【ラブライブ!×イデオン】サンライズ50周年記念『伝説ラブライブ!』~ソロシップと呼ばれたロケバスと因果の地平~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
山中の寂れた廃ホテルを震撼させた、警察官たちの緊迫した怒号と懐中電灯の白い光。
にこ先輩の血塗られた指が、端末の画面に表示された決定的な破壊プログラムの実行ボタンを押し込んだ、まさにその瞬間だった。
ジジジジジジジッ――!!!!
電子機器のスピーカーから、人間の鼓膜を切り裂くような高周波の電子ノイズが炸裂した。
「な……何ですの、この耳障りな音は……!?」
ことり先輩が両耳を両手で激しく塞ぎ、耐え難そうに悲鳴を上げる。
警察官たちが手元に持っていた無線機やスマートフォン、さらには捜査車両のモニターが一斉に禍々しい緑色の怪しい光を放ち、制御不能の暴走を始めた。
『緊急報! 全国のスクールアイドル管理ネットワークおよび公式ファンデータベースが、正体不明の未定義プログラムにより不法占拠されました!』
『重大な情報流出が止まりません! 本家一門のみならず、全国の主要芸能事務所、スポンサー企業、そして地方演芸場のプライベートな個人情報までが全ネットに高速流出中!』
車載無線から絶え間なく流れてくる、パニックに満ちた悲鳴と怒号。
にこ先輩が世界に向けて解き放ったそのプログラム――それは、逃避行の裏方を一手に担いながら自らの脳と精神をすり減らし、焼き切っていった少女が遺した、呪われた拡散の遺産だった。
「あはっ……あははははははっ! 見なさいよ、これがあたしたちの復讐よ!!」
にこ先輩が狂乱の笑みを浮かべ、冷たいコンクリートの床にへたり込みながら絶叫する。
「あたしたちを追い詰めて、泥を舐めさせた奴らすべての汚い暗部が、この『μ's』の名前と一緒に世界中へ垂れ流されていくのよ! あたしたちの傷も、性愛も、血も、全部この名跡のガソリンにして燃え尽きてしまいなさい!!」
「矢澤……あなた、いったい何を……!」
ことり先輩の顔面が、形容しがたい絶望と恐怖で完全に蒼白に染まる。
にこ先輩が放ったプログラムは、単なるスキャンダルの暴露などにはとどまらなかった。
『μ's』という伝統ある名跡のすべての権利情報、門外不出の音源、機密性の高い個人データ、そして歴代メンバーの醜聞や裏取引の生々しい記録が、SNSのタイムラインや動画配信サイトのトップページを完全に埋め尽くしたのだ。
「愛されたかっただけなのに……こんなの、あんまりだよ……!」
私はその場で両膝をつき、震える声を絞り出した。
ネット上では、すでに暴走した名跡の呪いが社会のインフラそのものを狂乱の渦へと巻き込み始めていた。
『スクールアイドル界最大の大汚職スキャンダルが爆誕!』
『本家幹部と裏社会の癒着・枕営業の生々しいビデオが流出』
『不法襲名グループの過激な裏営業の実態、全国に波及』
画面の向こうで、数百万、数千万人という現代人のドロドロとした覗き見趣味、アンチの終わりのない憎悪、狂信者たちの失望、そして野次馬たちの醜い欲望が完全に同調し、巨大な炎上の津波となって膨れ上がっていく。
「止めて……! お願いだから、この配信を止めてよぉぉぉっ!!」
ことり先輩が頭を抱えて狂ったように叫ぶが、一度解き放たれた自己増殖型のデータはサーバーの防壁を軽々と突破し、世界中のネットワークへと無制限に拡散を続けていく。
「止められるわけないでしょ……!」
にこ先輩が口元に付着した血の混じる唾を乱暴に吐き捨て、冷徹に言い放った。
「この名跡はね、あたしたちの情動と狂気を吸い尽くして、もう誰にも制御できないバケモノになったのよ! あたしたちをここで殺したところで、この呪いは永遠にこの社会の秩序を焼き尽くし続けるわ!!」
その時だった。
ドガァァァァン――!!
廃ホテルの外から、建物の基礎を揺るがす凄まじい爆破音が響き渡り、ロビーの強化ガラスの窓が爆風で一斉に粉々に吹き飛んだ!
「きゃああああっ!?」
「な……何事だ、敵襲か!?」
外を見下ろせば、山麓から続く道路が完全な地獄絵図と化していた。
名跡の暴走動画によって極限の興奮状態に陥った狂信的なファンや野次馬の群れ、そしてスキャンダルの口封じを目論む裏社会の回収屋たちが、警察の捜査車両を包囲し、無差別な暴動を引き起こしていたのだ。
あちこちに投げつけられる火炎瓶、激しく炎上する街頭、狂乱して奇声を上げる無数の群衆。
「μ'sを汚す不法者どもを許すなあああっ!」
「本家も後代も全員偽物だ! この腐った街ごと全部燃やせぇぇぇっ!!」
私たちが解き放った『名跡の刃』と暴走プログラムは、スクールアイドルという文化を支えていた社会の基盤そのものを、根底から瓦解させ始めていた。
「嘘……そんなの嘘でしょ……私たちの愛したスクールアイドルが、こんな終わり方をするなんて……っ」
ことり先輩がガタガタと全身を震わせながら、その場に崩れ落ちる。
品格も、伝統も、正義も、すべてが人間のドロドロとした欲望と憎悪の炎の中に呑み込まれて消えていく。
「さあ……行くわよ穂乃果! 最高の舞台はもう用意されたわ!!」
にこ先輩が、血塗られた手で私と、動かない真姫ちゃんの手を強く、引きちぎるように握りしめた。
「にこ先輩……どこへ行くの……?」
「崩壊した世界の中心よ! あたしたちの最期の演目を、狂った世界に見せつけてやるの!!」
炎上する廃ホテルを背にして、私たちは追撃の手を振り払い、夜の闇へと飛び出した。
警察のサイレンと暴徒の殺気立った怒号が響き渡る中で、スクールアイドルという存在そのものが社会的に死亡していくカウントダウンが、容赦なく刻まれていく――。
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