TSした俺は爆乳美少女 ~爆乳お姉さんたちに愛される百合ハーレム迷宮譚~ 作:TS百合好き
【Side:リオナ】
「……とにかく、ここから出なきゃ」
自分に言い聞かせるように呟き、リオナは腕の中の少女を抱き直した。つい先ほどまで男性だったレインが、今では自分よりも小柄な美少女になっている。
腰まで伸びた栗色の髪も、人形のように整った顔立ちも見慣れないものばかりだが、魔法陣の光に包まれた相棒が目の前でこの姿に変わったことは、ほかでもないリオナ自身が見届けていた。
何が起きたのか分からない。ただ、今はその理由を考えている場合ではなかった。
レインは意識を失っているものの、呼吸も脈も安定しており、目立った外傷もない。とはいえ、未知の魔法陣が再び起動しない保証はないし、身体の内側まで無事かどうかも分からなかった。まずは安全な場所へ連れ帰らなければならない。
「……まったく。こんなときにまで、私を心配させるんだから」
普段なら文句の一つも返してくる相棒は、穏やかな寝息を立てるばかりだった。その沈黙が不安を大きくするのを感じながら、リオナはレインの服装を確かめた。
元の胸当ては外してあるが、男性用の衣服は今の身体にまったく合っていない。肩や袖が余っている一方で、胸元だけは生地が引き伸ばされ、今にも縫い目が裂けそうになっている。
「……それにしても、本当に何なのよ、この胸」
思わず漏れた言葉に、慌てて口を押さえた。リオナ自身、服選びに苦労するほど胸が大きい方だが、それを上回る膨らみが、ずっと小柄なレインの身体についている。どう考えても普通の変化ではなかった。
もっとも、本人が目を覚ましたら、それこそ大騒ぎするに違いない。驚いた顔で自分の身体を見下ろす姿を想像すると、ほんの少しだけ気持ちが和らいだ。
「……だから、ちゃんと目を覚ましなさいよ。馬鹿レイン」
いつものレインが戻ってくることを願いながら、リオナは宝物庫を見渡した。そこには金貨や宝石、魔法の武具が山のように残されている。奥には、思わず目を奪われた希少な魔導銃まであった。これだけの財宝があれば、故郷の孤児院への仕送りにも、今後の装備を整える資金にも困らないだろう。
だが、迷っている時間はなかった。
「……そんなの、後回しよ」
幸い、宝物庫までの道順は地図に記録してある。後で信用できる探索者や荷運び人に手伝ってもらえば、残した財宝も回収できるかもしれない。それより今は、意識のない相棒を無事に街へ運ぶことの方が何倍も重要だった。
リオナは水と回復薬を取り出しやすい場所へ移し、運搬の邪魔になるレインの剣と盾は宝物庫の片隅へまとめた。置き場所を地図の余白に記しながら、かつてレインに言われた言葉を思い出す。
『荷物は命より重くない。いざとなったら、迷わず捨てて逃げろよ』
「……言われなくても、分かってるわよ」
野営用の毛布でレインの身体を包み、呼吸を妨げないよう顔の周りを緩めてから、外套と布帯を使って背中へ固定する。長い髪や身体の線が目立たないよう整え、慎重に立ち上がった。
「うっ……お、重い……!」
小柄になったとはいえ、成人した女性一人分の重さがある。膝にかかる負担は予想以上で、意識のないレインは自分でしがみつくこともできない。それでも、以前の長身の男性を背負うよりは現実的な重さだった。
「……本当に、とんでもない身体になっちゃったわね」
背中から伝わる柔らかな感触に戸惑いつつも、リオナは布帯を締め直した。振り返れば、宝物庫の財宝が魔導灯の光を受けて輝いている。しかし、彼女はもう一度レインの呼吸を確かめると、そのまま出口へ足を向けた。
◇ ◇ ◇
迷宮からの帰路は、来たときの何倍も長く感じられた。
普段ならレインが盾を構えて前に立ち、リオナが背後からクロスボウで援護する。ところが今、その頼れる前衛は彼女の背中で眠っていた。魔物に遭遇しても、意識のない相棒を背負ったままでは満足に射撃もできない。正面から戦うのは、どう考えても無謀だった。
