TSした俺は爆乳美少女 ~爆乳お姉さんたちに愛される百合ハーレム迷宮譚~ 作:TS百合好き
「……アステリアさん?」
結晶に手を添えたまま呼びかけると、アステリアさんはようやく測定装置から顔を上げた。普段は落ち着いている彼女が、珍しく難しい表情をしていたものだから、何か身体に異常でも見つかったのかと不安になってしまう。
「失礼しました。少し予想外の結果が出たものですから、念のため、もう一度測定させていただいてもよろしいでしょうか?」
「それは構いませんけど……何か問題でもあったんですか?」
「身体に異常が見つかったわけではありませんので、ご安心ください。ただ、最初に設定した測定範囲では魔力量を正確に確認できなかったのです。測定値が、装置の設定上限に達してしまいまして」
「……えっ。それって、俺の魔力が多すぎたってことですか?」
「その可能性があります。ですが、装置の不調も考えられますから、まずは確認しましょう」
アステリアさんは俺に結晶から手を離すよう伝えると、台座に刻まれた術式を操作し始めた。どうやら、もっと大きな魔力量を測れるように設定を変えているらしい。
隣で見守っていたリオナも驚いた顔をしていたが、俺と目が合うと、小さく肩をすくめた。
「……ねえ、レイン。あんた、また何かとんでもないことになってるんじゃないでしょうね?」
「いや、俺に聞かれても困るって。男だった頃は、特別魔力が多かったわけでもないんだぞ?」
探索者になってから簡単な測定を受けたことはあるが、魔力量で注目された覚えはない。身体強化は得意だったものの、それだって地道に訓練してきた成果だ。女の子になってから魔力の感覚が変わったことには気づいていたが、まさか装置の上限に引っかかるほどだなんて思ってもみなかった。
「お待たせしました。今度は測定範囲を広げましたので、先ほどと同じようにお願いします」
「は、はい!」
改めて結晶へ手を置くと、台座の紋様が淡い紫色に輝き始めた。俺が身体の内側にある魔力を意識している間、アステリアさんは表示された結果を手元の記録と見比べ、やがて納得したように頷いた。
「……装置の故障ではなかったようですね。レインさん、あなたの魔力量は一般的な探索者と比べて、文字どおり桁違いです。私自身、これほどの魔力量を持つ方を調べる機会は滅多にありません」
「……桁違い、ですか。あの、それってアステリアさんと比べても多いんでしょうか?」
この国でも有数の魔術研究者である彼女なら、自分との違いも分かるのではないか。恐る恐る尋ねると、アステリアさんは少し考えてから答えた。
「単純な保有量だけなら、私と比べても遜色のない領域にあると思われます。ただし、魔力量と魔術の実力は別ですよ。いくら魔力を多く持っていても、術式を正確に制御できなければ、望んだ結果は得られません」
「……そ、そうですよね」
「大量の魔力を扱う際には、周囲やご自身を傷つける危険もあります。私が長年かけて身につけた技術まで、レインさんが最初から使えるわけではありませんから、その点は忘れないでくださいね」
俺は真剣に頷いた。筋力があるからといって誰もが一流の剣士になれるわけではないのと同じだ。それにしても、普通の探索者だった俺がアステリアさんに匹敵する魔力量を持っているなんて、さすがに実感が湧かなかった。
「……でも、どうしてこんなに増えたんでしょう。やっぱり、あの魔法陣が関係してるんでしょうか?」
「可能性は高いと思います。ただ、男性だった頃の詳細な測定記録がありませんし、肉体がどのように変化したのかも分かっていません。現段階では、原因を断定できませんね」
魔力が増えたのは嬉しいが、理由が分からないままでは手放しで喜べない。元の身体へ戻れたら、この魔力もなくなってしまうのだろうか。そんな疑問が顔に出ていたのか、アステリアさんは穏やかに言葉を続けた。
「今回の結果も、レインさんに起きた現象を調べるうえで重要な情報になるはずです。魔力の性質や流れを詳しく調べれば、元に戻す方法を探す手掛かりが見つかるかもしれません」
「……そうですか。それなら、引き続きよろしくお願いします!」
原因の調査はアステリアさんに任せ、俺は今の身体で何ができるのかを確かめることにした。
◇ ◇ ◇
「それでは、次は魔術の適性を調べてみましょう。魔力量が多いことは分かりましたが、どのような魔術を得意とするかは、また別の問題ですからね」
アステリアさんが用意したのは、いくつもの小さな結晶を組み込んだ魔導具だった。魔術を使った際の魔力の流れや安定性を記録できるらしい。
「まずは、以前から使っていたという身体強化をお願いします。ただし、実際に力を高めるのは最低限に留めてください。今の身体で急激に強化するのは危険ですから」
「分かりました。魔力を流すだけにしておきます」
目を閉じ、身体の内側に魔力を巡らせる。筋肉や骨格を支えるように循環させるのは、男だった頃から何年も繰り返してきた動作だ。ところが、いざ始めてみると、以前とは明らかに感覚が違っていた。
(……あれ? 何だこれ。ものすごく動かしやすいぞ?)
