TSした俺は爆乳美少女 ~爆乳お姉さんたちに愛される百合ハーレム迷宮譚~ 作:TS百合好き
「ベルナさんのお店ですか?」
食堂で片付けをしていたミアさんは、俺たちの行き先を聞いた途端、ぱっと表情を明るくした。
「はい。リオナが紹介してくれるそうで」
「それなら安心ですね。ベルナさん、腕の良い職人さんですから!」
「ミアも知ってるの?」
「もちろんです。私も以前、お世話になったことがありますよ。普通のお店では難しい注文でも、きちんと相談に乗ってくださるんです」
リオナだけでなくミアさんまで知っているとは、よほど評判の良い職人なのだろう。少し期待が膨らんだところで、ミアさんが俺の服装を見て何かに気づいたように手を打った。
「それでしたら、レインちゃん。外套を貸しますね。今の服だと、外を歩くのは少し大変でしょう?」
「ありがとうございます。……何から何まですみません」
「もう、謝ってばかりいないでください。困っているときは遠慮しなくていいんですから」
そう言って奥から持ってきてくれたのは、ゆったりとした作りの外套だった。柔らかな生地が身体の線を隠してくれるうえ、胸元にも余裕があり、今の俺でも無理なく羽織れそうだ。
「わあ、助かります。これなら外を歩けそうです」
「ふふ、良かったです。ベルナさんには、身体に合うものをしっかり作ってもらってくださいね」
「はい!」
「それと、レインちゃん」
「何ですか?」
「……無理はしないでくださいね?」
先ほどまでの笑顔とは違う、真剣な眼差しを向けられる。俺が意識を失って宿へ運び込まれたとき、ミアさんにも随分と心配をかけてしまったのだろう。
「大丈夫です。リオナも一緒ですから」
「……そうですね。それなら安心です」
ようやく笑顔に戻ったミアさんに見送られ、俺たちは宿を後にした。
◇
女の子になってから初めて、まともに街を歩く。
迷宮都市の通りは相変わらず賑やかで、探索者たちが行き交う傍らでは商人が声を張り上げ、道端では子供たちが元気に駆け回っていた。もう一年以上も暮らしている街なのだから、何もかも見慣れた光景のはずだ。
ところが、以前より24センチも低くなった目線から眺める街並みは、思っていた以上に違って見えた。
店先の看板は妙に高く感じられるし、すれ違う人々の肩や背中も以前よりずっと近い。男だった頃なら何気なく見渡せていた人混みも、今では少し背伸びをしなければ向こう側が見えないことさえある。
たった一日で街が変わってしまうはずもないのに、まるで初めて訪れた場所を歩いているような気分だった。
おまけに、落ち着かない理由はそれだけではない。通りを進むたび、すれ違う人々から妙に視線を向けられているのだ。
「……なあ、リオナ」
「何?」
「……何か、さっきから見られてないか?」
「まあ、そうでしょうね」
「そうでしょうね、って……」
「あんた、自分の姿を忘れてない?」
そう言われて、ぐっと言葉に詰まる。
今の俺は栗色の長い髪と琥珀色の瞳を持つ、小柄な美少女だ。外套で身体を隠しているとはいえ、規格外の胸元まで完全に誤魔化せているわけではない。目立たないようにしているつもりでも、周囲からすれば相当に人目を引く姿なのだろう。
「……女の子って、こんなに視線を集めるものなんだな」
「女の子だからっていうより、あんたの場合は……まあ、色々とね」
「何だよ、その言い方」
「自分で考えなさい」
リオナは小さく笑っているが、俺としてはまったく笑い事ではない。男だった頃は綺麗な女性を見かけると、つい視線を向けてしまうこともあった。しかし、いざ自分が見られる側になってみると、こんなにも落ち着かないものなのか。
……これからは、俺も少し気をつけよう。
そんなことを考えながら歩いているうちに、リオナが一軒の店の前で足を止めた。
「着いたわよ」
「ここか……」
