TSした俺は爆乳美少女 ~爆乳お姉さんたちに愛される百合ハーレム迷宮譚~ 作:TS百合好き
主人公はまだ男。
評価・感想お待ちしております。
男に生まれたからには、可愛い女の子にモテたい。できることなら一人や二人ではなく、たくさんの美女から好意を寄せられたいし、最終的には夢のハーレムを築いてみたい。
そんな実に分かりやすい野望を胸に抱きながら、日々を懸命に生きている青年がいた。
名前はレイン。年齢は十九歳。身長百七十八センチほどの鍛えられた身体に、栗色の髪と琥珀色の瞳を持つ、なかなか整った顔立ちの青年である。
彼が暮らしているのは、世界各国から探索者や商人、研究者などが集まる迷宮王国。その名のとおり、未だ最深部すら発見されていない超大型迷宮を擁する、中立を掲げた国家だった。
迷宮の内部には危険な魔物や罠が存在する一方、希少な素材や魔導具、時には莫大な財宝が眠っている。命の危険と引き換えに一攫千金を狙えることから、世界中の腕自慢が集まってくるのだが、そんな彼らを相手に商売をする者や、新たな発見を求める学者も少なくない。
レインもまた、一年半ほど前にこの国を訪れ、迷宮の探索によって得られる財宝や素材を持ち帰ることで生計を立てていた。
「おっと、大丈夫ですか?」
朝の迷宮都市。今日も多くの人々が行き交う大通りを歩いていたレインは、荷車の前で困り果てている老人に気づき、迷わず足を止めた。どうやら車輪が石畳の溝に深く嵌まってしまったらしく、老人が懸命に押しているものの、荷物を満載した荷車はびくともしない。
「おお、すまんねえ。ちょっと手を貸してもらえるかい?」
「もちろんです。俺がこちらを持ち上げますから、車輪が浮いたら前に押してください」
老人へそう告げると、レインは荷車の下へ手を差し込み、全身に薄く魔力を巡らせた。身体能力を一時的に高める身体強化の魔術である。商売用の荷物が山積みになっているとはいえ、日頃から身体を鍛えているうえに魔術の補助まであれば、車輪を持ち上げる程度は難しくない。
「よっ……と! はい、今です!」
「お、おおっ!」
レインが荷車を持ち上げたところで老人が力を込めると、車輪はあっさりと溝を抜けた。荷車が再び石畳の上に落ち着いたのを確認してから、レインはゆっくりと手を離す。
「いやあ、助かったよ。若いのに親切な兄ちゃんだねえ」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。それじゃ、俺はこれで」
何度も頭を下げる老人へ笑顔で応え、レインは再び歩き始めた。礼が欲しくて手伝ったわけではないし、これくらいのことで大げさに感謝されるのは少々気恥ずかしい。それでも、人助けをして悪い気分になるはずもなく、足取りは自然と軽くなっていた。
そんなレインへ声をかけてきたのは、通りに面した露店で店番をしていた若い女性だった。
「レイン君は相変わらず親切ねえ。今日も迷宮に行くの?」
「ええ、これからリオナと潜る予定です。あ、そうだ。今日も綺麗ですね、その髪飾り。新しく買ったんですか?」
「あら、気づいてくれたの? ふふっ、ありがとう。でも、そういうことを誰にでも言っていると、そのうち本命の子に怒られるわよ?」
「本命ができたら考えますよ。それまでは、綺麗なものを綺麗と言ったっていいでしょう?」
「もう、口が上手いんだから」
女性が楽しそうに笑うのを見て、レインも満足げに口元を緩めた。軽く手を振って店を離れると、背後からは「気をつけてね」という声が届き、彼は振り返らずに片手を上げて応える。
そう、レインは女の子が大好きだった。
もっとも、無節操に手を出したり、嫌がる相手をしつこく口説いたりするわけではない。相手の反応が悪ければすぐに引き下がるし、迷惑をかけてまで好意を得ようとは思わなかった。女性に好かれたいのであって、嫌われたいわけではないのだから当然である。
