【ラブライブ!×イデオン】サンライズ50周年記念『伝説ラブライブ!』~ソロシップと呼ばれたロケバスと因果の地平~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
山中に響き渡る重々しい靴音と、足元の草木を乱暴に掻き分ける耳障りな雑音が、夜の静寂を容赦なく切り裂いていた。
本家(バッフ・クラン)の醜聞とタブーの数々を全ネットに一斉に拡散し、社会的な焦土と化した世界の只中で、私たちは山麓の寂れた廃ホテルへと逃げ込んでいた。
雨漏りでカビと埃の腐敗臭が充満する、暗い客室。
破れたカーテンの隙間から差し込む冷たい月の光が、私たちのボロボロになった姿を不気味に照らし出している。
「……ハぁ……ハぁ……っ」
にこ先輩が冷たい壁に背を預け、力なくその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
本家を破滅させた決定的な一撃、イデオン・ソードの代償は、あまりにも大きすぎた。
警察だけでなく、本家幹部を失墜させられたことで利権を奪われた裏社会のパトロンたち、そしてネットの炎上に狂乱した過激なアンチやファンまでもが、私たちの身柄を狙ってこの山狩りに参加している。
もはや、この世界のどこにも安全な隠れ家なんて存在しなかった。
「ねえ……穂乃果ちゃん……」
暗がりの中で、凛ちゃんが震える手で私の制服の袖をそっと引っ張った。
すでに精神の限界を迎え、ぐったりと動かなくなった真姫ちゃんの横で、凛ちゃんの瞳には、これまで見たこともないような不気味な光が宿っていた。
「……凛、もう無理だよ。こんなの、アイドルなんかじゃないよ……」
「凛ちゃん……?」
「にこ先輩について行っても、最後はみんな死んじゃうよ! だったら……だったら私……っ!」
凛ちゃんはポケットから、1台のスマートフォンを取り出した。
画面に表示されていたのは、かつて彼女たちに接触し、手打ち金や密室での接待営業を斡旋していた黒いパトロンの男との直通の通話履歴だった。
「凛ちゃん、それ……! パトロンの男の人と、裏で連絡を取ってたの……!?」
「……うん。あの人が言ってたの。『にこと高坂を売れば、お前だけは特別に匿ってやる。金もたっぷり用意して、海外へ逃がしてやる』って……!」
「なっ……!?」
絶句する私を余所に、凛ちゃんは狂ったような、泣き出しそうな顔で声を荒げた。
「私、ただ愛されたかっただけなんだよ! にこ先輩の道具になって、肌を重ねて、泥を舐めて……そんなのもう嫌なの! 私は私を愛してくれる男の人のところへ行くの……!」
身内の裏切り。
過酷な車上生活と、肥大化した「愛されたい」という歪んだ欲求の果てに、凛ちゃんはにこ先輩と私を差し出し、自分だけが生き延びる道を選んだのだ。
「凛……あんた、まさか……っ!」
にこ先輩が凄まじい勢いで立ち上がり、血走った目で凛ちゃんの胸元を掴み上げた。
「あたしを裏切る気!? あんたが今まで誰のおかげで生き延びてきたと思ってるのよ! あたしの『輝き』の引き立て役の分際で……あたしを売るつもり!?」
「離してよ、偽物!!」
凛ちゃんはにこ先輩の手を激しく振り払うと、狂気的な力で彼女を力任せに突き飛ばした!
「あんたは一番になりたいだけの怪物だよ! μ'sの名跡に取り憑かれた悪魔なんだよ!! 私は……私はもう助かりたいんだよぉぉぉっ!!」
凛ちゃんはそのまま廊下へと飛び出し、暗闇の中へと駆け出していった。
「待ちなさい、凛っ!!」
にこ先輩が叫びながらその後を追いかけ、私も倒れていた真姫ちゃんを強引に抱え上げてその後を必死に追った。
廃ホテルの薄暗いロビーへとたどり着いた時、そこにはすでに、凛ちゃんが呼び出したパトロンの男とその配下たちが待ち構えていた。
「よくやったぞ、少女。矢澤にこと高坂穂乃果の居場所を教えてくれた報酬だ」
男が不快な笑みを浮かべ、凛ちゃんの手に札束の詰まった重いバッグを握らせる。
「あ……あは……これで、私……逃げられるんだ……っ」
バッグを両手で抱きしめ、男の胸にすがりつく凛ちゃん。
だが、その瞬間――。
バァン――!!
