学マス~チートPと一緒に初星学園を無双する話~   作:みちみちお

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本日1話目です。2話目は20時30分投稿です。


12話 胃袋からの攻略

 地下要塞のようなプライベートスタジオでの濃密なレッスンを終え、重厚な二重防音扉をくぐり抜けた三人は、間接照明の灯る石造りの階段を上がって一階へと戻ってきた。

 

 外界から完全に隔絶された地下の絶対静寂から抜け出すと、広大な邸宅には夕暮れの気配が色濃く満ちていた。

 

 リビングの特注ガラス窓の向こうには、青山の空を茜色から深い群青色へと染め変えていく黄昏のグラデーションが広がっている。

 

 五十畳のリビングの中央、イタリア製の最高級レザーソファに、月村手毬は脱力したように身を沈めた。

 

「……ふぅぅぅ……っ。疲れた……けど、信じられないくらい声が出たわ……」

 

 腰まで届く漆黒のウェーブヘアをソファの背もたれに預け、手毬は天井のクリスタルシャンデリアをぼんやりと見上げた。

 

 ヴィンテージのノイマンU47を通して自らの声と向き合い、天宮優のリアルタイムな神調整によって導かれたあの快感。全身の神経を極限まで研ぎ澄ませて歌い切った心地よい疲労感が、手毬の華奢な四肢をじんわりと包み込んでいた。

 

 その隣に、秦谷美鈴がお淑やかに腰を下ろした。

 

 淡い若草色のワンピースの裾を丁寧に整え、セミロングの黒髪を耳にかけながら、美鈴もまた小さく熱いため息を漏らす。

 

「本当に……素晴らしいお時間でしたね。優さんの調整してくださる音の中で歌うことが、あんなにも幸せなことだなんて……」

 

 テレフンケンのマイクを通して自らの包容力を引き出された美鈴の瞳には、いまだ陶酔のような微熱が宿っていた。

 

 二人の正面、一人掛けの革張りチェアに腰を下ろした天宮優は、手元のタブレットで録音データのバックアップを確認し終えると、サファイアのような碧眼を細めて二人に微笑みかけた。

 

 目にかからない長さに切り揃えられた白銀の髪が、夕闇に淡く溶けている。

 

「二人とも、本当にお疲れ様でした。初めての環境だったのに、素晴らしい集中力でしたよ。……僕の方こそ、二人の声があまりに魅力的で、夢中になって時間を忘れてしまっていました」

 

 優はふと、リビングの壁に掛けられたモダンなデザインの時計に目をやり、小さく息を呑んだ。

 

 針はすでに、夜の七時を大きく回っていた。

 

「もうこんな時間か……。すっかり引き留めてしまって申し訳ありませんでした。お腹も空いたでしょう」

 

 優は申し訳なさそうに眉尻を下げると、スマートフォンを取り出した。

 

「何か出前でも頼みましょうか? 青山周辺なら、美味しいお寿司や本格的なピザ、中華でも何でもすぐに届けてもらえますから。月村さん、秦谷さん、好きなものを言ってくださいね」

 

 二十歳の青年プロデューサーらしい、スマートで至れり尽くせりの気遣い。

 

 だが、その提案を聞いた瞬間、美鈴の黒い瞳がピクリと反応した。

 

(出前……デリバリー……)

 

 美鈴の脳裏に、先ほど優が項垂れながら告白した「家事がさっぱりできない」「料理が作れず、いつも外食か冷凍食品ばかり」という言葉が鮮明に蘇った。

 

 四十億円もの資産を持ち、誰もが息を呑むような大豪邸に暮らしながら、食卓には冷たい惣菜や出来合いの料理ばかりが並んでいるという、優の痛々しいほどの生活事情。

 

 美鈴は静かに、けれど迷いのない優雅な所作でソファから立ち上がった。

 

 そして、両手を胸の前で祈るように重ねると、優のサファイアの碧眼を真っ直ぐに見つめ、ふわりと花が綻ぶような笑みを浮かべたのだ。

 