そもそも、粗暴で不潔な男よりも、清潔感があって礼儀正しく、困っている人に手を差し伸べられる男のほうがモテるに決まっている。少なくとも、レインはそう信じていた。
そんな考えから、レインは幼い頃より身だしなみや礼儀作法に気を配り、身体を鍛え、剣術や魔術の訓練にも励んできた。強くて頼りになり、しかも女性に優しい男。自分が女の子だったら、きっとそういう男を好きになるだろうと考えたのである。
その努力は、少なくとも人間性という意味では確かな成果を上げていた。現在のレインは探索者としての実力だけでなく、普段の態度も高く評価されている。依頼の期限は守るし、報告書の記入も丁寧。後輩探索者に相談されれば快く応じ、手が空いているときにはギルドの雑用を引き受けることさえあった。
最初こそ女性に好かれるために始めた努力だったが、長年続けていれば自然と習慣にもなる。今では相手が男性だろうと老人だろうと、困っている人を見れば自然と身体が動くようになっていた。先ほどの荷車の一件にしても、困っていたのが若い美女であろうと年老いた男性であろうと、助けていたことに変わりはない。
つまり、少々女好きではあるものの、根は真面目で善良な青年なのである。もっとも、当初の目標が達成できているかどうかは、また別の問題だった。
「……まあ、肝心の彼女はまだいないんだけどな」
誰に聞かせるでもなく呟き、レインは小さく肩を落とした。
これだけ努力を重ねているのだから、そろそろ一人くらい恋人ができてもよさそうなものだが、世の中はそう簡単にはいかないらしい。仲の良い女性はそれなりにいるものの、そこから先へ進もうとすると、どういうわけか上手くいかないのである。
もっとも、まだ十九歳だ。焦る必要はないし、迷宮王国には美しい女性が大勢いる。これから出会う運命の相手だって、きっといるに違いない。
そんな希望に満ちたことを考えながら、レインは待ち合わせ場所である広場へと向かった。
◇ ◇ ◇
「遅い!」
「まだ約束の時間まで五分あるだろ!?」
広場へ到着するなり飛んできた言葉に、レインは思わず反論した。
噴水の脇で腕を組み、こちらを睨んでいたのは、赤茶色の髪をポニーテールにまとめた女性だった。年齢は二十歳。身長百六十三センチほどの引き締まった身体に、鮮やかな緑色の瞳と整った顔立ちを持つ、健康的な雰囲気の美女である。
日頃の鍛錬によって無駄なく引き締まった身体は、女性らしい曲線にも非常に恵まれていた。とりわけ豊かな胸元は、動きやすさを重視した探索服を身につけていても存在感を隠しきれず、彼女が腕を組むたびにその見事な膨らみがいっそう強調される。
迷宮王国には世界各地からさまざまな種族の女性が集まっているが、当然ながら誰もが彼女のような体型をしているわけではない。街を歩けば、少なからぬ男性が振り返ることだろう。
無論、女好きのレインも例外ではなかった。初めて出会った頃は、その美貌と抜群のスタイルに目を奪われ、できればお近づきになりたいと考えたものである。
しかし、一年半にわたって迷宮で生死を共にしてきた今では、女性としての魅力以上に、命を預けられる相棒としての信頼が大きくなっていた。
彼女の名前はリオナ。レインと二人でパーティーを組んでいる、唯一の相棒である。
「五分前行動って言葉、知ってる?」
「知ってるけど、その五分前に来たんだから問題ないだろ?」
「……まあ、そうなんだけど。あんた、途中でまた女の子を口説いてたんじゃないでしょうね?」
「失礼な。挨拶しただけだって」
「その挨拶で、どうせ『今日も綺麗だね』とか言ってきたんでしょ?」
「……なんで分かった?」
「分からないほうがおかしいわよ」
呆れたようにため息をつくリオナに、レインは苦笑を返した。実際には髪飾りを褒めただけで、そこまで責められる筋合いはないと思うのだが、言い訳したところで彼女を納得させられる気はしない。