店先には衣服を模した看板と、魔導具を示す紋様が掲げられていた。窓の向こうには色とりどりの生地や装飾品が並んでいるが、棚の一角には金属製の部品や魔石を組み込んだ道具も見える。確かに、普通の仕立て屋とは少し違うらしい。
リオナが慣れた様子で扉を押すと、小さな鈴の音が店内に響いた。
「ベルナさん、いる?」
「はぁい。ちょっと待ってくださいねぇ」
奥から返ってきたのは、のんびりとした柔らかな声だった。ほどなくして姿を現したのは、仕事用のエプロンを身につけたドワーフの女性。
小柄ながらもしっかりとした体つきで、袖をまくった腕には職人らしい力強さがある。優しそうな顔立ちと穏やかな雰囲気が印象的だったが、エプロン越しにも分かる豊かな胸元には、思わず視線が引き寄せられてしまった。
……いや、別にそこばかり見ているつもりはない。ただ、今の俺は自分の身体について悩んでいる真っ最中なので、どうしても気になってしまうのだ。
「あらぁ、リオナちゃん。久しぶりねぇ」
「こんにちは、ベルナさん。急に来ちゃってごめんなさい」
「いいのよぉ。ちょうど手が空いたところだったから。それで、今日は装備の修理かしら?」
「それもお願いしたいんだけど、今日は別の相談があって」
「別の相談~?」
そこで初めて、ベルナさんと呼ばれた女性の視線が俺に向けられた。目が合ったので慌てて頭を下げると、彼女は一瞬目を丸くしたあと、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。
「初めまして。レインといいます」
「あらあら……まあ、可愛らしいお嬢さんねぇ。初めまして、私はベルナよ。魔法衣装と魔導具を作っているの」
「よろしくお願いします、ベルナさん」
「ふふ。礼儀正しい子ねぇ。リオナちゃんのお友達?」
「ええと、その……」
どう説明すればいいのか迷っていると、見かねたリオナが横から助け舟を出してくれた。
「ベルナさん、ちょっと事情が複雑なの。できれば奥で相談させてもらえる?」
「あら、そうなの? もちろんいいわよぉ。さあ、こっちへいらっしゃい」
余計な詮索をすることもなく案内された店の奥は、工房になっていた。作業台には布地や糸、魔石に小さな金属部品が所狭しと並び、壁際には製作途中の衣装がいくつも掛けられている。丈夫そうな探索者向けの服もあり、衣装と魔導具の両方を扱うという話に、ようやく納得がいった。
「それじゃあ、お話を聞きましょうかぁ」
椅子を勧められて腰を下ろすと、リオナが迷宮で起きたことを順に説明してくれた。隠し通路の先で宝物庫を発見したこと、守護者を倒したこと、そして謎の魔法陣が突然起動し、俺の身体を作り替えてしまったこと。
もちろん、宝物庫の詳しい場所など、必要のない情報までは話していない。それでも衣装の相談をする以上、女性化の事情だけは伝えておく必要があるだろう。
「……というわけで、レインは元々男だったんです」
「あらまぁ……」
事情を聞き終えたベルナさんは、驚いたように俺を見つめたものの、すぐに心配そうな表情を浮かべた。
「それはまた、大変だったわねぇ」
「……はい。俺自身、まだ何が何だか分からなくて」
「そうでしょうねぇ。昨日まで男の子だったのに、急に女の子になってしまったんですもの」
ベルナさんはしばらく俺の姿を観察したあと、何かに納得したように頷いた。
「でも、そういうことなら分かったわ。まだ自分の身体に慣れていないのね?」
「……分かりますか?」
「ええ。お店に入ってきたときから、少し歩きにくそうにしていたから。特に、身体の前側を気にしているみたいだったしねぇ」
外套で隠していたつもりだったのに、動き方を見ただけで分かってしまうとは。さすがは衣装を専門に扱う職人である。
「それで、今の身体に合う服を作ってもらいたいんです。普通のお店じゃ、なかなか難しそうで……」
「ふふ、なるほどねぇ。それなら私に任せてちょうだい。こう見えても、少し変わった体型のお客さんは何人も相手にしてきたのよ」
