TSした俺は爆乳美少女 ~爆乳お姉さんたちに愛される百合ハーレム迷宮譚~   作:TS百合好き

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第5話 目が覚めたら、女の子になっていました

 ――どうして、こんなことになっているんだろう。

 

 目を覚ましたばかりの俺は、ぼんやりとした頭で考えていた。見慣れない天井に、身体を包む柔らかな寝具。どうやらどこかの宿屋にいるらしいが、なぜ自分がここで寝かされているのか、肝心の記憶がどうにも曖昧だった。

 

 確か、今日はリオナと一緒に迷宮へ潜り、再編された区域の地図を作る依頼を進めていた。隠し通路の先で強大な守護魔物を倒し、ようやく辿り着いた宝物庫では、信じられないほどの財宝を発見したはずだ。希少な魔導銃を見つけたリオナが大喜びしていたことも、はっきりと覚えている。

 

 ところが、その先の記憶だけがどうにも曖昧だった。魔物に負けた覚えも、大怪我を負った記憶もない。それなのに、どうして俺は宿屋のベッドに寝かされているのだろうか。しかも、目の前には二人の美女がいる。

 

 一人は、一年半もの間パーティーを組んできた相棒のリオナ。赤茶色の髪をポニーテールにまとめた、緑色の瞳が印象的な美人である。

 

 もう一人は、リオナが普段利用している宿屋の看板娘、ミアさんだった。桃色の髪をした愛嬌たっぷりの美少女で、明るく世話好きな性格もあって、俺も以前から可愛いと思っていた女性だ。

 

 その二人が、なぜか揃って俺の顔を覗き込んでおり、リオナに至っては俺の手をしっかり握っていた。

 

「……実は、あんたに話さなきゃいけないことがあるの」

 

 妙に真剣な表情で、リオナがそんなことを言ってくる。

 

 ……え? 何だ、これ。俺、何かしたっけ?

 

 寝ぼけた頭で状況を整理しようとして、ふと身体に妙な違和感を覚えた。

 

 何というか、普段なら身体を覆っているはずの衣服の感触がないのである。恐る恐る掛布の下へ手を差し入れてみると、肌に直接触れているのは柔らかな布だけで、どうやら上半身には何も着ていないらしい。

 

(……あれ? 俺、上半身裸じゃない?)

 

 ますます訳が分からなくなってきた。見知らぬ部屋に柔らかなベッド、なぜか服を着ていない自分。そのすぐ傍らには以前から可愛いと思っていた美女が二人もいて、リオナは俺の手を握りながら重大そうな話を切り出そうとしている。

 

 ……待てよ。

 

 これ、前世の日本で遊んだ美少女ゲームなら、何かのイベントが発生していてもおかしくない光景ではないだろうか。いや、むしろイベントが終わった後なのか? だとしたら、なぜ俺には肝心の記憶がない?

 

 寝ぼけた頭が、猛烈な勢いでおかしな方向へ回転し始めた。

 

(……え、何これ。もしかして俺、二人と何かあった……?)

 

 いや、待て待て。落ち着け、俺。

 

 確かに俺は女の子が大好きだし、いつか可愛い女の子たちに囲まれる生活を送りたいとは思っていた。だが、いくら何でも、そんな都合のいい展開が現実に起こるわけがない。

 

 そもそも、リオナがそんなことをするはずもないし、ミアさんだって――。

 

「……レイン? ちゃんと聞いてる?」

 

「……え? あ、うん。聞いてるけど……」

 

 慌てて返事をした瞬間、俺は自分の口から出た声に妙な違和感を覚えた。

 

 …………ん? 今、何かおかしくなかったか?

