テイワットでエロ漫画つくった結果www 作:鉄棒ぬらぬら
私の趣味、エロ漫画の制作と販売にはもう一人、協力者がいた。
読書一家で育ち、娯楽小説にのめり込んでいた彼は念願の稲妻旅行でエロ漫画──稲妻では春画という呼称が一般的だ──と運命的な出会いを果たしたという。
そこで自分も作りたいと意気込んだはいいものの、いくつもの技術と知識を要求するハイレベルな芸術たる漫画を素人がすぐに作れるはずもなく。
作れない。でも理想の性癖を詰め込んだ本は存在しない。しないなら作るしかない。でも作れない。どうしよう。
……なんて、欲を募らせた彼がとった行動がフォンテーヌ在住の漫画家、つまり私の自宅特定&凸だった。玄関開けたら男が土下座していた光景は今でも夢に見る。
私としてもここで暴れられて私=新世界の神が世間に広まったら困るどころじゃないので受けるしかなかったのだが。こうも残念な脅迫をしてくるのだからたまったものではない。これだからフォンテーヌは。
リクエストに応じればいいのかと最初は考えていたがそうではなかった。
彼の目標はフォンテーヌ市民に向けて直売することだったのだ。何でも、稲妻からの輸入は金も時間もかかるから、らしい。
中古の印刷機を格安で購入し、製本もこれまた中古のミシンを使用してほぼ手作業。
本職を機械工とする彼が持ちうる技術と資金を投じて作り上げたのが、所定のお金を入れると本が出てくる、いわば自販機の様な機械だった。
これを使ってサーンドル河の片隅に無人販売所を立ち上げようという試みであった。
最初の作品に選んだ題材は新婚夫婦の初めての夜。
ストーリー面は通り一辺倒の行為を描いた、奇を衒うこともない、ともすれば特徴のない凡作とみなしてもいいような代物だった。
ただし、ビジュアルに関しては私の全力を注ぎこんだ。表情の崩れ方や肌の肉感、絡み合う肌と肌が織りなす美しい陰影、「今、幸せです」と全身で表現するキャラクター。
稲妻の春画やエロ漫画に初めて触れる人に向けた、これこそが稲妻が世界に誇るHENTAI文化だと胸を張ってお届けできる最高の一品。それを作り上げようと持てる力を全て振り絞ってかき上げた作品である。
かくして、二人三脚でエロ漫画販売を細々と始めた。
まぁ私は私で表名義の仕事が忙しかったし、彼はアレでも普段は熱心に機械工として働いていたので、本当に趣味の一環というレベルだったが。
それでも本が売れて良い反応が頂けるのは本当に嬉しかったし、新作への意欲にもつながるし、この活動で体得した技術を表での仕事に還元することもできた。
しかし順風満帆とはいかなかった。
我々の前に表現規制という壁が立ちふさがったのである。
ある日、フォンテーヌで猥雑な作品を規制する法が施行されてしまった。
実際にどのようなやりとりがあったのかは不明だが、噂によれば私たちの活動がどうもフォンテーヌの政界に目をつけられてしまったらしい。
新たな方を制定するだけでなく、元々ある法律の拡大解釈なども駆使してこちらの邪魔をしにかかってきたのだ。
実際に流布している古い怪談を元にした幽霊とイチャコラする話には、いたずらに恐怖心を煽りたてて民衆の行動を操作してはならないという法が。故意に人の人格を歪めてはならないという法律を創作の洗脳ものにまで拡大適用された時は現実と虚構の区別がつかないのかよ国家公務員が聞いて呆れるド低脳が、とパレ・メルモニアの掲示板に恨み言を書きまくったこともあった。
こちらもただではやられはしない。上に政策あれば下に対策あり。
男女の淫らな行為がダメなら同性同士とのセックスを。人間の性行為の描写を禁じるなら動物やモンスターを題材に。図画にするのを咎められるなら小説媒体へ。フォンテーヌに住まいを置いていた期間、あの手この手で規制とのいたちごっこを繰り広げていたのである。
***
「せんせええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
「うわびっくりした」
モンドに越して早数日。
荷物整理に明け暮れていたが、気分転換でモンド城内を散歩していた。
穏やかな午後の陽気の下、やはりゲームとは違うなあと周辺を観察していた矢先、突如甲高い叫び声を上げる男がこちらに突撃してきたのである。
明るい茶髪と同色の瞳、一見して細身に見えるが実はそこそこたくましい体をしている優男。
誰かと思えば、一緒にエロ漫画を販売していた仕事仲間だった。