穏やかな口調ながら、その言葉には揺るぎない自信があった。思わずリオナと顔を見合わせた俺は、ようやく救いの手が見つかったような気持ちで頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「ただ、まずは採寸が必要ねぇ。今の服だと、身体を十分に支えられていないでしょう?」
「はい……。昨日、宿で測ってもらったんですけど」
「あら、もう測ってあるの? それなら数字を教えてもらってもいいかしら」
「ええと……」
聞かれて、思わず言葉に詰まってしまった。服を作ってもらうためには隠しても仕方ないのだが、昨日知ったばかりの数字を人前で口にするのは、どうにも気恥ずかしい。
「身長が154センチで、バストが150センチ。ウエストが55センチで、ヒップが105センチです」
「…………」
ベルナさんの動きが、ぴたりと止まった。工房に短い沈黙が落ち、俺のほうが不安になって声をかける。
「あの……ベルナさん?」
「……ごめんなさいねぇ。ちょっと、もう一度聞いてもいいかしら」
仕方なく繰り返すと、彼女は俺の胸元へゆっくりと視線を落とし、今度は職人らしい真剣な顔で小さく息をついた。
「……まあぁ。なるほどねぇ。確かにこれは、普通のお洋服だと難しいでしょうね」
「……ですよね」
「ええ。でも、作れないわけじゃないわよ。むしろ、こういうときこそ魔法衣装の出番ねぇ」
ベルナさんはそう言って作業台へ向かうと、柔らかな生地と細い糸を取り出した。よく見ると、その糸には微かな魔力が宿っているらしい。
「普通の布だけで支えようとすると、どうしても肩や背中に負担がかかってしまうの。だから、魔力を通す糸を組み込んで、身体全体に重さを分散させるようにするのよぉ」
「そんなことができるんですか?」
「もちろん。魔法衣装って、見た目を綺麗にするだけのものじゃないもの。探索者が動きやすくなるように工夫するのも、私たちの仕事なのよ」
説明によれば、胸元を無理に締めつけるのではなく、身体の形に合わせて支えを作り、腰や背中に負担を逃がすのだという。さらに魔力を使って衣服のずれを抑えることで、大きく動いたときにも身体を支えられるらしい。話を聞けば聞くほど、今の俺に必要なものに思えてきた。
「……それなら、今よりずっと動きやすくなりそうですね」
「ええ。ただし、衣装で全部解決できるわけではないわよぉ。身体の重心が変わっている以上、歩き方や戦い方には少しずつ慣れていく必要があるでしょうね」
「ですよね……」
「でも、大丈夫。慌てなくていいのよ。自分の身体なんだから、少しずつ付き合っていけばいいんです」
その口調には、初対面の相手まで安心させる不思議な温かさがあった。職人としての確かな腕と、困っている客を放っておけない優しさ。リオナが紹介してくれた理由も、ようやく分かった気がする。
「それでねぇ、レインちゃん。新しい衣装が完成するまでの間、少しでも楽に過ごせるようにしておきましょうかぁ」
「えっ、どういうことですか?」
「今のお洋服に合わせられる、簡単な補助具を作ってあげようと思ってねぇ。本格的な魔法衣装ほどの効果はないけれど、身体を支えるだけなら今日中に用意できると思うわよ」
「ありがとうございます! あ、それと、お代はちゃんとお支払いしますので!」
「ふふ、もちろんいただくわよぉ。でも、詳しい費用は衣装の仕様が決まってからね。まずはレインちゃんが少しでも楽に動けるようにしてあげましょう」
「はい! 本当にありがとうございます!」
嬉しさのあまり勢いよく頭を下げた途端、胸元がぐらりと揺れ、慌てて身体を起こす羽目になった。
「わっ!?」
「あらあら、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……!」