以前なら多少の抵抗を感じた場所にも、意識を向けただけですんなり魔力が流れていく。一度できた流れも途切れにくく、まるで身体の隅々まで新しい通り道ができたようだった。
「レインさん、以前との違いは感じますか?」
「はい。今までよりずっと滑らかです。身体強化には慣れてるつもりだったんですけど、こんなに簡単に魔力が動くのは初めてで……」
「測定結果を見ても、循環は非常に安定していますね。魔力を身体の内側に留め、流れを維持することには、かなり高い適性があるようです」
「本当ですか! それなら身体強化も、前より強くできたりするんでしょうか?」
「可能性はありますが、今は控えましょう。強化する力が大きくても、それに身体が耐えられるとは限りません。今の体格に合った動きを覚え直すことも大切ですよ」
先日の訓練場では、以前と同じつもりで剣を振っても間合いが合わず、何度も体勢を崩してしまった。魔力で無理に力や速度を上げたところで、その問題まで解決するわけではない。むしろ怪我をする危険が増えるだけだろう。
「……確かにそうですね。まずは今の身体に慣れないと」
「ええ。ただ、長年の経験まで失われたわけではありませんから、そこは大きな強みになるでしょう。それでは、次は攻撃魔術を試してみませんか?」
「……はい! ぜひお願いします!」
待ってました! 正直、今日一番楽しみにしていたのはこれである。
男だった頃から火球や雷撃のような攻撃魔術に憧れ、何度も練習してきた。結局は小さな火花を散らすのが精一杯だったが、身体も魔力の感覚も変わった今なら、もしかしたら使えるようになっているかもしれない。
「……アステリア先生。レインって、昔は火球を作ろうとしても小さな火花しか出せなかったんですよ。ずいぶん悔しがってました」
「おい、リオナ! わざわざそんなことまで言わなくてもいいだろ!?」
「以前との違いを調べるんでしょ? 大事な情報じゃない」
涼しい顔で言い返され、俺は口をつぐんだ。まったく、相棒というのは余計なことまでよく覚えている。
「ふふっ。それなら、以前練習した術式を使ってみましょう。火魔術の初歩ですね。万が一に備えて防護用の魔導具を起動しますので、小さな炎を作るところから始めてください」
アステリアさんが指先を動かすと、部屋の中央にある標的の周囲へ透明な膜が広がった。俺は右手を差し出し、昔覚えた術式を思い浮かべる。
魔力を掌へ集め、火の性質へ変化させる。何度試しても上手くいかなかったはずの魔術なのに、今回は指先の近くへ赤い光が生まれ、やがて小さな炎になって揺らめき始めた。
「……おおっ!? 出た! ちゃんと火が出てる!」
「本当だ! レイン、できてるじゃない!」
「ああ! 男だった頃は全然できなかったのに!」
自分でも驚くほど嬉しかった。小さな炎とはいえ、何年も苦手だった魔術が、初めてまともな形になったのだ。
「おめでとうございます。火属性の魔力を生み出すこと自体は、問題なさそうですね」
「ありがとうございます! このまま火球を飛ばしてみてもいいですか? せっかくなら標的に当ててみたくて!」
「ええ。ただし少量の魔力で、ゆっくり試してくださいね」
俺は掌の上の炎を丸くまとめ、標的へ向けて送り出す感覚を思い描いた。ここまでできたのなら、あとは飛ばすだけだ。
「……行けっ!」
右手を突き出した瞬間、炎がふっと消えてしまった。
「…………あれ?」
標的へ向かって飛ぶどころか、掌から離れた途端に跡形もなくなっている。しばらく右手を突き出したまま固まった俺は、慌ててもう一度試したが、やはり結果は同じだった。
「……何でだよ!? 作るところまではできるのに、飛ばそうとすると消えるんだけど!」
「……あんた、昔もそんなこと言ってたわね。でも、火が出せるようになっただけ進歩じゃない?」
「リオナ、今それ言う!? 俺としては、ようやく攻撃魔術が使えるって期待してたんだけど!」
困ったように笑うリオナを見ていると、何とも言えない気持ちになってくる。せっかく規格外の魔力量があると分かったのに、火球一つ飛ばせないなんて、あんまりではないだろうか。
そんな俺たちをよそに、アステリアさんは興味深そうに測定結果を確かめていた。
