現代社会で死んだ俺は、平行世界の俺へと転生する。 作:足を攣る時、足もまた攣っている。
天川流の道場に通い始めて三日。
厳しい訓練を続けているが、未だに俺は魔力を知覚する事が出来ないでいた。
「くっ!」
零士さんの激しい攻めに、目隠しした俺は気配と風切り音を頼りに防御する。
「海斗、雑念を捨てろ!」
この言葉も言われて三日目、何も進歩が無い。
(いや、全く無い訳でも無いか……)
視覚を塞いでの最初の訓練はハッキリと言えば惨憺たるものだった。
山での走り込みはコケてばかりだったし、零士さんとの訓練はボコボコに殴られて意識を無くしたり、瑞稀との鬼ごっこでも永遠に俺が鬼だったり……。
(今は、何となくだが気配で分かる様になってるし……そう考えると成長はしてはいるか)
現在も極限の環境でいるのに魔力を感知する気配が感じられない。
(やはり俺には魔力の才能も無いのか!)
そんな風に考えていると「止めだ!」
と零士さんが訓練を中断した。
「ハァハァ……何で止めるんですか?」
肩で息をしながら俺は零士さんを見据える。
「当たり前だバカ。──死ぬかもしれない訓練をしている中で自分から死ぬ確率を上げる様な訓練のしかたをしてるんじゃねぇよ」
考え事をしていた事を言っているのだろう事は直ぐに分かった。
「それでも訓練をお願いします!」
俺の言葉を無視して零士さんは片手に握った木刀を木刀掛けに戻した。
(つまり、今日はもうやらないって事か……)
納得はしないが、俺も木刀掛けに木刀を戻して目隠しも外した。
「逸る気持ちも分かるが焦るな。焦りは雑念を生みだす」
訓練が終わったからか、口調こそ変わらないものの零士さんの雰囲気は戦闘モードから柔らかい雰囲気に切り替わっていた。
「そうは言っても、僕自身魔力を感じられないとどうしても焦ってしまいますよ」
「それを踏まえた上で焦るなと言ってるんだ」
「……はい」
力無い俺の返事に「ハァ〜」と零士さんが溜息を吐くと、
「確かに早い奴なら一瞬とは言ったが、それでもお前は訓練を始めて三日目だ」
それも分かっている。
自分が焦り過ぎなのも自覚している。
悔しさに俺が拳を強く握っていると、「海斗、見てぇ〜」と瑞稀が現れる。
「我が魔力を持って敵を燃やし尽くさん」
現れた瑞稀は唐突に短い詠唱を始めて小さな魔法陣を構成していく。
「
どうやら零士さんとの訓練が終わったのを確認した彼女は、自分が遊べる時間だと思ったらしく俺に火魔法を見せびらかしに来た。
(こんなのを訓練の合間に見せつけられたら焦りもするよ!)
