ガッセーナル領内
ガリア正規軍南方方面軍は補給物資不足の中でも果敢に戦い続けているが、限界も近い…数日前に送られてきた新型戦車は物凄いポンコツだった。
それに対しオドレイも困り顔である。
「はぁ…ラム技師長も大概何を考えて作ったのか…どうして再採用されてしまったのか」
「ゲホッゲホッ…オドレイ隊長、何なんですかこの黒煙!?」
「くぅ…息も苦しくなるわ、木炭燃料機関らしい…だからあの大量の木炭粉末がこの戦車の燃料…」
「これは酷い…まさか燃料だったとは…」
新装備受理に伴い確認してきたバルドレンも困惑している。
偵察兵には連邦軍との接触の使いを頼んでいるが、かなり時間が経っているようだ。
…
……同領内、連邦軍E小隊視点
…
「あっちの方にあるだろうな」
「了解っす先輩」
「また…風のお告げかクロード」
「今度はとても荒れそうだ…ラズ、何か怪しそうなのが見えたら報告してくれ」
「あいよっと…暫く歩かせてもらうぜ」
ハーフェン号が前進中の最中ラズが降りた瞬間、前方のY字路の草むらが揺れた。
その揺れにラズ葉ハーフェン号の側面をノックし前方を警戒する。
他の隊員もラズの反応に合わせて前方の草むらを警戒しつつ戦闘陣形を整えた。
「クロード?」
「レイリィ、今は後ろに隠れてくれ」
草むらから出てきたのは小さな子熊だった。
それでも警戒を解かずに子熊が離れるまで距離を取った。
「……そろそろ母熊が来るぞ、後退するんだ」
ラズがハンドサインで後退指示を出すと隊員もそれに合わせてゆっくりと後退する。
彼の予想通り母熊が現れては子熊を連れて森の中へと帰っていった。
「ったく、世界中で戦争が起きると何が起きるか分かったもんじゃぁねぇな…」
「えっーと連邦軍の皆様でよろしいですか?」
「うぉっ!?」
いつの間にか背後を取られていたラズは振り返り様に銃口を向けると…ガリア公国正規軍が一人立っていた。
ヘルメットで顔の全貌は見えないが、眼鏡を掛けていて髪もそこそこ長い
「なんだよガリア軍かよ…ッ待てよ!?ってことはここは!?」
「どうしたんだラズ!…ここはまさか」
「はい、察しの通りガリア公国領内であります。現在南方方面軍の私達ですが物資不足に悩まされておりまして、何とか援護を貰いたく不躾ながら貴官達に頼みたいとバルドレン殿が仰せられてました」
全員が驚く中一部隊員は表情が悪くなる。
「えっ?あのガッセーナル一家の長男が?クロード、引き受けたらどうだ?」
本時空ではリナ・シュレンで狙撃兵として志願し兵役の彼女がクロードに提案をしている。
「まずはバルドレン本人の指示確認と、一旦君の身柄をこっちで預かる事でバルドレンの所まで案内してくれるかな?」
「はい、そう指示されたので場所を案内します」
こうしてガリア一般正規軍兵の案内の元、南方方面軍作戦指揮所でもあるガッセーナル城内へと移動するのだが…道中は獣道だけを通って一部の者は心配ばかりをする。
「まだ掛かるのかい?」
「アレが目的地です」
やっとガッセーナル城が見えてくるのだが…飛行船の爆撃で既に半壊した姿である。
「結構な攻撃で崩れているな…ん?」
茂みの中で会話が聞こえたリナは視線を茂みに向ける。
「連邦軍を連れてきてくれてたな、よくやった二等兵」
「はい、まだ目的地到着までは案内しっかりしないと」
なる程なとリナは頷いていると急に腹が減った。
他の皆も腹が減る。
「あのー申し訳無いけど、お昼にしませんかー?」
「む…そうだね、みんな一旦休息を取ろう」
今回の行軍昼食…
ガリア公国ガッセーナル南方方面軍
・えんどう豆のベーコン添え(ベーコン無し)
・パン(無発酵、カリカリクッキー)
・水
E小隊
・食パン
・牛肉の薄切りステーキ
・野菜煮込みスープ缶
・チョコレート(苦味強め)
今回ここにF小隊は居ないが、E小隊と同じ食事内容となっている。
おまけに現地で炊事している状態だ。
お互いに炊事器具は煙を冷却させる為の排気管があって、帝国軍の砲兵隊からの攻撃を避ける事が叶っていた。