 

「……あれ?」

 

 思わず声を漏らすと、耳に届いたのはやけに高く、柔らかく澄んだ声だった。普段聞き慣れている自分の声とはまるで違う。少女のような、というより、どう考えても女の子の声そのものである。

 

「……な、何だ、これ?」

 

 もう一度声を出してみても、結果は変わらない。十九年間聞き続けてきた自分の声が、まったくの別物になっているのだ。呆然としている俺を見て、リオナが何とも言えない表情を浮かべた。

 

「……レイン。あんた、迷宮で変な魔法陣に巻き込まれたの、覚えてる?」

 

「……魔法陣?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、途切れていた記憶の一部が蘇った。そうだ。宝物庫の奥で、突然光を放ち始めた魔法陣を見たのだ。

 

 床に刻まれた不可思議な紋様。眩しさを増す光。そして、自分の身体の奥を得体の知れないものが駆け巡るような奇妙な感覚。確か、そこで意識が途切れていた。

 

「……あっ。そうだ、俺、何かに巻き込まれて……」

 

「うん。それでね……」

 

 リオナが言いにくそうに言葉を濁すのを見て、俺は何とも嫌な予感を覚えた。

 

「……何?」

 

「……とりあえず、驚かないで」

 

「いや、そう言われると余計に怖いんだけど」

 

「……あんた、身体が変わっちゃったの」

 

「…………は?」

 

 意味が分からなかった。身体が変わったとは、どういうことだ? 詳しく聞こうと思わず上体を起こした、その瞬間だった。

 

「……重っ!?」

 

 身体の前側へ、ずしりと重みがかかった。しかも、今まで重さなど感じたこともない場所である。

 

 何だ、これ。

 

 まるで前世で見た五キロの米袋を、胸元に二つもぶら下げられたような感覚だった。身体を動かすたびに重みが揺れ、慣れ親しんだ自分の重心を容赦なく狂わせてくる。

 

 もちろん、実際にどれほどの重量があるのかは分からない。だが、少なくとも俺には、それくらいの荷物をいきなり身体の前側へ取りつけられたように感じられた。

 

 反射的に視線を落とした俺は、そこに広がる光景を見て絶句した。

 

「…………は?」

 

 胸があった。いや、ただ胸があるというだけなら、こんな反応にはならなかっただろう。

 

 それまで平坦だったはずの胸元には、信じられないほど巨大な二つの膨らみが存在していた。上半身を起こした拍子に掛布がずり落ちかけ、俺は慌てて押さえたものの、その下にあるものの存在感までは隠しようがない。

 

(……何だ、これ?)

 

 山だ。いや、山が二つ並んでいるのだから、山脈とでも呼ぶべきなのだろうか。

 

 今までの人生で、それなりに多くの女性を見てきたつもりだった。女性の胸に興味がなかったなどと、口が裂けても言えない。むしろ大好きである。

 

 だが、そんな俺でも、これほど規格外のものを目の当たりにしたことはなかった。

 

 しかも、問題はその山脈が他人のものではなく、どうやら自分の身体から生えているらしいということである。

 

(……待て待て待て。何で俺の胸に山脈ができてるんだよ!?)

 

 恐る恐る手を持ち上げてみると、そこにあったのは見慣れた自分の手ではなかった。

 

 指は以前より細く、手のひらも小さい。肌は妙に滑らかで、肩からは見覚えのない長い栗色の髪が流れ落ちている。

 

 腕も肩も明らかに細くなっていたし、布の下で感じる腰回りの感覚まで違っていた。

 

 そうして身体の変化を確かめているうちに、俺は男だった頃には確かに存在していたものがなくなっていることにも気づいてしまった。

 

「…………」

 

 頭の中が真っ白になる。いや、待て。落ち着け。きっと何かの間違いという可能性が――。

 

「……レイン?」

 

 リオナが心配そうに声をかけてくる。

 

 俺は彼女の顔を見つめると、震える手で自分の胸元を指さした。

 

「……これ、何?」

 

「……胸、ね」

 

「それは分かるよ!」

 

 思わず叫んだものの、耳に届いたのはやっぱり可愛らしい少女の声だった。

 

「そうじゃなくて! 何で俺にこんなものがついてるんだよ!?」

 

「……だから、身体が変わっちゃったんだってば」

 

「変わったって、どういう……!」

 

「その……男の子から、女の子に……」

 

「…………」

 

