【ラブライブ!×伝説巨神イデオン】伝説ラブライブ! イデオン ~サンライズ50周年記念・ソロシップと呼ばれたロケバスと、因果の地平へ〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
建設重機の耳を刺すような排気音と、頭上を低く旋回する警察ヘリの爆音が、雨に濡れる廃工場の空気を重く、冷たく揺らしていた。
崩れた天井の隙間から、冷たい雨と探照灯の鋭い白い光が差し込み、泥と煤にまみれた私たちの見窄らしい姿を容赦なく照らし出す。
『逃がしませんよ……高坂穂乃果、矢澤にこ』
外の巨大な拡声器から響き渡る海未先輩の声は、一切の感情を削ぎ落とした氷のように冷たかった。
本家幹部会とスクールアイドル協会、そして国家権力である警察組織までが総動員された完全なる包囲網。逃亡者となった私たちを社会的に、そして物理的に完全捕縛するための「総力戦」が、ついにその牙を剥いていた。
「冗談じゃないわよ……こんなところで、こんな奴らに捕まってたまるもんですか!」
にこ先輩が血走った目でアクセルを床まで踏み込む。
黒煙を吐き出して急発進したロケバスは、封鎖線を構築しようとする建設重機の巨体の脇を強引に抜け、廃工場の崩れかけたコンクリートの壁へと突進した。
ガガガガギギギッ――!!!
車体の外板を鉄骨が激しく削る凄まじい摩擦音が響き渡り、車内が大きく真横へと傾く。
「きゃああっ!」
私たちはシートから床へと激しく投げ出された。
「嫌だ……もう嫌だよ! 追ってこないで……!」
後部座席の隅で、真姫ちゃんが頭を抱えて泣き叫ぶ。
連日の逃避行と、自分が作り上げた通信システムが仲間たちを逃げ場のない戦いへ導いてしまったという耐え難い罪悪感に、真姫ちゃんの精神は完全に耐え切れなくなっていた。
「真姫ちゃん、しっかりして……っ!」
私が必死に抱き起こす隣で、花陽ちゃんは複数の端末を膝の上に載せ、涙を流しながらも必死に画面を操作し続けていた。
「追跡車両が後ろに六台……。警察無線も、本家の裏回線も、全部こっちの正確な位置を共有してるよ……!」
「かよちん、もうそんなもの全部捨てるにゃ!」
凛ちゃんが花陽ちゃんの震える腕を必死につかんだ。
「駄目だよ……これを切ったら、次の封鎖線がどこにあるか、もう分からなくなるから……」
花陽ちゃんの顔面は血の気が引いて青ざめ、指先は寒さと恐怖で小刻みに震えていた。
その足元には、真姫ちゃんが緊急用に組み上げていた広帯域電波妨害装置がしっかりと固定されている。
「にこ先輩、車を止めてください!」
私は運転席の背もたれにしがみついて叫んだ。
「真姫ちゃんも、花陽ちゃんも、もう心も体も限界なんだよ!」
「止められるわけないでしょ……!」
バックミラー越しに、にこ先輩の血走った狂気の目が私を鋭く射抜いた。
「止まったら、あたしたちの存在そのものがこの世界から消去されるのよ!」
「でも、このままじゃみんな壊れちゃいます……っ!」
「壊れたって走るのよ、最後までね!」
にこ先輩の怒号が、軋む車内へと冷たく叩きつけられた。
「ここまで来たんだから、最後まで進むしかないの! あたしを選んだなら、最後まで付き合いなさいよ!」
その言葉は、もはや救いなどではなかった。
私たちを容赦なく破滅へと縛りつける、あまりにも恐ろしい呪いだった。
それでも、にこ先輩の背中以外にすがるものを失った私たちは、誰一人として車を降りる勇気を持てなかった。
ロケバスは壁を完全に突き破り、雨の激しく降る山道へと飛び出した。
だが、追撃の包囲網は少しも緩まない。
背後から漆黒の大型追跡車が猛スピードで迫り、無数のヘッドライトの光が濡れたアスファルトを毒蛇のように這ってくる。
「花陽、追跡信号は切れないの……!?」
「無理だよ! 警察もヘリも、全部同じ位置情報システムを使ってる!」
花陽ちゃんは足元に置かれた危険な妨害装置に目を落とした。
「これを使えば、周辺の通信を全部焼き切れるかもしれない。でも、最大出力にしたら、この装置自体が熱で持たないよ……!」
「今はまだ使わないで……」
真姫ちゃんが、消え入りそうな掠れた声で告げた。
「もしもの事故が起きたら……この車ごと発火する危険があるわ……」
「なら、これが私たちの最後の切り札よ」
にこ先輩が前を睨みつけたまま言い切った。
「花陽、あんたがそれをしっかりと持ってなさい」
花陽ちゃんは不安そうに危険な装置を見つめ、それを自分の足元へとしっかりと引き寄せた。
その直後、一台の追撃車がロケバスの真横へとぴったり並んできた。
