レイアによる自己紹介と説明が終わったあと、永夢が真っ先に向かったのは医務室だった。
流石にあんな様子の子を放ってはおけないと感じたからだ。
突然あんな状態に……なにか原因があるのか?
考えながら医務室の前に着くと、そこにはエマが何か決まりが悪そうに立っていた。
「え、えっと、永夢さんこんにちは」
たどたどしく挨拶をしてくる。
「こんにちは、エマさん」
正直こんな環境で仲良くなれるとは思えないが、挨拶はしておくに越したことない。
「こんなところでどうしたんです?」
「ヒロさんのお見舞い兼状況観察だね。エマさんも?」
「う、うん」
どこか気まずそうな気配もするが、いまはそれが本題ではない。
とりあえず医務室に入る。
「あっ、永夢さんにエマさん!お疲れ様です!」
どうやら先客がいたようだ。
「シェリーちゃん?なんでここに?」
その先客はシェリーだったようだ。
「いや〜、なんか事件のにおいがしましたからね!事情聴取しようと思いまして!」
「し、静かにしてください〜」
少し部屋を見回すと、ベットの側の椅子に腰かけているメルルを見つけた。
「流石にうるさくするのは感心しないな」
「てへ、気をつけまーす」
そうして挨拶もそこそこに本題に移る。
「メルルさん。ヒロさんは?」
「今は落ち着いてますが、少し前までは悪を正しにいくって聞かなくて……」
ベットを見ると、ヒロさんが上体を起こしていた。
「…………」
「ヒ、ヒロちゃん」
「気安く話しかけないでくれないか」
妙にエマさんへの当たりが強い。
「……………」
やはりショックが大きいのか、そのままエマさんは黙ってしまった。
「ヒロさん」
「………なんだ」
なんでああなったのかを知る為に今度は俺が話す。
「あの時、どうして突飛な行動に出たのか教えてくれないか?」
「…悪を正そうと思った。それだけだ」
「本当にそうかな。ヒロさんは何かとりつかれたように行動していたように見えたけど」
「うるさい!!私は私の信念に従ったまでだ!!」
突然の大声にメルルとエマは身を震わせる。
「…分かった。今日はここまでにしよう」
そう言って椅子から立ち上がり、医務室から出ようとした時。
「待て」
ヒロさんから声をかけられた。
「明日も来るのか?」
「そのつもりだけど…、どうかした?」
「なら君に一つだけ忠告しておこう。人の事情にズカズカと入るな」
「……分かった。気をつけておくよ」
そう答えて、僕は医務室を出た。
医務室を出たあと、僕は食堂へと向かった。
時刻は12時半。お昼にはちょうどいい時間だ。
食堂には先客が何人かいるようだ。
ドアの向こうから話し声が聞こえてくる。
食堂に入って、まず目についたのが大量に置かれた食料だった。
そう、食事ではなく食料なのだ。
「これは…、すごいな」
見た目、ニオイともに食欲減退を加速させ味も想像に難くない。
リンゴなどのまともな物もあるが、あくまでデザートレベルで主食はやはりアレなようだ。
でも食べなければ死んでしまうので、皿に取り分ける。
ビュッフェ形式なようで、好きな量を取れるようだ。
皿に取り終えて、テーブルに着席する。
「隣、いいかしら」
振り向くとそこにはナノカさんがいた。
「別に僕は構わないよ」
そう答えると、彼女も持ってきた食料を置き食べ始める。
「………」
「………」
特に会話もなしに食事が進んでいく。
そうしていると、あらかた食べ終わったナノカさんが口を開く。
「宝条永夢。一ついいかしら」
「ん?どうしたんだ?」
その瞬間、脇腹に何かが押し付けられる。
目をやるとそれは銃だった。
「あなた、この屋敷の黒幕でしょう」
「は?」
突然理由のわからないことを言われ、困惑する。
「ここは魔女になるかもしれない少女だけが集められる…それなのに男がいるのはおかしい」
「待て待て、俺もこの状況には困惑してるんだ」
一旦落ち着かせようとする。
「はぁ」
仕方ない、とでも言いたげな顔をした後、
「ちょっと失礼するわね」
そう言って俺の額を触ってきた。
一体何をしてるんだ?
