転生ガリア軍   作:筒手

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開戦まで

征暦1931年

 

ガリア公国。

ブルール地区の農村、とある家屋

彼は他に転生した仲間がいると思い転生前原隊の合言葉を匿名で送った。

集合場所も指定し手紙に応じた者達が結構な人数で揃っている。

 

「全員整列!原隊副隊長や補佐官、各分隊長は私の前まで来てほしい」

 

彼はそう発言すると一部の者達が前にやって来たが、この世界の原作知識をある程度掴んでいる彼からすればかなりの重要人物に転生者が入り込んでいた。

 

(ダモン将軍に…ガッセーナル一家、それにボルグ宰相までと…)

 

……

……

 

ひと通り見たところで転生前原隊名で確認を取って家屋内で後に起きる第二次ヨーロッパ大戦に備える会議を行った。

 

「まさか中将が開発班長であったとは」

「今はそうしている。それに副隊長がガリア正規軍の大将であったことが一番の驚きだ。それに君達も」

 

一息置いて彼の原作知識の資料書を見ながら頷いた。

 

「ええ…この世界の1936年で革命を起す重要人物に転生してしまったとは、それに第8分隊長も兄側としても」

「幼馴染の第3分隊長が、今回は妹側とは…」

「まあさてそれは置いて、これで不安要素はかなり消えた。補佐官がボルグ宰相に入っているとなれば私はかなり動きやすい」

 

一つ咳を吐いてはその場の全員が補佐官を見つめる。

 

「中将が動きやすいと言った発言の点ですが、少々懸念点がございます」

「…あぁ。この世界の私はダルクス人だという点か」

「ましてや英雄を支えたテイマー技師でもない、たった1年で開発班長に上り詰めたのも苦労したんだろう?」

 

彼は静かに笑っていた。

 

「いや、ベルゲン・ギュンター経由のテイマー技師のコネで私の記憶の外で既に1年前以上に入っていたらしい」

「となると?」

 

副隊長もとい現在ダモン将軍は首を傾げる

 

「この原作知識はその内役に立たなくなる程に、原作改変が進んでいるという事だ。ならばその中核である私達が動かねばならんな?」

「そういう事ですか、となれば私はギルランダイオ要塞の兵力を他に回すべきか?」

「いや副隊長、兵力はそのままでいい。ギルランダイオ要塞建設の費用を他に…ファウゼンを欠陥ある要塞化にその費用を注ごう。予算操作は補佐官頼んだ」

 

補佐官は頷いていたが立ち位置の疑問と要点である二人の状況を気にかけて質問が補佐官と扉で監視していた兵士から飛ぶ

 

「中将。少し気になるのですが、ベルゲン・ギュンターは」

「僕も似たようにテイマー技師はそのあとどうなったんですか?」

「まずベルゲン・ギュンター氏は原作通り、現在のガリア軍の高機動戦闘戦術やそれに伴う武器装備の礎を築いた。そして彼は病死している

次に問題のテイマー技師、ガリア海軍元帥とのコネクションが数日前に発覚されている。不慮の交通事故で亡くなる事もなく攻勢型戦車開発や飛行機開発の殆どが海軍派閥が握っている状態だ。今も彼は存命でイサラとウェルキンと共にこの近くで過ごしている筈だ」

 

彼が一息ついて数分の静寂が続いていた。

 

「中将…テイマー技師も流石に戦争から目を背けたいでしょうな」

「ああ、ベルゲンより長く生きているとはいえあの惨劇から逃れようとコネある者に全て託して三人で隠居生活している。しかもあの試作高機動攻勢型中戦車、[エーデルワイス号]と言われるアレが作られていない…それが問題だ」

 

第7小隊の要であるエーデルワイス号が無ければ今後の活躍が厳しく思える。

彼等の隊員もクセが強く統制するのもかなり大変だが、その者達の活躍無しにはガリア公国の勝利もない

最も気掛かりなのは422部隊の事だ。

 

時既に半年前でボルグ宰相が解体していたらしく、今は存在していないのだが…それは表向きの噂話しであり現在の彼等は王室近衛部隊に配属されている。

さて…生きる為に勝つにはまず海軍をどうにかしなければならなくなった。

一先ず彼とダモンはギュンター一家の家屋へと移動し、他はガリア公国が生き残る為の戦略と行動を始める。

 

