【ラブライブ!×イデオン】サンライズ50周年記念『伝説ラブライブ!』~ソロシップと呼ばれたロケバスと因果の地平~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
冷たい雨が降り続く山中の、鬱蒼とした深い森。
足元を泥に足を取られながら、私たちはボロボロになった身体を引きずって暗い坂道を登っていた。
逃避行の裏方を担い、命を削って違法電波を流し続け、ついにロケバスの残骸の中で脳を焼き切られた小泉花陽。
彼女をその場に置き去りにし、命からがら逃げ延びた私たちの手元に残されたのは――彼女が命と引き換えに送信を成功させた、社会を焼き尽くす最悪の爆弾データだけだった。
「……ねえ、にこ先輩。あの子……本当に、あの場所に置き去りにしたままで、よかったの……?」
私が途切れ途切れの掠れた声で尋ねる。
精神を病んで壊れてしまった真姫ちゃんを背負い、冷たくなった凛ちゃんの震える手首を引っ張りながら歩く私の全身は、泥と血と冷たい雨水でドロドロに汚れていた。
「何度も同じことを言わせないで!!」
先頭を行くにこ先輩が、凄まじい殺気を孕んだ眼光で振り返った。
乱れた髪、擦り切れた制服の胸元、生々しい擦り傷だらけの生肌。
だが、その姿から漂うのは、周囲のすべてを呑み込んで焼き尽くすかのような、狂おしいまでの色気と凄惨なカリスマだった。
「あいつはあたしたちに最後の武器を託してくれたのよ! あたしたちがここで足を止めたら、あいつの命も、あたしたちが切り売りしてきた尊厳も、全部ただの犬死にになるの!!」
にこ先輩は手元で握りしめたサブ端末の液晶画面を、狂ったように叩いた。
画面に妖しく浮かび上がっているのは、暗号化された動画一括配信システムの実行ボタン。
そこには、小泉花陽が命を懸けて集め、本家幹部たちの通信網から傍受・抽出した、あまりにも決定的なスキャンダル動画とデータが膨大に蓄積されていた。
2年生の本家幹部――絢瀬絵里、園田海未、南ことり。
スクールアイドル界の正統性と品格を誇り、「伝統を守る正義」を振りかざして私たちを「淫乱な面汚し」と糾弾してきた先輩たちの、泥に塗れた裏の顔。
本家一門を維持するためにおこなわれてきた大規模な汚職、タニマチとの裏取引、そして彼女たちが陰で隠し続けてきた生々しい愛憎と性愛の証拠映像。
「正義……? 品格……? 冗談じゃないわよ」
にこ先輩の口角が、歪んだ三日月のように醜く吊り上がっていく。
「自分たちだけは綺麗で、正しくて、日向の道を歩いてるつもりの偽善者ども……。あたしたちを泥の中に引きずり落として踏みつけたその罪、今すぐ身をもって償わせてあげるわ!!」
「にこ先輩……それ、押したらもう……」
私は息を呑み、恐怖で身体をこわばらせた。
それを押せば、もはやスクールアイドル界の枠だけでは済まない。
本家幹部たちの人生が、伝統芸能としての『μ's』という名跡の歴史が、そしてこの社会の秩序そのものが、跡形もなく一刀両断に破壊される。
すべてを切り裂く決定的な破壊の刃(イデオン・ソード)!
「押すに決まってるでしょ!!」
にこ先輩の絶叫とともに、その親指が画面の赤い実行ボタンへ容赦なく押し込まれた!
「一門ごと、綺麗事の看板ごと……地獄の底へ落ちなさい本家ぇぇぇぇっ!!」
送信完了。
その瞬間、世界が音を失って静止したかのような錯覚が奔った。
暗号化ネットワークを通じて解き放たれた暴露データは、全SNS、主要動画プラットフォーム、さらには大手報道機関のニュースサーバーへと同時に爆発的な速度で拡散を開始した。
同じ頃、山麓の警察現地指揮本部。
雨に濡れる大型指揮車両の中で、絢瀬絵里、園田海未、南ことりの3人は、モニターに映し出される捜索状況を冷酷な眼差しで見つめていた。
「電波障害は完全に復旧しました。1年生たちの潜伏エリアへ、特殊部隊が突入を開始します」
海未先輩が冷徹に報告する。
「ええ……もう終わりにしましょう。彼女たちを捕らえ、二度と表舞台に出てこられないよう、社会的にも完全に処罰します」
絵里先輩が腕を組み、冷たく言い放った、その時だった。
ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!