 俺はリオナとミアさんの顔を交互に見つめ、もう一度、自分の胸元へ視線を落とした。小さくなった手に腰まで伸びた髪、聞き慣れない声。そして、どう考えても男性には存在しないはずの巨大な二つの膨らみ。

 

 ばらばらだった違和感がつながり、頭の中でようやく一つの結論が形を取り始めた。

 

「…………女の子?」

 

「……うん」

 

「……俺が?」

 

「……うん」

 

「…………」

 

 長い沈黙が流れた。

 

 そして――。

 

「……はああああああああっ!?」

 

 自分でも驚くほど甲高い悲鳴が、客室いっぱいに響き渡った。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「ちょ、ちょっと待って! 待って待って待って!」

 

「レイン、落ち着いて!」

 

「落ち着けるわけないだろ!? 何だよこれ! 何なんだよ、この身体!?」

 

 ベッドの上で取り乱す俺を、リオナが必死になだめてくる。しかし、つい先ほどまで男だったはずの自分が、訳も分からず女の子になっているのだ。しかも、胸までとんでもなく大きい。そう簡単に落ち着けるはずがなかった。

 

 いや、そんなことよりも、もっと重大な問題がある。

 

「……も、戻れるんだよな?」

 

 気づけば、縋るようにそんなことを尋ねていた。

 

「……レイン?」

 

「だって、魔法陣なんだろ? だったら、何かの魔術なんだよな? だったら、解除する方法だって……!」

 

 言いながらリオナの顔を見つめたが、彼女はすぐに答えてくれなかった。その沈黙だけで、嫌な予感が胸の奥へ広がっていく。

 

「……リオナ?」

 

「……ごめん。私にも分からない」

 

 リオナは申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「私だって、あんな魔法陣は初めて見たのよ。何が起きたのかも、どうすれば元に戻れるのかも……」

 

「…………」

 

「でも、まだ何も調べてないんだから。元に戻れないって決まったわけじゃないでしょ?」

 

 そう言われて、俺は口を閉じた。確かにリオナの言うとおり、原因すら分かっていないのだから、元に戻る方法が存在しないと決まったわけでもない。

 

 それでも、だからといって安心できるものではなかった。

 

 俺はこの世界で生まれてから十九年間、男として生きてきたのだ。前世の日本でも男だったことを考えれば、もっと長い間、男性としての自分を当たり前だと思っていた。

 

 それが、たった一度の不可思議な現象によって、何もかも変わってしまったのである。

 

 今まで当たり前だった身体の感覚も、声も、視線の高さも、すべてが違う。これまでの人生で積み重ねてきた経験が、突然通用しなくなってしまったような気がした。

 

 そんな状況で、すぐに現実を受け入れろと言われても無理な話だった。

 

「……教会」

 

 ふと、俺の頭にある可能性が浮かんだ。

 

「え?」

 

「教会なら、呪いを解く神聖術があるよな? もしかしたら、これも呪いの一種かもしれないし……!」

 

 この世界では魔術と神聖術は別の技術として扱われており、身体強化や攻撃魔術とは異なり、神聖術には傷を癒やしたり、呪いを祓ったりする力がある。神官によって扱える術や技量には違いがあるものの、少なくとも身体に起きた異常を相談する相手としては最適だろう。

 

 もし今回の変化が何らかの呪いであれば、解呪の神聖術によって元に戻せるかもしれない。

 

 何の見通しもなかった俺にとって、その可能性は僅かな希望に思えた。

 

「……うん。私もそう思ってた。明日にでも、相談しに行きましょ」

 

 リオナが頷くのを見て、俺は少しだけ胸を撫で下ろした。いや、正確には撫で下ろそうとして、途中で手を止めた。

 

 ……胸が邪魔だ。何だこれ。何でこんなに重いんだ。

 

 胸の重さだけでも厄介なのに、手足の長さまで変わってしまっている。男だった頃は剣と盾を使う前衛として身体を鍛えてきたが、今の状態では以前と同じように戦える自信がなかった。

 