そして彼の研究開発班直属の実験部隊、第0大隊がボルグ宰相の命令下ダモン大将によって編制されていた。

 

 

ブルール地方の何処かにて

彼は再びテイマー技師と再会し海軍元帥とのコネクションを得る機会を得た。

 

現在イサラとウェルキンは外出中だのことも相まって海軍艦船ドックの現場に行くことにしたが…突然車庫に呼ばれる。

 

「テイマー殿、突然車庫に…えっ?」

 

本来なら422部隊にある筈の戦車がそこにはあった。

攻勢型重戦車の試作品…原作ならばネームレス戦車なのだが整備万全で正規軍塗装の青色に塗られていたのだった。

 

「攻勢型の重戦車だよ。まあ機関部の性能が良くないから未だ調整中だけど、既存の技術で量産型中戦車と重戦車が海軍陸戦隊で運用試験するらしいから見に行くついでに乗っていこうかなと」

「ほう、テイマー技師とやらが攻勢型を欲していたのはどういった理由で?」

 

転生前原隊副官もとい現ゲオルグ・ダモン大将が質問を当てるが、最初に反対意見を言った本人なのでテイマー技師には無視された。

 

「技師長。もしもう一度帝国に侵攻され半分の領地が奪われ、それを取り返す為の新型戦車設計と発言していればゲオルグ殿も納得されていたかもしれませんよ」

 

彼がそう言うとテイマー技師がハッと驚いている。

そういう事ならとダモンも大きく頷いていた。

 

「当時のワシの発言が不味かった。いやまだ理解し切れなかったのやもしれん、今更だが彼によってようやく理解し事の重大さをボルグ宰相にも伝えてある。開発予算が海軍に振り込まれるだろう」

「そうですか、「取り敢えず港へ行きましょう」あっそうですね」

 

三人で戦車に乗り込んで港へ移動した。

多少故障もあって立ち往生した時もあったが二人の技術者によって繋ぎつなぎの緊急修理もあってか半日で到着した。

 

「やっぱ重戦車だけあって遅い…ラグナイト燃料消費も激しい」

「うぅむ、こういう状況は使いづらいのう」

「将軍はずっと軽量戦車しか扱っていないでしょうし、君は僕の付きっきり技師だから分かりきってるだろう?」

「まあ…あとは設計図次第ですが…?あちらで手を振ってる方は?」

 

手振っていたのは海軍元帥、テイマー技師が見えた事で手を振っていたのだが…その後に降りてきた。テイマー技師の直属の部下とダモン将軍が見えた事で態度を改めていた。

 

「何故此方にダモン陸軍大将が?テイマー殿」

「彼が考えを改めたのと同時に新型戦車開発と功績を海軍に頼みたいと申してきたようです」

「そういう事じゃ、陸軍は広大な土地を守る為にそんな高価な戦車は作れぬ。じゃから先行量産は海軍陸戦隊向けにお主等海軍工廠に頼む。これだけじゃ」

「ふむ…ダモン陸軍大将がそう仰せられるなら引き受けましょう」

「あと、ワシが信頼している技師だ。テイマー技師の部下だったそうじゃが何か言いたげのようでな」

 

詳しい話しを新型戦車の設計図と、開発に苦悩している航空機が確認されると直ぐに彼は詳細な話を長々と日の出まで続けられた。

 

そしてその日からガリア海軍の艦艇の戦艦を除く全ての船が解体、戦艦は一隻だけ残されたが全面的な大改修が行われ…解体された巡洋艦やら駆逐艦の資源は新型設計の新造艦艇、攻撃型潜水艦に充てられる。

 

 

…

……時は過ぎて

…

 

 

征暦1932年

 

開戦まであと3年。

海軍主力である戦艦は世界各国の海軍でも力の象徴でもある。

しかしそのたった一隻の戦艦を、単なる平たい板で塞いで…大型砲台を完全撤去。

艦橋は片方に寄せ詰められた。

世界的話題にはならないが、この世界で最も奇抜な見た目をした艦艇として記録されるであろう…征暦初の航空母艦であった。

そしてテイマー技師が苦闘しながら作り上げようとした飛行機も彼の部下によって全面的設計し直しな上で、全金属製機体の試作中戦車に搭載されたラグナイトタービン機関の軽量型を使用する戦闘用航空機を試作した。

