【ラブライブ!×伝説巨神イデオン】伝説ラブライブ! イデオン ~サンライズ50周年記念・ソロシップと呼ばれたロケバスと、因果の地平へ〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
重厚なコンクリートの壁に囲まれた、薄暗い地下ライブハウス。
冷たい壁を激しく振動させるのは、地上の世界から完全に隔離された重低音の狂ったノイズと、集まった数百人の男たちの獣のような熱気だった。
汗とアルコールの臭い、そして逃げ場のない歪んだ欲望の熱が充満する空間。
ステージの中央では、にこ先輩がスポットライトを浴びて、独り立ち尽くしていた。
乱れた制服の襟元。汗で白い肌に張りついた黒髪。
その瞳の奥には、正気も狂気もとうに突き抜けた、恐ろしいまでの漆黒の光が宿っていた。
「見なさいよ……これが、あんたたちの欲しかった本物の『2代目 矢澤にこ』よ!!」
にこ先輩がマイクを握りしめて絶叫すると、フロアを埋め尽くした狂信者たちが一斉に狂喜の歓声を上げた。
ネットでの大炎上、パトロンとの密室営業、警察からの指名手配、そして本家幹部からの冷酷な追跡網。
社会的に完全に追い詰められ、逃げ場を失った私たちがたどり着いたのは、ルールも法も通用しない無法地帯と化した地下の暗闇だった。
ステージの端で、私はマイクを両手で握り締めたまま、息を呑んで立ち尽くしていた。
真姫ちゃんは虚ろな目でフロアを見つめたまま、微動だにしない。
過酷な裏営業と精神の破綻を経て、彼女はまるで感情を完全に失った人形のようになっていた。
凛ちゃんも恐怖に全身を震わせながら、私のボロボロになった制服の裾にしがみついている。
そして舞台袖では、花陽ちゃんが何台もの通信端末を抱え、必死に配信回線を監視していた。
「同時接続者数が、増え続けてる……。配信を切っても、別の視聴者が勝手に複製して流してるよ……」
花陽ちゃんの指は恐怖で激しく震えていた。
それでも、私たちの逃走の記録と通信経路を守るため、画面から目を離そうとはしなかった。
「かよちん、もうやめてよ……!」
凛ちゃんが弱々しく、消え入りそうな声で呼びかける。
「今止めたら、外の警察の状況が分からなくなるよ。それに……警察車両の数が、さっきからどんどん増えてる」
花陽ちゃんの端末には、ライブ映像の凄まじい拡散状況と、会場の周囲を走り回る無数の警察無線の傍受データが表示されていた。
もう、どこにも逃げ道なんて残されていない。
本家の先輩たちが放った正論と完璧な包囲網は、私たちの居場所も、尊厳も、未来もすべて奪い去った。
残されたのは、誰かに認められたいという切実なエゴと、本家への決定的な憎悪だけだった。
「愛されないなら……認められないなら……こんな世界、全部ぶっ壊してやるわよ!!」
にこ先輩の叫びに同調するように、私たちの胸の奥へ蓄積していた狂気のエネルギーが、爆発的な熱量となって一気に噴き出した。
むき出しの怒りと絶望が混ざり合った、歪み切ったパフォーマンス。
それにあおられ、フロアの観客たちがさらに狂乱の渦へと呑み込まれていく。
客同士が激しく押し合い、衝突し、ステージへと群がり始めた。
「にこちゃぁぁぁん!」
「本家なんて潰せ! お前たちが真のμ'sだ!!」
「花陽ちゃん、配信を止めて!」
私が叫ぶ。
「やってるよ! でも、外部からの干渉で操作を受けつけないの!」
花陽ちゃんが何度も停止命令を入力する。
しかし、すでに外部へ無限に複製されたライブ映像は、さらに何千もの回線へと爆発的に拡散されていた。
会場の熱気が限界点に達した、その瞬間だった。
ズドンッ――!!
