【ラブライブ!×伝説巨神イデオン】伝説ラブライブ! イデオン ~サンライズ50周年記念・因果の地平へ~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ロケバスのアクセルを踏み込むにこ先輩の横顔は、深夜の街灯の青白い光に照らされて、ゾッとするほど美しく、そして狂おしかった。
「あははっ! 見たかしらあいつらのツラ! 警察まで引き連れておいて、この矢澤にこ様を取り逃がすなんて、片腹痛いわよ!」
ガラガラと激しい爆音を立てて走る古びたマイクロバス――私たちの『ソロシップ』。
リアウィンドウの向こう、遠ざかっていく音ノ木坂学院の校門では、パトカーの赤色灯が虚しく夜空を不気味な血の赤に染め上げていた。
追撃の振り切りにはかろうじて成功した。だが、車内の空気は、逃げ切れた歓喜などとは微塵も似つかない、澱んだ窒息感に満ちていた。
「……ねえ、にこちゃん。私たち、これからどうなっちゃうの……?」
シートの端で身体を小さく丸め、膝を抱えてガタガタと震えているのは、1年生の仲間だった。
彼女の瞳には、日常を失った底知れぬ恐怖と、二度と戻れない引き返せない場所へ踏み込んでしまったという絶望がダダ漏れになっていた。
「どうもこうもないわよ! あたしたちは全国をドサ回りして、この『2代目 矢澤にこ』の名跡を本物にしてやるのよ! 文句があるなら、今すぐここで飛び降りなさい!」
「そんなの……降りられるわけないじゃない……っ! もう警察に顔も見られたし、家に帰ったって補導されるだけなのに……!」
そう、私たちはもう引き返せない。
学校も、家庭も、安全で守られていた居場所もすべてを投げ捨てて、この密閉された鉄の箱の中に閉じ込められたのだ。
静まり返る車内。
ガソリンと排気ガスの焦げ臭い臭い、そして乙女たちの恐怖に満ちた湿った汗の匂いが混ざり合い、濃厚で排他的な空気が肺を蝕んでいく。
その時だった。
助手席のダッシュボードに放置されていた私のスマートフォンが、狂ったような電子音を鳴らして激しく震え始めた。
画面に表示されたのは――生徒会室からの直通着信。
2年生の本家幹部、絢瀬絵里の名跡を背負う先輩からの、冷徹なダイレクトコールだった。
にこ先輩は鼻で不敵に笑い、スピーカーモードに切り替えて通話をタップした。
『――聞こえているわね、矢澤。そして、そこにいる1年生たち』
スピーカーから漏れ聞こえてくる絵里の声は、氷よりも冷たく、そして激しい怒りと隠しきれない焦燥に震えていた。
彼女の背景からは、本家の権威を失墜させまいと電話対応に追われる海未やことりの切迫した声がガヤガヤと漏れ聞こえてくる。
『あなたたちが犯した罪は、単なる校則違反や悪ふざけなどにとどまらないわ。警察官を負傷させ、校門を物理的に破壊し、あのような不潔で破廉恥なライブ動画をネットの海に撒き散らすなんて……!』
「あら、絵里? 褒めてくれてありがと。あたしたちの歌、すっごく魂に響いたでしょ?」
『黙りなさい!!』
いつもの冷静沈着な絵里からは想像もつかない怒声が、狭い車内に叩きつけように響き渡る。
『スクールアイドルは、μ'sの名跡は、あなたたちの不潔な自我や歪んだ欲望を満たすための道具ではないの! 本家幹部会および生徒会満場一致の決定として通達します。2代目矢澤にこ、および同行する1年生全員を――本日付で、スクールアイドル一門より「永久破門」とします』
生唾を呑み込む乾いた音が、車内のあちこちから聞こえた。
『今後、μ'sの名を騙る一切の活動を厳禁とし、見つけ次第、警察および関係各所と厳重に連携して法的に即時処分します』
「はっ……破門……!?」
伝統芸能としての厳格なスクールアイドル界において、一門からの破門は社会的死と同義だった。
公式の大会にも一切出られず、活動場所となる会場も一切借りられず、ファンや関係者からも「偽物・面汚し」として徹底的に排斥される。
『あなたたちはもう、スクールアイドルでも、音ノ木坂の生徒でもない。ただの悪質な犯罪者よ。……今すぐ車を止め、警察に出頭しなさい』
