呪術廻戦 ―明日を造る者―   作:ケーケーケー

2 / 4
AI利用です


第二話 作っただけでは、使えない

 

 翌朝、創真が訓練場へ着いたとき、虎杖は既に伏黒と走っていた。

 

 最後の直線で虎杖が速度を上げる。伏黒も追うが、距離が開いた。二人の呼吸が聞こえるほど近づいてから、創真は片手を上げた。

 

「おはよう。早いな」

 

「おう! 朝霧も走る?」

 

「走るけど、何周目?」

 

「五周」

 

 伏黒が答えた。虎杖ほど息に余裕はないが、声は落ち着いている。

 

 創真は時計を見た。

 

「集合、九時じゃなかったっけ」

 

「目が覚めたから、先に動いとこうと思って」

 

 虎杖が首を左右に倒す。昨日、夕食のあとで五条から今後の説明を受けたばかりなのに、よく眠れたようだった。

 

 少なくとも、今はそう見える。

 

 創真は荷物を置き、二人の隣へ並んだ。

 

「じゃ、あと二周付き合う」

 

「よし。今度は負けねえ」

 

「別に競争じゃねえぞ」

 

 伏黒の言葉を聞いているのかいないのか、虎杖は楽しそうに走り出した。

 

*

 

 九時を少し過ぎて、五条が来た。

 

 その後ろには、長い袋を肩に掛けた女子生徒がいる。眼鏡を掛け、髪を高い位置で結んだ、二年生の禪院真希だった。

 

「お待たせ。今日の特別講師」

 

「誰が講師だ。道具を取りに来ただけだろ」

 

 真希は五条を一瞥し、虎杖に目を留めた。

 

「お前が新しい一年か」

 

「虎杖悠仁です。よろしくお願いします!」

 

「禪院真希。二年だ」

 

 創真が挨拶すると、真希は短くうなずいた。次いで彼の足元の荷物へ視線を落とす。

 

「頼んだやつ、できてるか」

 

「はい。重さは三種類。握りは、前のやつを基準にしてあります」

 

「あとで見る」

 

 真希が荷物を置く間に、五条は三人を訓練場の中央へ呼んだ。

 

「悠仁は、まず呪力を扱うところから。身体は文句なしだけど、そのまま殴るだけじゃ呪霊には通用しないからね」

 

「呪力って、どうやって出すの?」

 

「そこを今日からやるんだよ。先に、使って戦うと何が変わるのか見てもらおうかな」

 

 五条が創真へ顔を向ける。

 

「創真、軽く動ける?」

 

「相手は先生ですか?」

 

「最初は僕が動かす標的。その次は、真希がよければ」

 

「いいぜ。ただし、呪力強化は抑えろよ。速さだけ見せられても、こいつの勉強にならねえ」

 

 真希が虎杖を顎で示した。

 

 創真はうなずき、上着を脱いで伏黒へ預けた。

 

 五条が用意していた訓練用の人形は、学長の作った呪骸だった。布で覆われた丸い身体に、太い腕が二本ある。

 

 虎杖がそれを見て、少し嫌そうな顔をする。

 

「昨日のやつと似てる……」

 

「面談で世話になったんだっけ」

 

「一方的に殴られた」

 

「今日は見てて」

 

 創真は右手を差し出した。

 

 指先から柄が伸びる。穂先まで一本につながった槍が、手の中に収まった。刃は付けず、先端も丸くしてある。

 

 呪骸が走り出した。

 

 振り上げた腕が届く前に、創真は半歩引いた。槍の先端で肩を押さえ、勢いを横へ逃がす。呪骸が踏み直すと、その足元へ柄を滑らせた。

 

 相手が跳ぶ。

 

 創真は槍を左へ放し、空いた右手に盾を作った。

 

 落ちてくる拳を、盾の斜面で受ける。鈍い音がして、呪骸の身体が横へ流れた。

 

 そのときには、左手に幅の広い剣があった。

 

 平らな面で胴を捉え、地面へ押し伏せる。創真が一歩踏み込み、動こうとする腕を足で止めたところで、五条が手を上げた。

 

「はい、そこまで」

 

 呪骸が力を抜いた。

 

 創真は剣を持ち上げ、相手から離れる。

 

 虎杖は、少し遅れて口を開いた。

 

「……槍、いつ剣になった?」

 

「なってない。槍はあそこ」

 

 創真が指した先に、最初の武器が転がっていた。

 

「別に作ったんだ。盾も」

 

「昨日、ネジ出してたのと同じ?」

 

「同じ」

 

 虎杖が近寄り、剣と盾を見比べた。

 

 創真は持ち手を差し出す。

 

「触ってみる?」

 

