綾小路のことを若造扱いするTS合法のじゃロリ教師   作:みみ9

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お久しぶりです。


第四話

 

 

二学期。

 

高度育成高等学校においても、時間は淡々と流れていた。

一学期に行われた数々の試験を乗り越え、生徒たちは少しずつこの学校での生活にも慣れ始めている。

 

そして――。

 

「中間試験、か……」

 

放課後。

相談室の椅子に深く腰掛けながら、わし――天来院琥珀は一枚のプリントを眺めていた。

 

二学期中間試験。

今回の試験について、生徒たちの間では様々な噂が飛び交っておる。

中でも特に多いのが、『今回の筆記試験は、ペーパーシャッフル試験のペアを決めるためのものではないか』という推測じゃ。

 

学校側は、そのようなことを一言も断言しておらん。

だが、過去の傾向から考えれば、そう勘繰る者が出てくるのも無理はない。ゆえに生徒たちはいつも以上に試験を意識しておる。

 

クラス内で勉強会を開く者。

友人同士で点数を競う者。

他クラスの動向を探る者。

 

そして――。

 

「……あの小童はどうするかのう」

 

わしは頬杖をついた。

綾小路清隆。

あの小童は、恐らく今回の試験についても大した興味を示さんじゃろう。

 

いや、正確には。

『学校側が何を意図しているか』という構造には恐ろしく勘が働くかもしれんが、こと『自分が何点取るべきか』という話になれば――。

 

「どうせ、また適当に平均点あたりを狙うつもりじゃろうな」

 

これまでの綾小路の成績。あれは明らかに意図的なコントロールだ。

わしは知っておる。あやつが本気で問題を解けばどうなるのかを。

 

ホワイトルーム。

そこで育てられた、人工の天才。その最高傑作。

学力という一点においてすら、あやつがこの学校の生徒の中で群を抜いていることなど、疑う余地もない。

 

それを本人は隠している。

いや……隠しているというより、「出す必要がないから出していない」というだけの話なのだろう。

 

「……じゃがの」

 

わしは立ち上がった。

 

「たまには、見てみたいではないか」

 

最高傑作が。

本気で試験問題を解くところを。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「先生」

 

「おお、来たか小童」

 

翌日の昼休み。

いつものように相談室へやって来た綾小路が、淡々と弁当を机に置いた。

 

「今日は何ですか?」

「何がじゃ?」

「先生が妙に機嫌よさそうに見えたので」

「失礼な奴じゃな。わしがいつも不機嫌そうだと言うのか」

「そういう意味ではありません」

「ならよい」

 

わしが椅子に深く座り直すと、綾小路も向かいに座り、静かに弁当の蓋を開ける。

いつもの光景じゃ。

 

「ところで小童」

「はい」

「中間試験の勉強はしておるか?」

「一応。授業には出ていますから」

「……そういう意味ではない」

「そうですか」

「お主、本当に分かっておらんのか?」

「何がですか?」

「試験じゃよ。中間試験」

 

綾小路は卵焼きを口に運び、特に感情の窺えない目でこちらを見た。

 

「特に問題はないと思います」

「そうか」

 

わしは少し考え――そして、不敵に目を細めた。

 

「では、頑張れ」

「……」

 

綾小路の箸がピタリと止まる。

 

「……頑張れ、ですか?」

「うむ」

「先生が、俺に?」

「そうじゃ」

「なぜです?」

「教師が生徒に『試験を頑張れ』と言うのに理由が必要か?」

「……必要ないと思います」

「ならよいではないか」

 

綾小路はしばらく無言でわしを見つめていた。その瞳の奥で、わずかに思考のギアが回ったような気がした。

 

「分かりました」

「……ん?」

「先生がそう言うのなら」

 

あまりにもあっさりとした快諾だった。

 

「本当に? 逃げたり誤魔化したりせんのか?」

「先生の期待に応えるのも、生徒の務めでしょう」

「……」

 