二人が出会ったのは、およそ一年半前のことだった。
レインは十五歳の頃に故郷を離れ、各地を旅しながら探索者として経験を積んでいた。剣術や魔術については、故郷に暮らしていた引退済みの冒険者から幼い頃より教えを受けていたものの、巨大な迷宮を専門に探索するための知識となると、また別の話である。
そのため、迷宮王国へやってきた際には、ギルドが開催している迷宮探索の講習を受講した。
そこで偶然、実習の相手として組むことになったのがリオナだった。
彼女も弓やクロスボウの扱いには慣れていたが、本格的な迷宮探索の経験はまだ浅かった。互いに足りない部分を補い合う形で始まった実習だったものの、実際に組んでみると、前衛を担当するレインと後衛を担当するリオナの相性は驚くほど良かったのである。
レインが前線で敵の注意を引きつけ、その隙にリオナが急所を射抜く。遠方に潜む魔物や見落とした危険をリオナが知らせれば、レインは即座に動きを変えて対処する。最初こそ互いの癖に戸惑うこともあったが、幾度か迷宮へ潜るうちに、細かな指示がなくても相手の意図を察せるようになっていた。
そのまま正式なパーティーを結成し、二人で探索を続けること一年半。今では同年代の探索者の中でも、将来を期待される組として知られるようになっていた。
「ところで、昨日の仕送りは済ませたのか?」
「ええ。今月はちょっと多めに送れたから、院長先生も喜んでくれると思う」
「そっか。そりゃ良かった」
レインが笑うと、リオナも少しだけ表情を和らげた。
彼女は故郷の孤児院で育った身であり、探索者になった理由も冒険への憧れや名声を求めてのことではない。単純に、お金を稼ぐためだった。
自分を育ててくれた孤児院へ仕送りを続け、今もそこで暮らしている子供たちの生活を少しでも楽にしたい。そのためならば危険な仕事にも挑むし、稼いだ金を無駄遣いするつもりもない。リオナにとって探索者という仕事は、単なる憧れではなく、故郷にいる大切な人々を支えるための手段なのである。
もっとも、彼女は何でもかんでも節約すれば良いと考えているわけではなかった。命を預ける装備の品質や、休息を取る宿泊先の安全性など、必要な部分にはきちんと金をかける主義でもある。安物の装備を使って怪我をしたり、治安の悪い宿で盗難に遭ったりしては、かえって高くついてしまうからだ。
実際、リオナが利用している宿屋は、レインの泊まっている安宿よりも少々値が張る。女主人とその家族が経営している、女性客も安心して泊まれる宿であり、部屋の施錠や設備もしっかりしているらしい。
対するレインは、寝床があって治安さえ極端に悪くなければ、宿の格式にはそれほどこだわらなかった。彼の安宿には浴場がないものの、近くの公衆浴場で済ませればいいし、浮いた宿代を装備や探索道具の整備に回せるのだから、本人としては合理的な選択のつもりである。
「そういうレインは? 今月も装備にお金を使いすぎてないでしょうね?」
「大丈夫だって。必要なものしか買ってない」
「その『必要なもの』の基準が怪しいのよね……」
「ひどい信用だな、おい」
「信用してるから言ってるの。あんた、女の子が絡まなければ結構まともなんだから」
「女の子が絡んでもまともだろ!?」
「はいはい。ほら、ギルドに行くわよ」
反論を軽く受け流して歩き始めたリオナを、レインは笑いながら追いかけた。
腰には長年使い慣れた剣を佩き、盾もすぐに構えられる位置に固定している。背中の荷物には、迷宮探索に欠かせない予備の道具や食料が収められていた。リオナもまた、丁寧に手入れされたクロスボウを携え、予備の矢や補助装備の状態を歩きながら確かめている。
こうして軽口を叩きながらギルドへ向かい、依頼を受けて迷宮に潜る。それが二人にとって、もう一年半も続いている日常だった。
◇ ◇ ◇
迷宮王国の探索者ギルドは、朝から多くの人々で賑わっていた。