「いいの?」

 

「刃は付いてない。でも重いから、落とさないで」

 

 虎杖は受け取った剣を軽く持ち上げた。苦もなく持っているが、振ろうとしたところで、先端が思ったより下がる。

 

「うお。長いと、手首に来るな」

 

「お前、普段は素手だろ」

 

 真希が横から柄を指した。

 

「握ってる位置が端すぎる。片手で扱うなら、まずそこから変えろ」

 

 虎杖が持ち直す。真希は軽く剣先を押し、手の中で柄が滑る様子を確かめた。

 

「朝霧。こいつには少し太い」

 

「俺にはちょうどいいんですけど」

 

「お前用なんだから当然だろ。同じもの渡せば、同じように使えるってわけじゃねえ」

 

 創真は虎杖の手元を見た。

 

 指の長さも、握るときの力の入れ方も違う。構造は分かる。だが、虎杖が何を握りやすいと感じるかは、こうして使ってもらわなければ分からなかった。

 

「虎杖、細いのも試して」

 

 形を少し変えた短い棒を、二本作った。

 

 虎杖が一本ずつ握り、手首を回す。

 

「こっち。……いや、もうちょい太い方がいいかも」

 

「じゃ、中間にする」

 

 三本目を渡すと、虎杖は今度こそうなずいた。

 

「これだ」

 

「覚えた。装備を作るなら、これを基準にする」

 

 真希はそのやり取りを見届けてから、袋の口を開いた。

 

「次、私とやるぞ。作る速さだけじゃなくて、持ち替える理由を見せろ」

 

*

 

 真希との打ち合いは、呪骸相手とは違った。

 

 槍を突き出すと、穂先を避けるだけでなく、柄へ攻撃が来る。手首を狙われ、創真は槍を引いた。その隙に真希が距離を詰める。

 

 創真は柄を放し、短い盾を構築した。

 

 真希の長柄の武器が盾へ当たる。創真は押し合わず、盾を傾けて流しながら右へ回った。

 

 手の中には、刃のない斧。

 

 長い武器を引き戻す相手の腕へ、柄の末端を当てる寸前で止めた。

 

「一本」

 

 真希が言った。

 

 創真はすぐに武器を下ろす。

 

「もう一回お願いします」

 

「当たり前だ」

 

 二度目、真希は盾を作る直前に踏み込みを止めた。

 

 創真も動きを変える。

 

 斧は作らなかった。新しい槍を握り、間合いの外へ戻ろうとする真希を追う。身体を開いて穂先を避けた彼女の進路へ、石突を回した。

 

 真希が武器で受ける。創真はその反動に合わせて踏み込み、柄を押さえた。

 

 互いの動きが止まる。

 

「……今のは、見えてたな」

 

「盾を誘ってると思ったので」

 

「よし」

 

 真希は武器を下ろした。

 

 何度か繰り返しても、結果は変わらなかった。身体の速さを抑えた創真は、相手の動きに応じて必要な武器を選び、その都度、逃げ道を削っていく。

 

 虎杖が伏黒へ小声で尋ねる。

 

「朝霧って、ずっとこんな感じ?」

 

「ああ。でも、今はかなり抑えてる」

 

「これで?」

 

「お前も、動き自体は追えてるだろ」

 

 伏黒は虎杖の顔を見た。

 

「呪骸のとき、盾を出す前に目がそっちへ動いてた。見えない相手じゃねえ。今のお前には、呪力の使い方が足りてないんだ」

 

「……そっか」

 

 虎杖が、創真たちへ視線を戻した。

 

 創真はその声を聞きながら、最後の一本を終えた。

 

 真希が肩を回す。

 

「今日はここまで。頼んだやつは、こっちで使ってから返事する」

 

「はい。合わなかったら言ってください」

 

「言うに決まってんだろ」

 

 創真は笑い、彼女の袋を持ち上げるのを手伝った。

 

*

 

 真希が離れ、三人が水を飲んだところで、五条が訓練場の奥を指した。

 

「最後に、一つだけ実演しようか」

 

「先生と?」

 

「うん。今度は少し速くしていいよ。二人は下がっててね」

 

 伏黒が虎杖を連れ、外周へ移動する。

 

 創真は二人が止まった位置を確認し、反対側へ歩いた。そこから五条へ向き直る。

 

「条件は?」

 

「僕の胴に一発。刃はなし。領域も使わない」

 

「先生は?」

 

「今日はこの術式だけ」

 

 五条が自分の胸へ指を向けた。

 

 創真は右手に槍を作る。

 

 次の瞬間、土が跳ねた。

 

 五条までの距離が消える。

 

 槍の先端は、胸のわずか手前で止まった。

 

