TSした俺は爆乳美少女 ~爆乳お姉さんたちに愛される百合ハーレム迷宮譚~ 作:TS百合好き
「…………」
「…………」
重厚な扉を押し開いたレインと、その背後から室内を覗き込んだリオナは、目の前に広がる光景に揃って言葉を失った。
そこは、先ほど戦っていた広間ほどではないものの、十分な広さを持つ石造りの部屋だった。
壁には古い装飾が施され、天井付近には淡い光を放つ魔導灯のようなものが埋め込まれている。長い年月が経過しているようにも見えるのに、不思議と埃や瓦礫は少なく、まるで誰かが定期的に手入れをしているかのようだった。
何より二人の目を引いたのは、室内のあちこちに整然と並べられた、大小さまざまな宝箱だった。
それぞれの表面には精緻な装飾が施され、中には金属製の補強や美しい宝石が埋め込まれているものまである。どの宝箱も固く蓋を閉じており、外から中身を確認することはできなかったが、明らかに通常の迷宮で見つかるものとは造りが違っていた。
「……おい、リオナ」
「……何よ」
「これ、もしかして……」
「……もしかしなくても、宝物庫よね?」
二人は顔を見合わせた。
先ほどまで巨大な魔物が守っていた場所なのだ。何かしらの財宝があるとは期待していたが、ここまで露骨に宝箱が並んでいるとは思わなかった。
しかも、一つや二つではない。ざっと見渡しただけでも大小合わせてかなりの数があり、奥には少し離れて配置された大きな箱まで見えている。
これほどの宝箱が並んでいるのだから、とんでもない発見である可能性は高い。しかし、ここは強大な守護魔物が配置されていた場所でもある。蓋を開けた途端に毒針や魔術が飛び出してもおかしくない以上、喜ぶのは安全を確かめてからだった。
「……よし。まずは罠を調べよう」
「ええ。開けた瞬間に爆発、なんて笑えないものね」
レインはまず宝物庫全体を見渡し、宝箱の周囲に不自然な紋様や仕掛けがないか確かめてから、手近な一箱へ近づいた。
鍵穴や蝶番、蓋の隙間を念入りに調べ、魔力の反応にも注意を払う。罠を見落とせば、つい先ほど守護魔物を倒した努力まで無駄になってしまうのだ。慎重に安全を確認してから、ようやく最初の宝箱へ手をかけた。
「……開けるぞ」
「ええ。気をつけてね」
リオナが少し離れた位置で身構えるのを確認し、レインはゆっくりと蓋を持ち上げた。
持ち上がる蓋の隙間から、魔導灯の光を受けてきらめくものが覗いた。中身がはっきり見えた瞬間、二人は揃って息を呑む。
「「…………っ!?」」
宝箱に詰め込まれていたのは、眩いほどの輝きを放つ大量の金貨や銀貨、そして色とりどりの宝石だった。
宝箱の中には財宝がぎっしりと詰め込まれており、少し見ただけでも相当な金額になることが分かる。金貨の山には見慣れない意匠のものも混ざっており、宝石に至っては、レインがこれまで実物を見たこともないほど大粒のものまで存在していた。
何より驚くべきは、その量だった。普段の探索で拾う小さな素材や硬貨とは、到底比較にならない。これまで二人が何度も迷宮へ潜り、少しずつ積み重ねてきた稼ぎを、一箱だけで軽々と上回ってしまいそうな光景だった。
「……これ、全部本物だよな?」
「た、たぶん……。ねえ、レイン。私たち、もしかして大金持ちになっちゃった……?」
震える声で尋ねてくるリオナに、レインはしばらく言葉を返せなかった。箱の底まで金貨が詰まっているのを見れば、しばらく危険な依頼を受けずに生活することだってできるだろう。装備の新調もできるし、今後の探索に必要な道具だって十分に揃えられる。
そして何より、リオナの故郷にある孤児院へも、まとまった金を送れるはずだ。
彼女が毎月の仕送りをどれほど大切にしているか、レインはよく知っている。危険を承知で迷宮へ潜り、必要な装備には金をかけながらも、それ以外の出費はできる限り抑えてきた相棒なのだ。
そんなリオナが、今は目の前の財宝を信じられないといった様子で見つめている。彼女がこれまでどれほど努力してきたのかを知るレインは、相棒の横顔へ目を向けると、自然に満面の笑みを浮かべていた。
「……かもしれないな!」
