学マス~チートPと一緒に初星学園を無双する話~ 作:みちみちお
学マスの原作未プレイで見切り発車です。そのためオリジナル展開のものを作り出してしまいました。
いろいろなところが怪しいですが読んでいただけると嬉しいです。
本日は5話投稿です。
2話 20時05分
3話 20時10分
4話 20時15分
5話 20時20分
1話 帰国した異端児
春の柔らかな日差しが、国際線の到着ロビーのガラス窓を白く染め抜いていた。
行き交う人々の喧騒の中、長身の青年がトランクを引きながら歩みを止める。目にかからない長さに切り揃えられた白銀の髪と、透き通るようなサファイアを思わせる碧眼。スウェーデン人の母・アイシャ譲りのその容姿は、周囲の視線を無意識のうちに惹きつけてやまない。
青年の名は、天宮優。今年で二十歳を迎えたばかりの青年だった。
大手商社「天宮貿易機構」の社長を務める父・昭の海外赴任と仕事の都合に付き添い、十八歳から二年間を異国の地で過ごしていた優は、その用事をすべて終えて、ようやく生まれ育った日本へと帰国したのである。
「……戻ってきたんだな、東京に」
優しく柔らかな声色で小さく呟き、優は深く息を吸い込んだ。
胸を満たすのは、どこか懐かしい都会の匂いだった。
優には、誰にも明かしていない重大な秘密がある。
それは、彼が前世の記憶を保持したまま転生してきた存在であるということだ。
天上の女神の手違いによって命を落とし、その詫びとして新たな生を与えられた際、優はこの世界へと転生を果たした。そして物心がついた頃、優は自身が身を置くこの場所が、前世において親しまれていた「アイドルマスター」の息づく世界そのものであると気づいたのである。
かつて赤羽根たちが駆け抜けた時代から時が流れ、283プロダクションなどが一線で煌めく時代を経て、いまやアイドル文化は新たな変革期を迎えていた。
その転生の折、優は女神から一つの規格外のチート能力を授かっていた。
――『音楽に愛されし者』。
それは、前世の楽曲を自由自在に再構築し、アレンジを施し、ボーカロイドやデジタル音源を神がかり的な精度で調声できるのみならず、自ら歌い上げ、ミックスやマスタリングに至るまで完璧な音響空間を作り上げる絶対的な才能だった。
それだけに留まらず、相手の骨格や筋肉の付き方、声帯の鳴らし方を見ただけで、その人間が持つ潜在能力や最適な発声法を一瞬で見抜くという、人智を超えた審美眼まで兼ね備えていた。
かつて高校二年生の時、優はその才能の片鱗を試すため、正体を完全に隠した覆面歌手「天月(あまつき)」として三曲の楽曲を世に放ったことがある。
結果は驚異的だった。
リリースされた楽曲はすべてダブルミリオンを軽々と突破するメガヒットを記録し、ダウンロード販売のみで十億円以上の売上を叩き出した。税金を差し引いても五億円という莫大な個人資金が優の手元に残り、現在に至ってもなお、年に数千万円の印税が口座に振り込まれ続けている。
だが、優自身は歌い手として表舞台に立ち続けることには執着しなかった。
活動をわずか一年で完全に停止させ、あくまで音を紡ぎ、他者の輝きを陰から支える裏方の道――すなわち「プロデューサー」としての道を志したのである。
優の規格外な点は、音楽の才能だけに留まらなかった。
高校生の頃から余剰資金を元手に始めた株式投資において、天性の洞察力と市場の歪みを見抜く冷静さによって莫大な利益を積み上げ、現在の彼の個人資産は実に四十億円を優に超える規模にまで膨れ上がっていた。
両親は東京の別の場所にある実家に暮らしているが、十八歳の時、優は独り立ちを望んだ。
父の昭は「自分を誇れる人間になれ」と背中を押してくれ、母のアイシャは「優君、お金の使い過ぎはダメよ」と笑いながら送り出してくれた。