「優さん、ご飯を作りますね。ちゃんとまりちゃんの分も用意しますから」

 

 鈴の音のように澄んだ、甘やかで凛とした声。

 

 その言葉に、優は思わず目を丸くして顔を上げた。

 

「えっ……秦谷さんが、ですか?」

 

「はい、私がお作りいたします」

 

「い、いえ、それは申し訳ないですよ!」

 

 優は慌てて両手を振って辞退しようとした。真面目で誠実な優にとって、ゲストとして招いた担当アイドルに炊事をさせるなど、到底受け入れがたいことだった。

 

「今日は僕が二人をお招きしたんです。歌のレッスンで疲れているのに、秦谷さんに台所に立たせるなんて……! 僕が出前を取りますから、秦谷さんはゆっくり休んでいてください」

 

 しかし、美鈴は一歩も引かなかった。

 

 おっとりとしたマイペースな空気を崩さないまま、美鈴は優のすぐ傍まで歩み寄り、サファイアの瞳を至近距離から覗き込んだ。

 

「優さん。出前のお食事も美味しいかもしれませんけれど、塩分や油分が多くて、毎日召し上がるにはお身体に毒ですよ。優さんは私たちのために、あんなにも素晴らしい機材と技術を惜しみなく注ぎ込んでくださっているのです。……その優さんの健康を支えることこそ、担当アイドルとしての私の務めですもの。任せてくださいな」

 

 美鈴の瞳の奥に宿る、決して譲らない確固たる光。

 

 そして、その内心では――美鈴の情熱的な野望が静かに、激しく燃え盛っていた。

 

(ふふ……これで、優さんの胃袋を完全に掴んで差し上げますね……!)

 

 家事が一切できないという、天才・天宮優の唯一にして最大の弱点。

 

 音楽の世界では神のように完璧な彼が、日常の温もりに飢えているのなら、そこに飛び込まない手はない。手毬には決して真似できない家庭的な温もりと絶品の手料理で、優の心と体を自分なしでは生きられないように手懐けてみせる――お淑やかな微笑みの裏で、美鈴は強かな笑みを噛み殺していた。

 

「で、ですが……」

 

 なおも恐縮する優に、美鈴は首をコテンと傾げ、とどめの一撃を放った。

 

「優さんは……私の手料理を召し上がってくださらないのですか? 私、優さんに食べていただきたくて、ずっと楽しみにしていたのですけれど……」

 

 潤んだ瞳で悲しそうに見つめられ、優は完全に言葉を失った。

 

 曲がったことや他人の善意を踏みにじることが何よりも嫌いな優にとって、この純真に見えるお願いを突っぱねる術などあろうはずがなかった。

 

「……分かりました。そこまで言ってくださるなら、お言葉に甘えさせていただきます。秦谷さん、本当にありがとうございます」

 

 優が深々と頭を下げると、美鈴はパッと満面の笑みを咲かせた。

 

「はい! 腕によりをかけてお作りしますね」

 

 美鈴は軽やかな足取りで、リビングの一角に設けられた広大なオープンキッチンへと向かった。

 

 ドイツ製の最高級システムキッチンには、美しく磨き上げられたステンレスの天板と、プロ仕様のIHクッキングヒーター、巨大なビルトインオーブンが備え付けられている。だが、優が普段料理をしないため、油汚れ一つないショールームのような状態だった。

 

「秦谷さん、冷蔵庫の中身なんですが……」

 

 優がカウンター越しに声をかける。

 

「週に三回来てくれるヘルパーさんが、気を利かせて定期的に食材を買い置きしてくれているはずなんです。ただ、僕が普段料理をしないので、余り物ばかりで大したものはないかもしれませんが……」

 

「あら、見てみますね」

 

 美鈴は大型のフレンチドア冷蔵庫を静かに開けた。

 

 そして、その中身を目にした瞬間、美鈴は感嘆の声を漏らした。

 

「まあ……!」

 