 

まだ2機だけであるが航空母艦にて初の飛行と着艦試験を何とか終えた。

第一回は着艦事故によってテストパイロットが死亡、試作機2号で改修され素人でも安定した飛行を可能とする艦載機が完成した。

先行量産機にはまだ着手していないものの現状の技術更新の為に複葉機から単葉機の試作機、今回の物が実験部隊配属員によって厳選訓練されたテストパイロットが配属される。

 

「にしてラム技師長、今回のテストパイロットは王室近衛から引き抜いたと聞いたのだが」

「正確には王室近衛に配属された問題ある兵士を私の私立実験部隊が引き取った者達の一人です。公には王室近衛から直接引き抜いたと聞いてそれで問題ないですよ」

「ふむ…発艦したようだな、中々動きが良いな」

 

今回に選んだテストパイロットはリエラに任せていた。

長時間飛ばして単葉試作機1号を扱っているリエラは問題なく着艦した。

単葉試作機2号もまたリエラが担当し飛ばすが、更に安定した飛行を見せた。

 

「先程より安定しているようだが、慣れてきたのだろうか?」

「いえ、推進装置であるプロペラをもう一つ追加したものを反転回転させて機体の回転反動を打ち消しているのでそれによって安定しております」

「むっ?上昇速度も中々だな」

「ただ現状のガリア公国の工業力では1号試作機で限界です。2号試作機は製造技術とコストが嵩んで機械的信頼性も乏しいもので、あれ程安定して飛べているのはイムカ殿のお蔭であります」

「君でさえ苦労しているのにそんな優秀な技術者が居たとはね」

 

最後に着艦試験なのだが…速すぎて着艦フックが脱落しそのまま海に落ちる。幸いにもリエラに怪我は無かったのだが、問題は山積みだ。

 

次の日は陸軍造兵廠の様子見、ダモンはギルランダイオ要塞で執務作業で今回ランドグリーズには居ない

工場では軽量型戦車と、海軍発注の量産型中戦車重戦車の製造ラインがあった。

しかしそれでも軽量型戦車が優先されて製造しており、後は歩兵銃やら弾薬とやらだった。

彼もといラム技師長は新たに軍需工場を三つ増設しており二つは陸軍、残りは海軍航空隊用の航空機工場である。

海軍で採用されたのは以前の試作機2号機、全金属複葉機の方であった。

採用が決まっただけで航空機製造工場には物資や作業員がまだ配置されていない、今回の陸軍新工場は開発班の専用工場であった。

 

「既存の歩兵銃でも問題ないが機動戦に合わせる上では色々と不都合がある。まずはその見直しと同時に頼みたい事があるのだが…バルドレン殿」

「ダルクス人の分際で俺に何の用だ」

「ここでは人目がつく。私の執務室に行こう、話しはそれからだ」

 

二人は新工場の何故か用意された空室もとい執務室に入った。

まだ何も飾られていないが取り敢えず椅子と木箱だけは置いてあった。

 

「さて中将、あの長すぎる偵察兵の小銃は扱い難いのではないか?」

「私もそう思う、試作品だが短縮型を用意してある」

 

短縮しながらも命中精度を維持しセミオートながらも倍率調整スコープを搭載すれば狙撃銃運用も可能とした改良型をバルドレンに持たせる。

少し軽くなったが、後々の追加装備で重くなる事を加味して1kgの軽量化を施した代物だ。

 

「これは良いな、でも他にあるんだろう中将」

「他に聞かれたら不味いだろ?しょうもない技師と…名もない人で呼んでくれ、ここは防音処理がされてない」

「う…そうだな」

「次の物は木箱に入ってる」

 

木箱からは対戦車槍とやたらと大きい狙撃銃だった。

あとは突撃銃と新型試作品が藁に包まれて置かれている。

 