「そっちの缶詰めスープ中々美味いな」
「おいおい…何だこの質素な豆だけの飯は?」
「これでも2日振りの飯だ。一部の部隊は現地調達で食材を入手している有様だぞ」
「……」
ラズもクロードも現在のガリア軍が予想以上に困窮しているのを確認して頭を抱えている(実際はそんなこともなく南方方面軍だけである。)
「しかしまぁ…炊事するための木炭と武器を使う為の弾薬だけは腐る程あるからまだ帝国軍とは戦えているだけだ」
「なるほど…薪と弾薬はあって他が常に足りない」
「擲弾兵や砲兵は活躍しそうね…でもその話を聞くと…」
レイリィとリナがガリア正規軍兵の雑談に自然と入っていて現在の状況を予想すると察し通りの返答が返ってきた。
「ああ…医療品や戦車と無線機を動かす発電機のラグナイトが不足している。そういえば新装備が届いたそうだが何か知っているか二等兵?」
「はい、木炭で動く戦車とラグナイトを使わない医療品に…また…弾薬です」
「また弾薬か…」
落胆している二人と気分が盛り上がっている二人が割り込んできた。
「木炭で動かせる戦車だって!?一体どういう機関なんだ!?」
「世にも出回らない廃れた筈の動力機関じゃないですか!?それを戦車に搭載するなんて、どれ程小型化したんでしょうか!!先輩、ちょっと気になるんで出発を早めましょうよ!」
「いやまだ…食べてる途中だろう…」
「|くひぐらむくる。ぬふりふほくぐふぃふぇるすりい《食いながらでも行ける。残りは他のガリア兵に渡せばいい》」
「おいおいリナ、食うか喋るかどっちかにしやがれ…だが確かにここに長居しちゃぁガリア軍も迷惑ちゃ迷惑だろうな」
クロードは熟考するが「同意見じゃ」と割り込んできたカイゲルとライアンの答えもあってクロードは残りの飯をガリア軍に渡す事にした。
案内のガリア兵と共に目的地までそうはかからなかった。
…
……ガッセーナル城内作戦指揮所
…
「うぉぉぉ!これが木炭機関ですか!昔の木炭機関と比べると大分小さいですね!」
「何だこれは!整備がしっかり行き届いているのにラグナイト燃料が無ければ動かすことも出来ない、っうぅ〜!ここにダンのオヤジが居てくれたらなぁ!」
「……早速来てこの二人は何だ?クロード中尉」
バルドレンは更に困惑しどっと疲れた感じに話しかけるようになっていた。
その後例の二人のことはおいてバルドレンとクロードは現在の状況確認の照らし合わせを行う
「連邦軍はもうこの辺りまで来ているのか」
「ええ、正規軍はまだですが我々レンジャー大隊が先行して突破しております。明日にはもうこの辺りかと」
「東部まで行くのか…流石連邦随一の精鋭部隊か。進軍と反撃速度が尋常ではないな」
「…それより我々に救援を求めている事柄に関しては?」
「ああ、それか。オドレイ地図を持ってきてくれ」
作戦室の机にもう一つの地図が敷かれる。
そこには赤丸と十字が何個も描かれていた。
「これは?」
「赤丸が要偵察地域、十字のは敵補給基地を既に襲撃した後の廃墟だ。我々は早期に敵基地を発見し現地部隊に独立行動権を与えている大抵は破壊したり使える物は鹵獲したりなどだな…アレを見ろ」
バルドレンが指差した方向には、ガリア正規軍仕様に色塗りされた帝国軍の戦車が並べられている。
しかし塗料も掻き集めた程度のしかなく、一部は未塗装のままだ。
「現在動かせれる戦車隊の現状が帝国軍の鹵獲戦車だけだ。あの木炭機関戦車がもう少しマトモに動ければ話は変わってくるのだが…」
後ろで大きな爆発音が聞こえ、何事かとオドレイも作戦室テントから出る。
木炭機関戦車の後部が大きく破損していた。
「おいおい!圧力計器とかあるんかよ!どうなってやがる!?」
「これ戦車じゃなくて…蒸気機関車を自由に動かせれるものですね…」
「操縦しながら木炭粉末も投入して水量も圧力も確認しなきゃならないなんて!」
正規軍兵士もオラールやマイルズが悪態つきながら破損部分を何とか継ぎ合わせの資材で修理しながら操縦訓練をしている。