なんじゃろう。

妙に気味が悪いほど素直だが、少し嬉しい。

 

「よし!」

わしは満足げに頷いた。

「ならば、今回の試験は期待しておるぞ!」

「はい」

 

このときのわしは、まだ知らなかった。

あやつにとっての『本気』という言葉が、どれほど異常な結果をもたらすのかを。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

中間試験当日。

一年Dクラスの教室には、特有の緊迫感が漂っていた。

 

「なあ、本当に今回の試験ってペーパーシャッフルのペア決めに関係あんのかな?」

「さあ……でも、手を抜くわけにはいかないだろ」

 

生徒たちが口々に不安を口にする中、綾小路清隆だけが静かに問題用紙を見つめていた。

 

ペーパーシャッフル。ペア決め。クラス全体の平均点。

そんなものに興味はない。

学校側が何を意図しているかは、試験が終われば自ずと見えてくる。

 

今、目の前にあるのは――ただの印刷された紙片だ。

 

「――始め」

 

茶柱の声とともに、試験が始まった。

綾小路はペンを走らせる。

 

最初の教科、数学。

問題文を読む。理解する。解法を導く。書きつける。

次。次。次。

 

迷いがない。躊躇もない。

まるで最初から答えが印字されているかのような速度。

ホワイトルームで叩き込まれた知識と解法パターンが、脳内で完璧な演算を行っていく。

 

周囲の生徒たちが唸り声を上げ、計算用紙と格闘する中、彼のペン音だけが一定のフリック音のように静かに響いていた。

 

数学が終わり、国語、英語、理科、社会。

やることは同じだった。

問題を読む。解く。次へ。

 

「……ふう」

 

試験終了の15分前。

綾小路は静かに答案用紙を伏せた。

誤字脱字、見間違い、計算ミス――検分はすでに脳内で終わっている。

 

窓の外に目を向ける。空は青かった。

特段の達成感も、感動もない。

これが、彼にとっての「本気を出す」ということだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

数日後。答案の返却。

 

「……は? マジかよ……!」

 

最初に声を上げたのは須藤だった。

「数学、86点……!? 俺がこんな取れるわけねえ……!」

「私は74点だったわ」

「平均点、思ったより高いのか……?」

 

教室のあちこちで驚きと安堵の声が交錯する。

そんな中、誰かが綾小路のデスクの横を通りかかり、その答案用紙を目に留めた。

 

「……え?」

「どうしたんだよ?」

「あ、綾小路……これ……」

「ん?」

 

綾小路の答案用紙。右上に大きく朱書きされた数字。

 

『100』

 

「ひっ……百点!?」

「ハぁ!? 嘘だろ、あの難問続きの数学で満点!?」

 

須藤が勢いよく身を乗り出して答案を覗き込む。

 

「おい綾小路! お前、数学こんな出来たのかよ!?」

「普通だ」

「普通で満点取る奴があるか!!」

 

だが、驚愕はそれだけで終わらなかった。

 

英語、100点。

国語、100点。

理科、100点。

社会、100点。

 

全教科、500点満点。

 

「…………」

 

教室から一瞬にして雑音が消え去った。

 

「全……教科……満点……?」

「全部……100点……!?」

 

堀北鈴音が、信じられないものを見る目で綾小路の答案を凝視していた。その瞳には隠しきれない動揺と、かすかな屈辱の色が滲んでいる。

 

「あなた……一体どういうつもり? 今まで成績をコントロールしていたの?」

「隠していたつもりはない。問われたから解いた、それだけだ」

「それだけって……!」

 

平田も苦笑いを浮かべながら、どこか引きつった顔で声をかけてくる。

「綾小路くん……凄まじい集中力だね。一体どんな勉強法をしたらそんな点数が取れるんだい?」

「別に特殊なことはしていない」

 

クラス中からの視線が綾小路に突き刺さる。

困惑、羨望、猜疑心、畏怖。

しかし、綾小路の本心はどこまでも平穏だった。

 