幸い、二人は迷宮の地図を更新する依頼を受けており、帰り道についても細かく記録を残している。リオナはその情報を頼りに、人通りの多い区域へ続く道を慎重に選んだ。
曲がり角では立ち止まって耳を澄ませ、魔物の気配がすれば迂回する。途中、石床を硬い爪が引っかくような音が近づいてきたときには、慌てて通路脇のくぼみに身を寄せた。
(……お願いだから、こっちに来ないで)
背中のレインを壁にぶつけないよう支え、息を殺してやり過ごす。いつもなら二人で十分に対処できる相手かもしれない。それでも今は、魔物の足音が遠ざかるまでのわずかな時間が、ひどく長く感じられた。
「……はぁ。心臓に悪いわね」
ようやく息をつくと、背中のレインがかすかに身じろぎした。リオナは思わず振り返ろうとしたが、聞こえてくるのは相変わらず穏やかな寝息だけだった。
期待してしまった分だけ落胆も大きい。そんな自分に苦笑しながら、リオナは再び歩き出した。
「……帰ったら、絶対に文句言ってやるんだから」
思えばレインは、いつだって慎重な探索者だった。危険な通路では退路を確保し、弱い魔物を相手にするときも油断しない。ときには念入りすぎると思ったこともあるが、今はその教えに従うことで、どうにか相棒を守れていた。
幾度も休憩を挟み、脚が重くなるたびに気合いを入れ直す。やがて前方から人の声が聞こえ、行き交う探索者の姿が見えたときには、ようやく肩の力が抜けた。
「……もう少しだからね、レイン」
残った力を振り絞って迷宮の入口を抜けると、外では夕日が街を赤く染めていた。朝に潜ったときには、まさかこんな形で帰還することになるとは思いもしなかった。
入口付近ではギルド職員が帰還者を確認していた。リオナは毛布を整え直してから、二人分の帰還を報告する。
「リオナとレイン、二名とも帰還しました」
「ああ、お疲れさま。……って、どうした? 相棒は怪我でもしたのか?」
「探索中に体調を崩してしまって。呼吸は安定しているので、ひとまず宿で休ませようと思います」
「そうか。必要なら救護所を使ってもいいぞ?」
「ありがとうございます。何か異常があれば、すぐに神官さんへ相談します」
職員はそれ以上追及せず、帰還を記録してくれた。リオナは礼を告げると、足早にその場を離れる。救護所を勧められて少し迷ったものの、今のところ容態は落ち着いている。
何が起きたのか本人さえ知らないうちから、人前で事情を説明することはためらわれた。もちろん、意識が戻らない状態が続くようなら、秘密にしている場合ではない。宿に着いても目を覚まさなければ、神官を呼ぶことも考えなければならないだろう。
男だったレインが突然女性になったと知れれば、どんな噂が広がるか分からない。自分が女の子になったことすら知らない相棒に、これ以上の負担をかけたくなかった。
(……まずはミアのところね。あの子なら、協力してくれるはずだから)
リオナは背中のレインを抱え直し、夕暮れの街へと足を踏み出した。
◇ ◇ ◇
「ただいま、ミア……!」
宿屋へ辿り着いた頃には、街に魔導灯がともり始めていた。夕食時の食堂には焼きたてのパンと煮込み料理の香りが漂い、客たちの楽しげな声が響いている。その奥のカウンターで注文を受けていた桃色の髪の女性が、リオナを見つけて顔を輝かせた。
「あっ、リオナ! お帰りなさい! 今日はどうだった……って、どうしたの、その顔?」
看板娘のミアは、疲れ切ったリオナの顔と、その背中で毛布に包まれた人影を交互に見つめた。何やら考え込むように首を傾げ、恐る恐る口を開く。
「……誘拐?」
「違うわよ!? 仲間が倒れたの! お願い、空いてる部屋を貸して!」
「えっ!? ご、ごめん! すぐに案内するね!」
冗談を言っている場合ではないと悟ったミアは、家族へ仕事を任せ、リオナを二階の空き部屋へ連れていった。
