【ラブライブ!×イデオン】サンライズ50周年記念『伝説ラブライブ!』~ソロシップと呼ばれたロケバスと因果の地平~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
爆風の熱波と黒煙が、降り積もる雪の夜空へとどこまでものぼりつめていく。
破砕された鉄骨、崩れ落ちたステージの瓦礫。
その中心で、私は血に濡れた冷たいコンクリートの床に突っ伏していた。
耳鳴りが激しく鳴り止まない。
骨の折れた右肩から激痛が走り、視界は鮮血と涙で赤く霞んでいた。
「う……あ……っ」
指先を動かそうとするたび、凍てつく雪と、自分や誰かの温かい血が混ざり合った泥が皮膚にまとわりつく。
見回せば、そこに広がっていたのは完全な地獄――完全な焦土だった。
崩落した屋根の下で、真姫ちゃんは冷たくなった瞳を虚空に向けたまま、ピクリとも動かない。
その近くには、頭部から血を流して倒れ込むことり先輩と、爆発の直撃を受けて動かなくなった海未先輩の姿があった。
正義も、誇りも、名跡の重みも、愛されたいという切実なエゴも。
すべてが泥沼の刺し合いの果てに打ち砕かれ、この世界から消え去っていた。
「……ハぁ……っ、ハぁ……っ」
瓦礫の陰から、擦れた苦しい吐息が聞こえた。
血まみれの指先で地面を這い、ようやく姿を現したのは――にこ先輩だった。
腹部を深く貫かれた傷口から赤い血を絶え間なく垂らし、破れた制服の隙間から覗く生肌は、痛々しい擦り傷と火傷で真っ黒に覆われている。
それでも、彼女の瞳だけは、恐ろしいまでの漆黒の光を放ち続けていた。
「にこ……先輩……っ」
私がかすれた声で呼びかけると、にこ先輩は歪んだ口角を上げ、血の混じる唾を力なく吐き捨てた。
「ふ……ふふっ……見たかしら、穂乃果……。誰も……誰もいなくなったわね……」
にこ先輩が両膝を折りながら、這うように私の方へと近づいてくる。
その手には、泥と血で汚れたスマートフォンがしっかりと握りしめられていた。
壊れかけた画面には、全国のニュース番組やSNSのタイムラインが、最後の文字を刻み続けるように映し出されている。
『速報:全国の警察当局がスクールアイドル関連の違法団体を一斉摘発、永久解散へ』
『音ノ木坂学院生徒会および不法襲名グループ「2代目 μ's」、メンバー全員の逮捕・補導完了』
『「μ's」名跡は永久封印。スクールアイドル文化そのものが社会的死を迎える』
画面の向こうで、私たちが命と尊厳を切り売りしてまで守ろうとした、あの眩しかった『輝き』が、完全に息絶えていく。
「あはっ……あはははははっ! 素晴らしいわね、これこそが……っ!」
にこ先輩が虚空を見上げ、血を吐きながら狂気的な高笑いを上げた。
「本家の偽善者どもも、あたしたちを買い叩いた大人たちも、全部道連れにしてやったわ! あたしが……あたしこそが、世界を終わらせた唯一無二の『2代目 矢澤にこ』なのよ!!」
「にこ先輩……もう、やめようよ……っ」
私は溢れ出る涙を拭いもせず、血みどろの手で先輩の制服の裾を強く、ちぎれるほど握りしめた。
「もう……誰も歌ってないよ……。誰も私たちの名前を呼んでくれない……。一番になれたって……こんなの、悲しすぎるよ……っ!」
「うるさい!! 呼んでくれなくたって……あたしが、あたしを認めればいいのよ……っ!!」
にこ先輩が私の手を手繰り寄せ、私の冷え切った首元にその身体を強く押し当ててきた。
過酷な車上生活、密閉されたロケバスの中、パトロンへの身売りの恐怖から逃れるために求め合った互いの肌の温もり。
依存と嫉妬、そして狂気のガソリンとなった抑圧された感情。
その最期の体温が、私の皮膚を通じて胸の奥深くへと熱く伝わってくる。
「……あたしを好きになりなさいよ、穂乃果……。あたしを……あたしだけを愛しなさいよ……っ!」
