えただろ? 子供に変なの見せるなよな」

 

 父のボヤきに瑞稀の父、天川零士(あまかわれいじ)は俺達に気付いた様だ。

 

「理玖(りく)か、思ったより早く来たんだな」

 

 理玖とは俺の父の名前だ。

 

 父と零士さんの関係は小さい頃から馬鹿やって遊んでた、所謂悪友って前世に聞いている。

 

「おう、海斗が早くやりたそうだったからな」

 

 まぁ、そんなのはどうでもいい。

 

 折角、父が俺と零士さんを引き合わせてくれたのだから、精神年齢三十歳の俺としては此処でしっかり挨拶しないといけない。

 

「初めまして、桐島海斗と申します。──剣術をやりたくて父にお願いしたところ、天川さんを紹介していただく事になりました。どうぞ宜しくお願いします」

 

 もちろん、俺は子供っぽさを残しつつも自己紹介をする。

 

「……本当に五歳か?」

 

 どうやら子供としては見られなかったらしい。

 

「はい、五歳です」

 

 零士さんは顎に指を当て、フーンと唸る。

 

 その一方で、

 

「流石、俺の息子! 将来は有名人になるぞ」

 

 この世界の父は、俺に対してかなりの親馬鹿を発揮している。

 

(前世では普通の親だった筈なんだけどな……)

 

 幼少期から色んな才能の片鱗を何度も見せつければ、そうなるのも仕方ないのかもしれないのだが。

 

(正確には才能ってよりも、二週分(転生)による経験(ズル)なんだけどね)

 

 俺は父に対して若干の申し訳なさを感じていると、

 

「それにしても、五歳から剣術やりたいとかレトロアニメのる◯うに剣◯にでも影響受けたか?」

 

「いや、それはお前だろ」

 

 父が零士さんに突っ込みを入れると二人は「「ガハハッ」」と爆笑していた。

 

(そんな五十年以上も前のアニメなんて、この歳では見ませんよ零士さん……)

 

 心の中で突っ込みを入れていたが、正直に言えば早く話しを進めて欲しい。

 

 何故なら──。

 

 俺の視界の端に、道場の柱の影からチラチラとこちらの様子を覗く少女がいたからだ。

 

「んっ? 瑞稀、そんな所にいないでコッチに来い。──同じ歳の友達だぞ」

 

 彼女こそ、俺が守れなかった女の子。

 

 そして、今度こそは守ると誓った女の子だ。

 

「あ、あの、あの、初めまして……天川瑞稀です」

 

 顔を赤面させ、零士さんの影に移動しながら俺に挨拶をする瑞稀。

 

(元々、人見知りが激しい子だったけど、この頃は更に凄いな)

 

 俺がそんな風に考えていると、

 

「う、う〜……」

 

 折角頑張って挨拶してくれたのに、俺の一瞬の沈黙に耐えられなかった瑞稀の目尻には涙が溜まりはじめていく。

 

「あぁ、ゴメン! まさか女の子が居るなんて思わなかったんだよ。──こちらこそ初めまして、僕の名前は桐島海斗。これから宜しくね瑞稀」

 

 彼女に警戒感を与えない為に、慌てて返事をした。

 

「う、うん……よろしくお願いします」

 

 俺の誤魔化しに騙されてくれた純粋な少女に少しだけ罪悪感を感じる。

 それでも彼女の人の良さを感じさせる様な笑顔に、俺の心もホッコリした。

 

「さて、挨拶も済んだし、今日の所はセンスを見てやるよ」

 

 子供の同士の挨拶が済むと、空気を読んで待ってくれていた零士さんが、木刀を掴んで俺に放る。

 

 パシッと、それ(木刀)を掴むとそのまま適当(・・)に構える。

 

 俺はこの世界で天川流をまだ教わっていない。

 

 それなのに天川流の技を使えば不審に思われる。──だから今回は適当に構えをとったのだが、

 

「……中々様になってるじゃねぇか」

 

 それでも剣士としては形になってしまったようだ。

 

「適当に打ってきな」

 

 零士さんは指でクイクイと俺に指示を飛ばす。

 

「……わかりました」

 

 道場に入る前、人が吹っ飛んで来るなんて光景を見た以上…….そして、それに驚く気配が無かった父を見るに、この世界ではそれが常識なのだろう。

 

(だったら、俺が多少動けた所でファンタジー要素で片付く筈!)

 

 俺は零士さんが瞬きする刹那の時、木刀を突き込むべく一足で飛び込んだ。

 

 ヒュン!

 

「っ!? これは驚いた」

 

 突きはあっさりと躱されたが、これは想定内。──そのまま横薙ぎに木刀の切先を流す。

 

「素人とは思えんな。──だがっ」

 

 ヒュゥと零士の呼吸が変わった。

 

 刹那──。

 

 バギィィィィィ!!