「とんだ失敗作がなぜ…なぜなぜなぜ…」
「おまけにヨーロッパ大戦が始まる前に設計案と製造許可もあったのだが…蹴った筈無のに開戦数分後には採用が決まった。どういう事だ!?」
オドレイは発狂しかけてバルドレンは最後キレ散らかしている。
その様子と目の前の木炭機関戦車を見て…苦笑いするしかなかった。
取り敢えずE小隊の当面の目的は敵補給基地の早期発見と物資の盗み出しであった。
「はぁ!?夜に飛行船を見つけて破壊だぁ~!?」
「ああ、目下の脅威を取り除くにはこれくらいしかないだろう」
「お前…夜に戦車動かせれるのか?音でばれるぞ」
「歩兵隊の報告が出るまで動かさないつもりだ。その間僕は降りて捜索に当たる」
「 はっは〜ん、よし!飛行船発見報告したとしても歩兵隊だけで落としてしまおうぜ!」
急いで準備を整えて他の突撃兵もつられて行うが、それに対してリナは待てと言った
「私達の使う様な武器では豆粒を当てるようなものだろう」
「あっ、じゃあ対戦車槍で」
「そもそも射程に捉えるまで走り込むワシらでは時間が掛かる」
「ぐぅ…それじゃあクロードが前に出てはいかんだろ!」
「確かにそう思える…もう一つ戦車が居ればなんだけどな…」
その時、後ろからラグナイト機関とは異なった音のする戦車がやって来た。
「君達は何処の所属だ?」
「連邦軍第32機甲レンジャー大隊E小隊です」
「む…そうか、ガッセーナルが援護してほしい部隊は君達だったか」
暫くの沈黙があるなかふと思い出したように彼は車内に入り、何かを巨大な物を取り出した
「これは?」
「戦車砲用減音器だ。本車は最初から装備されている試作車両である…申し遅れたな、第二実験部隊所属の47番だ」
「名前は無いのか?」
「部隊規則によって厳しく徹底的に番号呼びとしている。名で呼ばれるのは部隊内会議のみだ」
「っ…実験部隊ってあのロクデナシと同じような事をするのか?」
「ベルガーとはまた異なる道を進んでいる。中将はそう言っている」
「 へぇ…そんなお偉方が実験部隊を率いているとはな」
後方のメンテナンスハッチが開いたり閉じたりする音に三人は振り返るとマイルズが居た
「ちょっとこの戦車!なんか油の臭いがキツイっす」
「そりゃあコイツは合成石油で動かす混合ガソリン機関だからな」
「合成石油?なんだそりゃ」
「初耳だ。もしかして実験部隊の貴方は本車の試験も兼ねて燃料の実験をですか」
「上の命令はそうなっている。木炭機関が失敗に終わったから代替燃料としてこっちも進めていたそうで、今になって実用試験を始めた。それが俺達だ…ともあれ困っているなら助太刀させてもらう」
彼は右手を差し出してクロードは彼と握手し作戦内容を彼もしっかり聞き込んでいた。
そして作戦開始の月夜の登り始める時間帯に部隊は動き出す。
月の光で敵の飛行船がいよいよ付近の基地に一旦補給しに地上へと降りようとしているのが彼等の目に映る。
「合成石油なんて聞いたことも無い実験ですね!」
「ああ、なんでも汎用性に劣るがラグナイト機関の代わりになるものを中将は製造し実用化に持っていきたいようなのだ」
操縦席ハッチから身を乗り出しているマイルズと、砲塔上部から顔を出している彼の会話がクロードの耳に入ってくる。
そんな中でもオラールは興味津々に混合ガソリン機関を見る。
「気になるか?そうだな…もし君達が連邦に見捨てられたとしよう、我々が引き取って後方送りとなったら間近で見られるだろう」
「えっ!この機関の製造工場に!?」
「もしもの場合だ。今は任務の事と自分の仕事に専念してくれ」
オラールと彼の戦車操縦手がそんな会話をしているとラズから通信が入る。
<凄まじく大きな補給基地があったぜ…飛行船もあるが既に戦闘が始まってる!早く来るんだクロード!>
「どうやら別動隊が張り付いたようだ。クロード中尉、先に行くぞ」
「別動隊って一体何だ?」
「実験部隊は俺達だけではない、各所の正規軍にも混じっている事もあれば…連邦軍や帝国軍の内部に潜入している者達もいる」