「存分に振り回せれるな。しかし…以前より重いようだが技師、説明しろ」

「今回の改修対戦車槍は推進剤を多く、炸薬量も多くして飛翔補助安定翼が追加された弾頭使用を前提とした物。

重心が前めなのは咄嗟の近接戦闘でその重みを強みに活かした調整です」

「先端が爆発物なのにか?」

「既存の対戦車槍兵アーマーなら耐えれますので問題なく振り回しても大丈夫です。次の狙撃銃です」

 

休む暇もなく次のが渡される

 

「かなり大きいのだが?」

「対戦車戦闘を想定した新設計弾薬に基づいて設計された新型狙撃銃」

「そういうのは対戦車槍兵に…む?なる程そういう事か」

「はい。対戦車槍兵も耐爆はあるアーマーですが、徹甲弾とかには耐性がありません有効射程までに戦死は確定です。

そこで遠距離から仕留めれる物が必要なのです。まあより高精度な対戦車槍が作れればですが、それまでの繋ぎを狙撃手に任せましょう」

「だが…こんな大きな弾丸が人体に当たれば」

「間違いなく上半身と下半身がお別れですね。次の物」

「ちょっと休ませて貰えないか?」

 

ドカドカと次のを出してきては椅子あるのに椅子に座れない状況が続いた。

折り畳みストックと拡張銃身を追加した改良型突撃銃と新型の携帯式迫撃砲、連邦軍迫撃砲とは形状が異なり帝国製迫撃砲に近い見た目をしているが…かなり小さい

そして新型と思われしき中量級機関銃。

原作ではセルベリアがギルランダイオ要塞攻略において使用した機関銃であるものの今回ガリア公国のは、軽量軽戦車に搭載されている同軸機銃を引っこ抜いて専用箱型弾倉にして持ってきた物

つまり既存品。それも車載前提の物を少し軽量化しただけである。

 

「うごぁっ!」

「流石に身体が悲鳴を上げる重さですか…もう少し銃身と銃底を切り詰めて、50発弾倉から30発弾倉に改めて作り直すとしよう……お疲れ様。で製造許可と配備許可は出せる?」

「あっ…あぁまずは俺の部隊からでいいな?」

「では発注書にサインしてくれ」

 

後に支援兵に配られる汎用機関銃は一人で辛うじて運べる代物であるが、制圧力と射程が長く支援兵にとっては有難られる存在になっていく

尚当然の事のようにイムカは一人で軽々と振り回す。

 

そして執務室に通信機が配置されてやっと新工場も稼働し始めると、ラム技師は早速ギルランダイオ要塞にいる転生前原隊副官もとい現ゲオルグ・ダモンに直接繋げる。

 

<何じゃ?ワシは忙しいのだぞ!体調不良者の看病に衛生兵を向かわせたり警備巡回の三交代を徹底して教える指令書の作成とかあるんじゃぞ!>

「軽量戦車の今後についてです。物はギルランダイオ要塞にて輸送を始めるので現地で実験を行います」

<その声はッ…ラム技師長!いやはやいつもご贔屓にさせて頂いているわい、ええ良い物資と新式装備どれもこれも>

 

彼は深く溜息を吐くと、ダモンは直ぐに喋るのを止めた。

 

「詳しくは話せない、近くに人が居るなら出て行ってくれないかと言ってくれないか?他言無用だ」

<むむぅ…おい貴様等!今すぐ廊下の巡回に行け!>

 

向こうで慌てた様子の兵士の声が聞こえて、ダモンからは「準備して広場で待っている」と言った直後に通信が切られる。

 

「さてと実験部隊、開発開始の出動だ。グスルグは居るかい?」

 

執務室を出て工場の広場に行くと見間違いなく、本来ならイサラが管理している筈のエーデルワイス号にグスルグが点検をしている。

 

「ここんとこ毎日整備してるようだけど、疲れないか?」

「ああ…中々のじゃじゃ馬だ。って技師長!?」

「今から皆でギルランダイオ要塞の後方陣地まで行くよ、試験番号102から280番を積んで出発する」

「あの新型装甲と改良派生砲を持っていくんですか?」

「そこに既存の軽量型戦車も含まれるよ、皆を呼んでおいて」

 

直ぐに元422部隊員も集まって元からの実験部隊構成員も一斉に準備を終えた頃にランドグリーズ郊外から出発した。

凡そ2日の大行軍である。

 