「……なるほど。レインさん、もう一度だけ炎を作っていただけますか? 今度は飛ばさず、掌の近くで維持することを意識してみてください」
言われたとおりにすると、炎は小さく揺れながらも安定して燃え続けた。少し形を変えてみても、魔力を送り込んでいる限りは消える気配がない。
「やはり、そうですか。どうやらレインさんは、魔力を身体から切り離し、遠くへ放つことが極端に苦手なようですね。火の性質へ変化させることも、近くで維持することもできていますが、遠くへ飛ばそうとすると、魔力の供給が途切れて術式が崩れてしまうようです」
「……じゃあ、俺、結局攻撃魔術は使えないんですか?」
「正確には、遠距離へ放つ形式の魔術との相性が悪いのでしょう。火属性そのものが苦手なわけではありませんし、攻撃に利用する方法がないとは限りませんよ」
「……そ、そうですか」
炎を作れるようになったのは確かな進歩だ。それでも、念願の火球を飛ばせなかったことが悔しくて、思わず肩を落としてしまう。
「ですが、私は興味深いと思います。身体強化では魔力の循環が安定し、炎も身体から魔力を供給している間は維持できていました。反対に、切り離した途端に術式が崩れる。……でしたら、魔力を自分の身体や接触しているものへ留める技術には、かなり高い適性があるのかもしれません」
「……接触しているもの、ですか?」
「ええ。例えば、付与魔術ですね」
◇ ◇ ◇
付与魔術なら、探索者である俺も知っている。剣に炎をまとわせたり、防具を魔力で補強したりする技術で、近接戦闘と魔術を組み合わせる魔法戦士には欠かせないものだ。ただし、身体強化と併用すれば消費や制御の負担も増えるため、両方を高い水準で扱える探索者は多くない。
「レインさんは、魔力を自分の身体や手にした道具へ流し続けることが得意なのかもしれません。それなら、付与魔術とは相性が良いはずです」
俺は先日、訓練場で試したグレイブを思い出した。今の短い腕でも間合いを補え、突きと斬り払いの両方に使える武器だ。もしあの刃に炎をまとわせられるなら、男だった頃の剣術とは違う可能性が生まれるかもしれない。
「……アステリアさん! よかったら、付与魔術も試してみていいですか? ちょうど新しい武器を探しているところなんです!」
「もちろんです。ただし、今日は適性の確認ですから、強い魔力を流さないでくださいね」
アステリアさんが棚から取り出したのは、細かな紋様が刻まれた金属製の短い棒だった。付与した魔力の反応を調べる練習用の道具だという。
「こちらを握り、先ほどと同じ火属性の魔力を表面へ行き渡らせてみてください。炎を飛ばすのではなく、金属に留めるよう意識するのがコツですよ」
「はい。ええと……こんな感じかな」
金属棒を握り、身体の内側から腕、掌へと魔力を流していく。その先にある金属へ意識を向けると、少し戸惑いながらも、魔力が自然と指先から伝わっていく感覚があった。
やがて棒の表面に赤い光が灯り、刻まれた紋様がゆっくりと輝き始めた。
「……おおっ! ちゃんと魔力が乗ってる!」
「ええ。初めてにしては、かなり安定した反応ですね。そのまま一定の量を保ってみてください」
言われたとおりに魔力を送り続けてみる。身体強化の延長のような感覚で、流れを維持すること自体は難しくなかった。ところが少し気を抜くと光が揺らぎ、慌てて調整した途端、今度は逆に強くなりすぎてしまった。
「うわっ、ちょっと……!」
「はい、そこまでにしましょう」
アステリアさんが装置を操作すると、赤い光は静かに収まった。どうやら、魔力が流れすぎたときに遮断できる仕組みらしい。
「すみません。途中までは上手くいってたんですけど……」
「初めてなら十分な結果ですよ。魔力を維持する適性は高いようですが、必要な量だけ正確に送り込むのは、まだ難しいのでしょう。レインさんの場合、魔力量が非常に多いこともありますから、少量を扱う練習が特に大切ですね」
「……なるほど。力任せに流したら、武器を壊しかねませんもんね」
「ええ。本格的に付与魔術を使うのであれば、熱や魔力の負荷に耐えられる武器も必要になりますよ」
そこで思い浮かんだのが、ベルナさんの顔だった。今の身体に合う防具をお願いしているし、魔導具や魔法の装備に詳しい彼女なら、付与魔術に向いたグレイブについても相談できるだろう。