(……これで満足しただろうか、先生は)

 

彼が本気を出した理由は、クラスの評価でも、試験の有利不利でもない。

ただ相談室で向けられた、老教師の好奇と期待に応えた――それだけだったのだから。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

職員室。

 

「…………」

 

わしは机の上に並べられた5枚の答案用紙を前に、完全にフリーズしていた。

 

数学、100。

国語、100。

英語、100。

理科、100。

社会、100。

 

「……」

手が震える。

「お、おおお……」

 

声が漏れた。

本当にやりおった。

わしは言った。確かに言った。『少し本気を出してみい』と。

 

じゃがな――。

 

「限度というものを知らんのか!! あの分からず屋の小童はぁぁぁぁ!!!」

 

職員室の天井を突き破らんばかりのわしの叫びが響き渡った。

 

「どうされたんですか、天来院先生。騒々しい」

茶柱が呆れたように振り返る。

 

「これを見よ! これを!!」

わしは勢いよく答案の束を突き出した。

「綾小路が全教科満点じゃ!!」

 

「……は?」

茶柱が眉をひそめ、答案を受け取る。

一枚、また一枚と捲るにつれ、彼女の表情から余裕が消えていった。

 

「……なっ……」

「ちょっと茶柱先生、何なの? ……って、えええええ!?」

隣から覗き込んだ星之宮も、目玉が飛び出さんばかりに固まっている。

 

「全部100点……!? 嘘でしょ、あの綾小路君が!?」

「天来院先生……これは一体……」

 

茶柱の鋭い視線がわしを射抜く。

 

「さあな。わしが『たまには本気を見せてみろ』と言ったら、これじゃ」

わしは額を押さえた。

「加減という言葉をホワイトルームでは教えておらんのか……!」

 

恐ろしい。

正直に言えば、あやつの底知れぬ能力の片鱗に背筋が寒くなった。

だが――同時に。

 

「……ふ、ふふっ」

笑いが込み上げてくる。

 

世間を揺るがすような恐ろしい背景を持ちながら、教師の一言を真に受けて全教科満点を叩き出してくる。

 

「まったく……妙なところで愚直な奴じゃのう」

 

「天来院先生」

「なんじゃ、茶柱」

「その感想、本人には口が滑っても言わないでくださいね。ロジカルに困惑されますから」

「……確かにの。無表情で首を傾げられる姿が目に見えるわ」

 

その時、職員室の扉が静かに開いた。

 

「失礼します」

 

噂をすれば影。綾小路が入ってきた。

 

「……お主か」

「先生」

「なんじゃ?」

「先日の試験の件ですが」

 

綾小路は静かにわしの前に立つと、いつもの淡々とした声で言った。

 

「言われた通り、本気を出しておきました」

「……お前なぁ」

「何か問題でもありましたか?」

「問題だらけじゃわ! クラス中が大騒ぎになっておるだろうが!」

 

わしが頭を抱えると、綾小路は少しだけ不思議そうに首を傾げた。

 

「先生が『本気を出せ』と仰ったので。指示に従ったまでです」

 

「……まったく」

わしは大きなため息をつき、それから破顔した。

「まあよい。見事な満点じゃった。見物させてもらったぞ」

 

「……どうも」

 

「ならば」わしはニヤリと笑ってみせる。「次も期待してよいのかな?」

 

綾小路は数秒間、わしの顔を見つめていた。

そして、その瞳にわずかな思惑を宿しながら、静かに口を開いた。

 

「どうでしょうね。先生の『期待』次第です」

 

背を向けて職員室を去っていく小童の後ろ姿を見送りながら、わしは深く椅子にもたれかかった。

 

――まったく。

今回は学力という目に見えるカードを一枚切ったに過ぎん。

あやつの真の底力は、まだまだこんなものではないはずじゃ。

 

「やれやれ……退屈せん学校じゃな」

 

老教師の呟きは、静かな職員室の中に優しく溶けていった。

 

 

 

 

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