いつも通りのある日の午後。時刻にして一五時頃のこと。
トリニティ某所の喫茶店にて桃色の髪の少女、
ある者は「また始まった」とでも言いたげな顔をし、ある者は純粋に疑問を浮かべ、またある者はこれから確実に起こるであろう面倒ごとを予期し溜息を
「ええっと……ナツちゃん?それってどういう?」
曖昧な笑みを浮かべながら、セミロングの髪にチョコミントアイスクリームの髪留めをつけた少女、
「どうせいつもの思いつきでしょ。今月だけで何回目よ?これ」
一方で金髪ツインテールの少女、
「言っとくけど、この前のメープル洞窟みたいなのはもう御免だからね」
ピンクのインナーカラーに猫耳を有した少女、
「せっかくの大型連休だというのに、このまま普段と変わらない日々を淡々と過ごすだけ」
「それってなんだか味気なくない?青春真っ盛りの女子高生が、そんなのでいいの?」
大変よろしいと思う。むしろ至って健全で好ましいとすら言える。
「なんか前にもこんなことあったような……」
恐らくはヨシミのみならず、この場にいる全員がデジャヴを感じていることだろう。だがナツは構わず続ける。
「つまり、つまりはだよ。あまりにも日常的すぎると言いたいのだよ、私は。刺激が足りない。スパイスが足りない。ロマンが足りない」
あるいはロックでも良いけど。
ナツはそうつけ足す。
「かの『フレデリカ・セムラ』ですら、毎日食べ続ければどこかで飽きが来るだろうさ」
「つまり、ナツちゃんは今ちょっと変わったことがしたいと思ってるってこと?」
「そーゆーこと。私達には『非日常』が足りないんじゃないかと思ってね」
少々の少し迂遠な言い回しも、芝居がかった妙な口調も、彼女達にとっては小慣れたこと。日常のワンシーンに過ぎない。
「そこで、だよ。それぞれで小旅行にでも出かけてみてはどうかな?」
小旅行。
そこだけ切り取って見ればなんら不思議なことは言っていない。というより彼女達にとっては既に経験のあることだ。ミレニアムEXPOでの出来事は記憶に新しい。
しかし
「『それぞれで』ってどういう意味?皆でじゃなくて?」
「うむ、『皆で』じゃない。私達がそれぞれ個別で旅行に出かけるの」
「それでここからが重要なんだけど」と、ナツは前置いてから続ける。
「皆には旅先でとっておきのスイーツを見つけてきて欲しいんだ。いや、どちらかといえばスイーツを見つける為の旅に出て欲しいと言った方がより正確かな。卵が先か鶏が先か。そういう話かもね」
つまりこういうことだ。旅先で珍しいスイーツを見つけるついでに観光してこいと、ナツはそう言っているわけだ。
「で、何でそれぞれで出かける必要があるわけ?」
カズサはあくまでも普段通りの声色で尋ねる。
「そうだね……なかなか言語化が難しいんだけど……。あえて言うのなら──」
「──プレゼント交換みたいなものだからかな」
「皆がどんなスイーツを選んでくるのか、旅先では何があったのか。それを知りたい、聞きたい。それぞれの物語を。そんな非日常的なワクワクを味わいたいから。それが理由だよ」
なるほど。要領を得ているとは言い難い説明だったが、確かにそれはスイーツ部の皆で旅行に行くことでは得られない体験だ。
「ふーん……」
「どうかな?」
カズサは一拍置いてから感心したように続ける。
「うん、悪くないんじゃない?というかむしろありかも。珍しくいいこと言うじゃん」
「私も同感ね。初めはどんなトンデモ案が飛び出してくるのかと思ってたけど、蓋を開けてみれば割とまともじゃない」
「私も賛成かな。一人旅っていうのもなんだか新鮮で面白そうだし」
全会一致 満場一致 衆議一決 意気投合
この状況を表すのならそんな言葉が相応しいだろう。
「……あれ?」
「『あれ?』って何よ。あんたが言い出したんでしょ?」
「いや、その……てっきりいつもみたいに断られるかと」
正直な話、ナツにとっては意外だった。
具体的にはアイリ以外のメンバーが存外素直に承諾したのが意外だった。
「別に変なことでも無かったしね。それにアイリの言う通り、一人旅ってのも長らくしてなかったし」
ちょうどいいかなって、とカズサは言う。
おお。
「よーし、それじゃ決まりだね。期間は明日からの三日間。集合はその次の日、部室に午後三時で!」
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