広い建物の中では、これから依頼を受ける者や探索結果を報告する者、持ち帰った素材の査定を待つ者たちの声が飛び交い、受付の前には幾つもの列ができていた。
壁際に設置された大きな掲示板には、迷宮の探索依頼や魔物の討伐依頼、希少素材の採取依頼などが所狭しと貼り出されていた。報酬や難易度もさまざまであり、探索者たちは自分の実力や装備、パーティーの人数などを考慮しながら仕事を選んでいる。
レインとリオナも掲示板の前でしばらく相談し、目当ての依頼を確認してから受付へと向かった。
「今日は採取依頼と、再編後の通路調査を兼ねる感じでいいか?」
「そうね。前回の探索で確認できなかった場所もあるし、ついでに見ておきたいわ」
二人がこうした依頼を組み合わせて引き受けるのには理由があった。
迷宮王国の地下に広がる超大型迷宮は、その内部構造が永久に固定されているわけではない。数カ月から半年ほどの周期で大規模な再編が発生し、それまで存在していた通路が塞がれたり、新たな部屋が出現したりすることが知られていた。
再編によって宝箱や罠の位置も変化するため、探索者ギルドは日々集められる情報を基に、迷宮の地図を継続的に更新している。もっとも、再編のたびにすべてが変わるというわけではなく、特に浅い階層では大まかな構造が維持される場合も多かった。
それでも、古い地図を盲信して未確認の通路へ入り込むのは危険である。先月まで安全だった場所に新しい罠が生まれている可能性もあれば、見慣れた部屋に強力な魔物が出現していることだってあるのだから。
そうした事情から、迷宮の再編後には通路調査の依頼が数多く発行される。調査で得られる報酬は決して派手ではないが、ほかの依頼と組み合わせれば効率良く稼げるため、レインたちもよく引き受けていた。
今回も無理に深い階層へ挑むつもりはない。採取を進めながら地図と実際の通路を照らし合わせ、危険な場所があれば記録して戻る。これまで何度も繰り返してきた、堅実な探索の予定だった。
「すみません、こちらの依頼を――」
受付へ到着したレインは、いつもの調子で声をかけようとして、そこでぴたりと動きを止めた。
「はい。お待たせいたしました」
レインの声に応じて顔を上げたのは、見慣れない女性だった。
青みを帯びた艶やかな黒髪を丁寧に整え、澄んだ青い瞳を持つ、上品な雰囲気の美女である。白いブラウスに濃紺の制服を合わせた姿はよく似合っており、豊かな胸元から細い腰へと続く見事な曲線が、制服越しにもはっきりと見て取れた。
女性が挨拶のために立ち上がると、その豊かな胸がゆさりと揺れた。しかし、そんな動作さえもどこか優雅に見えるほど、彼女の立ち居振る舞いには気品があった。普段のレインなら、ここで気の利いた褒め言葉の一つも口にしていただろう。
だが、今回ばかりは違った。
(…………ん?)
その顔を見た瞬間、胸の奥に妙な感覚が生まれた。
初対面のはずなのに、どこかで会ったことがある気がする。いや、会ったというよりも、何度も見たことがあるような――そんな奇妙な既視感が、じわじわと頭の中に広がっていった。
「本日から、こちらの受付を担当させていただくことになりました、セレナ・アルディナと申します。前任の方が退職されることになり、別の支部から異動してまいりました。どうぞよろしくお願いいたしますね」
「…………」
その名前を聞いた瞬間、レインの脳裏に忘れかけていた光景が閃いた。
(……セレナ? セレナ・アルディナ……?)
遠い昔、薄暗い部屋で見つめていた画面に、華やかな衣装を身につけた美しい女性が映っていた。聞き覚えのある声も、幾度となく目にした彼女の笑顔も、記憶の中に残っている。そして、長らく閉ざされていた記憶の奥底から、それらが登場していたゲームの名前が浮かび上がってきた。
(――『爆乳迷宮ハーレム ~美姫たちと甘い冒険生活~』!?)