「っ…まさか」
…
……帝国軍飛行船補給基地
…
「クソッ!消化急げ!」
「投下爆弾に引火っ!うわぁぁぁっ!」
「おい!前方から連邦軍が来てるぞ!?ここはガリア領内じゃなかったのかよ!?」
「戦車隊が緊急出動している。30分持ち堪えろ、そうすれば飛行船の補給は終わって離陸出来る。何とか持ち堪えろ」
駐屯している帝国陸軍と近衛空軍の一部は連邦軍の襲来に冷静に対処してはいたが、多くの支援兵や整備士は送られてきたばかりの新兵ばかりであった。
次々と爆発音と炎の壁が迫っていた。
更には連邦軍もやって来ている…それもレンジャー大隊下E小隊の面々である。
「報告!整備士の一部にガリア兵が紛れていたもよう!」
「何?…偽装潜伏兵が居たということか、誤射が起きかねない。戦闘が終わり次第集合し確認せよ」
「はっ」
陸軍士官が敬礼し離れると近衛士官は他の近衛兵を率いてガリア軍の工作員の掃討を始めた。
この飛行船たった一隻の戦闘で連邦軍やガリア軍で初の撃沈を記録したのである。
空軍も無敵という訳がない確証ある結果が世界に知れ渡ったのだ。
…
……
その一報を見た連邦軍方面軍総司令官でもあるラインハルト皇太子は直ぐにある将官を呼んだ。
「待ち侘びたぞ、タイニー少佐。一隻撃沈されたようだな」
「ええ…補給基地の一つを襲撃された事、夜中にでね」
「だが貴女の事だ。既に他の対策は打っているだろうし、何よりマクシミリアン兄上も君の為に何か行動を起すに違いない」
「そうだと良いのですけれど、まあ次の新型飛行船は艦載機を数機収容可能なところと…高高度爆撃機ですね」
「今の時代で9000mを超える航空機なんてまだ存在していないからね。いやはや…兄上には悪いが二国が早期に降伏してくれるのが楽しみだ」
両者が静かに笑うがそう長く続かず冷静に戻る。
「犠牲者はなるべく少ない方がいいでしょう…ところでハルト殿?セルベリアとカールは」
「ああ、二人には…軍から追放し退職金とそれなりの地位に向こうで繋がりのある人物に亡命書を叩き付けて移動してもらっているよ」
「まあ…今回の二人には生きて貰いたいですね」
…
その頃、例の二人はと言うと…
…
「セルベリアさん何だか新婚旅行みたいですね!」
「うむ、行き先は…ガリア公国?アルベルトに会いに行けとの書だ」
「えっ!?今戦争中の国にですか!?あの少佐の事やっぱよく分からないです…けど多分優しい方だと思うんですよ」
「そうなのかもしれない、タイニーとは…まあ先ずカール、目的地まで急ぐぞ」
「いやちょっとそこの村で休憩したいです!それにこの食材加工しないとちょっとマズそうなので調理もしなきゃならんのですよ」
「!久々にアレを作ってくれるのか?」
「それはもうちょっと掛かるかな…現地に同じ物があればいいけど、今は野菜炒め中心のベーコン添えだよ」
「おお!」
二人は取り敢えず近くの村に寄ったが、まさかのダルクス人が隠居生活をしている隠居村だとは知らずに入ってしまった。
だが対応は変わらず見なかったことにして一日を過ごし、目的地まで歩き続けていた。
…
……ガリア公国へ視点を戻す
…
原作ならば事故で亡くなっていたアルベルトとラム技師長が初めて接触する機会を得れたラムは早速出発していた。
この時期は飛行船撃沈後で、ガリア正規軍と義勇軍は前世と異なって快進撃。
ダモン大将は義勇軍無しに国土無しと豪語し第7小隊長ウェルキン・ギュンターを大尉に昇格させ、殆どの義勇軍指揮を任せる事となった。エレノア・バーロットは少佐に昇格させられ義勇軍全体指揮を執ることとなる。
更にはコーデリア公から直々の勲章授与式もあって国民信頼性もウェルキンに対してとても高く評価しているだろう
…
しかし大きく変わったことがある。
連邦が早期に接触してきてタウンゼントが来訪してきたのであるが、これをあまり覚えのないボルグ宰相が一蹴りを入れてしまったのが原因で