しかし、そこそこ上背のある男が小柄な女に詰め寄る様は傍から見て犯罪臭がすさまじい。引っ越し当日に追いかけ回された事件もあってか、たまたま近くを巡回していたガイアさんが割って入ってきた。心配かけて申し訳ない。
「おいそこのお前、止まれ。女性に詰め寄るんじゃない。先生、俺の後ろに下がってくれ」
「すみませんガイアさん。大丈夫です、知り合いです。何なら彼も追いかけ回された側です。……生きていましたか。心配しましたよ」
「ううっ、良かったぜ先生……! 安心安心! んじゃ、これからはこのモンドを起点に、全テイワットに「新世界の神」を轟かせ……モゴゴゴ」
「あーあーあーその話はまたあーとーでー! ガイアさん、お手数おかけしますが、内緒話にうってつけの場所とかご存じありませんか?」
「お? なんだ、訳ありか? そういうことならこっちだ」
案内されたのはまだ営業時間前のエンジェルズシェア。カウンター内では例の旦那が準備中であり、見知らぬ顔二人に怪訝そうにしていた。
確かに余計な目と耳が入りそうにないけれど、もうちょっとどうにかならなかったのか。
一方当の不審者──友人かつ仕事仲間、エロ本に命をかける男ことアリゲートは「ここがエンジェルズシェアかぁ、テンションあがるなぁ」と一人そわそわしているのであった。
すぐ近くのテーブル席に座って、アリゲートは自己紹介と自身のこれまでの経歴や私との関係性を話しはじめた。まぁペラペラと喋る喋る。あまり他人様には聞かせられないような話までぶちまけるのだから冷や汗が止まらない。
その流れで私こと小笠原白雪イコール新世界の神という衝撃の真実がガイア氏とついでに赤髪の貴公子にバレてしまったのである。
思わずゲンドウポーズ。ひょっとしたらもうモンドの道を歩けなくなるかもしれない。その一方でアリゲートはどこ吹く風だ。酒を飲んでもいないのにへらへらしている。
変な状況に巻き込まれたオーナーは余所でやってくれという苦情が読み取れる程に渋い顔をしている。あと私にチラチラ視線を送ってきているのは何故か。
ガイアさんは良い情報を得たとばかりにニヤニヤと笑っているが、口角が若干震えている。
「なに。先生ってば裏の活動隠してたの? 別に公表してもいいじゃん。むしろファンは納得して先生すごい! ヤバい! さすが神! って感じになると思うけど」
「そういう問題じゃねぇんです。未成年の読者にまでうっかり広まったらどうするんですか。だから私は頑張って正体不明を装ってですね」
「え、割とバレてたぜ? 新世界の神先生はひょっとして小笠原白雪先生ですかってファンレターがウチに何通か」
「マジですか。いや、それもそうですね。絵柄は極力変えてますが、目ざとい人なら私のクセを見抜くぐらいお茶の子さいさい……」
「いや字」
「字!?」
「うん。字」
思わず聞き返す私に真顔のアリゲート。
愉快そうにガイアさんが笑みを深めた。
「なるほど。先生の字はすぐに分かるか。確かに、絵柄はジャンルに応じて大きく変わってるが、字は変わらない。流麗で優雅な字体だ」
「そうなんですよぉお兄さん! 先生マジで字がきれいなんです。俺もぶっちゃけ何度も先生の字真似してます。そう何度も」
「やめてくださいよ気持ち悪い……しかし、はぁ、そうですか……字ですか。なーんも意識してねぇですね……」
「でもよっぽどの通でもない限り気づかないっぽいし、気にする必要もないんじゃね? というか思ったんですけど」
ぎょろ、アリゲートの視線がとガイアさんに向いた。何故かハイライトがない目で正面から見つめられたガイアさんの肩が震えた。
「先生の絵柄知ってるんですねお兄さん……読んでます? シコってます? 新世界の神、愛好してます?」
「おっと、こっちに矛先が向かったか」
「やめなさい、みっともない。初対面の人のズリネタなんて探るものじゃありません」
「なんで! せっかくの読者の生の声だぞ! 国ごとの性癖の違いとか、知りたいだろ!」
「それこそ売り上げ数やアンケート調査で調べるべき内容だと思いますが」
「二人とも、何故俺が読者だという前提を否定しないんだ? そういうのは寧ろ……そっちの旦那様に聞くべきじゃないか?」
「ッガイア!」
とんでもないキラーパスを投げ込みやがったこの騎士。
いきなり水を向けられた旦那様ことディルックさんは思いっきり顔を歪めている。
まぁでも、ディルック氏の経歴を鑑みれば普通の人間らしい側面があるのは寧ろ良いことではないか。……例の邪眼事件って何年前だっけ? というかセレベンツとかどうなった?
