【ラブライブ!×伝説巨神イデオン】伝説ラブライブ! イデオン ~サンライズ50周年記念・因果の地平へ~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
夜の雨が激しく降りしきる、廃墟と化した沿岸部のうら寂しい倉庫街。
潮風と重い錆の匂いがたちこめるコンテナの陰で、私たちはパトロンから手に入れた新しい大型ロケバスの車内に身を寄せていた。
連日の逃避行と不眠不休の移動、そして世間から浴びせられる激しい非難とネットのリンチ。
誰もが精神と肉体の限界を大きく超え、車内には荒い息づきと押し殺したすすり泣きだけが雨音に溶けて響いていた。
「……もう、やめようよ……」
シートの隅で凛ちゃんが両膝を固く抱え、隣に座る花陽ちゃんの制服の裾を指が白くなるほど強く握り締めた。
「警察にも追われて、ネットでも犯罪者扱いされて……凛、何のためにこんなことして逃げてるのか、もう全然分からないよ。本家の先輩たちに謝って、全部終わりにしようよ……」
「凛ちゃん……」
花陽ちゃんは通信端末を胸に抱えたまま、震える凛ちゃんの肩をかばうように支えた。逃走経路の確保と警察無線の監視を夜通し続け、そのあどけない顔にも深い疲労が刻まれている。
「終わりにできるわけないでしょ!!」
暗がりの運転席から、にこ先輩が荒々しく振り返り、吐き捨てるように叫んだ。
「ここまで命懸けで来て、今さら引き返せると思ってるの!? 今更謝ったって破門が取り消されるわけない! あたしたちが本物だと証明するまで、止まることは絶対に許さないわ!」
「でも、真姫ちゃんも凛ちゃんも、もう心も体も限界だよ!」
花陽ちゃんがこれまでにない強い口調で声を張り上げる。
「これ以上続けたら、みんな本当に壊れちゃうよ……っ!」
「だったら、壊れたって走るのよ!」
にこ先輩の冷たい一喝に、車内は再び絶望的な沈黙に包まれ、誰も反論できなくなった。
その時だった。
外の雨音に混じり、コンコン、とコンテナの陰から静かな足音が響いた。
「そこまでです、不法者たち」
暗闇から現れたのは、雨に濡れた制服のまま佇む、絢瀬絵里、園田海未、南ことりの3人だった。
周囲に警察の姿はない。彼女たちは三人だけで、最後の直談判と交渉にやってきたのだ。
「これが最後の機会よ、矢澤」
絵里先輩が、濡れた前髪をかき上げながら冷徹に告げる。
「今ここでその看板を捨てて投降するなら、1年生たちの処分はできる限り最小限に留めるよう、私たちから本家会へ働きかけるわ」
「本当に……やり直せるんですか……?」
花陽ちゃんの震える声に、わずかな希望の光がにじんだ。
「ええ。自分の意思で過ちを認め、戻るというなら」
ことり先輩も一歩前に進み出て、私たちへと優しく手を差し出した。
「もう怯えて逃げなくていいんだよ。正しい場所へ戻って、最初からやり直そう?」
先輩たちの言葉は、どこまでも正しく、そして温かかった。
だからこそ、その優しさは、追いつめられた私の胸に残酷な刃のように深く突き刺さった。
「穂乃果ちゃん、帰ろう……」
花陽ちゃんが私へ震える手を伸ばす。
「今なら、まだ間に合うよ。やり直せるよ」
その手を握り返せば、この終わりのない地獄をすべて終わらせられるかもしれない。
それでも――私の足は、その場から一歩も動かなかった。
「ふざけないで……っ!」
「穂乃果ちゃん……?」
「私たちがどんな思いで、どれだけのものを捨ててここまで来たか、何も知らないくせに……! 今さら間違っていましたって頭を下げて、先輩たちの正しさを証明するだけの道具になれっていうの!?」
「もういいよ……っ!」
花陽ちゃんが私の腕を力任せにつかんだ。
「これ以上、誰かを傷つけて、自分たちまで壊してしまう前に、終わりにしようよ!」
私はその手を、激しく振り払った。
「帰れるわけないじゃない! 私たちには、もうどこにも居場所なんて残ってないんだから!!」
「それは身勝手な逆恨みです!」
海未先輩が一歩前に踏み出し、その美しい顔を怒りで歪めた。
「間違った道で得た結果や、欲望にまみれた行動に、価値など一切ありません!」
「悪で結構よ!!」
にこ先輩が割って入り、絵里先輩の胸元を容赦なく突き飛ばした。
「あんたたちの狭い枠の中でしか輝けないなら、そんな古い伝統なんてあたしが全部壊してやるわ! あたしがμ'sよ!!」
「いい加減にしなさいっ!」
絵里先輩がにこ先輩の制服の胸ぐらをつかみ返す。
「あなたの身勝手なエゴで、罪のない後輩たちまで泥の中へ引きずり込んだのよ!」
「二人とも、もうやめて……っ!」
花陽ちゃんが叫び、私も二人を引き離そうと間に飛び込んだ。
その瞬間――雨に濡れた足元が、激しく滑った。
もつれ合った絵里先輩とにこ先輩が、積み上げられた鉄骨の山へと激しく倒れ込み、硬い衝撃音が倉庫街に響き渡る。
絵里先輩の額から鮮やかな血が流れ、にこ先輩も腕を押さえて顔を歪めた。
「絵里先輩……っ!」
花陽ちゃんが駆け寄ろうとする。だが海未先輩がそれを鋭く遮り、血を流す絵里先輩をしっかりと抱き起こした。
その瞳から、説得の意思は完全に消え失せていた。
「対話は……完全に決裂しましたね」
「違うんです……っ! 今のは事故で……!」
「もう言葉は必要ありません、小泉」
海未先輩は冷たくスマートフォンを取り出し、画面をタップした。
「広域捜査班へ連絡します。潜伏場所を完全に特定しました。直ちに突入・包囲しなさい」
「待ってください! まだ話せます……っ!」
「逃げるわよ、穂乃果!!」
にこ先輩が血相を変えて叫んだ。
私は虚ろな瞳のままの真姫ちゃんを支え、花陽ちゃんは泣きじゃくる凛ちゃんの手を引いて、ロケバスへと必死に飛び込んだ。
「こんなはずじゃなかったのに……っ!」
花陽ちゃんの泣き声をかき消すように、ロケバスのエンジンが不気味にうなった。
ロケバスが雨の倉庫街を狂ったように走り出す。その直後、花陽ちゃんの端末が、今まで聞いたこともない激しい警告音を鳴り響かせた。
「警察無線が一斉に動いた! 東も南の道路も、全部完全に封鎖されるよ!」
「空いている脱出路を探しなさい!」
「海沿いの国道しか……もう残ってない!」
背後から、無数の赤色灯とサイレンが、狂ったように迫ってくる。
花陽ちゃんは涙を必死に拭い、震える指で逃走経路を探し続けた。ついさっきまで投降を望んでいた彼女も、もう自分たちを逃がすため、端末から手を離すことができなくなっていた。
もう、言葉は二度と通じない。
和解も、許し合いも、普通の学生としてのやり直しも、完全に不可能になった。
私たちは、自分たちの手で最後に残されていた帰り道を、永遠に閉ざしてしまったのだった――。
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