 

牛の鳴き声が響き渡る中で時は夏。

炎天下に晒される移動中の兵士達、時折休憩を挟んでは戦車の上に乗せたりとほぼ止まることのない行軍を続けていた。

 

「技師長の言う通り速急に装甲兵員輸送車が必要になるよな」

「ああ、まるでこの先の事で何が起きるか分かっているような方だ」

「ダルクス人とはいえ、あの偉大なダモン将軍のお墨付き後方幕僚らしい副官も努めているとの噂で持ち切りだ」

 

事情を知らない道中現地に行軍訓練中の正規軍兵士達の何気ない雑談であったが、大きなトラブルも無くギルランダイオ要塞へ実験部隊は到着する。

時既にダモン将軍は今かと今かと待ち侘びていた。

彼の評価もダモン将軍の政治的な働きによって全体までとはいかないが、ダルクス人の評価は変わりつつある。

 

「お待ちしておりましたぞラム技師長」

「長らく待たせてしまったな将軍、さて早速だが新装備の確認実験を今から行うとする」

 

最初に出されたのは小さな板切れのような装甲板だった。

それを大量に軽量型戦車に貼り付けていく

 

「おいおい、あんな鉄の板が新装備かよ」

「ダモン将軍のお墨付きと聞いたが、コレを見せられたら呆れるわ」

 

既に転生組以外の正規軍兵士達も集まっており、本格的に事態を急がせる必要があると判断した彼は片手を薬指と小指を立てて横線を描く様に手を振った。

 

「対戦車槍兵30名が一列に並んだぞ…構えた?」

「あの板切れに何の意味があるんだ!」

「全隊、目標実験装甲板!撃ち方始めッ!」

 

ラム技師長が号令をかけると対戦車槍兵は一斉射撃を実行、全ての弾が着弾する。

煙が晴れると無傷の戦車と多少穴が空いた程度の実験装甲板がそこに存在していた。

 

「この実験装甲板は元は対戦車槍兵のアーマーをベースに私個人の実験結果を混ぜ合わせた戦車用の外付け追加装甲です。多彩な素材を別々の層に分けて重ねたもので成形炸薬弾や榴弾に対して効果的な防御力を発揮するものである」

「おお!」

 

ダモン将軍が手を挙げて正規軍兵士を静めさせる。

 

「構わんラム技師長。続きを」

「先程の対弾実験で証明されましたが、皆さんの後方からも炸裂音が聞こえた筈です」

 

正規軍兵士が振り返ると砲煙を出している戦車が2両待機していた。

 

「この戦車用新型装備は徹甲弾に対してもある程度の耐性を持ちますが、流石に2発食らうと壊れるようです」

「いや充分だ。よくこの薄さで凄まじい防御力を得たものだ」

 

正規軍兵士が厚さを見ようと一斉に近寄る。

たったの5cm厚の板切れに多彩な装甲材が鉄の箱板に詰め込まれていると思えば、敬意と畏怖の意味を込めたラム技師長への感謝の言葉を放っていた。

 

その後の実験では牽引式対戦車砲や火力支援型軽戦車、いわば自走榴弾砲である。

後に航空機が出るであろうと、自走式対空砲も用意されていた。

殆どの発表された新型戦車は改修品ばかりであるものの、取り払われた軽戦車の砲塔は全て海軍に渡された。

 

海軍でも川を守る為の小型戦闘艇を欲していた為、改修品製造の為に取り払われた軽戦車砲塔を次々と搭載した。

河戦砲艇が量産されている。

新型追加装甲の全体配備は開戦までに間に合わないものの一部部隊には行き渡る勢いであるようだ。

 

…

……更に時は過ぎていよいよ開戦間近

…

 

…と、その前に

 

征暦1934年

 

ラム技師長はある人物に目を付けている。

 

「クルト・アーヴィングが先程ランシール士官学校を首席で卒業したその直後、我々の実験部隊に志願してきた。どうする皆の者」

 

新工場の執務室で一同集まる転生原隊組、現ダモンにボルグとバルドレンやオドレイ…第三者から見れば異様な光景だったがそこにボルグが同じ原隊転生者を新たに発見し国外から連れてきたとのこと。

 