指揮車両内のあらゆるモニター、タブレット、警察官たちの携帯端末が一斉に、これまでにない異常な警報音を鳴らし始めた!
「な……何事ですか、このアラートは……!?」
「緊急拡散通知……!? 全ネット空間で、本家幹部会および生徒会の内部データが大規模に流出しています!!」
「何ですって……!?」
絵里先輩がモニターへと駆け寄った瞬間、その美しい顔から一瞬で血の気が完全に引いた。
画面に映し出されていたのは、彼女自身が秘匿してきた過去のプライベートな映像。
海未先輩が名跡継ぎのために裏で交わしていた政治取引の音声と、隠された密会の記録。
ことり先輩が幹部会の大人たちと交わした、非公開の密約と性的なスキャンダル。
さらに、これまで本家がひた隠しにしてきた汚職と政治工作の全貌が、圧倒的な画質と精度で全ネットへ生中継されるように流れ続けていた!
「あ……あぁぁぁぁぁっ! 嘘……嘘でしょ……!? こんなの……こんなの嘘よぉぉぉっ!!」
ことり先輩が頭を抱えて悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
海未先輩は言葉を失い、開いた口が塞がらないまま、震える手でモニターの画面を見つめていた。
「私……私たちの……誇りが……伝統が……あぁっ!」
『臨時ニュースをお伝えします。伝統あるスクールアイドル名跡「μ's」の本家幹部らによる大規模な汚職および醜聞が発覚し、ネット上は大炎上……』
テレビの緊急ニュース番組が、彼女たちの顔写真を巨大なテロップとともに全国へ放映し始める。
絵里先輩の積み上げてきた「品格」、海未先輩の誇っていた「正義」、ことり先輩の「伝統」。
彼女たちが命懸けで守り、私たちを殺してでも維持しようとした本家の尊厳は、にこ先輩が解き放たれた一本の刃(イデオン・ソード)によって、全人類の眼前で無残に惨殺されたのだ。
「矢澤にこぉぉぉぉぉっ!! 高坂穂乃果ぁぁぁぁっ!!」
絵里先輩が唇を噛みちぎり、血を流しながら狂乱の叫びを上げた。
「許さない……絶対に許さないわ! あなたたちを……あなたたちをこの手で惨殺してやる!!」
正義の指導層だった本家幹部たちの精神もまた、決定的な暴露の前に完全な狂気と殺意へと叩き落とされた。
山中の闇の中で、スマートフォンから漏れ出す本家崩壊の狂乱と悲鳴を聞きながら、にこ先輩は大声を上げて狂喜乱舞していた。
「ハハハハハハハッ! 見たかしら絵里! あんたたちの『正義』なんて、この程度の薄っぺらなものなのよ!! ざまあ見なさい!!」
雨の中で狂ったように高笑いするにこ先輩の姿は、美しくも、悲しいほどに壊れていた。
だが――勝者など、この地獄のどこにもいなかった。
本家を壊滅させた代償として、私たち「2代目 μ's」の名もまた、社会全体から「最低最期のテロリスト・犯罪者集団」として完全に終わったのだから。
その時、暗闇の森の奥から、無数の懐中電灯の光と、群がるような足音が迫ってきた。
「あそこにいるぞ! 追及の手を緩めるな、賞金を山分けだ!」
現れたのは、警察でも本家でもなかった。
本家の失脚に乗じて私たちを拘束し、さらなる裏ビジネスのネタにしようと群がってきた、裏社会の回収屋と、ネットの炎上に狂い切った過激なファンたちの群れだった!
「逃げるわよ……穂乃果……っ!」
血と泥に塗れた手を取り合い、私たちは更なる地獄の深淵へと走り出す。
愛憎の刃がすべてを切り裂いた焦土の中で、生き残った少女たちの最期の刺し合いが、音を立てて始まろうとしていた――!
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