この宿は女性客が安心して利用できる造りで、鍵のかかる個室や浴場も備わっている。リオナは迷宮王国へ来てからずっと世話になっていたが、レインが普段利用しているのは、男性客の多い安宿だった。別々の宿に泊まっていても、二人で食事をするためにこの食堂へ来ることはあり、レインとミアも顔馴染みである。
「ここなら大丈夫だよ。運ぶの、手伝おうか?」
「ありがとう。でも、まずはベッドに寝かせたいの」
ようやくレインを寝台へ横たえると、リオナは大きく息を吐いた。ミアが扉の鍵をかけてくれたのを見届け、周囲に人がいないことを確かめてから、毛布を慎重にめくっていく。
「……えっ?」
少女の長い栗色の髪と、整いすぎるほど整った顔立ちが現れた瞬間、ミアは目を丸くした。
「ちょ、ちょっとリオナ! この子、誰なの!? こんな綺麗な子、初めて見るんだけど!」
「……レインよ」
「…………え?」
「だから、この子がレインなの。あんたも知ってる、私の相棒の」
ミアは寝台の少女を見つめ、それからリオナへ視線を戻すと、もう一度少女の顔を確かめた。
「レインって、あのレイン? うちに来るたびに私のことを褒めてくれて、忙しいときは食器を片づけてくれる、あの?」
「そうよ。あの調子のいい馬鹿よ」
「……ごめん。ちょっと何を言ってるのか分からない」
「でしょうね! 私だって、目の前で変わるところを見てなかったら信じられないわよ!」
思わず声を荒らげると、ミアはリオナの疲れ切った表情を見て、冗談ではないことを悟ったらしい。改めて寝台へ歩み寄り、少女の額にそっと手を添えた。
「……本当にレインなんだね。何があったの?」
「迷宮で変な魔法陣が発動して、あいつが光に包まれたの。消えたと思ったらこの姿で倒れてて、それからずっと目を覚まさないのよ」
「そっか……。熱はなさそうだし、呼吸も落ち着いてるね。怪我は?」
「目立つ外傷はなかったわ。ただ、原因が何も分からなくて……」
事情を聞いたミアは表情を引き締めたが、すぐにレインの衣服へ目を向けた。男性用の服は肩や袖が余っているのに、胸元だけが無理に引き伸ばされている。
「まずは楽な格好にしてあげよう。……って、えっ? ちょっと待って、この胸……!」
「……そうなるわよね。私も最初はそうだったから」
「いや、見れば分かるけど! これ、どうやって服を着せればいいの!?」
「それを相談したかったのよ……」
ミア自身も、服を選ぶ際には胸元の寸法で苦労する体格をしている。それでも、今のレインの身体はあまりに極端だったらしい。
ミアが宿にある寝間着を何着か持ってきてくれたものの、身長に合わせれば胸元が閉まらず、胸の大きさに合わせれば肩や袖が余ってしまう。結局、腰紐で調整できるゆったりした衣服を下半身に使い、上半身は締めつけないよう清潔な布と寝具で覆うことにした。
「……とりあえず、これで少しは楽になったかな。ちゃんとした服は、起きてから考えよう」
「ええ。助かったわ、ミア」
寝具を整え、顔色と呼吸に変化がないことを確かめたところで、リオナはようやく椅子に身体を沈めた。
「……つっかれたぁ……」
「お疲れさま。ほら、まずはお水を飲んで。ご飯もあとで持ってくるからね」
「ありがと……」
差し出された水を飲み干すと、ようやく一日の疲れが押し寄せてきた。朝から迷宮を探索し、守護魔物を倒して隠された宝物庫を発見したときは、大当たりだと喜んだものだった。それなのに、肝心の相棒は美少女へ変わり、今も目を覚まさないままでいる。
寝台へ目を向ける。以前から顔立ちの整った青年だったとはいえ、今のレインには目を奪われるほどの美しさがあった。栗色の髪や眠る横顔には、かすかに昔の面影も残っている。それがかえって、リオナの胸を締めつけた。
昔から女の子には目がなくて、少々調子のいいところもある相棒。それでも、誰かが困っていれば放っておけず、迷宮ではいつも前に立って自分を守ってくれた。故郷の孤児院への仕送りについて相談したときも、親身になって力を貸してくれた。
(……お願いだから、無事に目を覚ましてよね)
