【ラブライブ!×伝説巨神イデオン】伝説ラブライブ! イデオン ~サンライズ50周年記念・因果の地平へ~   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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看板の重圧と肌の温もり

夜の静寂をつんざく冷たい雨の音だけが、古びたロケバスの天井を激しく叩きつけていた。

 

街灯の光すら届かない、山中の鬱蒼とした廃道に停められた私たちの『ソロシップ』。

エンジンを切った車内は、湿気とガソリンの匂い、そして昨日の駅前広場で流れた血と、少女たちの乾いた汗が混ざり合った、どろりとして不快な空気に満たされていた。

 

スマホの画面に絶え間なく躍る「全国指名手配」「暴動の主犯」という冷酷な文字。

現実が、逃げ場のない圧倒的な質量となって、私たちの幼い肩へと重くのしかかっていた。

 

「……ねえ、穂乃果……っ」

 

シートの隅で膝を抱え、ガタガタと全身を震わせているのは、真姫の名跡を継ぐはずだった1年生の少女だった。

薄暗い車内、スマートフォンの青白い光に照らし出された彼女の顔は、血の気が完全に引いてまるで死人のように真っ白だった。

 

「もう……おしまいだよ……っ。警察に追われて、ネットでは日本中の人間から犯罪者扱いされて……。私、お医者さんの家系なんだよ……? 親に知られたら……私、本当に家に顔向けできないし……殺されちゃうよ……っ」

「真姫ちゃん……」

 

私が声をかけるより早く、真姫ちゃんは私の胸元へと縋りつくように激しく飛び込んできた。

極限の恐怖で過呼吸気味になった彼女の荒い吐息が、私の首筋に熱く吹き付けられる。

 

「怖いよ……怖いよ穂乃果……っ! 抱きしめて……お願いだから、私を一人にしないで……っ!」

「あ……うん、大丈夫……怖くないから、大丈夫だからね……っ」

 

縋りつく彼女の細い背中に腕をまわし、力いっぱい強く抱きしめ返す。

汗で濡れた制服の布地越しに伝わってくるのは、現実逃避するように激しく跳ね上がる、生々しい心臓の鼓動。生きているという実感。

 

追いつめられた極限状態の中で、私たちは互いの肌の温もりを強く確かめ合うことでしか、正気を保つことができなくなっていた。

震える指先が真姫ちゃんの乱れた髪を優しく撫で、怯える肩を必死に抱きすくめる。

 

彼女もまた、私の制服の裾を破れんばかりの力で固く握りしめ、首筋に顔を埋めて耐え切れず涙をこぼした。

誰かに深く愛されたい。誰かに自分を全否定されないための「特別」になりたい。

 

その抑圧された性衝動と、動物的な生存本能がぐちゃぐちゃに混ざり合い、車内には濃厚で歪んだ異様な空気が満ちていく。

 

「……ふふ、仲がよろしいことで」

 

車内後方の簡易ベッドの暗がりから、冷ややかな声が落ちた。にこ先輩だった。

 

彼女は乱れた制服の胸元もそのままに、煙草の煙のような深い溜め息を吐き出しながら、ゆっくりと身体を起こした。

 

「に……にこ先輩……っ」

「何よ、その惨めったらしい顔は。警察に追われたくらいでそんなにガタガタ震えて、先代の『μ's』の名跡が泣くわね」

 

にこ先輩が音もなく歩み寄り、怯える真姫ちゃんの顎を強引に指先ですくい上げた。

濡れた瞳で震える真姫ちゃんを見下ろすにこ先輩の目には、温かい情愛など一切ない、冷徹で狂気的なまでの光が爛々と宿っていた。

 

「嫌なら今すぐそこで降りなさいって言ったでしょ? 実家に帰って、パパとママに泣きついて、警察に逮捕されて人生を完結させればいいじゃない」

「な……っ! そんなの……できるわけないじゃないですか……っ!」

「だったら四の五の言わずにあたしに従いなさい! あんたたちが抱えてるその恐怖も、歪んだ承認欲求も、あたしへの愛も……全部あたしが吸い取ってあげるわよ!」

 

にこ先輩はそう言い放つと、真姫ちゃんの唇を強引に己の指先で覆い、そのまま私と真姫ちゃんをまとめて力任せに強く引き寄せた。

 

「ひ……っ!?」

「あたしについてくれば、絶対に一番の看板にしてあげるわ……。全国の誰もが、あたしたちを無視できなくなるくらい、眩しく輝かせてあげる。だから……身も心も、全部あたしに預けなさい」