ロビーの強化ガラスが一斉に粉砕され、夜の冷気が激しく吹き込んできた。
眩しいフラッシュライトの白い光が室内を包み込み、耳を突くような冷徹な怒号が響き渡る。
「動くな! 警察だ!!」
「ひっ……!?」
男たちが悲鳴を上げて青ざめる。
割れたガラスの向こうから歩み寄ってきたのは、制服姿の警察官たちと――その中央に立つ、南ことりだった。
ネットでのスキャンダル暴露によって社会的に抹殺され、誇りも伝統もすべてを失った本家幹部の残党。
ことり先輩の瞳からは、かつての優しさや穏やかさは完全に消え失せ、ただ不法者たちに対する冷酷な殺意と怨念だけがドロドロと渦巻いていた。
「ことり……先輩……?」
凛ちゃんが震える声でその名を呼ぶ。
「……汚らわしい」
ことり先輩の口から漏れたのは、氷のように冷たい吐息だった。
「名跡を汚し、身体を売り、挙句の果てに仲間まで売って男と逃げようとするなんて……。どこまで一門の面汚しとなれば気が済むの……?」
「ち、違うんですことり先輩! 私は……私はただ……っ!」
凛ちゃんが許しを請うように両手を伸ばす。
だが、ことり先輩は一切の情けも見せず、同行していた警察官へ向かって冷たく言い放った。
「処分してください。この者は、反社会的な裏営業と違法行為に関与した主犯格の一人です。……手加減は不要です」
「なっ……嫌……嫌ぁぁぁっ! 私は被害者なの! 男の人に騙されていただけなのぉっ!!」
凛ちゃんが狂乱して叫び、札束のバッグを撒き散らしながら暴れるが、警察官たちによって冷酷に組み伏せられ、コンクリートの床へと顔面を叩きつけられた。
「離して! 離してよぉぉぉっ! にこちゃん! 穂乃果ちゃん! 助けてぇぇぇっ!!」
自分から裏切り、逃げ出そうとした仲間。
しかし、本家側にとっても、彼女はすでに救うべき後輩ではなく、徹底的に処理し処分すべき「汚れた害悪」でしかなかったのだ。
手錠をかけられ、髪を振り乱しながら引きずられていく凛ちゃんの絶叫が、荒廃したロビーに空しく響き渡る。
尊厳も、愛も、仲間意識も……すべてが泥のなかで踏みにじられ、無残に解体されていく。
「さあ……次はあなたたちよ、矢澤。高坂」
ことり先輩が、暗がりの中に潜む私たちを見つめ、静かに手を上げた。
警察官たちが一斉に銃や警棒を構え、私たちの逃げ場を完全に塞いでいく。
しかし――追い詰められたにこ先輩の口から漏れたのは、諦めの溜息ではなく、地獄の底から響くような不気味な高笑いだった。
「ふ……ふふふっ……あははははははっ!」
「何がおかしいのです、矢澤!」
ことり先輩が眉をひそめる。
「おかしいに決まってるでしょ……! あんたたちが守ろうとした名跡も、あたしたちが縋りついた輝きも……全部、全部最初から呪われてたのよ!!」
にこ先輩が懐から取り出したのは――裏方担当の少女が残していった、名跡『μ's』のすべての権利情報と、全スクールアイドルネットワークを狂乱させる自己増殖型の破壊プログラムだった。
「あたしたちを殺すなら殺しなさい! でもね……あたしたちの愛憎を吸ったこの名跡の呪いは、もう誰にも止められないわよ!!」
にこ先輩の指が、決定的な破壊コードの実行ボタンを押し込んだ――!
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