開きかけた窓の向こうから、雨に濡れた海未先輩が、すべてを断罪するような鋭い刃のような目を向けてくる。
『これ以上無様に逃げ続けても無駄です!』
拡声器から響く声が、車内を切り裂く。
『あなたたちは多くの一般市民を巻き込み、スクールアイドルという崇高な存在を混乱の道具へ変えた! 今すぐ車を止め、その罪の責任を認めなさい!』
「責任……?」
にこ先輩がハンドルを握る手を真っ白にさせた。
「あたしたちだけが悪いっていうの!? あんたたちが私たちの逃げ道を塞ぎ、追い詰めたことは、全部なかったことにするつもりなの!?」
『何を言っても、あなたたちの身勝手な行為は一切正当化されません!』
海未先輩の言葉は、あまりにも正しかった。
正しすぎて、私たちが味わってきた恐怖も、深い後悔も、助けを求めた叫び声も、すべてが無価値だと言われているように聞こえた。
「何も知らないくせに……っ!」
私は足元に転がっていたサブ端末を掴み取った。
「私たちの痛みを、何も知らないくせに……っ!」
追撃車めがけて投げつけようと身を乗り出した、その瞬間だった。
「穂乃果ちゃん……もう、楽になろうよ……?」
背後から、冷たく虚ろな手が私の首筋へとそっと回された。
「凛ちゃん……?」
振り返ると、凛ちゃんの瞳は恐怖と絶望で完全に濁り切っていた。
「逃げても、ずっと、ずっと追ってくる……。だったら、みんなで一緒に消えちゃえばいいよ……」
凛ちゃんが突然、運転席へと身を乗り出し、暴走するハンドルへとその手を伸ばした。
「凛ちゃん、駄目……っ!」
花陽ちゃんが反射的に飛びつき、その腕を必死につかんだ。
「離してよ、かよちん!」
「離さないよ、そんなことさせない!」
「かよちんだって怖いでしょ!? もうこんな逃げるだけの人生なんて嫌でしょ!?」
「怖いよ……っ!」
花陽ちゃんの目から、大粒の涙があふれ出した。
「私だって、全部投げ出してしまいたいよ……! でも、凛ちゃんと一緒に消えるなんて嫌だよ……!」
「もう無理だよ、どこにも行く場所なんてないよ……!」
「無理でも、生きるの! 一緒に帰るの、約束したでしょ……!」
花陽ちゃんは凛ちゃんを自分の胸へと強く強く抱き締めた。
その瞬間、真横から追撃車がロケバスの側面へと容赦なく激突した。
ドンッ――!!
骨を揺らす凄まじい衝撃が、車内を貫いた。
二人の小さな身体がバランスを崩し、運転席のほうへと大きく投げ出される。その拍子に、凛ちゃんの手が暴れるハンドルへと強く引っかかった。
「ハンドルから手を離して……っ!」
にこ先輩が全体重をかけて必死に戻そうとする。
だが、豪雨で濡れ切った山道の路面でタイヤが完全にグリップを失い、ロケバスは制御不能の激しいスピンへと突入した。
「きゃああああっ!!」
目の前に、鉄のガードレールが凄まじい勢いで迫ってくる。
花陽ちゃんは床へと激しく投げ出されながらも、転がってきた通信端末を片手で必死につかみ取った。そして、固定具から外れて火花を散らす妨害装置を、もう片方の手で胸へと必死に抱き抱えた。
「かよちん、それを放して……っ!」
「駄目……! これがなくなったら、みんなが完全に逃げられなくなる……!」
ロケバスがガードレールへと激しく衝突した。
金属が悲鳴を上げてひしゃげ、車体の前半分が重力に逆らうように宙へと飛び出す。
眼下に広がっていたのは、光一つない、底知れぬ崖下の深い闇だった。
「かよちん……っ!」
凛ちゃんが身を乗り出して、必死に手を伸ばした。
花陽ちゃんは通信端末と危険な妨害装置を片腕でしっかりと抱え、もう一方の手で凛ちゃんの手を固く握りしめた。
「離さないよ……絶対に……っ!」
崖っぷちのガードレールが、重みに耐えかねて音を立ててバキバキと折れていく。
並走していた追撃車が急停止し、崖の縁で海未先輩の絶望に満ちた顔が遠ざかっていく。その表情からは、先ほどまでの冷酷さが完全に消え失せていた。
次の瞬間、傷ついたロケバスは、重力に引きずられるように崖下へと真っ逆さまに傾いた。
雨の夜空に、私たちの悲痛な絶叫と、ガラスが粉々に砕け散る音が重なり合って響き渡る。
暗闇の底へと落ちていきながらも、花陽ちゃんは凛ちゃんの手と、通信端末、そして最期の切り札である電波妨害装置を、最後まで決して離そうとはしなかった。
私たちを乗せたロケバスは、絶望の闇の中へ、そのまま転落していった――。
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