狂気的な叫びの中に混ざり合う、幼い子供のような哀しい乞い。
にこ先輩もまた、ただ誰かに認めてほしかっただけなのだ。
特別になりたかった。一番になりたくて、肥大化したエゴと性愛の呪いの中に身を投げ込み、自分も周りもすべてを壊してしまったのだ。
「……知ってるよ……っ。私、にこ先輩のことが……ずっと……っ」
私が言葉を紡ごうとした、その瞬間だった。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――。
降り積もる雪を踏みしめる、無数の重い靴音が、崩壊したステージを四方から完全に包み込んだ。
「動くな!! 警察だ!!」
「全員、手を頭の後ろに上げろ! 抵抗すれば容赦なく射殺する!!」
強烈な探照灯の白い光が一斉に照射され、血に染まった暗闇のステージを昼間のように白く暴き出す。
防具を固めた警察の特殊部隊。
そしてその背後には、スキャンダルの口封じを目論む裏社会の回収屋や、失脚した本家幹部たちの親族、怒りに狂った狂信者たちが、冷酷な眼差しで私たちを見下ろしていた。
包囲完了。
社会的抹殺、関係の全滅、そして物理的な完全なる手詰まり。
「そこまでよ、矢澤。高坂」
警察官たちの隙間から歩み寄ってきたのは――頭に包帯を巻き、車椅子に揺られた絢瀬絵里だった。
彼女の顔には、かつての正統な指導者としての面影は微塵も残っていない。
ただ、すべてを失った人間の、虚無と冷徹さだけがそこにあった。
「あなたたちの暴走は、ここで終わり。……あなたたちも、私たちも、この社会のどこにも居場所はありません」
「絵里……ふん、遅かったじゃない……」
にこ先輩が、警察官たちに向けられた銃口の前に、血だらけの身体で力なく立ち上がった。
腹部から血を流し、髪を乱し、泥と血に汚れたアイドル衣装を纏った姿。
だが、その立ち姿は、悪魔のように美しく、そして哀しかった。
「見なさいよ、世界中の愚か者たち……! これが……これが『2代目 矢澤にこ』の、最後の姿よぉぉぉっ!!」
にこ先輩が両手を広げ、容赦ない探照灯の光に向かって絶叫した。
「捕まえなさい! 連行しろ!!」
警察官が一斉に飛びかかり、にこ先輩の華奢な身体をコンクリートの床へ容赦なく叩きつけた!
ガツンッ――!
「ぐぁっ……!? 放しなさいよぉぉっ! あたしは……あたしは宇宙一の……っ!」
手錠が嵌められ、血を吐きながら床に押さえつけられるにこ先輩。
その瞬間――。
彼女の瞳から漆黒の狂光が消え、溢れ出す血とともに、彼女の精神を支えていたカリスマが音を立てて崩壊していくのが分かった。
社会的連行、そして精神の死。
最後の触媒であった「2代目 矢澤にこ」が潰れた瞬間、私たちが積み重ねてきた愛憎、性衝動、執着、そして名跡の狂気(イデ)が、爆発的な臨界点を突破した。
「あああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」
視界が真っ白な閃光に染まっていく。
警察の怒号も、ヘリの爆音も、降り積もる雪の冷たさも、自分の体の痛みも。
すべての現実的な感覚が、凄まじい閃光と虚無の波の中に呑み込まれ、完全に消失していく。
私たちが背負った『μ's』という名跡の呪いは、スクールアイドルという文化も、本家の伝統も、追撃者も、逃亡者も、そして社会の秩序そのものも……すべてを道連れにして、肉体的・精神的な全滅(因果の地平)へと完全に沈んでいった。
光と音が存在しない、絶対の闇と無の空間。
積み重なったすべてのドロドロとした執着が剥ぎ取られ、私たちの存在そのものが、社会から、世界から、静かに消滅していった――。
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