そうして優が十八歳の若さで手に入れたのが、都内屈指の高級住宅街――港区青山の一等地に佇む広大な豪邸だった。
タクシーを降り立ち、優は青山の閑静な住宅街に聳え立つ白亜の邸宅を見上げた。
敷地を囲む堅牢な塀と、手入れの行き届いた前庭。海外にいる間も定期的な管理を業者に委託していたため、敷地内には塵一つ落ちていない。
優はキーレスの電子錠を解錠し、重厚な玄関ドアを開いて中へと足を踏み入れた。
広大な吹き抜けのエントランス、大理石が敷き詰められた廊下、そして贅を尽くしたリビングルーム。
資産四十億円の一部を投じ、一切の妥協なく現金一括で購入したその邸宅は、誰が見ても大富豪の屋敷そのものだった。
だが、リビングを抜けてキッチンへ向かうと、優は困ったように薄く苦笑を漏らした。
真新しいアイランドキッチンには最高級のシステムコンロと大型冷蔵庫が鎮座しているが、調理器具の類いはほとんど使われた形跡がない。
冷蔵庫を開けてみても、ミネラルウォーターと無糖の紅茶、それに簡単なシリアルが数箱収まっているだけだった。
「……さて、今日からの食事はどうしようかな」
真面目で実直、曲がったことが何よりも嫌いで、音楽に関することならば常人の域を遥かに超越した完璧さを誇る優。
しかし、彼には神が与えたとしか思えない致命的な欠点が存在していた。
――家事が一切できないのだ。
掃除や洗濯は最新の家電と家事代行サービスでどうにか補えるものの、料理に至っては目玉焼きすら焦がしてしまうほど壊滅的だった。
包丁を持たせれば危なっかしく、味付けをすれば分量を間違える。外食か宅配、あるいは簡単な栄養補給食品で凌ぐのが、彼の日常の常だった。
「まあ、生活のことは追々考えるとして……まずは、あそこを確認しておかないとね」
優は気持ちを切り替え、リビングの奥にある頑丈なセキュリティドアへと向かった。
厳重な指紋認証とパスコードの入力を終えると、重々しい金属音が響き、地下へと続く緩やかな階段が現れる。
階段を下りた先にある防音扉――厚さ数十センチにも及ぶ特注の二重防音扉を押し開けた瞬間、空気の質感が劇的に変化した。
そこは、まさに「地下の要塞」と呼ぶに相応しい、異次元のプライベートスタジオだった。
四十億円の資産を惜しみなく注ぎ込み、優が自らの理想を徹底的に追求して構築した空間である。
一般的なプロユースのレコーディングスタジオを遥かに凌駕する広さを誇り、壁面には音響工学の粋を集めた特注の吸音・拡散パネルが隙間なく配置されている。外の世界のあらゆる振動や雑音を完全に遮断する浮き床構造が採用され、室内は極限の静寂に包まれていた。
コントロールルームの中央には、世界屈指の名機と呼ばれる大型のアナログミキシングコンソールが鈍い光を放っている。
その周囲を取り囲むように、数千万円単位の最高峰アウトボード群、真空管コンプレッサー、伝説的なイコライザー、最新鋭のハイエンドDAW環境が整然とマウントされていた。
ガラスで仕切られたレコーディングブースの奥には、NeumannやTelefunkenをはじめとする世界最高峰のヴィンテージマイクから現代のハイエンドコンデンサーマイクまでが、温度と湿度が厳密に管理された専用の防湿キャビネットの中にずらりと並んでいる。
優はコンソールの電源を入れた。
かすかな駆動音とともに無数のメーターとインジケーターが優美に灯り、スタジオ全体が生き物のように呼吸を始める。
彼は椅子に深く腰掛け、鍵盤へと指を滑らせた。
澄んだピアノの和音が、完全に調音されたスタジオ内の空気を震わせ、優の耳へと真っ直ぐに届く。
「うん、狂いはないね。いつでも完璧な音が出せる」
優の碧眼に、静かで熱い光が宿った。
このスタジオこそが、彼がこれから成し遂げようとするすべての基盤となる場所だ。誰かの才能を見出し、その魂の歌声を極限まで磨き上げ、世界へと解き放つための聖域。