 冷蔵庫の中には、優の言う「余り物」という言葉からは程遠い、極上の食材が美しく整頓されていた。

 

 高級スーパーのラベルが貼られた、鮮やかな緑を誇る有機野菜の数々――みずみずしいレタス、泥付きの甘そうなニンジン、大ぶりのタマネギ、艶やかな完熟トマト。チルド室には、見事なサシの入った国産銘柄豚のロース肉と、新鮮な大山鶏のモモ肉がしっかりとパックされている。

 

 卵も特売品ではなく、鮮度抜群の産地直送卵。さらに調味料ラックには、天然醸造の醤油や本みりん、特選の合わせ味噌までがずらりと揃っていた。

 

(素晴らしいですね……! これだけの食材があれば、何だって作れます……!)

 

 美鈴の料理人としての魂が歓喜に震えた。

 

「優さん、十分すぎますよ。これほど素晴らしい食材があるのですもの、最高のお食事をご用意できます」

 

 美鈴はカーディガンの袖をまくり、キッチンに備え付けられていたシンプルなエプロンを身につけた。黒髪を後ろで一つにまとめ、手際よく豚ロース肉と野菜を取り出していく。

 

 その時だった。

 

「――ちょ、ちょっと待ちなさいよ美鈴っ!!」

 

 ダダダッと床を鳴らして、ソファから飛び起きた月村手毬がキッチンへと乱入してきた!

 

 手毬は顔を真っ赤にし、腕を組んで美鈴の隣へと仁王立ちする。

 

「なによそれ! 一人でいい格好して優さんの胃袋を掴む気満々じゃない! 私をのけ者にして抜け駆けなんて、絶対に許さないんだからね!」

 

 美鈴はタマネギの皮を剥きながら、涼しい顔で手毬を一瞥した。

 

「あら、まりちゃん。ちゃんとまりちゃんの分も作ってあげると言いましたでしょう? まりちゃんはお腹を空かせて、ソファで待っていればよろしいのですよ」

 

「待ってられるわけないでしょ! 私だって……私だって、優さんのために何かするわよ! 私も料理を手伝うわ!」

 

 手毬が負けじと胸を突き出す。

 

 美鈴はピタリと包丁を持つ手を止め、ジト目で手毬を見つめた。

 

「まりちゃん。言っておきますけれど、包丁は絶対に触ってはダメですからね。指を落としますから」

 

「お、落とさないわよ! 人をなんだと思ってんのよ!」

 

「それから、調理中の食材をつまみ食いするのも禁止です。まりちゃん、太りますよ」

 

「つまみ食いなんかしないわよぉぉぉっ!!」

 

 激しく喚き散らす手毬。

 

 だが、手毬も本気だった。優のために何かをしたい、美鈴だけに優の特別な存在になられるのは悔しい――その純粋でひたむきな焦燥感が、手毬を突き動かしていた。

 

「野菜を洗うくらい、私だってできるわよ! レタスだってちぎれるわ! ほら、何を洗えばいいのよ!」

 

 手毬の必死な形相に、美鈴は小さくため息をつき、けれど口元を綻ばせた。

 

「仕方のない子ですね……。それなら、まりちゃんにはサラダの準備と、お味噌汁のお豆腐を切るのをお願いしましょうか。お豆腐なら、手のひらの上で優しく切れば怪我はしませんからね」

 

「ふん、任せなさい! 完璧にやってみせるわ!」

 

 こうして、美鈴の指揮のもと、手毬がサポートに回る形で調理がスタートした。

 

 美鈴の包丁さばきは、見事という他なかった。

 

 トントントン、と軽快なリズミカルな音がキッチンに響き渡る。タマネギは均一な薄切りにされ、生姜は細やかな千切りに、ニンジンは美しい乱切りにされていく。豚ロース肉には丁寧に筋切りが施され、特製の生姜醤油タレに漬け込まれる。

 

 一方の手毬はといえば、真剣そのものの表情で流水に野菜を晒していた。

 

「冷たっ……! でも、シャキッとさせるには冷水よね……っ」

 