「「やったあああああっ!!」」
二人の歓声が、宝物庫いっぱいに響き渡った。
歓声が落ち着いても、二人の興奮はなかなか収まらなかった。
これだけの財宝があれば、装備を新調することも、しばらく危険な依頼を受けずに暮らすこともできるだろう。だが、何より嬉しかったのは、二人で力を合わせて大きな成果をつかんだことだった。
「まだほかにも宝箱があるんだよな……」
「ええ。でも、今度もちゃんと調べてから開けるのよ?」
「分かってるって。ここまで来て罠に引っかかったら笑えないからな」
興奮を抑えながら、レインは次の宝箱へと向かった。
それからしばらく、二人は安全を確かめながら宝箱を開けて回り、そのたびに驚かされることになった。別の宝箱には、長い年月を経たとは思えないほど状態の良い、高品質な剣と盾が収められていた。刃には細かな魔術紋様が刻まれ、盾にも見事な加工が施されている。さらに別の宝箱からは、魔導素材を利用したと思われる防具が見つかった。
いずれも相当な品質の品に見えるが、詳しい性能については鑑定を受けなければ分からない。それでも、普段から装備の手入れや購入には気を配っているレインには、並の品でないことくらいは十分に理解できた。
「これ、かなり良い剣じゃないか……?」
「そうね。売っても高そうだけど、あんたの装備より上物かもしれないわよ?」
「だよなぁ。でも、せっかく見つけたからって、いきなり使うわけにもいかないしな」
「まずは鑑定ね。変な効果がついていたら困るもの」
リオナの言葉に頷きながら、レインは武器を慎重に元の場所へ戻した。いくら高品質な装備に見えても、正体の分からない品を無条件に信用するわけにはいかない。実際、迷宮で発見される魔導具の中には、使用者へ悪影響を及ぼすものも存在するのだから。
ほかの宝箱からも貴金属や装飾品、用途の分からない魔導具などが次々と発見され、二人はそのたびに顔を見合わせて驚いていた。中には見た目だけでは価値を判断できない品もあったが、これだけの収穫があれば、帰還後には鑑定だけでも随分と忙しくなりそうだった。
そして、少し細長い形をした宝箱の蓋を開いたところで、レインは思わず声を上げた。
「……ん? リオナ、ちょっと来てくれ」
「どうしたの?」
「これ、見てみろよ」
レインが示したものを見て、リオナは目を丸くした。
「……これ、魔導銃?」
「ああ。たぶん、それもかなり良いやつじゃないか?」
宝箱の中に収められていたのは、長い銃身を持つ一挺の魔導銃だった。
金属部分には精緻な装飾が施され、握りや銃床には使い込まれたような落ち着いた光沢がある。銃身の側面に刻まれた細かな術式は、ただの装飾ではなく、魔力の流れを制御するためのものだろう。
魔導銃とは、使用者の魔力を利用して強力な射撃を行う、極めて希少な迷宮産の武器である。現代の魔導技術ではその構造を完全に再現できず、新たに製造することもできないため、入手しようと思えば迷宮で発見された品を手に入れるしかない。
ましてや、これほど精巧な長銃となれば、普通の弓やクロスボウとは比較にならない価値があるはずだった。
「……すごい。こんなもの、実物を見るの初めてだわ」
「だよな。ちょっと持ってみるか?」
「えっ、いいの?」
「もちろん。お前のほうが射撃武器には詳しいだろ?」
レインに促され、リオナは慎重に魔導銃を手に取った。
最初は壊れ物でも扱うような手つきだったが、銃口を人へ向けないよう注意しながら外観を確かめ、試しに構えると、意外なほど身体に馴染むらしい。銃床を肩へ当て、照準を覗き込みながら何度か姿勢を調整すると、彼女の表情が見る見るうちに明るくなっていった。
「……へえ。思ったより扱いやすそうね」
「だろ? これ、お前が使ったら相当強いんじゃないか?」
「……でも、売ればかなりの値段になると思うわよ?」
嬉しそうにしていたリオナが、少しだけ困ったような顔をする。
その言葉に、レインも考え込んだ。
確かに、これほどの魔導銃なら売却するだけでも大金になるだろう。おそらく、二人がこれまで使ってきた装備とは比較にならないほど高価な品だ。