高校生の頃に打ち立てた「天月」の栄光は、彼にとって過去の通過点に過ぎない。
彼が真に求めているのは、自分自身がスポットライトを浴びることではなく、誰よりもひたむきに夢を追うアイドルたちを自らの手で頂点へと導くことだった。
* * *
翌朝、東京の空は雲一つない快晴に恵まれていた。
優は身だしなみを整え、鏡の前でネクタイを締めた。
鏡に映る銀髪碧眼の姿は、どこか浮世離れした美しさを漂わせているが、その表情には強い覚悟と誠実さが宿っている。
今日から、彼の新たな人生が幕を開けるのだ。
優が向かったのは、東京都中野区に広大な敷地を構える名門養成校――初星学園であった。
歌唱、ダンス、表現力を磨き上げてトップアイドルを目指す「アイドル科」と、アイドルの才能を見出し、育成し、導くプロフェッショナルを育てる「プロデューサー科」を併設する、業界最高峰の育成機関。
優が門を叩いたのは、その中でも大学教育課程に位置づけられる初星学園星城大学のプロデューサー科だった。
正門をくぐると、満開の桜並木が生徒たちを出迎えていた。
校内は、新学期の始まりに胸を躍らせる新入生たちで溢れかえっている。アイドル科の華やかな制服を身にまとった少女たちや、スーツに身を包んだプロデューサー科の生徒たちが、緊張と期待の入り混じった面持ちで歩いていた。
その中で、優の存在感は際立っていた。
人目を引く銀髪碧眼の容姿もさることながら、周囲のプロデューサー科の新入生たちが十八歳の若者であるのに対し、海外生活を経て帰国した優は二十歳。わずか二年の差ではあるが、身にまとう落ち着きと洗練された佇まいは、明らかに他の生徒たちとは一線を画していた。
「……あの人、プロデューサー科の生徒かな?」
「すごく背が高くてかっこいい……ハーフの人かな?」
すれ違うアイドル科の生徒たちが、小声で囁き合いながら優を振り返る。
優はそれらの視線に気後れすることなく、柔らかく会釈を返しながら、プロデューサー科の講堂へと進んだ。
講堂には、厳しい入試を突破してきたプロデューサー科の第一期生たちが集まっていた。
最前列近くでは、黒髪を清潔に整えた真面目そうな青年――中野仁が、配られた資料を真剣な眼差しで読み込んでいる。
その隣では、短髪で少しチャラそうな雰囲気を漂わせつつも、瞳に熱い情熱を宿した佐藤健太が、落ち着かない様子で周囲を見回していた。
さらに少し離れた席には、穏やかな笑みをたたえ、周囲への気配りを崩さない鈴原良治の姿もあった。
彼らは皆十八歳であり、それぞれの強い信念を胸にこの門を叩いた金の卵たちだ。
優が静かに後方の空席に腰を下ろすと、周囲の生徒たちの視線が一斉に彼へと向けられた。
「おい、あいつ……新入生か?」
「二十歳で入学してきた奴がいるって噂、本当だったんだな」
小声のささやきが耳に届くが、優は穏やかな表情を崩さなかった。
二歳年上の新入生。経歴も、背負っている資産も、秘めている音楽の力も、すべてが規格外。
周囲から見れば、まさに「帰国した異端児」そのものに見えるに違いなかった。
やがて壇上に、プロデューサー科を担当する女性教師、根緒亜紗里が姿を現した。
二十四歳という若さでありながら、真面目で優しく、生徒たちの未来を心から案じる熱意に満ちた教師である。
「皆さん、初星学園への入学、本当におめでとうございます」
亜紗里の声が講堂に響き渡ると、ざわめいていた生徒たちが一斉に背筋を正した。
「初星学園において、プロデューサー科の皆さんに求められるのは単なる座学の知識ではありません。本学園には、アイドル科の生徒とプロデューサー科の生徒が一対一でパートナーシップを結ぶ『ペア制度』、そして二人三脚で日々の活動を管理するための専用事務所『プロデュースオフィス』が用意されています。