瑞稀は俺がこの道場に来る前から魔力を知覚して簡単な魔法も使えてたらしい。
俺が欲している身体強化も使えるらしいが、元々の性能が低いせいもあってか正直強くは無い。──せいぜいが前の世界の訓練していない中学生程度の力だ。
「お前が瑞稀に良い所を見せたい気持ちも尊重するが、この訓練を続けていれば必ず覚えられる。──だから訓練には集中しろ」
瑞稀の件も含めて、言われた事は間違っていないが素直に頷きたくない。
何故なら精神年齢が三十歳な所為で自分が大人だという変なプライドが俺を邪魔してくる。
「分かりました……」
それでも俺は頷く。
「よしっ!」
零士さんは俺の返事を聞くと、ニカッと笑って俺の肩を叩いた。
「それじゃ瑞稀が待ち侘びてるし遊んでこい」
「はいっ! ──それじゃ行こうか瑞稀」
「うん、行こう!」
俺と瑞稀は道場を出ていく。
「あ、目隠しはちゃんとつけろよ〜」
……そっと目隠しを付けなおした。
・
訓練の後半部分、瑞稀と遊ぶと家で過ごすは目隠しをしているとは言え前半の訓練と比べればボーナスタイムだった。
(何故なら死ぬ確率は余程の事が無い限り訪れないからだ)
問題があるとすれば、
「それじゃ今日はゴム跳びしよう!」
遊ぶ内容が基本的に俺が不利な事だ。
一日目は鬼ごっこ。
最初は俺が逃げ側になったが秒で捕まる。そして、その後は終わるまでずっと鬼だった。
(初日は何も出来なかったな……)
二日目は缶蹴り。
そもそも缶の位置が手探り過ぎてゲームになって無かった。──もちろん俺はずっと缶を蹴られ続けて鬼だった。
(後半は缶を蹴られる迄の時間を稼げる様になったし良しとしよう)
そして今日はゴム跳びらしい。
(ゴム跳びなら感覚を掴めれば問題無さそうだな)
瑞稀はゴム跳びする為の平ゴムをイソイソと木に巻き付ける。
「二人だから木に付けた!」
ゴム跳びは本来二人でやる様な遊びではないし仕方が無い。
「それじゃ私からやるね!」
そう言って瑞稀はリズムを取り、ゴム跳びを始める。
(視覚が塞がっているから正直判らない)
視覚には確かに何も写らない。
しかし、俺には朧気ながらに瑞稀の動きが少しずつ視えて来ていた。
(視覚以外の感覚が補完して、俺の脳に映像を見せてるのかもしれないな……)
こう言う事は少しずつ出来るようになっているのに、未だに魔力を知覚出来ない。
(そもそも魔力って一体何だろうか?)
俺は魔力なんて抽象的過ぎる物を理解出来なかった。
(元々魔力なんて無い世界にいたんだから分かる筈も無いよな……あっ……)
其処まで考えて思い至る。
(分からないなら聞けば良いんでは? そうだよ……零士さんとかに聞いても、感じろ! 見たいな抽象的な答えしか返ってこないし、瑞稀に聞いてみよう)
ゴム跳びを楽しそうに飛ぶ瑞稀に俺は藁にも縋る思いで聞く事にした。
「瑞稀、君は魔法を使う時どんな風に使ってるの?」
俺が瑞稀に聞くと、瑞稀は飛ぶのをやめてくれた。
「魔法?」
瑞稀は顎に指をやって考える。
「わかんない! だけど、グーってなってバーって打つんだよ」
詠唱までしてるのに、何で使ってる人間が理解してないんだ……。
「でもねっ! 魔法使う時は身体の中が熱くなるよ」
「熱く?」
「うん、身体の中に
生まれる?
「魔力って感じるとかじゃないの?」
「生まれるんだよ?」
瑞稀との感覚の齟齬に俺は疑問が拭えなかった。
「僕は感じろって言われてるんだけど、どう言う事なんだろうか……」
「なんだろうね!」
この後、結論が出ない俺達は結局諦めて夕焼けに染まる迄遊んだ。
ちなみにゴム跳びはそこそこ出来た。
・
訓練が終わり、俺は目隠しを外して自宅へと向かう。
「分かってはいたけど、やっぱりファンタジーなんだよな……この世界……」
辺りを見渡せば前の世界同様に車が走っている。
但し、動力はモンスターから得た魔石らしい。
空を見上げれば飛行機が飛んでいる。
但し、その実態は機械化装甲を纏った飛竜だ。
「歴史書が嫌でも真実なのが実感出来るな」
魔法にだって細かな分類がある。
古代魔法──。