 身体強化で筋力や反応速度を高めることはできても、慣れない重心や間合いまで元に戻るわけではない。果たして、こんな身体で今までどおり探索者を続けられるのだろうか。

 

「……あの、レイン?」

 

 それまで黙って見守っていたミアさんが、おずおずと声をかけてきた。

 

「……どうしたの、ミアさん?」

 

「その……一応、言っておくけど、女の子になってもレインはレインだからね?」

 

「…………」

 

「私も最初はびっくりしたけど、こうやって話してみたら、やっぱりいつものレインだなって思ったよ。だから、困ったことがあったらちゃんと相談してね?」

 

 ミアさんが柔らかく微笑んだのを見て、胸の奥がじんわりと温かくなった。突然こんな身体になってしまい、何をどうすればいいのかも分からない。これから先のことを考えるだけで不安になるが、リオナとミアさんが変わらずに接してくれることが、今は何よりありがたかった。

 

「……ありがとう、ミアさん」

 

「ふふっ。どういたしまして」

 

 俺が礼を言うと、ミアさんはいつもの明るい笑顔を浮かべ、少しだけ身を乗り出した。

 

「それにしても、レインってば、本当に綺麗になっちゃったねぇ」

 

「……え?」

 

「いやぁ、正直びっくりしたよ。男の子のときも結構いい顔してたけど、女の子になったらこんなに可愛くなるなんて!」

 

「……あの、ミアさん?」

 

「しかも、胸なんて私よりずっと大きいし! こんなの、街中の女の子が羨ましがっちゃうよ!」

 

「いや、羨ましがられても困るんだけど!?」

 

 思わず言い返すと、ミアさんは楽しそうに笑った。

 

「ふふっ。そういうところは変わらないんだね」

 

「……そりゃ、中身は俺だからね」

 

「うん。安心した」

 

 ミアさんは安心したように頷くと、今度はリオナへ視線を向けた。

 

「ねえ、リオナ。とりあえずレインに鏡を見せてあげたほうがいいんじゃない?」

 

「……そうね。いつまでも自分の顔を知らないのも困るだろうし」

 

「……鏡?」

 

 俺は二人を見比べた。そういえば、声も手足も胸も変わってしまったことは分かったが、自分の顔だけはまだ確認していない。

 

 正直、あまり見たいとは思わなかった。それでも、いつまでも現実から目を背けているわけにはいかないだろう。

 

「……うん。見たい」

 

 そう答えると、ミアさんが部屋の隅に置かれた姿見を指さした。

 

「じゃあ、あっちにあるから……って、待って待って! いきなり立たないで!」

 

「え?」

 

 止められたときには、俺はすでにベッドから立ち上がろうとしていた。ところが――。

 

「……うわっ!?」

 

 足を床につけた瞬間、身体がぐらりと前へ傾いた。慌てて踏ん張ろうとしても思った位置に足が届かず、胸元にかかる重みも予想以上に大きい。慣れ親しんだ身体のつもりで動いたせいで、まるでバランスが取れなかった。

 

「危ない!」

 

 リオナが素早く腕を伸ばし、倒れかけた俺を抱き留める。

 

「……っ、あ、ありがとう……」

 

「もう! だから落ち着きなさいって!」

 

「……ごめん」

 

 俺はリオナに支えられたまま足元へ視線を落とし、改めて違和感を覚えた。

 

 ……何だこれ。床が近い。いや、見慣れた景色の高さそのものが違うのだ。

 

 男だった頃の俺は、身長百七十八センチあった。決して巨漢というわけではないが、同年代の男性と比べても背は高いほうだったはずだ。

 

 それなのに、今は目の前にいるリオナのほうが、明らかに大きく見える。

 

「……リオナ、背、伸びた?」

 

「伸びてないわよ!」

 

「……だよね」

 

 元々、リオナは俺より十五センチほど背が低かった。その彼女を見上げることになるとは、夢にも思わなかった。

 

「……俺、どんだけ縮んだの……?」

 

「それも後でちゃんと測りましょ。とにかく、今は無理しないこと」

 