「くすっ……アハハハハハハ!」
冷酷すぎる宣告に対し、にこ先輩は狂おしいまでの高笑いを上げた。
「破門? 処分? 冗談じゃないわよ! あたしがμ'sよ! あたしが一番可愛くて、この世界で一番輝いているの! 本家だかなんだか知らないけれど、古い看板を守るのに必死な頭の硬いおバカさんたちに、何がわかるっていうのよ!!」
『矢澤――!』
「覚えていなさいよ絵里! あたしたちは絶対に止まらないわ! この泥に塗れたロケバスで、あんたたちの綺麗な綺麗事だけで塗り固められたスクールアイドル界を、根底から叩き潰してあげるわ!!」
ぶつりと乱暴に通話を切ると、にこ先輩はスマホをダッシュボードへと激しく叩きつけた。
「さあ行くわよ! 最初の目的地は隣県のうらぶれた地下ライブハウス! 本家が絶対に手を出せない暗闇の底で、あたしたちの『真の襲名』を証明してやるのよ!」
にこ先輩の瞳には、底知れぬ黒い狂熱が爛々と渦巻いていた。
その過剰なカリスマと危険な色気にあてられ、先ほどまで怯えていた私たちの恐怖は、いつしか奇妙な性的・精神的な陶酔へと上書きされていく。
そう、私たちはもう、この狂った女王の奴隷だった。
にこ先輩の背中を追いかけるためなら、泥を啜り、どんなに汚い真似だって――。
バスは夜の高速道路を猛スピードで爆走していく。
しかし、その時だった。
私のスマホの画面に、耐え難い悪夢のような通知が次々とポップアップし始めた。
【拡散希望】音ノ木坂学院の不法侵入・暴走グループ、メンバーの顔写真と本名が完全特定。
【朗報】2代目μ'sを自称する犯罪者集団、保護者により警察へ正式に捜索願が提出される。
【裏情報】破門された1年生たちのプライベート画像・淫らな裏アカウントがネット上で大量流出中。
「え……? あ……嘘、嘘でしょ……そんなの……っ!」
血の気が一気に引いていく。
私たちが逃亡を始めたわずか数時間の間に、ネット上では本家幹部たちによって私たちのプライベートな情報が完全に晒し上げられ、凄まじい炎上の渦に包まれていたのだ。
本家側もまた、伝統の看板を守るためなら手段を選ばないという、冷酷な現実を突きつけてきた。
実家の住所、中学時代の写真、ネットの裏アカウントの投稿まで、すべてが白日の下に晒されている。
それは完全なる社会的死であり、私たちの居場所の徹底的な破壊だった。
「ひっ……嫌あぁぁぁっ! 私の写真が、全部さらされてる……っ!」
1年生の仲間が頭を抱え、発狂したように絶叫する。
「落ち着きなさいよ! ネットの雑音なんて無視すればいいのよ!」
にこ先輩が怒鳴るが、その時だった。
ガガガガガッ――!!!
突如、ロケバスの車体が激しく横揺れし、耳を覆いたくなるような凄まじい金属摩擦音が夜の高速道路に響き渡った。
「きゃああああっ!?」
「な、何よ!? タイヤが……後ろからつかまれた!?」
バックミラーを恐怖で覗き込んだ私は、息を呑んで凍りついた。
暗闇の高速道路。私たちのロケバスのすぐ真後ろに、黒塗りの大型ワンボックスカーがピタリと狂気的に張り付いていたのだ。
フロントグリルがロケバスのリアバンパーに物理的に接触し、力任せに押してきている!
ワンボックスカーの助手席の窓が荒々しく開き、そこから身を乗り出していたのは――鬼気迫る形相に染まった2年生の本家幹部、園田海未だった。
彼女の手には、追跡用のGPS発信機と、警察へ位置情報をリアルタイムで送信しているスマートフォンが固く握り締められていた。
『逃がしません、不法者たち……! μ'sの名を泥で汚すことだけは、絶対に許さない……!!』
高速道路の上での、死を伴う容赦ない物理的追撃!
逃げ場のない時速100キロの狂気の中で、ハンドルを握るにこ先輩の目が、血走ったように見開かれる。
「あはっ……あははははっ! 面白いじゃない……! 一緒に地獄の底へ落ちようじゃないの!!」
にこ先輩は狂ったように笑いながら、ブレーキペダルを思いっきり踏み込んだ――!
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