【ラブライブ!×伝説巨神イデオン】伝説ラブライブ! イデオン ~サンライズ50周年記念・因果の地平へ~ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
雨に濡れた黒い舗道。燃え盛るロケバスの残骸が、歓楽街の裏路地を血のような不吉な赤に染め上げていた。
「う……嘘……嘘でしょ……っ! 私たちの……私たちのソロシップが……っ!」
真姫ちゃんが両膝をアスファルトにつき、冷たい雨水と自分の泥で汚れながら絶叫した。
私たちが帰る場所であり、過酷な逃避行の唯一の家だったロケバス。それが本家の手配した大型レッカーによって無残に押し潰され、黒煙を上げて骨組みだけに成り果てていた。
退路の完全な断絶。
後ろを振り返れば、本家幹部たちの号令によって警察車両のサイレン音が網の目を狭めるように、すぐそこまで迫っていた。
「泣いている暇なんてないわよ! 走りなさい!!」
にこ先輩が真姫ちゃんの名残惜しげな細い腕を強引に引っ張り上げる。
手元には、昨夜の裏営業で客から巻き上げた、血と泥の匂いがする生々しい札束の束。
私たちは雨の歓楽街を、まるで這いずり回る泥鼠のように、身を寄せ合って逃げ続けた。
着の身着のままで逃げ込んだのは、高級クラブや怪しげな風俗店が隙間なく立ち並ぶ、歓楽街の最奥に位置する雑居ビルだった。
冷たい雨に打たれながら、狭いビルの隙間で肩を寄せ合う私たちの身体は、恐怖と極限の寒さでガタガタと震えていた。
「寒……い……。穂乃果、温めて……っ」
凛ちゃんが私の首筋に冷え切った顔を埋め、縋りつくようにしがみついてくる。
濡れた制服の布地越しに伝わってくるのは、可憐な少女の震える体温と、動物的な荒い息遣い。
追いつめられた極限状態の中で、私たちは互いの肌の温もりを強く求め合い、抱き合うことでしか精神の均衡を保てなくなっていた。
それは不潔で、排他的で、どこか性的ですらある、歪み切った生存本能の表れだった。
「……いつまでそうやって動物みたいに舐め合ってるつもり?」
暗がりから、にこ先輩の冷ややかな声が落ちた。
にこ先輩は煙草の煙のような深い溜め息を吐くと、暗号化された通話アプリを操作し、ある人物へと発信した。
画面に映し出されたのは、仕立てのいい高級スーツを着た中年男性の姿。
スクールアイドル界の裏で暗躍する大物の芸能パトロン――いわゆる裏社会のタニマチだった。
「やあ、噂の2代目矢澤にこちゃんじゃないか。逃亡生活もいよいよ年貢の納め時かな? バスも燃やされ、本家からも警察からも全方位から追撃を受けているそうじゃないか」
男の嘲笑うような、ねっとりとした声がスピーカーから漏れ出す。
「無駄話はいらないわ。あたしたちに資金と新しい足、そして本家の追跡をかわす隠れ家を用意しなさい」
「ハハハ! 相変わらず強気だねぇ。いいとも、君たちの逃走資金、手打ち金の肩代わり、新しい移動手段……すべて用意してあげよう。億単位の金でも構わないさ」
男の瞳に、下品でドロドロとした欲望の光が宿る。
「ただし――条件がある」
「条件……?」
「君たち1年生の予備候補も含めた全員で、私の所有する高級ホテルの最上階へ来ることだ。そこで私と、私の投資家仲間たちを相手に……特別な接待をしてもらう。夜通しね」
「っ……!?」
真姫ちゃんの顔から、わずかに残っていた血の気が完全に引いた。
「密室での……接待……!? タニマチの大人たちに、私たちの身体を……差し出せって言うんですか!?」
「嫌なら断ってくれて構わないよ? ただし、あと10分もすれば警察の特殊部隊がその路地裏を完全包囲する。君たちは逮捕され、社会的にも人生を完全に終えることになるがね」
男はくすくすと下劣に笑い、ホテルのルームキーの暗証番号を画面に送信してきた。
「断るわけ……ないじゃない」
にこ先輩は一切の迷いもなく、冷徹に言い放った。
「にこ先輩!? 駄目です、そんなの絶対に駄目です!!」
私が叫び、にこ先輩の肩を掴んだ。
「そんなの……ただの身売りじゃないですか! アイドルとしてのプライドも、女の子としての尊厳も……全部捨てることになるんですよ!?」
「プライドぉ!?」
にこ先輩が激しい力で私の手を振り払い、私の胸元を強く突き飛ばした。