しかし、優秀な射手であるリオナが使えば、今後の探索効率も大幅に向上するはずだった。もちろん、クロスボウとは勝手が違うだろうし、扱い方を覚える必要もある。それでも、命を預ける装備が良くなることは、単なる贅沢ではなく将来への投資でもある。
何より、こうして楽しそうに魔導銃を構えている相棒を見れば、ぜひ使ってほしいと思うのが人情というものだろう。
「まあ、まずはギルドで鑑定してもらってからだけどさ。俺としては、お前に使ってほしいかな」
「……いいの?」
「ああ。今すぐ売って終わりにするより、これから先、もっと稼げるようになったほうがいいだろ? それに、お前が強くなれば俺も助かるしな」
「…………」
「もちろん、戦利品の取り分についてはちゃんと相談しようぜ。高い品だろうし、そこは公平にしないとな」
当たり前のようにそう告げるレインを、リオナはしばらく見つめていた。
レインにとって、二人で手に入れた財宝を公平に分けるのは当然のことだった。リオナが故郷の孤児院へ仕送りを続けていることも知っている。だからこそ、魔導銃を使ってほしいという気持ちと、戦利品の取り分については分けて考えるつもりだった。
やがて、リオナはふっと表情を和らげた。
「……そうね。じゃあ、帰ってから相談しましょ」
「おう!」
「それにしても、本当にすごいものを見つけちゃったわね……」
「だな。今日は大当たりだぞ、これ!」
二人は笑い合い、魔導銃を慎重に宝箱へ戻した。
これだけの財宝を一度に持ち帰るのは難しい。守護魔物が再び現れる可能性もあれば、隠し通路が閉ざされる可能性だってある。運搬方法は慎重に考える必要があったが、今の二人にとっては、それさえ嬉しい悩みだった。
(いやあ、こんな日もあるんだな!)
朝はセレナと出会い、迷宮では隠し通路を発見。強敵を倒した先で、これほどの財宝まで見つけてしまった。
(これだけの成果を持ち帰ったら、セレナさんも驚くだろうなぁ……)
受付で見た美しい笑顔が脳裏に浮かぶ。もしかしたら、これをきっかけに仲良くなれるかもしれない。
(……いや、待てよ。自慢話ばっかりするのは格好悪いよな。だったら、さりげなく成果を見せるくらいにして……)
そんな実にレインらしいことを考えながら、彼は宝物庫の奥へと目を向けた。
だが、その視線が部屋の奥に差しかかったところで、レインは床の一角に、ほかとは僅かに異なる模様が刻まれていることに気づいた。
それは直径数メートルほどの円形の紋様で、幾重にも重ねられた細かな線が何らかの術式を構成しているように見えた。周囲の床と同じ石材に刻まれているため、魔導灯の光が当たる角度によっては輪郭さえほとんど分からない。
「……ん?」
レインは小さく首を傾げた。
宝箱を調べる前にも室内を確認したはずなのに、そのときは何の異常も感じなかった。罠を警戒して周囲の魔力も確かめたつもりだったが、あの時点で紋様が反応していたなら、見落とすはずがない。
紋様そのものは床の石材に溶け込むような色合いをしており、魔力が流れていなければ、古い装飾の一部と見間違えてしまいそうだった。
ところが今は、その紋様から微かな魔力の揺らぎが感じられる。静かに脈打つような反応は、最初に気づいたときよりも少しずつ強まっており、まるで長い眠りから目覚めた何かが、ゆっくりと動き始めているかのようだった。
「……リオナ?」
「何?」
「ちょっと、こっちに――」
しかし、相棒へ声をかけ終えるよりも早く、床に刻まれた紋様が眩い光を放った。
「――っ!?」
レインは反射的に身構えた。
しかし、光が広がる速度は彼の反応を遥かに上回り、足を引く間もなく円の中心から幾筋もの輝きが立ち上った。
細い光の筋はまるで意思を持つかのようにレインの身体へと集まり、瞬く間に数を増やして彼の全身を包み込んでいった。
「レイン!?」
リオナの声が響く。
レインは咄嗟に盾を構えようとしたが、その腕は途中で止まってしまった。
身体が動かない。正確には、手足を動かそうという意思は確かにあるのに、見えない何かに包み込まれているような感覚があり、思うように力が入らないのだ。
(……何だ、これ?)