「リストを出してくれ」

「第666降下遊撃大隊傘下第三小隊だった面子、その分隊長が今扉越しにいる」

「入ってくれ」

 

ノックも無しにそのまま執務室に入ってきたのは、本来ならまだ登場しない筈のダハウが既に居た。

ラムは頭を抱えている。何故なら既にその後ろにクルトが見えたからである。

 

「先程の話し聞いたことのない単語が聞こえたのですが技師長。それに宰相とはどういう関係で」

「はぁ…クルト君、世の中聞いてはならない事もあるんだ…まぁ今後ウチに来るならもう関わった方がいいか、実験部隊全員呼んでくれ」

 

一般所属警備兵が他の隊員を呼び集めつつ工場内の休憩スペースで一同集まる。

クルトも結構驚いてはいたが、元422の者達もクルトが来てはやたらと黄色い歓声が上がっている。

ラム技師長はここで聞こえちゃ不味いものを耳にしてしまった。

全員クルトがあの時代辺りで何をしたのか記憶にある。

初対面の筈なのに知っている地点で彼は察した。

 

(原作側にも転生組が居るのか…こりゃどうなるか分からんぞ)

 

開戦まであと一年、最後の実験が行われる事になる。

リエラのヴァルキュリアとしての力を使って新装備アーマーの耐久テストを行う。

しかし結果として耐えられる代物ではない

。

次に装甲兵員輸送車、武装はオマケ程度で本命は輸送能力ではなく水陸両用という点。

これは海軍元帥からの要望で新たに造られた。

その次の点として万一ファウゼンが陥落した場合に備えて海上からの強襲上陸として通常型と対戦車型の両方を生産ラインに入れている。

 

帝国軍側も転生者が居るのだったらより長期戦となると思われる故、連邦軍が必死の大作戦であるノーザンクロス作戦と同じ様にガリア海軍を中核とした衝角で厚い氷を割りながら帝都を航空機の活動範囲に収めて軍需産業だけを狙った戦略爆撃を行うのも視野に入れているようだ。

そしてある人物から新たな新発明の発表が彼等に伝わるのだった。

 

「ラム技師長、テイマー技師から新型機関の安全運用が確立したとのこと」

「ん…この年に来て人工圧縮ラグナイト機関が完成するとは、まだ大きいが船の動力源としては使える。よし海軍特許として運用してくれ」

「分かりました」

 

伝令が部屋から出ると彼はまた別の事を呟く

 

「ヴァルキュリア人を使わない圧縮ラグナイト機関を創り上げるとはな…しかし一体誰があの事故死を回避させたのか?まあさておいて次の計画がやれるが…これを使うとなるとガリア公国は永世中立としての立場が危うくなる………

下手すれば連邦と帝国が喉から手が出る程の代物だ」

 

秘匿開発名、ニュークリアラグナイト。

そしてそれを搭載する専用艦載機、使わなくとも戦術爆撃機としても利用可能な双発複座の爆撃機だ。

複葉機の方は制空型の機関銃搭載版、航空支援型のロケット弾搭載版。

自由落下爆弾を二つ吊り下げた爆撃型…それも急降下爆撃機としての運用想定。

 

 

それとは別でラム技師長の遊び心で変な物が作られているところの秘密工房で彼個人の発表が行われようとしている。

元原隊員の一般兵士に関しては「またいつもの事が始まった」と呆れる始末。

クルトやイムカは首を傾げるしダハウとザクは頭を抱える。

 

最初の1つ目は航空機用サイレン、原隊組はやる事が分かりきっているがクルト等の原作転生組は説明を求められる事になった。

 

「想定相手は最低限の訓練しか施されていない民兵や帝国兵だ。これを航空支援機に搭載し急降下爆撃を敢行、降下時の速度を利用して音の鳴らす羽を回し空から大音量の奇怪な音を響かせる」

「うわぁ…士気が下がりそう」

 

リエラが口にするもそれを分かった上で搭載しようと強行するラム技師長だったが陸軍のダモンは反対、海軍は賛成し海軍航空爆撃隊のみ配備が決まった。

 