「ふふ。そういうところも、少しずつ慣れていきましょうねぇ」
ベルナさんは俺の失敗を笑うこともなく、ただ穏やかに頷いてくれた。その態度が何ともありがたくて、俺はもう一度、今度は慎重に頭を下げたのだった。
◇
その後はベルナさんに改めて採寸してもらいながら、どんな衣装が必要なのか相談することになった。身長や胸囲はもちろん、肩幅や腕の長さ、腰回りの動かしやすさまで細かく確認される。どうやら魔法衣装というのは、単に身体の寸法に合わせて縫えば完成するものではないらしい。
「レインちゃんは元々、剣と盾を使っていたのよね?」
「はい。身体強化を使いながら、前衛で戦っていました」
「そうなのねぇ。なら、腕や肩を動かしやすい構造にしたほうがいいわね。胸元を支えるだけなら簡単だけど、それで剣が振れなくなったら意味がないもの」
「確かに……」
思わず頷く。どれほど着心地の良い服でも、探索者として動けなければ困るのだ。元に戻る方法がすぐに見つかるとは限らない以上、今の身体でも戦えるようになる必要があるだろう。
「それと、装備についてなんだけど」
そこでリオナが口を開き、持ってきた袋に手を伸ばした。
「レインの前の装備も持ってきたんです。今の身体に合わせて直せるか、見てもらえませんか?」
「あら、もちろんいいわよぉ」
取り出した長剣と盾を作業台に置くと、ベルナさんは柄の太さや刃の長さ、盾の固定具を手際よく確かめ始めた。先ほどまでのんびり話していたのが嘘のように、道具を扱う指先には迷いがない。
「うーん……剣のほうは少し難しいかもしれないわねぇ。今のレインちゃんには、ちょっと長すぎると思うの」
「やっぱりそうですか」
「ええ。ただ、無理に短くしてしまうのももったいないから、これはいったん保管しておいたほうがいいんじゃないかしら。盾のほうは固定具を調整すれば使えると思うわよ」
「なるほど……」
長年使ってきた剣には思い入れがあるし、身体が変わったからといって簡単に手放すつもりはない。今の俺には長すぎるというのも事実だが、これまで培ってきた剣の技術まで失われたわけではないのだ。
ひとまず無理な改造はせず、新しい身体の扱い方を覚えてから、もう一度試してみるのが良さそうだ。
「ところで、レインちゃん。身体強化以外の魔術は使えるの?」
「ええと……元々はあまり得意じゃなかったんですけど、今はちょっと分からなくて」
「あら?」
「身体が変わったとき、魔力の感覚も変わってしまったみたいなんです」
俺の説明を聞いたベルナさんは、興味深そうに目を細めた。今まで身体強化を中心に戦ってきた俺にとって、魔力の感覚まで変わってしまったのは大きな問題なのだが、専門家の目には別の可能性も映っているらしい。
「……なるほどねぇ。それなら、今までと同じ戦い方にこだわらないほうがいいかもしれないわね」
「やっぱり、そう思いますか?」
「ええ。魔力量や魔力の流れが変わっているなら、得意なことも変わっている可能性があるもの。ただ、それを確かめるのは私の専門じゃないから……」
ベルナさんは少し考え込むと、何かを思いついたように微笑んだ。
「そうねぇ。今度、そういうことに詳しい知り合いを紹介してあげましょうか」
「詳しい知り合い?」
「魔術の研究をしている人なの。ちょっと変わった人だけど、腕は確かよぉ」
「へえ……」
魔術の研究者なら、今の俺の身体に起きた変化について何か分かるかもしれない。詳しい話を聞いてみようと思ったところで、今度はリオナがもう一つの荷物を取り出した。
「あの、ベルナさん。実はもう一つ、見てもらいたいものがあって」
「あら、何かしら?」
「これなんですけど……」
作業台に置かれたのは、布に包まれた例の魔導銃だった。ベルナさんは最初こそ不思議そうに眺めていたが、リオナが布を取り払った瞬間、表情を一変させる。
「…………えっ?」
穏やかな声が途切れ、彼女は目を見開いたまま作業台へ身を乗り出した。