 

 そんな破砕音と共に俺の握った木刀が粉々に砕かれる。

 

(これは天川流の枯葉崩し(かれはくずし)……って俺が知ってる枯葉崩しじゃないんだけど?)

 

 枯葉崩しは確かに武器破壊の技ではあるが、粉々になる様な物ではない。

 

「お前、剣のセンスは凄いが……もしかして身体強化を使ってないのか?」

 

 言葉的に、木刀が粉々になったのは、予想通りファンタジーパワーが発揮されたかららしい。

 

「えっと……何ですかそれ?」

 

 ファンタジーパワーは俺としては何としても覚えたい。

 

「知らないのか?」 

 

 零士さんは「あんだけ動けるからてっきり使ってるのかと思ったんだが……」と呟いていた。

 

「身体強化なしで今の動きをしたとすると……海斗はもしかすると本当に天才なのかもしれないな」

「だろっ!?」

 

 零士さんの言葉に父のテンションが上がっている。

 

(まぁ、俺に才能なんてないですよ)

 

 前の世界の零士さんにも才能は無いと断じられた位だ。

 それでも剣を只管に振り続け、最終的には零士さんともそれなりに打ち合える位にはなれた。

 

(それなりに打ち合える俺が、身体強化と枯葉崩しの前では木刀も簡単に粉々にされる。……やはり身体強化は覚えたい)

 

「そうだな、確かに海斗の剣術センスは凄いが、身体強化を覚えない事には本当の剣士とは呼べないな」

 

 どうやら、剣士になる為には身体強化は必須らしい。

 

「身体強化を覚える為、僕は何をすればいいんですか? 僕も使いたいです」

 

 僕の問いに、零士さんは再び顎に手をやると、

 

「一応聞くが、身体強化を覚えるのに二種類の方法があるが、どっちがいい?」

 

 内容が判らないのに、どっちが良いと聞かれた俺としては、

 

「……どっちと言われましても、どんな方法なんですか?」

 

 取り敢えず内容を聞く事にした。

 

「あぁ、悪い。内容が判らないと答えられないよな──」

 

 零士さんは人差しを立てると説明しはじめる。

 

「一つ目、シンプルに長い時間を掛けてゆっくりと魔力を感じ取る方法。主な訓練内容は瞑想がメインだ」

 

 瞑想、つまり魔法ファンタジー世界でよく有る方法。

 

「長い時間っていうのはどれくらい掛かるんですか?」

 

 これが判らない以上、俺は選べない。

 

「人にもよるが大体一年以上……下手したら生涯覚えない奴もいる」

 

 つまり、覚えるかどうかも判らない手段だと言う事らしい。

 

 そうして、零士さんはそのまま中指を立てて次の説明をする。

 

「次に、極限の状況で覚える手段だ。──正直こっちの手段はお勧めしたくない」

 

 零士さんは少しだけ顔を顰めた。

 

「コチラの時間は?」

「早ければ一瞬、長くても一年だ。しかし、この手段では死ぬ可能性もある」

 

 零士さんが勧めたくないのはそう言う理由の元なのだろう。

 

「それでも早く覚えれるのですよね?」

 

 俺は確認する様に零士さんに問うと、

 

「それは保証する」

 

 俺は瑞稀を守る為に早々に強くなりたい。

 

 それなら俺の答えは決まっている。

 

「後者の手段でお願いします」

 

 俺がそう伝えると、零士さんは深い溜息を吐きつつ頭をボリボリと掻く。

 

「やっぱりお前は理玖の息子だよ」

「まぁな、流石俺の息子だ!」

 

 父はドヤ顔で零士さんにサムズアップしていた。

 

(いや、父さんは流石に俺の心配をするべきなのでは?)

 

・

 

 あの後、俺は零士さんと父の三人で訓練内容を決める。

 

(これは本当に危険かもしれないな……)

 

 そんな、危険な訓練内容はこうなった。

 

 まずは山の中の走り込みを死ぬ直前までやる。

 ──目隠しで。

 次に零士さんと死ぬ直前まで戦う。

 ──目隠しで。

 最後に瑞稀と遊ぶ。

 ──目隠しで。

 家に帰って過ごす。

 ──目隠しで。

 

 つまり、視覚はずっと塞がっている状態だ。

 

 父や零士さんが言うには、魔力というのは感じ取る迄は大変だが、一度感じてしまえば後はトントン拍子に話しが進むとの事だ。

 

 眼でみるな! 感じろっ! って事なのだろう。

 

 そしてその言葉通り、五感……特に視覚が使えない状態に陥ると、人間は他の感覚を使って代用しようとする。

 

 他の感覚で補おうとする時や極限状態の時に人は魔力を感知しやすいのだという。

 

(だから、目隠しで極限まで追い詰める訳か……)

 

 そう考えれば、魔力を知覚する為に死にそうになる修行も頷ける。

 ……いや、頷けるのか? もっと良い手段もありそうな気はする。

 

 ファンタジー世界って、やってる事は脳筋ワールドなのかもしれない。

 

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