詠唱し魔法陣を構築して簡単な魔法から強力な魔法や合体魔法まで扱える万能魔法。
現代魔法──。
携帯電話のサーバーに所有者の魔法回路を登録して魔力を流す。
これの強みは登録された魔力を流すだけで簡単な魔法なんかは無詠唱で発動できる。
弱みとしてはサーバーの容量を超える中級以上の魔法は使えない。
召喚魔法──。
AIを魔法によって実体化させたもう一つの現代魔法と呼べる。
サーバーに登録した魔法回路に特殊な
これは現代魔法の扱いとなっているが、使える者は限られている。
医療魔法──。
前世で言えば医者がやってる事をそのままファンタジーに直したような技術だ。
これも使える人が限られる。
身体強化魔法──。
これは魔力さえ使えれば簡単に使える技術。魔力を使う以上、分類としては魔法とされている。
そして、強化率は魔力量や習熟度、使用者の肉体能力によって極端に変わるのも特徴だ。
その他にも原初魔法や複合体魔法といった物もあるが、この辺に関してはそうそうお目に掛かれるものでは無いらしいから俺には関係が無い。
「それにしても……瑞稀が言ってた生まれるって結局何だろうか?」
分からないな。
「帰ったら、父さんと母さんにでも聞いてみるか」
・
ガチャッ。
実家の扉を開けて俺は家へと上がる。
もちろん目隠しは家の前で付け直した。
「ただいま〜」
その言葉に「おかえり〜」と両親の声が居間から聞こえた。
(今日はハンバーグか……好物だから素直に嬉しいね)
母は前世と同じ作り方をしているのか、嗅ぎ慣れた夕食の香りが玄関にいても俺の鼻腔をくすぐる。
「もう少しでご飯が出来るから、パパと今日の訓練の話しをして待っててね!」
「分かった。ハンバーグ楽しみだよ」
俺の言葉に母が笑顔になったのが何となく感じれた。
俺が椅子に座ると、
「海斗、今日はどうだった?」
「ダメだったよ……目隠しをしてても大分動ける様にはなったけど、魔力は知覚出来ないよ」
「そうか」
父はゆっくりと頷く。
「今日、瑞稀に魔力の事について聞いたんだ」
「瑞稀ちゃんは何て言ってたんだい?」
「魔力は感じる物じゃなくて、生まれる物って言ってたんだ」
「へぇ〜」
何かに関心する様に父は相槌を打っていた。
「僕は、零士さんや父さんに言われた通りに魔力を感じようとしてるんだけど、瑞稀の話しを聞いてよく分からなくなっちゃったよ」
「……」
しばしの沈黙、聞こえてくるのは母が包丁でキャベツを切る音だけだった。
「……よし、パパからヒントをやろう」
「本当!?」
正直、ヒントがあるならさっさと欲しかった。
「まず、身体強化って何だと思う?」
「身体強化は魔力で身体を包み強化する……だよね」
「そうだな。──それじゃ海斗はさっきどうして晩御飯はハンバーグだと思ったんだ?」
「えっ? 匂いがハンバーグじゃん……もしかして違った」
「いや、当たってるぞ」
「だったら何でそんな事を聞くの?」
「誤解覚悟で言うが、海斗はある意味で身体強化を既に使ってるんだぞ?」
父の言葉は全く意味が分からなかった。
「まだピンと来ないか? お前はこの三日で視覚以外の器官を確実に強化している。──身体が感じた事を情報として脳に送ってる筈だ」
「あっ、言われてみれば確かに……」
言わんとする事を俺はやっと理解した。
「まだ、感覚を研ぎ澄ませてるだけに過ぎないのかもしれない……しかし、その感覚を研ぎ澄ますときの原点を感じ、新しい感覚として生み出せ」
今、父は右拳をグッと握りしめてるのを感じる。
眼には見えなくても、その拳には計り知れない力を感じた。
「まぁ、簡単に言えば海斗は考え過ぎなんだ。──死ぬ気で気楽にやってれば良いんだよ。零士にも雑念を捨てろとか言われてたんじゃないか?」
「……言われてます」
「つまりそう言う事だ」
どうやら俺は本当に逸る気持ちが先走り過ぎてた様だ。
あんなにも零士さんから言われてたのに、足枷を自ら付けていたらしい。
「心構えが出来たのなら、海斗は近い内に魔力も感知出来るさ」
「ありがとう父さん!」
俺が父に笑顔を向けると、
「お待たせ!」
母さんはタイミング良く出来上がった晩御飯を並べていく。