ガリア公国と連邦との戦争が始まり、ガリア公国は帝国と連邦との二正面戦争へと突き進んだ。
「というわけだクロード中尉、君達の扱いは捕虜だ」
「はぁ…」
「おいおい…クロード、アレはF小隊じゃねえか?」
「ミネルバの様子が見えない、まだ捕まっていないんじゃないかな」
「大目に見てやるさ、武装解除はさせていない脱走したければすればいいが…皆戦争規定に従っているのだな」
実験部隊の捕虜となって指定の詰所に収容されたのだが、そこは民家一つを囲った簡易的な場所だった。
「何だ?有刺鉄線すらねぇじゃねえか!見逃してやるぜって言っているようなものだろ!」
「ラズ、彼等にも考えがあるんだろう…」
収容場所の小屋に案内されてクロード達は入室すると既に入っていた連邦兵の一人に目が向いた。
「クロード中尉久しいな…ここの者達は紳士的だ」
「えっ…ミネルバ、何でここに」
「おいおい、F小隊の隊長さんが大分寛いでいるじゃねえ…おい、アレってガリア公国でも手に入り辛い高級パンじゃねえか!」
「何だと!?ミネルバそれを私にくれ!!」
「何だいきなり!?ちょっクロード!この二人をどうにかしろ!」
「はは…無理かな」
二人が美味しくパンを頬張りテーブルの上にあったパンの山は数時間足らずに消え去ったかのように無くなった。
その後だった。
「ん?食べきったのか、また作ってやるから待ちな」
定期確認の実験部隊警備兵が入ってきてはテーブルを見てそう帰った。
あのパンを作っている人だったようで、思わず二人は付いていこうとしたところをクロードやレイリィに首を掴まれるのだった。
この簡素な収容所生活2日が経ち、いよいよ中央の民家が気になり始めた彼等は監視の目を潜って入り込もうと作戦会議をしていた。
「やめておけ、彼等は私達を優しく扱っているように見える。もし変な事をすれば一気に殺しに掛かるだろう」
あのミネルバがあまり強気に行かない様子からクロードはまあ同意見といった感じであの民家に入るのはやめという話で通しているが、レイリィとリナはちょっと会いに行くだけだからと警備兵に言うが
「駄目だ。部隊規則で君達をあの民家に入れる理由にはいかない」
「ちょっと入るだけでいいから〜」
「はぁ…2日待て、予定では中将が来るその時なら閣下が許可を下ろしてくれるだろう」
彼の言う通りに更に2日待つとラム技師長がこの簡素な収容所に着いた。
「アルベルトはここに?」
「ええ中将、我々が保護しております。もう一つ、例の二人も間もなく到着されるかと」
「手紙でアルベルトとやり取りした甲斐があった。テイマー技師長のコネが無ければ彼と会う事も無かっただろうし、圧縮ラグナイト機関の完全機械化も叶わなかった筈だ。圧縮ラグナイト機関の先駆けである彼と少し雑談を交わすだけだ」
そうして敷地内に入ると他に何件か家屋が立っていた事に気が付いた。
「これらは?」
「連邦兵の捕虜を緊急収容している建屋です」
「ふむ?彼等と会わせてくれないか」
「分かりました」
ラム技師長は階段の上りに悪戦苦闘しながらやっと収容家屋の入り口まで来た。
「やあ連邦兵の諸君御機嫌よう…ん??何でクロードが此処に??」
「えっ?僕の名前を知っているんですか」
「まっ…まあ適当に言った事が本当だったとは…」
「この人が中将?技術者達が着ている作業着じゃない」
「ああ、それは唯の愛称だよ。私はラム。唯の技術者だ…どういう理由か実験部隊の総司令官でありボルグ宰相とは繋がりが濃く、コーデリア公の管理下に置かれているよ」
「一体…おめぇ何をしたんだ?しかも車椅子で来たのかよ」
困惑と不信も混じる彼等だが、取り敢えず信じようと決めたF小隊全員とクロードはそのまま民家の前に移動した。
その後はレイリィとアルベルトとの再会が切っ掛けでE小隊とF小隊全員が結果的にガリア公国実験部隊配属となった。
さて…まだまだ反撃の手を緩めないガリア公国軍だったが突如として空から大量の爆弾に頭を悩まされていた。
ラム技師長とクロードはテーブルの上にある写真を見つめている。
