-------------
ウサギが弱ってきている。
最後に元気を出したのは空元気だったか。
いりすも心配そうだ。
-------------
だんだん、だんだん動かなくなっていってる。
何か起こせるわけでもないけど、頭を撫でている。
まだ暖かいことに安堵している。
-------------
ウサギと出会ったのはちょっと前くらいのはずだ。
誰かがボロボロのウサギを見つけて、飼うことになった。
その時の私は、かわいそう、とは思えどもそのまま死んでも良いと思った。
結局、偽善の心で、勝手にお世話をしたのだけど。
もうその時から長くなかったのだろう。
それでも、私に懐いてくれた。
このウサギのことを好きになれた。
これを恋と表現するのであれば、これは初恋だった。
-------------
走って、学校に行く。
きっと、最後だろうから。
-------------
ウサギが眠っていた。
頭をなでる。
本当にこのまま飼ってしまってよかったのだろうか?
最悪、誰も気にも留めなくなったのだから私が逃がしてしまっても良かった。
私のエゴで、このオリの中で生涯を終えさせてしまった。
でも。
でも、最期が悲しそうな顔じゃなくて良かった。
きっと、彼がいりすの心の支えになってくれていたのだろう。
ありがとうございます。
-------------
いりすも、ここに着いた。
恐らく、走ってきたのだろう。
体が強くないのに無理をして。
彼が眠ってるの確認した。
はー。はー。
いりすの息遣いが聞こえる。
彼女が落ち着くまで、一緒にオリの中の彼を見ていた。
-------------
彼の葬儀が始まった。
興味はなかったはずだが、皆にとって死というのは大きな出来事だったようだ。
ネコも、ウサギのことを舐めていた。
彼女なりに、助けようとしてるのだろう。
墓は皆が主導で作り、私が埋めることになった。
彼は抱き上げる。
すのこを掃除するときに抱き上げたことがあるが、その時よりも重かった。
痩せていたはずなのに。
いりすは、オリの中の掃除をしていた。
本来、彼女も惜しみたいはずなのに、彼の居た場所を美しく残すことを優先していた。
彼を大きな穴のにいれ、土を上からかけていく。
ありがとう。
さようなら。
-------------
その日の放課後、何もないオリの前でお互いの身の上話を語った。
引っ越し続きで友達が出来なかったこと。
喘息を抱えていたこと。
特にネコに対しては、症状が激しくなること。
本当はネコに構いたかったこと。
ウサギのことを最初は好きじゃなかったこと。
私が初めての友達だった、ということ。
いりすは色々なことを語ってくれた。
私は、大人しい女の子を虐めていたこと。
それが周りに気付かれ、教室に居場所がなくなったこと。
そこで、うつ病を発症し、ここに引っ越したということ。
私が最低な人間で、誰にも愛される資格がないという事。
全てを話した。
彼女は、私の話を真剣に聞いてくれて。
私のことを怒ってくれた。
ああ。
彼女は私のことを、一人の人間として見てくれていたのだった。
-------------
そこから毎日、誰もいないオリの前にいき、一緒に話すようになった。
ずっと。
ずっと。
卒業する最後の日まで。
-------------
卒業式を迎えた。
二人でウサギのオリに向かった。
オリはもう壊されてしまうようだ。
凄く真剣に二人で頼み込んだ甲斐もあってか、卒業するまで残して貰えた。
ペンで名前を刻んでおくことにする。どうせ、壊されてしまうのだろう。
うーたろう、いりす、そして私。その名前を刻んだ。
-------------
彼の墓についた。
誰が置いたかは分からないが、菊の花が手向けられていた。
きんしゃ?というらしい。
いりすが手向けたわけでもないようだ。
彼のことを、ちゃんと見ていた人が私たち以外にもいたんだな、と思った。
最後に、一緒に彼が天国で幸せにやってくれていることを祈った。
ばいばい。またね。
二人でそう願った。
-------------
私たちは6年間に終わりを告げる。
私と彼女の二人は引っ越してきたから、それよりは短いのだけれど。
思えば色々あった。
思い出すのは、ウサギのこと。
私たちに愛された、一匹のウサギのこと。
それから、一人の女の子。
私が好きになった、女の子のこと。
-------------
卒業式が終わり、皆が写真撮影していた。
彼女とは、これでお別れだ。
思えば、友達らしいことは何もしてこなかったな、と思う。
彼女の家に行けば、この縁が続いたかもしれない。
でも、私たちの交流は、いつだってオリの前だった。
これでよかったのだ。
-------------
いりすは、私に駆け寄ってきて、手紙を渡してきた。
そして、ウサギの顔が付いたハンカチも渡してきた。
また、絶対会おうね。
最後にそう告げて、彼女の親の元に戻っていった。
-------------
帰ってすぐに自室に戻る。
彼女の手紙を開けた。
-------------
私と関わってくれて、ありがとう。
前に、あなたが初めての友達だって言いました。
あれは、うそです。
あなたが友達だと思っていても、私はあなたのことが大好きです。
ひとりぼっちだったうーたろうのことを。
見捨てないでいてくれたあなたのことが大好きです。
ひとりぼっちだった、私と。
話し続けてくれたあなたのことが大好きです。
どうか、私のことを忘れないで、ほしいです。
私はあなたのことを、忘れません。
大好きです。ぜったい、また会いましょう。
いりす きょうこ より
-------------
ああ。
こんなに幸せでいいのか。
相思、相愛がこんなにうれしいものだとは。
涙が、とまらなくて。
これでは。これじゃあ。
この後も生きていけて、しまうだろ。
きょうは、ねむれそうに、なかった。
-------------
たぶん終わり