それは、前世で夢中になっていた成人向け美少女ゲームのタイトルだった。
美麗なイラスト、可愛らしいヒロインたち、そして名前に違わぬ豊満な胸の数々。いかにも爆乳好きの男性を狙い撃ちにしたような作品であり、当時のレインもまた、その魅力に釣られて購入した一人だった。
ところが、実際に遊んでみると、迷宮探索部分が尋常ではなく難しかったのである。
(あのゲームって……最初のエロCGを見るまで八時間もかかった、あのクソ難しいゲームじゃねえか!?)
そうだ。間違いない。
最初は女の子との甘い時間を楽しむつもりで始めたはずなのに、気がつけば何度も死にながら敵の動きを覚え、装備を工夫し、ひたすら迷宮攻略に挑んでいた。ようやく強敵を倒したときの達成感は格別だったが、そもそも成人向けゲームを購入した目的を考えれば、いろいろとおかしな話である。
もっとも、今はそんなことを思い出している場合ではなかった。
(いや、待て待て待て。それよりも、セレナ・アルディナって……!)
混乱する頭の中で、レインは改めて目の前の女性を見つめた。
そう、彼女はそのゲームに登場していた攻略対象の一人だった。しかも、数あるヒロインの中でも、当時のレインが最も気に入っていた女性である。
(――俺の最推しじゃねえか!?)
思わず叫びそうになり、レインは必死に口を閉じた。
そもそも、レインには今とは別の人生を生きた記憶があった。かつて日本という国で暮らしていた、ごく普通の男性だった頃の記憶である。
もっとも、今世で十九年も生きてきたため、その記憶はずいぶんと薄れていた。幼い頃には前世の知識を思い出すこともあったが、成長するにつれて頻度は減り、最近では日常生活の中で意識することさえ、ほとんどなくなっていたのである。
それなのに、目の前の女性を見た瞬間、忘れていたはずのゲームの記憶が驚くほど鮮やかに蘇ってきた。
(いやいや、嘘だろ!? なんでセレナさんがここにいるんだ!? というか、あのゲームって、この世界が舞台だったのか!?)
思い返してみれば、迷宮王国という名前や巨大な迷宮の存在には、確かに覚えがある。だが、これまで自分が暮らしている場所をゲームと結びつけて考えたことなどなかったし、少なくともリオナという女性はゲームに登場していなかったはずだ。
そもそも、記憶自体が長らく曖昧になっていたのだから、今まで気づかなかったことを不思議がっても仕方がない。
それに、ここはレインが十九年間を生きてきた現実の世界である。たとえ前世で遊んだゲームに似ているとしても、目の前の人々が単なるゲームの登場人物になるわけではない。
しかし、そんな冷静な考えよりも、今の彼にとって重要なことがあった。
何しろ、画面越しに何度も眺め、声を聞き、ゲーム内で幾度となく会いに行った最推しが、今まさに自分の目の前に立っているのである。
しかも、ゲームの立ち絵や画面越しに眺めていた姿よりも、実物のほうが遥かに美しい。
(やばい。どうしよう。いや、どうしようって何だよ!? とりあえず挨拶だろ、挨拶!)
混乱する頭の中で必死に言葉を探していると、セレナが不思議そうに首を傾げた。
「あの……どうかなさいましたか?」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「…………?」
「…………」
しまった。思い切り変な声が出た。
セレナはきょとんとした表情を浮かべ、隣にいたリオナは信じられないものを見るような目でこちらを見ている。普段なら多少の失敗など笑って誤魔化せるレインだったが、今回ばかりは頭の中が真っ白になってしまった。
「レイン……?」
「あっ、いや、その! 大丈夫です! はい! こちらこそよろしくお願いします!」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
「あの、ええと……今日はいい天気ですね!」
「……そうですね?」
「その、セレナさんも、とても綺麗で……あっ、いや! 何でもないです!」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
女の子を褒めることなら慣れているはずなのに、相手が前世で夢中になった女性だと思うと、途端に上手く言葉が出てこなくなる。いや、正確には口からは次々に言葉が飛び出しているのだが、頭で考えたこととまるで一致していない。
(やばい。めちゃくちゃ美人だ。いや、知ってたけど! 知ってたけどさあ!)