「ちょ、ちょっと待ってねぇ。これ……」
それまでのゆったりした口調が少しだけ早くなる。ベルナさんは慎重に本体を持ち上げると、銃身や刻まれた紋様を何度も確かめ始めた。その表情は、先ほど俺の剣と盾を見ていたとき以上に真剣だ。
「……まさか、魔導銃?」
「はい。宝物庫にあったんです」
「まあぁ……! 本当に驚いたわ。こんなもの、そう簡単に見つかる品物じゃないのよぉ」
「やっぱり、相当珍しいんですね」
「珍しいなんてものじゃないわ。魔導銃は、今の技術では新しく作れないと言われているもの。迷宮から発見された現物を調べるくらいしか、私たちにできることはないのよ」
ベルナさんは銃身の紋様を指先で追いながら、感心したように何度も頷いている。職人としては、滅多に触れられない貴重な品なのだろう。
「しかも、見たところ保存状態が良いわねぇ。壊れている様子もないし……」
「使えるんでしょうか?」
「それはまだ分からないわ。外側が無事でも、中の仕組みが正常とは限らないもの。無理に動かすのは危ないから、まずはきちんと調べる必要があるわね」
希少な武器とはいえ、使い方も分からないまま試して事故を起こしては元も子もない。ここは専門家の判断に任せるべきだろう。
「……じゃあ、これもベルナさんにお願いできますか?」
「ええ、もちろん。私で分かる範囲になるけど、調べてみるわねぇ」
「ありがとうございます」
「ふふ。今日は珍しいものを二つも見せてもらっちゃったわ」
「二つ?」
首を傾げた俺へ、ベルナさんが楽しそうな視線を向ける。
「魔導銃と、レインちゃんよ」
「……俺ですか!?」
「ええ。だって、男の子が魔法陣で女の子になってしまったんでしょう? そんな話、私も初めて聞いたもの」
「そ、それはそうですけど……!」
「しかも、こんなに可愛らしい姿になるなんてねぇ。どんな魔術が使われたのか、ちょっと興味があるわ」
どうやら、俺の身体の変化まで職人としての好奇心を刺激してしまったらしい。珍しい魔導銃と一緒に扱われるのは何とも複雑な気分だが、そんな俺の戸惑いに気づいたのか、ベルナさんはすぐに声を和らげた。
「……でも、心配しなくていいのよ。今の身体に困っているなら、まずは生活しやすくすることが大切だもの。魔術の研究だとか、珍しい現象だとか、そういう話はその後でいいの」
「……ベルナさん」
「元に戻る方法を探すのも大事だけど、それまでの間、レインちゃんが不自由な思いをしなくて済むようにしたいわねぇ」
その言葉が、思いのほか胸に染みた。昨日から俺は、元に戻ることばかり考えている。それは今でも変わらないし、諦めるつもりもない。ただ、いつ戻れるか分からない以上、今の身体でも暮らしていかなければならないのだ。
「……ありがとうございます。そう言ってもらえると、助かります」
「ふふ。どういたしまして」
ベルナさんは優しく微笑むと、作業台に広げた布地を手に取り、楽しそうに色や手触りを確かめ始めた。
「それじゃあ、まずはレインちゃんのための衣装を考えましょうか。せっかく作るんだもの、動きやすくて、可愛らしいものにしたいわねぇ」
「えっ、いや、可愛らしさは別に……」
「あら、駄目?」
「駄目ってわけじゃないですけど、俺は探索者なので、できれば実用性を重視してもらえると……」
「もちろんよぉ。実用性は大前提。でも、可愛いものを着る楽しさだって、知ってもらいたいもの」
そう言って色とりどりの布を選び始めるベルナさんを見て、俺は何とも言えない気分になった。
嫌だと断るほどではないし、せっかく作ってもらう以上、見た目が良いに越したことはない。しかし、昨日まで男だった身としては、女の子らしい衣装を積極的に選ぶ覚悟など、まだできていなかった。
「ふふ。楽しみねぇ、レインちゃん」
「……お手柔らかにお願いします」
「いいじゃない。似合う服を作ってもらえば」
「リオナまで……」