 

にこ先輩の甘い吐息と、香水が混ざった独特の匂いが、脳みそを心地よく麻痺させていく。

その身体の接触は、恐怖を紛らわせるための最も甘美な毒薬だった。

 

にこ先輩は、私たちが抱く孤独感や身体的な依存心すらも、冷酷に計算しつくして己の支配下に組み込もうとしている。

 

「にこ……先輩……っ」

 

私が息を呑み、その圧倒的な存在感に飲まれかけた、その時だった。

 

ピピッ――ピピッ――ピピッ――。

 

不意に、ダッシュボードの上に放り出されていた古い無線機と車載モニターが、ノイズ混じりの不気味な電子音を発した。

 

「な……何よ!?」

 

激しいノイズが走り、暗転していたモニターに不鮮明な映像が浮かび上がる。

そこに映し出されていたのは――生徒会室と思われる豪奢な部屋と、本家幹部である2年生たちの姿だった。

画面の中央に立つ、園田海未の名跡を背負う2年生が、氷のような冷徹な眼差しでカメラを見つめている。

 

『――聞こえていますか、惨めな逃亡者たち』

「海未……! どこからこの回線に入り込んだのよ!?」

にこ先輩が吐き捨てるように怒声を上げる。

 

『GPSの追跡をどれだけ逃れても無駄です。あなたたちの行動パターンなど、すべて把握しています。……2代目矢澤にこ、および哀れな1年生たち。あなたたちに最後の警告を差し上げます』

 

画面の向こうで、海未先輩が1枚の公式な書類をカメラに向けて掲げてみせた。

 

『あなたたちの保護者および親族より、正式に「精神的錯乱による親権の委託と保護申請」が家庭裁判所に提出されました。あなたたちがいくら法網を逃れて逃げ回ろうと、もはや社会的にあなたたちの人権や権利は存在しません』

「な……なんですって……!?」

 

真姫ちゃんの顔から、わずかに残っていた血の気が完全に引いていく。

 

『追って、警察の特別捜査班があなたたちの潜伏地域を完全に包囲・制圧します。逃げ場はもうありません。不潔な身売りまがいのゲリラライブで一門の名を汚し、無関係の一般市民に怪我を負わせた罪……その身をもって、徹底的に償いなさい』

「ふざけないでよ!!」

 

にこ先輩がモニターに向かって怒声を浴びせる。

「あたしたちが何をしたっていうのよ! ただ歌って、一番になりたいだけじゃない! あんたたち本家が、型にはまった綺麗な綺麗事ばかり押し付けるからでしょ!!」

『黙りなさい!』

 

海未先輩の声が、鋭く車内の空気を切り裂いた。

 

『品格なき狂気、欲望に任せた身勝手な暴走……それがあなたたちの正体です。これ以上μ'sの名を泥に塗れさせるくらいなら、あなたたちを社会的に完全に抹殺します。……それが、本家幹部としての私たちの最後の責務です』

 

ブツンッ――!

 

一方的に通信が切断され、モニターはただの冷たい砂嵐へと変わった。

 

「抹殺……? 社会的に……私たちを抹殺するって……?」

 

真姫ちゃんが過呼吸を起こし、私の胸の中で発作のように激しく痙攣し始めた。

「嫌……嫌あぁぁぁっ! お父さん……お母さん……助けて……っ! 穂乃果……っ! 私を置いていかないでぇぇぇっ!!」

「真姫ちゃん! しっかりして、真姫ちゃん……っ!」

 

パニックを起こした真姫ちゃんを必死で押さえつけるが、彼女の絶叫は狭い鉄の箱の中に空しく響き渡るだけだった。

 

そして、その時。

 

ザザッ……ザザザッ……。

 

外の激しい雨音に紛れて、遠くから聞こえてきたのは――。

1台や2台ではない。重厚なエンジンの地響きと、山道を逃げ場のないように囲い込むようにじわじわと迫ってくる、複数の車両の足音だった。

 

「来たわね……本家の手先どもが」

 

にこ先輩が、狂気と歓喜の入り混じった得体の知れない笑みを浮かべ、キーを強く握りしめた。

 

「逃げるわよ、穂乃果! 真姫! あたしたちの輝きを横取りしようとする奴ら全員、地獄の底まで連れて行ってあげるわ!!」

 

暗闇の山道。包囲網の網目が、急速に、かつ確実に狭まっていく中で、ガタガタと震える真姫ちゃんの体を強く抱きしめながら、私は破滅へと向かうアクセルが踏み込まれる音を聴いていた――。




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