心臓がうるさいほど鳴っている。何か気の利いたことを言おうとすればするほど、逆におかしなことを口走ってしまうという悪循環に陥っていたレインを見かねたのか、リオナが横から依頼書と二人分の探索者証を差し出した。
「すみません、今日はこれをお願いしたいんです。こいつ、ちょっと調子が悪いみたいで」
「あら、そうなんですか? お身体の具合でも?」
「い、いえ! 身体は健康そのものです!」
「……でしたら、良いのですけれど」
セレナは小さく微笑むと、依頼書と探索者証を受け取り、手際よく確認を進めていった。その所作は落ち着いており、初めて担当する支部とは思えないほど自然だった。
その間、レインはようやく少しだけ呼吸を整えることができたものの、目の前にセレナがいるという事実を改めて意識すると、どうにも落ち着かない。
(いや、ほんとに本人なのか? 名前と顔が同じだけの別人って可能性も……)
だが、そう考えたところで、記憶の中にある彼女の姿と目の前の女性はあまりにもよく似ていた。青みを帯びた黒髪も、澄んだ青い瞳も、穏やかな微笑みさえも、当時何度も眺めていたものと重なっている。
何より、もし本当にゲームで知っていたセレナなのだとすれば、一つ確かめてみたいことがあった。
「あの、セレナさんは……その、以前から受付のお仕事を?」
「はい。元々は探索者として活動していたのですけれど、二十歳の頃に引退しまして。それから三年ほど、ギルドの職員として働いています」
「元探索者だったんですね!」
「ええ。ですから、探索に関するご相談でしたら、多少はお役に立てるかもしれません」
(元探索者ってところまで一緒なのか……!)
ゲームの中でも彼女が元探索者であることは語られていたが、こうして本人の口から聞くと、何とも不思議な気分になった。もっと詳しく話を聞いてみたいと思ったところで、横から肘が伸びてきて、レインの脇腹を軽く小突いた。
「……レイン」
「な、何だよ」
「口、開いてる」
「…………っ!」
慌てて口を閉じると、リオナは心底呆れたようにため息をついた。そんな二人の様子を見ていたセレナは、口元へ手を添えながら楽しそうに微笑んでいる。
「お二人は仲がよろしいんですね」
「ええ、まあ。一年半くらい一緒に組んでますから」
「そうでしたか。引き継ぎでも、お二人は息の合った優秀なパーティーだと伺っていますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。特にレインさんは礼儀正しく、ほかの探索者の方にも親切だと聞いております」
「そ、そんな! 俺なんてまだまだですよ!」
褒められた。
最推しに褒められてしまった。
それだけで、これまでの苦労がすべて報われたような気分になったレインである。幼い頃から剣を振り続け、探索者として危険な仕事を積み重ねてきて、本当に良かったとさえ思えてしまう。
もちろん、レイン自身も他人に褒められることはある。ギルドから仕事ぶりを評価されたこともあれば、依頼人から感謝されたことも少なくない。しかし、それと前世で夢中になった最推しから直接褒められるのとでは、感動の種類がまったく違うのだ。
なお、隣にいるリオナは既に何度目か分からないため息をついていた。
「……あんた、普段と全然違うんだけど」
「そ、そうか?」
「そうよ。いつもならもっと調子よく口説いてるでしょうに」
「人聞きの悪いこと言うなって!」
「ふふっ」
小さく笑ったセレナは、確認を終えた探索者証を二人へ返した。
「それでは、こちらの依頼で受け付けておきました。再編後の通路はまだ十分に調査が進んでいない場所もありますので、どうか無理はなさらないでくださいね」
「はい。ありがとうございます!」
「それでは、お気をつけて。無事に帰ってきてくださいね」
「は、はいっ! 行ってきます!」
勢いよく頭を下げたレインは、リオナに腕を引かれるようにして受付から離れた。普段なら探索者証を受け取り、軽く礼を述べて終わるだけのやり取りだったはずなのに、今日ばかりは何倍もの時間を過ごしたように感じられる。
そして、ギルドの建物を出てからもしばらく、彼の頭の中はセレナのことでいっぱいだった。
「……なあ、リオナ」
「何よ」
「セレナさん、すっごい美人だったな……」
「……はいはい」
「しかも、あの落ち着いた雰囲気! 声も綺麗だったし、仕事もできそうだし……!」
「あんた、いい加減にしなさいよ。これから迷宮に潜るんだからね?」
「分かってるって。仕事と私情はきっちり分ける主義だよ、俺は」
「……その台詞、今日だけは信用できないわ」
リオナの呆れた声を聞きながら、レインは苦笑を返した。確かに先ほどからセレナのことばかり考えていたが、だからといって迷宮で気を抜くつもりはない。探索中の油断は命取りになるし、女の子に夢中になった挙げ句、大切な相棒を危険に晒すような真似だけはしたくなかった。
(それにしても……本当に、あのゲームと何か関係があるのか?)
