【ラブライブ!×伝説巨神イデオン】伝説ラブライブ! イデオン ~サンライズ50周年記念・因果の地平へ~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
私立音ノ木坂学院の放課後は、まるで熟しすぎた果実みたいに赤く、どろりと甘い西日に染まっていた。
旧校舎の地下倉庫。湿ったホコリと、古い衣装の布地が放つ独特の匂いが充満するその場所で、私――高坂穂乃果の名跡を継ぐ予備候補として選ばれた1年生は、息を殺して立っていた。
目の前にいるのは、3年生の女の人。「2代目 矢澤にこ」様。
薄暗い倉庫の真ん中、先代のμ'sが残したとされる『伝説の遺跡(イデの遺品)』――かつて彼女たちが着用し、無限の輝きを宿したとされる衣装や機材群に囲まれ、にこ先輩の姿を見つめた瞬間、私の喉の奥がくっと鳴った。
制服の襟ぐりを少し乱したまま、にこ先輩が小悪魔みたいに口角を上げてクスクスと笑う。その瞳の奥には、吸い込まれそうなほどの暗い情熱が宿っていた。
「先代のμ's? 伝説のスクールアイドルが残した遺跡? ふん、くだらない。あんな連中の残した遺物にしがみついて何になるっていうの。あたしが欲しいのはさ、そんな綺麗事で塗り固められた思い出なんかじゃないの。あたしは宇宙一になりたいの。誰よりも一番可愛くて、誰よりも愛されて……この世界のすべての視線と愛を、独占したいのよ」
にこ先輩の瞳の奥で、ドロドロとした黒い光が妖しく渦巻いていた。
それは純粋な憧れなんかじゃない。底なしの承認欲求と、狂気的なまでのエゴ。だけど――その肥大化した圧倒的な情念が、地下倉庫に眠る先代の遺物(遺跡)のエネルギーと呼応した瞬間、私の中で何かが弾けた。
(あ……あは……ッ、すごい……!)
ゾクゾクとするような快感が、背筋を稲妻みたいに駆け上がっていく。にこ先輩の狂気に触れているだけで、頭の中が熱さで満たされて、全身の血が激しく沸き立つ。
「にこ先輩……ッ」
「ついてきなさい、穂乃果。あたしがこの遺跡の力を使って、本物の『輝き』を……あげる」
その夜。私達は生徒会に黙って校内放送システムを違法にジャックした。地下倉庫から発掘した先代の遺物を勝手に使用し、許可なんてない禁断のゲリラライブ。夜の校舎に、重低音のノイズと、私達の狂気と執着を孕んだ歌声が響き渡る。
「な……何なのよ、この不潔で不躾なライブは!?」
生徒会室で書類を整理していた2年生の本家幹部――絢瀬絵里、園田海未、南ことりたちが、顔を蒼白にして立ち上がった。モニターに映し出されているのは、カメラを挑発するように不敵な恍惚顔で歌うにこ先輩と、私達の姿だ。さらに彼女たちの手元には、旧校舎の地下に眠る「先代の遺産」が勝手に荒らされ、起動していることを示す警告表示が点滅していた。
「まさか……先代のμ'sが残したあの『遺跡』を勝手に暴いたというの……!? 代々継承すべき神聖な遺物を、あんな破廉恥な自我の吐き出し口にするなんて……ッ!」
絵里は震える拳を机に叩きつけた。彼女たちの背中には、先代が遺した遺跡と名跡の品格を守り、自分たちの手で管理しなければならないという、押し潰されそうな重圧が常にのしかかっていたのだ。先代の真意を測りかねる彼女たちにとって、後代による遺跡の勝手な発掘と私物化は、到底許されない暴挙に映っていた。
しかし、画面の向こうの歌声とパフォーマンスは、聴いた者の理性をじわじわと侵食し、本能を狂わせる不気味な感染力を持っていた。これこそが、先代の遺跡に眠る『イデ』の暴走。抑えきれないエゴと、愛されたいというドロドロした衝動の覚醒。
先代の遺産を巡る誤解とすれ違いを抱えたまま、不法襲名を果たした私達の、二度と戻れない泥沼の戦いの火蓋が、ついに切って落とされたのだ。
そして――ライブの余韻が冷め晴れぬまま、私たちが地下倉庫から地上の校門へと駆け上がった、その時だった。
「――全員、そこまでよ!」
校門の前に響き渡ったのは、鋭く冷徹な悲鳴のような一声。赤色灯の狂ったような明滅が、闇に包まれた校庭を血の赤に染め上げていた。
そこに立っていたのは、生徒会長率いる2年生の本家幹部たち。そして、彼女たちが遺跡荒らしと不法侵入の通報によって呼び寄せた、数台の警察車両と警察官たちだった。
「……信じられない。先代の遺物を勝手に掘り起こし、学校の名誉を泥で塗りたくるどころか、警察の手まで煩わせるなんて……!」
生徒会長の瞳には、氷のような蔑みと、逃げ場を完全に塞いだ者特有の優越感が浮かんでいた。だがその奥には、先代から託された遺跡と看板を勝手に荒らされたことへの、切惑と恐怖が滲んでいた。
「覚悟しなさい、2代目矢澤にこ。あなたたちの『遺跡の不法発掘』も、この愚かなごっこ遊びも、今この瞬間にすべて終わりよ。補導と退学処分……そして一門からの永久破門を通達します」
「くっ……!」
後輩たちが青ざめ、ガタガタと震え出す。万事休す。完全に退路は断たれた。校門は警察官たちによって封鎖され、逃げ場なんてどこにも――。
その時だった。
「――ふふ、ハハハハハハハ!」
絶体絶命の包囲網の真ん中で、にこ先輩がけたたましく笑い出したのだ。
「終わり? 誰が終わるって? 冗談じゃないわよ! あたしたちのライブは、まだ始まったばかりなのよ!!」
にこ先輩が懐から取り出したのは、古い機材車のスマートキー。直後、校庭の暗がりからエンジン音を轟かせて爆走してきたのは、先代の遺跡から発掘されたボロボロのマイクロバス――私たちの『ソロシップ』だった!
「乗りなさい、穂乃果! 逃げるわよ、この狂った学校からも、遺跡の管理ばかりに囚われた本家(バッフ・クラン)の連中からも!!」
「はいっ……にこ先輩!!」
私たちは警察官の制止を振り切り、勢いよくバスのドアへと飛び込んだ。絶叫する生徒会、狂ったように鳴り響くサイレン、破裂するタイヤの擦過音。
ドカンッ――!!
頑丈な鉄製の校門を力任せにぶち破り、マイクロバスは夜の国道へと飛び出していく。後ろを振り返れば、追撃のために一斉にエンジンを始動させる警察車両と、生徒会幹部たちの怨嗟に満ちた眼差し。
先代の遺産(遺跡)を巡るすれ違いは、もはや対話の余地を完全に消し去っていた。戻れる日常なんて、もうどこにもない。私たちは、自分たちのエゴと狂気だけを乗せて、二度と引き返せない地獄の逃避行へと発進したのだ――!
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