「プライドで命が買えるの!? 綺麗事で新しいソロシップが手に入るの!? あたしたちは2代目μ'sなのよ! 一番になって、宇宙一の看板になるためなら……身体の一部分くらい、誇らしく差し出してやるわよ!!」
にこ先輩の瞳には、狂気と、底なしの自己保存のエゴがどろりと燃え盛っていた。
その圧倒的な狂心と威圧感に当てられ、私は息を呑み、言葉を失った。
あぁ……私たちはついに、アイドルとしても、人間としての最後の倫理すらも……完全に売り払ってしまうんだ。
深夜3時。高級ホテルの最上階、絢爛豪華なスイートルーム。
重厚な絨毯が敷き詰められた閉ざされた密室で、私たちはタニマチの男たちと対峙していた。
ワイングラスを傾ける大人たちの下品で値踏みするような視線が、雨と泥に濡れた音ノ木坂の制服を身に纏う私たちの首筋、鎖骨、胸元、そして太ももを舐めるように這い回る。
「ほう……これがネットを騒がせている不法襲名の少女たちか。実に生々しくていい生肌をしている」
「本家の綺麗なお人形さんたちより、こういう泥に塗れた淫乱な子たちの方がよっぽどそそるねぇ」
男の手が、真姫ちゃんの細い肩へ、そして制服のボタンへと容赦なく伸びていく。
「ひっ……! や、やめて……触らないでよ……っ!」
真姫ちゃんが恐怖で涙をこぼし、全身を縮こまらせて震える。
「我慢しなさい真姫! 綺麗な笑顔を見せるのよ!!」
にこ先輩が冷たく叱責し、自らもパトロンの男の膝の上へと跨るように乗り込み、甘い吐息を吹きかけながら男の首に腕を回した。
「さあ……お望みの接待をしてあげるわ。だからお金を出しなさい……あたしたちを一番にするための資金を、たっぷり出しなさいよ……っ!」
金と引き換えに切り売りされる、私たち自身の尊厳。
男たちの太い指が肌を這い回り、下劣な吐息が首筋を汚していく。
耐え難い屈辱と、底なしの絶望。
だが、その代償として、目の前のテーブルの上には見たこともないような札束の山と、新しい大型ロケバスの鍵が次々と叩きつけられていく。
(あ……あはは……。すごい……お金だ……。これで私たちは、また走れる……にこ先輩のそばにいられる……っ!)
愛されたいという歪んだ欲求と、生き延びるための肉体の売買。
不潔な快楽と絶望が脳内でグロテスクに混ざり合い、私の倫理観は跡形もなく崩壊していった。
狂気の燃料が、乙女たちの不潔な堕落と引き換えに、どろどろと激しく燃え上がっていく。
「さあ! もっと出しなさい! あたしたちの輝きの値段は、こんなもんじゃないわよ!!」
にこ先輩が札束を胸元に抱き抱え、狂喜に満ちた恍惚の表情で叫んだ、その時だった。
ドカンッ――!!!
スイートルームの重厚な防音ドアが、爆発的な衝撃とともに内側へ向かって吹き飛んだ!
きゃああああっ!?
耳を劈く悲鳴が上がる中、爆風と煙を切り裂いて乱入してきたのは――。
警察の捜査員たち……ではなかった。
それは、私たちがパトロンと密室に入ったという情報をどこからか聞きつけ、激しい嫉妬と怒りで狂乱した、狂信的男性ファンたちの暴徒の群れだった!
「にこちゃぁぁぁん! 金で買おうとした汚い大人どもを全員殺せぇぇぇっ!」
「俺たちのアイドルを汚すなあああっ!」
手に鉄パイプや刃物を持った男たちが、パトロンの大人たちへ一斉に襲いかかり、絢爛なスイートルームは一瞬にして血煙が舞う地獄絵図へと変貌した!
「ひっ……!? な……何よこいつらは!?」
パトロンの男が悲鳴を上げ、背中を刺されて血を噴き出す。
「逃げるわよ穂乃果! 鍵と現金を奪いなさい!!」
にこ先輩が叫び、血の海と化した室内で札束とバスの鍵を容赦なくひったくる。
しかし、暴徒の男たちの血走った狂気が、今度は逃げ出そうとする私たちへと向けられた!
「逃がさないぞにこちゃん! 俺たちのものになれぇぇぇっ!」
狂気の刃物を振りかざすファンたちと、血を流して床に倒れ込む大人たち。
その凄惨な惨劇の現場へと、さらに追撃のサイレンを最高音量で鳴らした本家幹部側の警察車両が、建物の周囲を完全に包囲するように一斉に押し寄せてきた。
狂気と愛憎の焦土。
密室の地獄の中で、私たちの逃避行はさらなる泥沼の血塗られた惨劇へと加速していく――!
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