「……ねえ、リオナ」
ミアに声をかけられ、リオナは顔を上げた。
「教会の神官さんに診てもらった方がいいんじゃないかな。何が起きたか分からないんでしょ?」
「……そうよね。呼吸は落ち着いてるけど、もしこのまま起きなかったら……」
考えないようにしていた不安が、言葉になってこぼれた。ミアはその隣へ腰を下ろし、リオナの肩へそっと手を置く。
「大丈夫、なんて簡単には言えないけど、今は眠っているように見えるよ。でも、何か変わったらすぐに神官さんを呼ぼう。私も様子を見てるから、リオナ一人で抱え込まないでね」
「……ありがとう、ミア」
「もう、何度もお礼を言わなくていいってば。レインは私の知り合いでもあるし、何より大切な友達の相棒なんだから。できることは手伝うよ」
いつもの明るい声に込められた優しさがありがたくて、リオナは少しだけ俯いた。張り詰めていた気持ちが緩んだせいか、目の奥まで熱くなりそうだった。
「……本当に、ありがとう」
「ふふっ。また言った」
「……うるさいわね」
思わず言い返すと、ミアは楽しそうに笑った。その笑顔につられて、リオナの頬もようやく緩む。
「……それにしても、レインって男の子のときも結構いい顔してたけど、女の子になるとこんなに綺麗になるんだねぇ」
「……そうね。私だって、目の前で変わるのを見なかったら、絶対に信じなかったと思うわ」
「ずっと背負って帰ってきたんでしょ? レインが起きたら、いっぱいお礼を言ってもらわないとね」
「当然よ。あいつには一生恩に着てもらうんだから。美味しいものくらい、いくらでも奢らせてやるわ」
「ふふっ。レインなら、喜んで奢ってくれそうだけどね」
「……それは、そうかも」
きっと彼なら、いつもの調子で『何でも好きなものを頼んでいいよ』と笑うだろう。そんな姿が簡単に想像できて、リオナは久しぶりに心から笑った。
そのときだった。
「…………ん……」
寝台の方から、小さな声が聞こえた。
二人が同時に振り返ると、眠っていた少女の瞼がかすかに震えていた。長い睫毛の下から、見覚えのある琥珀色の瞳がゆっくりと覗く。
「……レイン?」
リオナは椅子を蹴るように立ち上がり、寝台へ駆け寄った。あれほど呼びかけても反応しなかった相棒が、ようやく目を覚まそうとしている。気づけば、以前よりずっと小さく細くなった手を握りしめていた。
「レイン! 聞こえる!? 私よ、リオナよ!」
「リオナ、そんなに大きな声を出したら、びっくりしちゃうよ!」
ミアにたしなめられて声を落としたものの、握った手だけは離せなかった。もし目を覚まさなかったら。もし自分のことを覚えていなかったら。帰り道から何度も振り払ってきた最悪の想像が、今になって押し寄せる。
やがて少女の瞳がゆっくりと動き、リオナの顔を捉えた。
「…………リオナ?」
「……っ!」
耳に届いたのは、今まで聞いたことのない、柔らかな少女の声だった。それでも自分の名前を呼ぶ調子は、よく知っている相棒のものと変わらない。そのことが嬉しくて、リオナは声が震えないよう気をつけながら頷いた。
「……そうよ。私よ、レイン」
「……ミアさんも、いる……?」
「うん、いるよ。おはよう、レイン」
ミアが優しく微笑むと、レインは二人の顔を交互に見比べ、不思議そうに首を傾げた。
「……あれ? 何で、二人とも……?」
どうやら、迷宮で何が起きたのかも、自分の身体がどう変わったのかも、まだ分かっていないらしい。リオナは言葉を探したが、いつまでも隠しておけることではないと分かっていた。
「……レイン。落ち着いて聞いてね」
握った手に、そっと力を込める。
「実は、あんたに話さなきゃいけないことがあるの」
琥珀色の瞳が、不思議そうに彼女を見つめ返した。
相棒が無事に目を覚ました安堵と、これから伝えなければならない事実への不安を抱きながら、リオナは小さく息を吸う。
――こうして、レインにとっての本当の受難が始まろうとしていた。