そう疑問を持ちながら、大人しくしてると手が離された。
「…どうやら本当みたいね」
「???」
俺が疑問に思っていると、再びナノカさんが話し始めた。
「あなたはまだ、ここの状況を理解できてないようね」
「そりゃ、まあ」
「いいわ、私が教えてあげる」
そう言って、ナノカさんが説明し始めた。
「ここは魔女になる因子が大きく見られた少女たちが集まる場所なのは分かってるわよね?」
「全国的な検査で、ってゴクチョーが言ってたな」
「魔女因子に適合した少女たちは魔法が使えるようになる。私が今やったのもそれ」
「一体何の魔法なんだ?」
その言葉を聞くとナノカさんは少し逡巡した後にこう答えた。
「そうね、あなたになら明かしてもいいわね。私の魔法は『幻視』よ」
「幻視?」
あまり聞いたことのない単語だ。
「未来と過去を見れる能力、と言えばいいかしら」
「は~、なんか条件とかあるのか?」
「その人に関わりの深いものに触れることで発動、見れるところはランダム。こんなところね」
かなり使いどころが限られるな。
「…一応聞くけど、あなたには何かしら能力はないの?」
「まぁ、ないな」
「そう、ならゴクチョーの話は本当なのね」
デザートのりんごを食べつくしたナノカさんは皿をさげていった。
「それにしても、不思議な子だな」
僕も同じように皿を下げ、食堂を出ていった。
その後、僕は看守に捕まえられたアリサさんを見ながら、地下の牢屋に戻った。
自分の部屋に戻ろうとした時、異様なにおいが鼻を突き刺した。
塗料のような頭が痛くなるにおいだ。
「ふぁ~、寝む~。って!何!このにおい⁉」
降りてきた階段の方を見るとココさんが鼻をつまみながら、こっちに向かってきていた。
「あ、エムっちじゃん!」
もう愛称がつけられてるのか。
そう思いながら、話を続ける。
「この刺激臭何処から漏れてるか知ってる?」
「あぁ~多分だけど」
そう言うとココは、少し奥の部屋の方に向かう。
「やっぱし。ビンゴ」
一体何が、と思い同じように牢屋をのぞき込む。
するとそこは俺たちの使う牢屋とは違うものになっていた。
「ふんふんふ~ん。ふんふんふ~ん」
部屋全体はあらゆる絵で埋め尽くされており、その中心には一人の少女が居た。
「あ、ココちゃんにお医者さんだ~」
その少女は城ケ崎ノアだった。
「な、なんでこんなところで絵を?」
「のあはね~、お絵かきするのが大好きなんだよ」
やっぱりどこか幼いな、この子。
「というか、こんな風な絵どこかで見たような…」
「あっ!!もしかして「バルーン」?!」
ココさんが目を輝かせて、ノアさんを見ている。
「ん?そうだよ?ノアはバルーンだよ」
「おぉ!!やば!!サインくれん!?」
バルーン。
近年世界中を騒がしている匿名アーティスト。
まさかその本人が来ているとは。
そんなことを思いながら、夢中になっているココを横目に自分の部屋に戻った。
殺風景な自分の部屋を見回す。
住めば都というがこれじゃあな。
いずれ生活環境は解決すべきだろう。
そう思いながら部屋を見ていると、一つのモノが目についた。
下段ベッドの下の空間から封筒らしきものがはみ出してあった。
「なんだ?これ?」
取ってみると、紙と何かが入っている蝶な厚みがあった。
明けてみると、一枚の手紙と指輪が入っていた。
手紙にはこのように書かれていた。
『最後の希望
ピンチの時、欲しいものを願って』
…この部屋に何でこんなものが?
そうおもいながらも、こんな場所ではなにが起こるか分からないため付けておく。
そうして、この屋敷の一日目は終わった。