痛みはなく、熱さも寒さも感じない。それにもかかわらず、全身を得体の知れない何かが駆け巡っているような感覚だけがあり、何をされているのか分からないことが、かえって恐ろしかった。
筋肉の奥、骨の内側、さらには身体の隅々にまで、得体の知れない何かが浸透していく。魔力を巡らせたときの感覚に少し似ているものの、その規模も、身体へ与える影響も、まるで比較にならない。
まるで身体の内側から、見えない何かによって作り替えられていくような――。
(くそっ……何が起きてるんだ!?)
レインは何とか意識を保とうとした。
しかし、視界は急速に白く染まり、足元の感覚さえ曖昧になっていく。意識を失ってはならないという焦りだけが膨らむ一方で、思うように身体を動かすことができなかった。
さらに恐ろしいことに、身体の感覚そのものまで少しずつ変化しているような気がした。
手足の位置が妙に遠く感じられたかと思えば、次の瞬間には自分の身体がどこまであるのか分からなくなる。長年鍛え上げてきた肉体が、まるで自分のものではなくなっていくような、言い知れない不安が胸の奥に広がっていった。
(リオナ……!)
何とか相棒の姿を探そうとしたが、既に視界は眩い光に覆われ、何も見えない。
握っていた盾が手から滑り落ち、乾いた音を立てて床へ転がった。その響きだけが妙にはっきり聞こえた。
「レイン! しっかりして!」
駆け寄ろうとするリオナの声を、最後に。
レインの意識は、完全に途切れた。
◇ ◇ ◇
「レインッ!!」
目の前で相棒の盾が落ちたのを見たリオナは、思わず叫びながら駆け寄ろうとした。しかし、咄嗟に踏み出した足は、光の縁へ近づく寸前で止まった。
目の前で発生している現象が何なのか、まるで分からない。迷宮の罠なのか、何らかの魔術が発動したのか、それとも先ほど倒した守護魔物に関係する仕掛けなのか。考えられる可能性はいくらでもあったが、今のリオナには判断するための材料がなかった。
不用意に近づいて自分まで巻き込まれれば、二人揃って動けなくなるかもしれない。そう判断したリオナは歯を食いしばり、僅かに距離を取ったまま様子を窺った。
本当なら今すぐ駆け寄り、レインの腕を掴んで引っ張り出したかった。しかし、ここは安全な街中ではなく、何が起こるか分からない迷宮の奥である。
相棒を助けるためにも、自分まで動けなくなるわけにはいかなかった。幸い、光が無秩序に周囲へ広がる様子はなく、床から立ち上る幾筋もの輝きはすべてレイン一人へと集まり、その身体へ吸い込まれていくように見える。
「レイン! 聞こえる!? 返事して!」
必死に声をかけるものの、相棒からの返事はなかった。
光の向こうにある人影は微動だにせず、ただ何かに包み込まれたように立ち尽くしている。時折、その輪郭が揺らいでいるようにも見えるが、眩しさのせいで詳しい様子は分からない。
魔物が現れたわけではない以上、クロスボウを構えたところで助けにはならない。リオナは周囲の変化に目を配りながらも、光の中にいる相棒から目を離すことができなかった。
どれほどの時間が経ったのか、リオナには分からなかった。実際にはほんの僅かな時間だったのかもしれないが、何分も何十分も経ったように感じられる。その長さに耐えかねてもう一度名前を呼ぼうとしたとき、レインを包んでいた光が徐々に弱まり始めた。
「……レイン?」
リオナが恐る恐る名前を呼んだ、その直後だった。
光は唐突に消え、先ほどまで白く染まっていた宝物庫に、魔導灯の淡い光だけが戻ってきた。同時に、何かが床へ崩れ落ちる鈍い音が響く。
「レインっ!?」
リオナは反射的に駆け出しかけたものの、まず床の魔法陣へ目を向けた。
先ほどまで輝いていた紋様は、今では何事もなかったかのように沈黙している。魔力の揺らぎも感じられず、周囲に新たな異変が起きている様子もなかった。
それを確認してから、リオナは改めて相棒がいた場所へ視線を戻した。
「……え?」
そこには、一人の人物が倒れていた。つい先ほどまで相棒が立っていた場所にほかの人影はなく、倒れているのはレインのはずだった。にもかかわらず、そこにある身体は明らかに小さく、百七十八センチもあった男性の姿がどこにも見当たらない。