 そう言われた俺は、素直に頷くことしかできなかった。ずれかけた胸元の布をミアさんに巻き直してもらい、リオナに肩を支えられながら姿見へ向かう。けれども、たった数歩の距離が、ひどく遠く感じられた。

 

 まず、歩幅が合わない。今までの感覚で足を踏み出しても思ったより短い距離しか進めず、普段なら無意識に行っていた動作を一つひとつ考えながら繰り返すしかなかった。腕も脚も以前より短くなっているうえ、さらに厄介なのが胸元の重みである。

 

 さっきから妙に前へ引っ張られるような感覚があるうえ、歩くたびに胸がわずかに遅れて揺れるのだ。これまでの人生で一度も経験したことのない感覚に、どうにも落ち着かない。

 

 それだけでも十分に厄介なのに、足元を確認しようと視線を下げると、今度は巨大な二つの膨らみが視界を占領した。

 

 ……見えない。普通に下を向いただけでは、自分の足先が確認できないのである。

 

(……いや、何なの、この身体。普通に歩くだけで難易度高すぎない?)

 

 思わず頭を抱えそうになったが、今は胸元の布を押さえていなければならない。どうやら、この身体で生活するには、今まで考えたこともなかった苦労が山ほどありそうだった。

 

 そんな何気ない動作にさえ苦労している自分が情けなくなったが、今は身体の変化を確かめる方が先だろう。リオナに支えてもらいながら、俺はようやく姿見の前へ辿り着いた。

 

「はい、レイン。これが今のあなたの姿だよ」

 

 ミアさんに促され、ゆっくりと顔を上げた俺は、そのまま言葉を失った。

 

「…………え?」

 

 鏡の中には、見知らぬ美少女が立っていた。

 

 腰まで流れる艶やかな栗色の髪。大きな琥珀色の瞳に、長い睫毛。小さく整った鼻筋と、薄紅色の柔らかそうな唇。白い肌はきめ細かく、全体的にどこか幼さを残しながらも、思わず見惚れてしまうほど美しい顔立ちをしている。

 

 元の俺にも確かにあったはずの面影を残しながら、まるで別人のように整えられている。しかも、その身体がまた、とんでもなかった。

 

 小柄で華奢な肩からは想像もつかないほど豊かな胸が、どん、と前方へ張り出している。片方だけでも顔一つ分ほどありそうに見える二つの膨らみは、細い腰との対比もあって、もはや現実離れした大きさだった。

 

(……うわ、すっげえ美少女)

 

 そんな感想が真っ先に浮かんでしまった。前世で遊んでいた美少女ゲームに登場しても、間違いなく人気ヒロインになれるだろう。それこそ、俺が夢中になって攻略していたゲームのヒロインたちと並んでも、まったく見劣りしないと思う。

 

 ……などと、完全に他人事のような感想を抱いた、その瞬間だった。

 

「……あっ」

 

 慣れない身体を支えようと腕を動かした拍子に、胸元へ巻いていた布がずれてしまった。鏡の中でも同じように布が緩むのを見て、俺は反射的に顔を背けた。

 

「わっ!? ご、ごめんなさい!」

 

「……え?」

 

 リオナが間の抜けた声を上げる。

 

「……レイン?」

 

「いや、だって、女の子の着替えを……!」

 

 そこまで口にして、俺はぴたりと動きを止めた。

 

 ……あれ?

 

 恐る恐る鏡を見ると、鏡の中の美少女も困惑した顔でこちらを見ていた。

 

 右手を上げると、美少女も右手を上げる。左手を動かせば、美少女も左手を動かす。首を傾げると、やはり同じように首を傾げた。

 

「…………」

 

 そこで、ようやく理解した。

 

「……俺じゃん!?」

 

「今さら!?」

 

 リオナの呆れ返った声が響き、隣ではミアさんが堪えきれなくなったように吹き出していた。

 

「ふふっ! レイン、自分の姿を見て謝っちゃったの!?」

 

「だ、だって! どう見ても知らない女の子だったから!」

 

「知らない女の子って……それ、あんた自身でしょ!」

 

「分かってるよ! 今、分かったんだよ!」

 

 俺は思わず顔を覆おうとして、その手を途中で止めた。何しろ、胸元の布を押さえていなければならないのだ。

 

 まったく、どうしてこんな目に遭わなければならないのか。しかも鏡に映る少女は、俺がどれだけ情けない顔をしても可愛らしいままなのである。

 

(……何だよ、これ。美少女って、そんなにずるい生き物だったのか……?)