地下ライブハウスの重厚な鉄の扉が、外側からの凄まじい衝撃音とともに完全に打ち破られた。
「動くな! 警察だ!!」
爆風と煙が充満する入口からなだれ込んできたのは、防具を固めた警察の特別捜査隊だった。
その中央には、黒いフォーマルスーツに身を包んだ本家幹部――絵里先輩、海未先輩、ことり先輩の姿があった。
「また来たのね……本家の偽善者ども!」
にこ先輩が血走った目でステージから見下ろす。
海未先輩は冷徹な眼差しで、ステージ上の私たちをまっすぐ見据えた。
「観念しなさい、矢澤。そして1年生たち。暴動をあおり、恥知らずな裏営業を重ね、社会の秩序を乱したあなたたちの行為は、もはや許されるものではありません」
「ふざけないでよ……!」
私は思わずマイクへ向かって怒声を浴びせていた。
「正義ぶらないでよ、海未先輩! 安全な場所から命令するだけの先輩たちに、私たちの痛みが分かるわけない! 私たちの居場所を奪ったのは、最初から先輩たちでしょ!!」
「自らの身勝手な選択によって招いた結果を、他人の責任にするのですか!」
和解の可能性など、最初から存在しなかった。
対話は完全に途絶え、殺意にも似た冷たい拒絶だけが空間を支配している。
「花陽、脱出路は!?」
にこ先輩の叫びに、花陽ちゃんが会場の古い見取り図を開いた。
「裏口は警察に完全封鎖されてる! 使えるのは機材搬入口だけ。でも、そこもすぐに塞がれちゃうよ!」
その時、興奮した観客の一人が絶叫した。
「俺たちのライブを邪魔するなぁぁぁっ!」
「警察も本家も、全員この場から叩き出せぇぇぇっ!」
狂乱した観客たちが、パイプ椅子や酒瓶、照明機材を投げつけながら、一斉に警察隊へと押し寄せた。
爆発的な大暴動。
それはまさに、私たちが溜め込んできたすべての憎悪を放つ「イデオン・ガン」の一撃だった。
「なっ……観客が暴徒化した……!?」
「全員、下がってください!」
警察官たちの制止の声は、狂乱した群衆には届かない。
数え切れないほどの人間が津波のように押し寄せ、投げ込まれた発煙筒が真っ赤な煙を激しく噴き上げる。
地下空間は、一瞬にして怒号と悲鳴が渦巻く地獄へと変わった。
「あはははははっ! 見たかしら、絵里!」
にこ先輩が両腕を大きく広げ、狂気的な高笑いを上げた。
「これが、あたしたちの生み出した輝きよ!!」
「違うよ……!」
花陽ちゃんの叫びが響いた。
「こんなの輝きなんかじゃない! このまま続けたら、本当に誰かが取り返しのつかないことになるよ!」
「もう取り返しなんて、最初からつかないのよ!」
「だからって、もっと壊していい理由にはならないよ!」
花陽ちゃんは泣きながら、配信装置の主電源のコードを力任せに引き抜いた。
ステージの照明が消え、巨大スクリーンから映像が完全に失われる。
しかし、暴動はもう誰にも止められなかった。
狂乱した観客たちは地下ライブハウスから地上へ雪崩れ込み、路上の車両を取り囲んで破壊していく。
警報音と黒煙が、夜の街へと容赦なく広がっていく。
「火が……街が燃えてるよ……!」
凛ちゃんが恐怖に震えながら悲鳴を上げる。
炎の光に赤く照らし出されたにこ先輩の横顔は、悪魔のように美しく、そしてどうしようもなく悲しかった。
「花陽、逃走経路を出しなさい!」
「機材搬入口から路地へ出れば、ロケバスまで行ける! でも急いで!」
花陽ちゃんは警察無線と周辺の地図、そしてこれまでの活動記録を一台の端末へと素早く移し替えた。
「転送できたよ!」
端末を胸にしっかりと抱え、凛ちゃんの手をつかむ。
「凛ちゃん、行こう!」
「真姫ちゃんは……!?」
「私が支える!」
私は動けなくなった真姫ちゃんの腕を自分の肩へ回した。
にこ先輩が混乱する観客と警察隊の隙間へと飛び込む。
「逃げるわよ、穂乃果! 炎の向こうへ!!」
煙にむせながら、私たちは機材搬入口を駆け抜けた。
背後では、海未先輩が何かを叫んでいる。絵里先輩たちは押し寄せる人波に阻まれ、もう追ってくることができない。
地上へ出ると、警報音と怒号が街中に響き渡っていた。
私たちは混乱する車列の脇を縫い、夜の路地裏へと走り込む。
花陽ちゃんは凛ちゃんの手を引きながら、もう一方の手で端末を強く抱えていた。
そこには逃走経路だけでなく、本家側の通信記録や警察の動き、暴動が起きるまでの配信履歴がすべて保存されている。
それは証拠であり、武器であり、私たちをさらに追い詰める呪われた火種でもあった。
後ろを振り返る。
黒煙の向こうに、絵里先輩たちが立っていた。
その瞳には、私たちに対する決定的な絶縁の光が宿っている。
もはや、スクールアイドル界のルールも社会の秩序も関係ない。
すべてを巻き込みながら崩壊していく世界の中で、私たちは花陽ちゃんの端末だけを頼りに、二度と戻れない夜の闇へと逃げ込んだ。
自分たちが放った狂気の爆発から逃げながら。
次の破滅へ続く道を、自ら進んで選んでいることにも気づかないまま――。
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