【ラブライブ!×伝説巨神イデオン】伝説ラブライブ! イデオン ~サンライズ50周年記念・因果の地平へ~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
甲高いスキール音が、夜の高速道路に響き渡った。
にこ先輩が急ブレーキを踏み、ロケバスの車体が激しく揺れる。私たちは座席へ投げ出され、シートベルトに身体を締め上げられた。
追突を狙っていた黒いワンボックスカーは減速しきれず、側壁へ激突した。火花を散らす車体が、バックミラーの中で遠ざかっていく。
「あはっ! 見たかしら絵里! あたしたちを止めようなんて百年早いのよ!」
にこ先輩は高笑いを上げ、アクセルを踏み込んだ。
ロケバスはインターチェンジを駆け降り、地方都市の暗い路上へ滑り込む。
「痛っ……」
後部座席で、真姫ちゃんが腕を抱えてうずくまっていた。急ブレーキの衝撃で、金属フレームへ強く打ちつけたらしい。
「真姫ちゃん、大丈夫!?」
私が駆け寄るより早く、花陽ちゃんが救急箱を抱えて膝をついた。
「腕を見せて。動かせる?」
「平気よ、このくらい……」
そう答える真姫ちゃんの声は激しく震えていた。
「平気じゃないよ……!」
花陽ちゃんは傷を冷やしながら、泣きそうな顔で真姫ちゃんを見つめた。
「これ以上逃げ続けたら、私たち、人間としてもアイドルとしても、本当に壊れちゃうよ……!」
「泣いてる暇なんてないわよ!」
運転席から、にこ先輩の鋭い声が飛んだ。
「あたしたちは明日の朝、駅前で最初のゲリラ興行を打つの! 破門されたって関係ない。あたしたちが本物の『2代目μ's』だって証明するのよ!」
「この状態でライブなんて無理よ!」
真姫ちゃんが叫ぶ。
「機材だって壊れかけてるし、花陽は何日も眠ってないのよ!」
「だったら、あんたが直しなさい。花陽は配信を準備する。全員、やることは残ってるわ!」
花陽ちゃんは何も言えず、通信端末を震える両手で胸へと抱えた。
翌朝。
冷たい朝靄に包まれた地方駅前のロータリーで、私たちは古いスピーカーと機材を路上へ並べた。当然、使用許可など取っていない。
真姫ちゃんは腫れた腕をかばいながら音響を調整し、花陽ちゃんはロケバスの中で配信回線を立ち上げていた。
「配信、始まったよ……」
花陽ちゃんの端末に、視聴者数が信じられない勢いで跳ね上がっていくのが映る。
「でも、警察の無線が近いよ。すごく短い時間で終わらせないと……!」
「始めるわよ!」
にこ先輩の合図で、重低音のノイズが駅前広場へ狂おしく響き渡った。
昨夜の逃走で制服は泥に汚れ、誰もが傷だらけだった。
それでも、にこ先輩のパフォーマンスは圧倒的だった。追い詰められた怒りと、一番になりたいという狂気的な執着が、通りすがりの通行人の足を強制的に止めていく。
「ネットで騒ぎになってる、あの不法侵入グループじゃないか?」
「おい、本当にライブを始めたぞ!」
野次馬たちがスマートフォンを向け、広場には瞬く間に黒山の人だかりができた。
「同時接続、三万人を超えたよ……!」
花陽ちゃんの声がイヤホンから震えて聞こえる。
歓声が膨れ上がる。
認められている。必要とされている。
そう錯覚した瞬間、胸の奥にドロドロとした暗い歓喜が広がっていく。私たちのエゴが、世界を侵食していく快感。
しかし、その狂った熱狂は、あまりにも残酷な形で引き裂かれた。
ウーッ――!!
けたたましいサイレンの音が、広場の喧騒を真っ二つに切り裂いた。
「警察です! ただちに演奏を中止し、機材から離れなさい!」
制服姿の警察官と補導員たちが、広場の両側から一斉に突入してくる。
「警察無線が一斉に切り替わった!」
花陽ちゃんがロケバスから飛び出してきた。
「囲まれてるよ! 正面も裏通りも、完全に封鎖される!」
「撤収よ! バスへ戻りなさい!」
にこ先輩が叫んだ。
だが、パトカーの赤色灯を見た観客たちが、パニックを起こして一斉に出口へ殺到した。
押し合い。怒号。悲鳴。
最前列にいた男性が足を取られ、その後ろの人々がドミノ式に次々と折り重なって倒れていく。
「押さないで! 誰か倒れてるっ!」
「助けて、苦しい……!」
人間の波に巻き込まれた真姫ちゃんが、ついに路上へと転倒した。
「真姫ちゃん!」
花陽ちゃんが群衆の中へ飛び込み、真姫ちゃんの腕を必死につかむ。
「立って! ここにいたら踏まれちゃうよ!」
「花陽、先に逃げなさい……っ!」
「嫌だよ! 一緒に戻るの!」
私も群衆をかき分け、二人を引き起こそうと手を伸ばした。
しかし、その足元――人の波が過ぎ去ったあとのアスファルトには、負傷者たちが流した生々しい血の跡が、赤い筋となって無残に広がっていた。
私たちが、私たちの承認欲求とゲリラ興行のせいで、無関係の人間を傷つけた。
その動かぬ現実を目の当たりにし、私の足は恐怖で完全に動かなくなった。
「ぼんやり突っ立ってないで、乗るわよ!」
にこ先輩が私を車内へと荒々しく引きずり込んだ。
花陽ちゃんは泣き叫ぶ真姫ちゃんを支えながら飛び込み、通信端末だけは血染めの手で固く握り締めていた。
警察官がロケバスの窓枠へと手をかける。
「待ちなさい!」
にこ先輩は容赦なくドアを閉め、アクセルを床まで踏み抜いた。
高価な機材を路上へ放置したまま、ロケバスは将棋倒しの起きた広場を強引に脱出していく。
花陽ちゃんの端末に、緊急ニュース速報が次々とポップアップした。
『不法ゲリラライブ、会場で大規模な将棋倒し事故』
『多数の負傷者、救急搬送』
『逃走する謎の「2代目μ's」グループ』
「私たちが……私たちが、人を傷つけたんだよ……」
花陽ちゃんが引き裂かれるような声でつぶやく。
真姫ちゃんは腫れた腕を抱え、床にうずくまったまま一言も喋らない。
私たちはもう、学校を飛び出しただけの反抗期の生徒ではない。
社会の秩序を破壊し、血を流させた、正真正銘の危険な逃亡者になったのだ。
「ふふ……いいじゃない」
荒い息を吐きながら、にこ先輩がバックミラー越しに歪んだ笑みを浮かべた。
「全国ニュースのトップよ。これ以上の宣伝なんてないわ」
その狂気に満ちた横顔の向こうで、私たちを追うパトカーのサイレンの音が、何重にも重なってさらに近づいていた。
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