 創真の腕にはまだ力が残っている。地面を蹴った勢いも、槍へ伝わっている。それなのに、あと少しが進まない。

 

「見える?」

 

 五条が、離れている虎杖へ声を掛けた。

 

「見えるけど……なんで止まってんの?」

 

 創真は槍を引き、横へ動いた。

 

 五条の左側へ回り込み、大剣を構築する。振り下ろした剣も、肩へ触れる前に動きが鈍った。

 

 そこで、創真は剣を放した。

 

 五条の足元の左右に、低い壁が立ち上がる。

 

 足場を狭めたところへ、今度は盾を構えて踏み込んだ。背後へ回る経路にも柱を二本作る。相手の進路を限定し、逃げた先へ次の武器を置く。

 

 五条は動かなかった。

 

 盾も、届かない。

 

 創真は盾を手放すと同時に、足元へ台を作った。踏み上がり、五条の頭上を越える。

 

 上から落とす長い棒。

 

 下から突き上げる槍。

 

 着地した創真自身の拳。

 

 その全てが、五条の身体へ触れる寸前で止まった。

 

 五条の口元から、笑みが薄れる。

 

 創真の踏み替えに合わせ、顔の向きが細かく変わっていた。無下限で攻撃は防いでいる。それでも、死角を次々に作り替える創真の動きから、目を離してはいない。

 

 創真は最後に、太い杭を水平に構築した。

 

 その末端を掌で打つ。

 

 杭が五条へ走り、届かずに止まる。創真は追撃へ踏み出したが、五条の片手が上がった。

 

「はい。そこまで」

 

 創真は足を止めた。

 

 周囲には、槍、大剣、盾、柱、壁が残っていた。

 

 五条は杭の横を通り、創真の前へ出る。

 

「途中から、攻撃より配置を優先したね」

 

「先生が動けば、近づける場所が変わるので」

 

「でも、僕は動かなかった」

 

「はい。無下限、やっぱり厄介です」

 

 創真は大きく息を吐いた。疲れたというより、集中を解いたときの呼吸だった。

 

 外周から虎杖が走ってくる。

 

「今の、全部作ったの? 戦いながら?」

 

「そう」

 

「全然止まんなかったじゃん!」

 

「こっちは止められっぱなしだったけどな」

 

 創真が笑うと、五条も笑みを戻した。

 

「普通、構築術式でこれをやろうとしたら、先に呪力が尽きる。創真は、その点が例外なんだ」

 

 虎杖が、周囲の構築物をもう一度見回す。

 

 五条は説明を続けた。

 

「ただし、呪力が多いから何でも同じようにできるわけじゃない。僕に当てるには、別の方法が要る。悠仁も、自分の得意なところと、これから覚えることを分けて考えようね」

 

「俺の場合、まず呪力?」

 

「そう。宿儺に任せるんじゃなくて、君が使えるようになる」

 

 虎杖はうなずいた。

 

 創真は、その横顔を見てから、足元の槍を拾った。

 

「さて、片づけるか」

 

「これ消せないの?」

 

「作った物は残る。放っとくと怒られる」

 

 虎杖は一番近くの盾を持ち上げた。

 

「じゃ、運ぶ」

 

「ありがと。武器は倉庫、壁は解体して資材置き場。順番にやろう」

 

 伏黒も柱の方へ回った。

 

 五条がその横を通り、そっと出口へ向かう。

 

「先生」

 

 創真が呼ぶと、目隠しをした顔が振り返った。

 

「何?」

 

「実演、先生の提案ですよね」

 

「そうだったね」

 

「そっちの壁、お願いします」

 

 虎杖が笑い、伏黒が黙って二本目の柱を持った。

 

 五条は肩をすくめてから、壁へ戻った。

 

 昨日は棚の脚。今日は訓練場に残した武器と資材。

 

 ずいぶん量は増えたが、作りっぱなしにできないところは同じだった。

 

 創真が運び出す順番を考えていると、五条がふと思い出したように言った。

 

「そうそう。明日はもう一人、一年生を迎えに行くから」

 

 虎杖が盾を抱えたまま顔を上げる。

 

「同級生?」

 

「うん。これで四人」

 

 創真は伏黒と目を合わせた。

 

「じゃ、帰ったら部屋、見とこうか」

 

「空いてる部屋なら問題ねえよ」

 

「昨日の棚みたいなのがあるかもしれないだろ」

 

 伏黒は否定しなかった。

 

 虎杖が盾を置き、次の槍へ手を伸ばす。

 

「俺も手伝う。今度は先に昼飯食ってからな」

 

「それはそう」

 

 創真は笑い、彼と並んで倉庫へ向かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。