次に超小型の戦車だ。

装甲厚は並の軽量型戦車並で、搭載砲は5センチ級とやや小さい

最もコストが掛からなくて一人で運用出来るというところだ。

しかしボルグが量産許可を降ろさず外国との外交材料としての商品で限定生産に留まった。

 

更にもう一つこの世界において無駄かもしれない新型機関である。

 

「暖炉には薪は欠かせないすね?ならそれを動力炉として利用し戦車に搭載!燃焼機関と命名する!」

「で?出力はあるのか?」

 

イムカのツッコミが入ると頭に手を打ちその瞬間に不採用とボルグが決める。

一応確認を取った結果なのだが、43馬力の出力重量比が0.13とかなり非力である。

しかし商用の豆戦車に搭載するなら製造許可を下すとボルグが言って、一応量産することにはなった。

 

最後に物凄い無駄なゴミが作られた。

流石にやって来たテイマー技師も頭を抱える代物である。

 

「もう言わんでもいい!何が紙で造られた戦車だ!?こんなの文字通り紙装甲ではないか!」

 

原隊副官もとい現ダモン将軍は怒声を上げた。

 

「まあまあ、一応対戦車槍は撃てるので一時的な欺瞞には使えるのでコストも安いですし」

 

ガリア軍正式軽量型戦車をベースに模った原寸ダンボール戦車である。

実験部隊のみ配属が決まった。

そんな事がありながらも、いよいよ開戦年までやって来てしまった。

 

近々起きる帝国との戦いに転生者達の努力で備えられた。

しかしそれは敵もまた同じ事だった。

 

…

……帝国連邦視点

…

 

同年ガリア国境付近

 

数ヶ月早くマクシミリアン殿下率いるガリア方面軍が集結していた。

旧式の戦車もあるが、対連邦で使われた強襲戦車も配備されている。

 

しかし居ない者がある。

セルベリアは今回不在、その側近みたいなカール君も不在であった。

 

「皆の衆、よくぞ集まってくれた。此度の仕事振りには感謝している」

「まあそう硬いこと言わず、気楽な会議でいこうやマクシミリアン」

「前世でのファウゼンは迂闊だった今回ばかりは入念に準備をする必要があるのだ」

 

三人とも帝国側の転生者であるようだ。

より行動が慎重になったグレゴールと相変わらずのイェーガー。

セルベリアの穴埋め役は居らずだが対連邦方面にはマクシミリアンの弟とセルベリアにその副官でもある士官の名がリストに載っていた。

 

「よりによってラインハルトとは、また我の邪魔をしてくれる。この戦…勝たねばならぬ」

「はいはい、いつものの後継者争いねぇ」

「セルベリア殿が不在でも万全を期して兵共には徹底訓練を施しておる。二度とあのファウゼンのようにはさせぬぞガリア軍め」

 

そこに記憶にない新しい将校が入って来た。

 

「イェーガー殿は此方にいらっしゃりますか?」

「何だ?女か…階級は少佐だな何しに来たんだい?」

「私は第1降下猟兵団を指揮するタイニー・ミュレスです」

 

おっと気が付いたように席を立つイェーガーはほんのちょっと喜んで握手しようとしている。

 

「噂のパーデンハイム号の船長じゃないか!マクシミリアン、帝国での飛行船を実戦運用し戦術を組み上げた飛行船運用の母と呼ばれる者だぞ」

「だが飛行船は遅い、仮にガリア軍に戦闘用航空機が出てはたまったものではない」

「ご安心をグレゴール殿、念のため防護機銃と高射砲は備えてあります」

「……そうか」

 

マクシミリアンを除いて話しが進みこれでガリア方面軍の将兵は揃った。

しかし予定より数ヶ月も早く連邦との開戦が始まって、連邦軍は早々に後退する他が無かった。

 

前線では激しい銃撃砲撃戦、帝国軍の自走式榴弾砲の大量配備によって防築網は一瞬にして砕かれる。

まだE小隊の面々は訓練中であるが、この時点でカイ・シュレンは帝国側に入っている。

それも皆が前の記憶を持ったままの事

こうして一部の者達にとっては二度目の第二次ヨーロッパ大戦を迎えることとなった。

ある者は異世界から転生してきた者達による如何に犠牲者を少なくするかの義務努力が行われていた。

 

そして…ガリア戦役が始まろうとしている。

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