 

 自分でも意味の分からない感想を抱きながら、俺は改めて鏡の中の姿を見つめた。間違いない。そこにいるのは俺だった。

 

 十九年間、男として生きてきたレインという人間が、どういうわけか、絶世の美少女になってしまっていたのである。

 

「……リオナ」

 

「何?」

 

「……俺さ」

 

「うん」

 

「……すっごい美少女になってない?」

 

 リオナは肩を落とし、露骨に脱力した。

 

「……あんたが一番驚いてどうするのよ!」

 

「いや、だって! こうやって見ると、とんでもなくない!?」

 

「とんでもないわよ! 私だって最初に見たとき、どうしようかと思ったんだから!」

 

「……そ、そうなんだ」

 

「そうよ!」

 

 リオナが盛大にため息をつくと、その隣でミアさんがくすくす笑っていた。

 

「でも、レインの言うとおりだと思うよ。こんなに綺麗な女の子、私も初めて見たもん」

 

「……ミアさんまで」

 

「ふふっ。昔から綺麗な女の子が好きだったレインにとっては、理想の姿なんじゃない?」

 

「……いや」

 

 俺は鏡の中の少女を見つめた。確かに美しい。もし男だった頃の自分がこんな少女と街ですれ違っていたら、間違いなく振り返っていただろうし、何とかしてお近づきになれないものかと考えていたに違いない。

 

 だが――。

 

「……自分がなりたいとは、一度も思ってなかったんだけどなぁ……」

 

 思わず漏れた言葉に、二人の笑い声が止まった。気まずい沈黙が流れ、俺も自分の言葉が場の空気を変えてしまったことに気づく。二人が悪気なく笑っていることくらい分かっているし、こんな状況でも明るく振る舞ってくれるのは、むしろありがたかった。

 

 それでも、どうしても割り切れないものがあった。

 

 鏡の中にいるのは、俺がこれまで憧れてきたような美少女だ。しかし、その姿になりたいと願ったことなど一度もない。自分の手で剣を握り、自分の足で迷宮を歩き、いつか腕の立つ探索者として名を上げる。そんな当たり前だったはずの未来が、突然どこかへ消えてしまったような気がした。

 

 俺は女性が好きだし、いつか素敵な女性と恋人同士になりたいと思っていた。前世のゲームのように、美女たちに囲まれる生活に憧れたことだってある。けれども、その夢の中で俺自身が女性になっていることなど、一度もなかったのである。

 

「……レイン」

 

 リオナが、静かに俺の名前を呼んだ。

 

「……何?」

 

「……大丈夫よ。まだ、何も決まったわけじゃないんだから」

 

 顔を上げると、リオナが真剣な表情で俺を見つめていた。

 

「あんたが元に戻りたいなら、私も手伝う。教会でも、魔術師でも、頼れるところには全部相談しましょ。だから……」

 

 そこでリオナは一度言葉を区切り、俺の顔を覗き込んだ。

 

「……一人で抱え込まないでよね」

 

 俺はしばらく彼女を見つめた後、ようやく小さく頷いた。

 

「……うん。ありがとう、リオナ」

 

「……ふん。今さら何言ってんのよ」

 

 リオナが照れくさそうに顔を背けるのを見ているうちに、ようやく少しだけ気持ちが落ち着いてきた。

 

 姿は変わってしまった。声も、身体も、何もかも。けれども、リオナはいつものリオナだし、ミアさんも変わらずに接してくれている。少なくとも、自分が一人きりになったわけではない。

 

 それだけは、確かだった。

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