「……あの、もう一つ聞いてもいいですか? 例えば、重力魔術で武器を振り下ろす瞬間だけ重くすることって、できるんでしょうか。普段は軽く扱って、攻撃するときだけ威力を上げられたら便利かなと思って」
俺の質問に、アステリアさんは少し考えるように片眼鏡へ指を添えた。
「理論上は可能ですし、似た発想の技術も研究されています。ただ、武器にかかる力を急激に変えれば、使用者の腕や身体にも負担がかかります。タイミングを誤れば体勢を崩しますし、武器の耐久性も問題になりますね」
「……じゃあ、身体強化と組み合わせれば?」
「負担を軽減できる可能性はありますが、二つの魔術を同時に制御する必要があります。今のレインさんには、まだ難しいでしょう。こうした武器の強化は他の魔法戦士も研究していますから、参考になる技術はあると思いますよ」
なるほど。俺だけが思いつく特別な方法というわけではないらしい。それでも、既に研究している人がいるのなら、学ぶ道筋もあるということだ。膨大な魔力と身体強化の経験を活かせれば、いつか実現できるかもしれない。
「……ただし、レインさん。今は絶対に自分で試さないでくださいね? まずは魔力の量を正確に制御できるようになることが先決です」
「は、はい! もちろんです!」
穏やかに注意されただけなのに、思わず背筋が伸びてしまった。専門家の忠告は、素直に聞いておこう。
◇ ◇ ◇
その後もいくつか簡単な魔術を試してみたが、結果はおおむね同じだった。
身体に沿わせる防御魔術では、薄い魔力の膜を作ることができた。まだ強い攻撃を防げるほどではないものの、魔力を近くに留める適性は高いようだ。一方、風の刃や単純な魔力弾は、身体から離れると途端に形が崩れてしまう。問題は火属性ではなく、魔力を切り離して遠くへ飛ばすことそのものにあるらしい。
「……つまり、遠距離攻撃はあまり向いてないってことなんですね」
「現時点ではそう考えるのが妥当でしょう。ただ、訓練によって改善する可能性もありますから、完全に使えないと断定するのは早いですよ」
遠くの敵を火球で倒すのは憧れだったが、今は新しい身体での戦い方を考え直しているところだ。苦手な分野にこだわるより、得意な技術を伸ばした方が、早く迷宮へ戻れるかもしれない。
「……アステリア先生。結局、レインにはどんな戦い方が合っているんでしょうか?」
それまで俺の検査を見守っていたリオナが尋ねると、アステリアさんは記録を確かめながら答えた。
「身体強化、付与魔術、それから身体の近くで維持する防御魔術に高い適性が見られます。近接戦闘の経験があるレインさんなら、それらを組み合わせた魔法戦士を目指すのは理にかなっていると思いますよ。ただし、どの技術も実戦で使うには訓練が必要です」
「……だったら俺、やっぱりグレイブを候補にしてみたいな。剣みたいに斬れるし、短くなった腕の間合いも補えるだろ? 付与魔術とも相性が良さそうだし」
「でも、両手で使うなら盾は持てないわよ。防御魔術を覚えられそうだからって、すぐに盾を捨てちゃ駄目だからね?」
「分かってるよ。防御魔術だってまだ薄い膜を作れるだけなんだし、使いこなせるようになってから決めるつもりだ」
そう答えると、リオナはようやく安心したように頷いた。
「……それならいいわ。あんたが前で敵を引きつけて、私が後ろから射撃するっていう基本は変わらないのね」
「そりゃそうだろ。俺は相変わらず遠くの敵を攻撃できないんだから、そこはリオナに任せたいよ。それに、俺が前で戦ってるとき、後ろから援護してくれる相棒がいると思うだけで安心できるしさ」
何気なくそう言うと、リオナは少し驚いたように目を見開き、それからふいっと顔を逸らした。赤茶色のポニーテールの下から覗いた耳が、心なしか赤い。
「……まったく。あんたって、本当にそういうことをさらっと言うんだから」
「ん? 俺、何か変なこと言ったか?」
「……何でもないわよ」
妙な反応をする相棒に首を傾げていると、アステリアさんが微笑んだ。
「お二人は、ずいぶん信頼し合っていらっしゃるのですね」
「はい! もう一年半も一緒に迷宮へ潜ってますから!」