 手毬はレタスを一枚一枚丁寧に洗い、一口大にちぎって水気を切る。そして美鈴から渡された絹ごし豆腐を、震える手で手のひらに乗せ、ペティナイフで慎重にさいの目に刻んでいく。

 

「ほ、ほら美鈴! 見てよ、この完璧な豆腐のサイコロ! 崩れてないでしょ!」

 

「はいはい、よくできましたね、まりちゃん。偉いですよ」

 

「子ども扱いすんなぁっ!」

 

 手毬が怒り、美鈴がそれを宥めながら、フライパンに火を入れる。

 

 ジュワアァァッ――!

 

 心地よい焼ける音とともに、香ばしい醤油と生姜、そして豚肉の甘やかな脂の香りが、一気にキッチンからリビング全体へと広がっていった。

 

 さらに隣の鍋からは、鰹と昆布から丁寧にとった出汁の芳醇な香りが立ち上る。

 

 ダイニングカウンターの向こう側から、優はその光景を静かに見つめていた。

 

 サファイアの碧眼に、温かく、柔らかな光が灯っている。

 

(楽しそうだな……)

 

 優の口元に、自然と穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

 中等部時代、「Syng UP!!」の崩壊という過酷な現実を経験し、一度はバラバラになってしまった二人。互いを想いすぎるあまりに衝突し、心に深い傷を負ったはずの彼女たちが、今、こうして自分の家で並んで立ち、悪友のように言い合いながら、一つの料理を作り上げている。

 

 手毬の不器用ながらも一生懸命な背中と、美鈴の甲斐甲斐しくも包容力に満ちた横顔。

 

 これまで静まり返っていたこの青山の広大すぎる屋敷に、かつてない温かな生命の息吹が吹き込まれたかのような感覚だった。

 

「諦めればそこでお終いだ。泥臭くてもいい。それで前に進めるなら僕は惨めでも歩み続ける」

 

 優は自らの信条を胸の中で反芻した。

 

 トップアイドルへの道は険しい。これから先、競争や重圧に晒され、傷つく瞬間は幾度となく訪れるだろう。

 

 だが、こうして笑い合い、温かなご飯を分け合える絆がある限り、彼女たちは絶対に折れることはない。この日常の温もりこそが、彼女たちを支える最強の原動力になるのだと、優は確信していた。

 

「優さん、お待たせいたしました! 準備が整いましたよ」

 

 美鈴の弾んだ声が響いた。

 

 ダイニングテーブルの上に、出来立ての料理が次々と並べられていく。

 

 手毬が「こ、これも私が並べたんだからね!」と得意げにお箸とお茶碗をセットした。

 

 テーブルに並んだのは、目を見張るほど豪勢で、けれどどこまでも温かみのある絶品の和食御膳だった。

 

 メインは、照り美しく焼き上げられた極上の「特製豚の生姜焼き」。飴色に炒められたタマネギと生姜の香りが食欲を激しく刺激する。

 

 その横には、手毬が丁寧にちぎり、彩り豊かなミニトマトが添えられたシャキシャキのグリーンサラダ。

 

 小鉢には、出汁がしっかりと染み込んだ根菜の煮物と、ほうれん草の胡麻和え。

 

 そして、手毬が刻んだ豆腐とワカメ、刻みネギがたっぷり入った、湯気を立てるお味噌汁と、ふっくらと炊き上げられた白米。

 

「……すごいな。本当に、冷蔵庫の余り物でここまで作ってしまうなんて……」

 

 優は思わず感嘆の声を漏らした。

 

 美鈴は嬉しそうに胸に手を当て、優の隣の席を勧めながら微笑んだ。

 

「ふふ、冷蔵庫の食材が素晴らしかったおかげですよ。温かいうちにどうぞ召し上がってください、優さん」

 

 手毬も反対側の隣の席に素早く滑り込み、身を乗り出して優を見つめる。

 

「優さん! サラダとお味噌汁のお豆腐は私がやったの! ちゃんと味わって食べてよね!」

 