あなたたちは学生であると同時に、一人のアイドルの一生を背負うプロデューサーとしての自覚を持たなければなりません」
亜紗里の言葉に、講堂内の空気が引き締まる。
続いてモニターには、初星学園が誇る年間のライブスケジュールが表示された。
「四月の新入生歓迎ライブ、五月のフレッシュアイドル公演、そして一学期の集大成となる六月の『実力発表ライブ・学期成績判定』。さらに夏には、学園最大規模の競技型ライブイベント『H・I・F(初星アイドルフェスティバル)』が控えています。
あなたたちが導くアイドルが、どの舞台に立ち、どのように成長していくのか。そのすべてが、プロデューサーである皆さんの手腕に懸かっています」
モニターを見つめながら、中野や佐藤、鈴原たちの瞳に闘志が宿るのが分かった。
誰もが、自分が担当するアイドルを輝かせ、トップへと押し上げることを夢見ている。
その熱気を感じながら、優もまた胸の奥で静かに自らの信条を反芻していた。
――「諦めればそこでお終いだ。泥臭くてもいい。それで前に進めるなら僕は惨めでも歩み続ける」
それは、かつて優が過酷な現実に直面した時、そして転生を経てなお胸に刻み続けてきた、揺るぎない覚悟だった。
どんなに才能があろうと、どんなに恵まれた環境があろうと、アイドルの道は決して平坦ではない。
挫折し、涙を流し、自らの無力さに打ちひしがれる夜が必ず訪れる。
だからこそ、プロデューサーである自分が誰よりも強く、誰よりも泥臭く、彼女たちの手を取り続けなければならないのだ。
式典と全体ガイダンスが終了し、講堂から生徒たちが三々五々と退室していく。
優が立ち上がり、廊下へ出ると、中野仁が歩み寄ってきた。
「あの……君が、天宮優さんですね?」
「はい、天宮優です。よろしくお願いします」
優が柔らかく微笑みながら手を差し伸べると、中野は少し驚いたように目を瞬かせた後、しっかりと握手を返してきた。
「中野仁です。二歳年上だと聞いていたので、どんな方かと思っていましたが……とても温かい話し方をされるんですね。お互い、担当するアイドルを立派に導けるよう頑張りましょう」
「ええ、競い合い、高め合っていけたら嬉しいです」
そのやり取りを少し離れた場所から見ていた佐藤健太や鈴原良治も、優に対して敵意ではなく、興味と敬意の混ざった眼差しを向けていた。
中野たちと別れ、優は一人、アイドル科本棟と特別棟の間にある中庭へと足を運んだ。
見上げる空は青く澄み渡り、風が桜の花びらを巻き上げていく。
広大な敷地内には、プロ仕様のレコーディングルームやダンススタジオを備えた特別棟、そして生徒たちが日夜レッスンに励むレッスン室が立ち並んでいる。
どこからか、微かに少女たちの歌声とステップの音が風に乗って聴こえてきた。
優は立ち止まり、その音に耳を澄ませた。
『音楽に愛されし者』としての能力が自然と働き、音のピッチ、リズムの揺らぎ、声帯の使い方までもが鮮明に脳裏へと浮かび上がってくる。
「……いい声だ。だけど、まだ誰も自分の本当の限界を知らない」
まだ見ぬ担当アイドル。
彼女がどんな少女なのか、どんな痛みを抱え、どんな夢を追いかけているのかは、まだ分からない。
だが、優には確信があった。
自分の持つ四十億円の資産も、地下に築いた要塞のようなスタジオも、前世の知識も、そして女神から与えられた音のチート能力も――そのすべては、これから巡り合う「たった一人の少女」の魂を救い、世界の中心で歌わせるためにあるのだと。
春の突風が吹き抜け、銀色の前髪がさらりと揺れた。
優は中庭の桜を見つめ、静かに、しかし力強く最初の一歩を踏み出した。
青山の要塞に住まう異端の青年プロデューサーと、まだ見ぬ歌姫たちの運命の歯車が、いま静かに回り始めていた。