「クロード、これを見てどう思う」
「これは…連邦で大量に作られた旅客機ですね…」
「ふむ、聞くが何年のだ?」
「1940年のビンランド合衆国製大型航空機多分、高度4000mを飛んでると思います」
「そうか、それならまだ対処出来る。被害は甚大であるがコイツがあるなら連邦軍の対帝国快進撃も頷ける。だが問題はコレだ」
更に何枚かの写真をテーブルにばら撒いた。
流石のクロードも分からないと返事した。
「そうか…ならあの二人に聞くしかないな」
そういってある民家を改造した車椅子に乗り移って移動を始める。
「歩行モードに切り替え、よし今回は平野も多いしローラーダッシュ試験を組み入れよう!」
「なぁ…本当に車椅子なのか?」
「ラズ…気にしたら負けだ。ああそうだ次の作戦があるからクロードのところに行ってくれ」
「あいよ、おめぇの調整した武器は中々頼りになるぜ!全力で石壁を殴っても壊れないところがよ!」
「耐久テストの為に、敵戦車に遭遇したらその銃剣も使ってやってくれ」
「おうよ!」
そうしてやっとの事で目的地へと移動している最中、道中でクルトと会って料理の研究やら…バルドレンと会って車椅子の耐久性テストも行い
イムカに出会っては数時間の説教で足止めされたり、イサラに会うと……
「うーん煙幕弾を実戦に使えたのはいいのですが…」
「何か問題があったのか?」
「煙幕弾とは別なんですが、擲弾発射器でも専用の煙幕弾が使えないかと思いまして」
「ああ…今戦車を操縦しているのはテイマー殿だったか」
「はい、最近使い始めた擲弾発射器なんですが…戦車が通れない場所には煙幕弾が届かない事に気が付いて」
「そういう事か…後で私の実験工場に行ってくれ、場所はここだ。じゃあ用事があるから…無事を祈るよ」
「はい!ありがとうございます」
ついでにイサラには擲弾発射器用の煙幕弾や、空中炸裂散弾…熱気化榴弾と歩兵用の煙幕手榴弾の設計図の写しを直接渡してやっとの事である民家に着いては扉をノックする。
「ん?ラムさんじゃないですか」
「ああカール君か丁度良い、すまんが中に入れてもらっていいか?」
「ええどうぞ」
そのまま居間の方へと入り、お互いに席に着こうとするとラムは車椅子を通常形態に戻してテーブルに着く
「凄く複雑な機構ですね」
「イムカの入れ知恵がなければ実現が出来なかった代物だ。それはそうとこの航空機は知っているか?」
大量の写真をカールに渡したその瞬間、彼の表情が急に冷める。
「これは……征暦1960年の圧縮ラグナイト爆弾搭載戦略爆撃機ですよ!それをもうこの時期に実戦配備だなんて!」
「何ぃっ!?先週捉えた写真なのだが!こいつの詳細は何だ!」
「僕が開発した航空機なんですよ!帝国上部の無茶苦茶な要望に合わせて作られた対連邦への牽制に…」
「その要求内容を言ってくれ!!」
ラム技師長も焦りが生じお互いに興奮状態に陥っている。
「要求高度12000メートル、最高速度623キロメートル…最大航続距離73キロメートルの4発戦略爆撃機…ジークヴァル」
「なんだと……こうしちゃいられん!君も実験部隊の航空開発部門に来たまえ!あとでセルベリアと一緒に来るんだ!」
またしても立ちはだかる頭上の脅威にガリア公国軍は再び撤退戦を強いられ更には後方の奪還したファウゼンもまた帝国軍の手に渡り
南方からは連邦軍の侵攻に手を焼いている。
しかしガリア公国海軍は未だに優勢に立っており、さらなる新型艦載機も相まって高度6000mの連邦軍主力戦闘機も七面鳥撃ちの如く一方的に撃ち落とせていた。
機体性能ではガリア公国が上回っている。
しかし、帝国軍の大型機は連邦よりも優れており
連邦軍の小型機では到底辿り着けない高高度を飛行する航空機の開発にとても熱心である。
この時代のガリア公国は小型機は連邦製、大型機は帝国製の二つが混じっていた。
しかし本時空はある者達の手によってどちらでもない、そしてラム技師長はカールの助言の元で新鋭機開発に着手するのだった。