「それなら、なおさらお互いの長所を大切になさってください。魔力量が多いからといって、何もかも一人でこなす必要はありませんよ」
その言葉は素直に胸に落ちた。今日の検査で思いがけない可能性は見つかったが、遠距離攻撃も魔力制御も、今の俺には不得意な部分が多い。それなら、これまでどおりリオナと力を合わせながら、自分のできることを増やしていけばいい。
「……アステリアさん。もしよかったら、これから魔術を教えてもらえませんか?」
気づけば、そんな言葉が口から出ていた。
「元の身体に戻る方法を探すつもりなのは変わりません。でも、いつ戻れるのか分からない以上、それまでの間も探索者として生きていきたいんです。今の身体でできることを覚えて、またリオナと迷宮へ潜れるようになりたくて……。もちろん、お仕事の都合もあるでしょうから、毎日とは言いません」
アステリアさんは黙って聞いていたが、やがて柔らかな笑みを浮かべた。
「そうですね。私としてもレインさんの魔力については引き続き調べたいと思っています。定期的に研究所へ来ていただけるなら、その際に魔力操作をお教えすることはできますよ」
「……本当ですか!? ありがとうございます!」
「ただし、まずは魔力制御の基礎からです。どれだけ才能があっても、焦って強力な術を使おうとしてはいけませんよ」
「もちろんです! 俺、こう見えて訓練は嫌いじゃないので!」
思わず勢いよく頭を下げると、アステリアさんは楽しそうに笑ってくれた。この国でも有数の研究者から直接教わる機会など、そうそうない。しかも相手は、前世のゲームで憧れていた美しいエルフのお姉さんだ。
……いや、もちろん真面目に習うつもりだけど!
「……レイン。あんた、今ちょっと余計なこと考えてたでしょ?」
「な、何も考えてないぞ!?」
「……ふうん?」
じとっとしたリオナの視線から、俺は慌てて顔を逸らした。……何で分かるんだよ。
◇ ◇ ◇
検査を終えた頃には、すっかり午後になっていた。
アステリアさんからは、次回までに無理のない範囲で魔力の循環を練習し、今の身体での動作にも少しずつ慣れるよう助言された。元に戻る方法の調査も続けてもらえるというし、今後は定期的に研究所を訪れることになりそうだ。
「それでは、決して急激に身体強化を高めようとはしないでくださいね。……リオナさんも、レインさんが無茶をしそうになったら止めて差し上げてください」
「はい! そこは任せてください!」
「……俺って、そんなに信用ないのかなぁ」
二人に揃って微笑まれると、何だか反論しづらい。今日だけでも魔力を流しすぎかけたのだから、少なくとも慎重になるべきなのは確かだった。
アステリアさんに礼を告げて研究所を出ると、迷宮都市には午後の陽射しが降り注いでいた。行き交う探索者たちを眺めながら、俺は今日分かったことを思い返す。
規格外の魔力量と、強化・付与・防御魔術への高い適性。その一方で、相変わらず苦手な遠距離攻撃。火球が飛ばせなかったのは残念だが、代わりに見つかった可能性は決して小さくない。
「……なあ、リオナ。今度ベルナさんのところに行って、新しい武器の相談をしてみないか? 今日の結果も伝えておきたいしさ」
「グレイブのことね。防具の相談も途中だったし、ちょうどいいと思うわ」
「ああ。でも、いきなり作ってもらうつもりはないよ。まずは魔術をちゃんと覚えて、どういう武器が合うのか確かめてからだな」
男だった頃のように剣と盾を扱えなくなったことは、今でも悔しい。けれど、これまでの経験を活かしながら新しい魔術を学べば、今の身体でも探索者として戦えるようになるかもしれない。
「……よし! まずは魔力制御の練習からだな。やることが増えて、何だか忙しくなりそうだ!」
「ふふっ。張り切るのはいいけど、無茶はしないでよ? せっかく元気になってきたんだから」
「分かってるって。ちゃんと基礎から頑張るよ!」
隣を歩くリオナに笑いかけると、彼女も安心したように微笑んでくれた。
元の身体へ戻る方法は、まだ見つかっていない。それでも、今の自分にできることが増えていくのなら、探索者としての未来を諦める必要はないはずだ。
またリオナと一緒に迷宮へ潜り、いつか今までより深い場所まで辿り着く。そんな未来を思い描きながら、俺は前を向いて歩き出した。