「大丈夫よ。きっと似合うから」
隣で楽しそうに笑っているリオナにそう言われ、ますます落ち着かなくなる。男だった頃なら、女性に服装を褒められれば素直に喜べたはずだ。それなのに今では、可愛い服が似合うと言われる側になってしまったのだから、何とも複雑である。
◇
衣装の相談がひと段落すると、ベルナさんは手持ちの材料を使い、今の俺でも身体を支えられるように簡単な補助具を調整してくれた。本格的な魔法衣装の完成にはまだ時間がかかるものの、それまでの間、少しでも動きやすくするための応急処置らしい。
さっそく試着して歩いてみたところ、思っていた以上の違いに驚かされた。
「……あれ?」
胸の重量そのものがなくなったわけではないが、歩いたときの揺れが抑えられ、肩や背中にかかる負担も軽くなっている。何より、動くたびに胸元を気にして身体を強張らせる必要がなくなったのがありがたい。
「凄い……! 全然違います!」
「あら、それは良かったわぁ。まだ仮のものだから、無理はしないでね。ちゃんとした衣装なら、もっと身体に合わせて調整できると思うわよ」
「ありがとうございます!」
「ふふ。そんなに喜んでもらえるなら、職人冥利に尽きるわねぇ」
ベルナさんは心から嬉しそうに微笑んだ。その姿に、衣装を作ることが本当に好きな人なのだろうと感じる。
「レイン、どう? 少しは楽になった?」
「ああ。かなり違うよ、リオナ。これなら外を歩くのも随分楽になりそうだ」
「それなら良かったわ」
ほっとしたように笑うリオナを見て、改めて自分がどれほど心配をかけていたのかを思い知った。身体が変わって以来、彼女には助けられてばかりだし、今日もわざわざ宝物庫まで戻ってくれたのだ。
「本当にありがとう。ベルナさんも、リオナも」
「いいのよぉ。また困ったことがあったら相談してちょうだい」
「……まったく、今さら何言ってるのよ。あんたと私は相棒でしょ?」
リオナは照れ隠しでもするように肩をすくめたが、その言葉が嬉しくて自然と笑みが浮かぶ。
「……そうだな。これからもよろしく頼むよ」
「ええ。こちらこそ」
こうして俺たちはベルナさんに改めて礼を告げ、店を後にすることになった。
魔導銃は詳しい調査のためにベルナさんへ預け、盾についても固定具の調整をお願いしてきた。新しい魔法衣装の採寸と相談も済ませてあるので、あとは必要な材料や費用が決まり次第、連絡をもらうことになっている。
長剣だけは加工せず、俺たちが持ち帰ることにした。すべてがすぐに解決するわけではないが、ひとまず今後の見通しは立ったと言っていいだろう。
「さて、レイン。明日は教会ね」
「ああ。そっちも早く何とかしたいからな」
「そうね。せめて原因だけでも分かるといいんだけど」
夕暮れの街を歩きながら、俺はリオナの言葉に頷いた。元に戻る方法が見つかるのか、それとも当分はこの身体で暮らさなければならないのか。原因さえ分からない現状では、探索者としての今後を決めることもできない。
それでも、ベルナさんに補助具を作ってもらえたおかげで、身体だけでなく気持ちまで少し軽くなった気がする。
昨日は何もかも失ってしまったように感じていたが、今日はリオナが大切な装備を取り戻してくれた。ミアさんは宿で面倒を見てくれているし、ベルナさんまで力になってくれるという。
姿が変わってしまっても、俺には頼れる人たちがいる。その事実だけは、忘れずにいたかった。
「……よし。明日も頑張るか」
「ふふ。何を頑張るのよ。教会で診てもらうだけでしょ?」
「いや、気合いくらい入れておこうと思って」
「変なところで前向きなんだから」
呆れたように笑うリオナにつられ、俺も小さく笑った。夕暮れの迷宮都市を二人並んで歩きながら、これからのことを考える。
俺の身体も、宝物庫に隠されていた魔法陣の正体も、探索者としての未来も、まだ何一つ分かっていない。それでも、昨日よりは確かに一歩前へ進めたはずだ。