「はい、心していただきますね」

 

 優は手を合わせ、静かに「いただきます」と呟いた。

 

 まずは、美鈴特製の生姜焼きに箸を伸ばす。

 

 タレをたっぷりとまとった豚ロース肉を一口、口へと運んだ。

 

 ――その瞬間。

 

 優のサファイアの碧眼が、カッと見開かれた。

 

「――っ……!!」

 

 口いっぱいに広がる、極上の旨味の奔流。

 

 肉は驚くほど柔らかく、噛み締めるたびに上質な脂の甘みがジュワリと溢れ出す。生姜のピリッとした爽やかな辛味と、醤油とみりんの絶妙な甘辛さが、肉の旨味を極限まで引き立てていた。タマネギの自然な甘みがタレに溶け込み、一切の角がない。

 

 優はたまらず、炊きたての白米を口に放り込んだ。

 

 生姜焼きのタレと白米の甘みが完璧に調和し、箸が止まらなくなる。

 

 続いて、お味噌汁を一口すする。

 

 鰹と昆布の奥深い出汁の風味が鼻腔を抜け、合わせ味噌の優しい塩気が身体の隅々にまで染み渡っていく。手毬が刻んだ豆腐はふるふると柔らかく、喉を心地よく滑り落ちていった。

 

「……美味しい……」

 

 優の口から、魂の底から絞り出されたような感嘆の溜息が漏れた。

 

「本当に、信じられないくらい美味しいです……。こんなに温かくて、心の底まで満たされる手料理を食べたのは、いつ以来だろう……」

 

 優のその言葉と、心からの感動を浮かべた表情を見た瞬間――美鈴の胸の中で、特大のガッツポーズが炸裂した!

 

(勝ちました……!! 見事に、優さんの胃袋を射止めましたよ……っ!!)

 

 美鈴は頬を薔薇色に染め、歓喜のあまり両手をぎゅっと握りしめた。

 

「お口に合って良かったです、優さん……! 優さんが喜んでくださるなら、私、毎日でも作りに参りますからね」

 

 甲斐甲斐しく優のお茶碗にご飯をよそい直そうとする美鈴。その姿は、完全に優の胃袋を掌握した勝利者のそれだった。

 

 一方の手毬も、自分の手伝った料理を優が絶賛してくれたことに大興奮していた。

 

「やったぁ! ほらね、私の切ったお豆腐も最高だったでしょ! 私も食べるっ!」

 

 手毬は我慢できなくなったように箸を取り、生姜焼きをパクリと頬張った。

 

「んん〜〜〜っっ!! 美味しいぃぃっ!! なによこれ美鈴、悔しいけどめちゃくちゃ美味しいじゃない!」

 

 手毬は目を輝かせ、猛烈な勢いでご飯とおかずを口にかき込み始めた。

 

「ちょっと、まりちゃん! 落ち着いて召し上がりなさい。そんなに勢いよく食べては……太りますよ」

 

 美鈴がすかさず注意を飛ばす。

 

「ふがっ、もぐもぐ……ふ、太らないわよ! 今日はレッスンで頭も体も使ったんだから、これくらい当然のカロリー摂取よ! おかわりっ!」

 

「もう、ご飯のおかわりまで……! 優さん、まりちゃんを甘やかしてはダメですからね」

 

「あはは、いっぱい食べるのはいいことですよ。月村さん、喉を詰まらせないようにお茶も飲んでくださいね」

 

 優が笑いながらお茶を差し出すと、手毬は「んぐっ、ありがとう優さん!」と満面の笑みで受け取った。

 

 賑やかな笑い声が、青山の豪邸の広大なダイニングを満たしていく。

 

 外の夜闇を忘れさせるほどに温かな食卓の光。

 

 秦谷美鈴の手料理という名の「攻略」は見事に功を奏し、三人の絆はプロデューサーとアイドルという枠組みを越え、確かな温もりを伴った家族のようなものへと、着実に深まり始めていた。

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