ふと、忘れていたはずの記憶が頭をよぎった。前世で遊んでいた『爆乳迷宮ハーレム ~美姫たちと甘い冒険生活~』は、恋愛要素を売りにした成人向けゲームでありながら、迷宮攻略だけは異様に本格的だった。
戦闘方式は高難度のアクションRPGであり、武器ごとの間合いや盾による防御、回避のタイミング、魔力と体力の管理まで細かく求められた。敵の攻撃をまともに食らえばあっという間に死んでしまううえ、ボスともなれば攻撃の予備動作を見極め、僅かな隙を突いて反撃しなければ勝てなかったのである。
最初の成人向けイベントを見るためだけに幾体ものボスを倒さなければならないという鬼畜仕様は、恋愛目的のプレイヤーから大いに不評を買っていた。
その一方で、難関アクションゲームを好む層からは戦闘システムの完成度を絶賛されており、評価は見事なまでに二分されていたものだ。
レイン自身も女性目当てで購入した一人だったが、何度も死にながら敵の動きを覚え、装備を工夫し、ようやく強敵を倒したときの達成感に魅了されてしまった。最初のエロCGを見るまで八時間もかかったことには最後まで納得できなかったものの、ゲームそのものは随分と楽しんだ記憶がある。
そして、そのゲームに登場していた最推しの女性が、先ほど出会ったセレナ・アルディナだった。
(名前も見た目も、元探索者って経歴まで一致してるんだよな……)
これほどの偶然があるとは考えにくいが、だからといって、この世界がゲームそのものだとも思えない。
何より、今の自分には十九年間積み重ねてきた人生があり、隣には命を預け合う大切な相棒がいる。ゲームとの関係がどうであれ、その事実が変わるわけではなかった。
「……レイン、聞いてる?」
「ああ、聞いてるって。今日は採取と通路調査だろ?」
「そうよ。特に再編後の通路は何があるか分からないんだから、いつも以上に慎重にね」
「分かってるさ。無茶するつもりはないし、危ないと思ったらすぐ引き返すよ」
「ならいいけど。……本当に頼むわよ?」
「はいはい。信用してくれって」
なおも疑わしそうな視線を向けてくるリオナに笑いかけ、レインは気持ちを切り替えた。前世のゲームについては気になるものの、今すぐ答えが出る話でもない。詳しく考えるのは迷宮から帰ってからでいいだろう。
何しろ、今日はいつもどおり依頼をこなさなければならないし、帰ってからは装備の手入れや報告書の作成も待っている。できれば、その合間にセレナともう少し話す機会も作りたいところだが、それは無事に帰還してからの楽しみに取っておくことにした。
「よし。それじゃ、今日も張り切っていくか!」
「ええ。まずは無事に帰ってくること。それが一番大事なんだからね」
「分かってるって。いつものことだろ?」
「そうね。……いつものことよ」
リオナはようやく安心したように微笑み、レインの隣へ並んだ。
そうして二人は、いつものように肩を並べて迷宮の入口へと向かっていく。今日もまた、慣れ親しんだ迷宮へ潜り、依頼をこなして帰ってくる。それだけの、ごく普通の一日になるはずだった。
しかし、再編によって姿を変えた迷宮の奥には、まだギルドの地図にも記されていない通路が眠っていた。