「……え?」
リオナは目を見開いた。
床に倒れている人物は、どう見てもレインよりずっと小柄だった。男物の探索服を身につけているようだが、その衣服は身体に対してあまりにも大きく、袖や裾が不自然なほど余っている。
それどころか、背中には長い栗色の髪が広がっていた。
何かの間違いだと思いたくて周囲を見渡したが、そこにはほかに誰もいなかった。先ほどまでレインが握っていた盾が床へ転がっており、彼が身につけていたはずの装備も、倒れている人物の周囲に散らばっていた。
「……レイン?」
震える声で名前を呼びながら、リオナは駆け寄った。
目の前の人物が誰なのか、まだ確信が持てない。それでも無事を確かめるのが先だと自分に言い聞かせ、床へ膝をついて倒れている人物の肩へ手を伸ばした。その身体は想像していた以上に小さく、触れた腕も驚くほど細かった。
顔を確かめようと慎重に身体を抱き起こした瞬間、リオナの思考は完全に止まった。
「…………え?」
そこにいたのは、少なくとも外見だけなら、彼女の知っているレインとは似ても似つかない少女だった。
先ほどまで百七十八センチもあった男性の身体は、明らかに小さくなっている。鍛えられた太い腕はほっそりとした白い腕へと変わり、広かった肩幅も狭くなっていた。
短かった栗色の髪は、今では背中へ流れるほどの美しい長髪になっている。
顔立ちも以前とは大きく変わっている。長い睫毛に縁取られた閉じた瞼。整った鼻筋と柔らかな唇。今は意識を失っているというのに、思わず息を呑んでしまうほど美しい顔が、そこにあった。
十九歳という年齢に相応しい若々しさを残しながらも、どこか艶やかな雰囲気を漂わせた、絶世の美少女。リオナは呆然としたまま腕の中の少女を見つめていたが、その変化が顔や髪だけに留まらないことに、遅れて気づいた。
身長が大幅に縮んだことで、男性用の衣服は全体的に大きく余っている。袖は手の先まで覆い、腰回りもぶかぶかで、元の体格に合わせて作られた装備がまるで噛み合っていない。
だが、胸元だけは例外だった。
元々男性の身体に合わせて作られていた胸当ては、留め具の一部が外れていた。それでもなお、内側から押し広げられるように大きく歪んでおり、その下に着ている衣服も今にも縫い目が裂けそうなほど強く引き伸ばされている。
小柄になった身体とはあまりにも不釣り合いな、信じられないほど豊かな胸。
同じ女性として、そして自分自身も相当に恵まれた体型をしているリオナでさえ、思わず言葉を失ってしまうほどの大きさだった。
「…………」
理解が追いつかない。ほんの少し前まで、ここには自分より十五センチも背の高い男性の相棒がいたはずなのに、今ではどう見ても自分より小柄な、美しい少女になっている。
しかも、その姿には元のレインの面影が、まったくないわけではなかった。
髪の色は変わっていないし、目元や顔立ちの一部にも、よく見れば確かに彼を思わせるところがある。だが、全体の印象は完全に女性のものであり、知らない人間が見れば、かつて男性だったなどとは到底想像できないだろう。
「……嘘、でしょ……?」
震える声が漏れた。
こんなことが現実に起こるはずがない。
そう思いたかった。
しかし、目の前で起きた出来事を最初から最後まで見ていたのは、ほかならぬリオナ自身だった。
レインが突然光に包まれ、意識を失い、その光が消えた直後に、この少女が倒れていたのである。別の誰かと入れ替わった可能性を考えようにも、そんな人物が現れた様子はなかった。
何より、身につけている服も、周囲に転がっている装備も、間違いなくレインのものだった。
この少女こそが、つい先ほどまで一緒に笑い合っていた相棒なのだ。目の前で起きた出来事を思い返すほどに、リオナはそう認めるしかなかった。
「……レイン、本当に……あんたなの……?」
恐る恐る名前を呼んでみる。
当然ながら、返事はなかった。
リオナはしばらく呆然としていたが、やがて相棒の胸元を締めつけている装備へ視線を落とすと、はっと我に返った。
(……そうだ。まずは無事を確認しないと!)
姿が変わった理由は分からないし、そもそもこれが一時的な現象なのかどうかも不明だ。けれども、驚いている場合ではない。原因を考えるのは後回しにして、今は何よりレインが無事かどうかを確かめなければならなかった。
リオナは少女の身体をそっと床へ寝かせ、首筋へ指を当てた。
規則正しい脈が感じられる。呼吸もしており、顔色も悪くない。目立った外傷も見当たらず、少なくとも命に関わるような状態には見えなかった。
「……よかった」
ほんの僅かな時間だったとはいえ、光に包まれたレインが返事をしなくなったときには、最悪の事態まで考えてしまった。規則正しい脈に安堵した途端、身体から力が抜けそうになったが、まだ完全に安心できる状況ではない。
胸元の装備が明らかに身体を締めつけている。呼吸は安定しているものの、このまま放置すれば負担がかかるかもしれなかった。
リオナは外れかけた胸当ての留め具に手を伸ばし、慎重に装備を緩めていく。
男性時代の体格に合わせて作られた胸当ては、今の身体にはまるで合っていなかった。肩や胴回りには余裕があるというのに、胸元だけは信じられないほど窮屈になっている。
ようやく胸当てを取り外すと、下に着ていた衣服も呼吸を妨げない程度に緩め、乱れた部分を整えた。
装備を外してもレインが目を覚ます気配はなく、聞こえてくるのは穏やかな寝息だけだった。
「……もう、何なのよ、これ……」
リオナは眠ったままの少女を見つめ、途方に暮れたように息を吐いた。
一年半もの間、共に迷宮へ潜ってきた相棒。くだらない冗談を言い合い、時には喧嘩もして、それでも最後には笑い合ってきた大切な仲間が、突然こんな姿になってしまったのである。
「……あんた、目が覚めたら何て言うのかしらね……」
女の子が大好きなレインのことだ。いつもなら大喜びで褒めるような美少女に自分自身が変わってしまったと知れば、いったいどんな反応をするのだろう。笑って受け入れるのか、それとも取り乱すのか、想像もつかなかった。
ましてや、身体が変化した原因も、元へ戻せるのかどうかも分からない。
「……本当に、どうしたらいいのよ……」
それでも、一つだけ確かなことがある。
今はレインを無事に街まで連れ帰らなければならない。
もう一度、レインの脈と呼吸を確かめてから、リオナは周囲へ目を向けた。宝物庫には大量の金貨や宝石、そして希少な魔導銃まで残されている。
故郷の孤児院へまとまった仕送りができると思えば、惜しくないわけではない。けれど、どれほど価値のある財宝であろうと、大切な相棒の命には代えられなかった。
「……まったく、もう。あんたってば、最後の最後で……」
小さく文句を言ってみたものの、やはり返事はなかった。リオナは少女の身体をもう一度抱き直すと、奥歯を噛みしめて宝物庫の出口へ目を向けた。
姿が変わってしまっても、レインは大切な相棒だ。何が起きたのか分からない以上、今の彼を一人にはできない。
本人が目を覚ます前に、自分がやるべきことは決まっていた。