私が一人思考に耽っている一方でアリゲートが最高のカモを見つけたとばかりにすぐさまカウンター席に飛びつきオーナーへ身を乗り出した。
「読んでますか、そうですか! 日頃のご愛顧誠にありがとうございます! 差支えなければお気に入りの作品など教えて頂ければ!!!」
「確か……離れ離れになっていた幼馴染を迎えに行く、みたいな話をいくつも持っていたな。正直俺には全部同じに見えたんだが。あぁ、乱暴なやつはあまり好まなかったか? ま、昔の話だ。今とは趣味が変わってるかもしれん」
「そうなんですね。シコる時ぐらいは暗い話は見たくないってことなんです? あ、ちなみにガイアさんが使っていたオカズ、オーナーさんはご存知ですか?」
「白雪先生?!」
「……さて。どうだったかな。覚えている限りだと、敵組織に捕縛されたスパイの女が尋問されるシリーズなら熱心に読み込んでいた気がするが」
「「はぇ~」」
意外にも二人の共通点は女性向けとして描いていた話を好む点だった。要するにシナリオ重視で竿役もヒロインもしっかりした設定があったほうがいいと。
ところでガイアさんは、尋問対象に執着心を強める男と敵から与えられる快楽に揺らぐ女、どっちに感情移入してたんだろ。
氷の騎士様は余裕を崩されて気恥ずかしそうに咳払いして話題を変えた。
「あー、ゴホンゴホン……以前から気になってたんだが、どうして新世界の神先生の作品に奇抜なものが多いんだ? 初期の頃はそうでもなかっただろ?」
「それは、表現規制を潜り抜けようとした結果というか……アレを題材にするのがダメ、ならアレ以外の何かにすればセーフだろうという目論見です。例えば、故意に人格を歪めてはならないっていう元々ある法律を漫画のキャラにも適用されたりしまして。それで人格排泄を思いついたんです」
「法に引っかからなくて尚且つシコれそうなネタを探しまくったんすよ。まぁこっそり普通のエロも作って売ったんですけど」
「制作している間はとにかくアイディア出しに苦しみましたが、今振り返ると規制があったからこそ創意工夫の精神が育まれたともいえますね」
「そうそう。人間同士がダメなら動物やモンスター、機械とか他にも色々。でもメリュジーヌ使ったときはヤバい騒動になっちゃって。今はもう売ってないけど、最近になっても過激な奴らが店まで押しかけてきやがったから先生大丈夫かなって……」
「ん? あの連中はロシを売買する組織ではなかったのですか?」
「えっ、活動家たちに燃やされそうになったんじゃ?」
お互いに顔を見合わせて首を傾げる私とアリゲート。
どうやら我々は全く別件で命の危機に遭っていたらしい。
「話を戻すが……なるほど。規制を逃れる創意工夫か。それで、騒動になった結果どうなったんだ?」
「ドラゴンマシナリーセックスの本を作りましたね」
「ど……なんて?」
「ドラゴンマシナリーセックスです」
義兄弟が宇宙を背負った状態で停止してしまった。
さもありなん。
頭のおかしい題材を当然のように受け入れている私やアリゲートが可笑しいのだ。
いやでも、転生者という前提がある私はともかく、何でコイツは普通に適応しているのかな。
「ドラゴン、というのは……あのドラゴンだよな?」
「そうですよ。バリエーションでヴィシャップやナタの竜なども題材にしましたね」
「おぉ……そうなのか。それと、マシナリー。マシナリーというのは、アレだよな。フォンテーヌの機械」
「はい。ドラゴンが機械とセックスするのがドラゴンマシナリーセックスです。縮めてドラマシ」
「それは、その……確かに規制のしようがないな……だが、読み手はつかないと思うんだが……」
珍しくボソボソとした声で質問するガイアさん。ちょっと可愛い。
「数は少ないですが、しっかり読み手はつきましたよ。ドラゴンとマシナリー、どちらに焦点を当ててエロスを見出すかの派閥なんてものが出来ましたね。ドラゴンの場合は、格の高い上位存在が機械ごときに性欲を抑えきれない無様さ、つまり快楽堕ち的な要素がメインです。逆にマシナリーの場合、人類の叡智の結晶が得体のしれない怪物に容易く蹂躙される恐怖的な側面が魅力的に感じる……んじゃないですかね。いえ、知りませんけど」
「そこで曖昧に濁されても、お前たちが作った話だろう」
「当時はぶっちゃけジョークのつもりだったというか……まさかここまで反響が大きいなんて、私だって予想外でしたよ」
「やばかったよなぁ、ドラ派とマシ派の言論闘争。店の掲示板がエライことになってさ」
ゲーム内でも各国にあった掲示板。覗いてみると面白い情報が得られる、細部にまで目を向けるユーザーにはたまらないシステムだった。
アリゲートが立ち上げた無人販売所にも新作の告知や読者からの感想などが沢山張り出された掲示板があったのだ。
ここではたまに読者同士の議論が発生することがあった。代表的なところだと情事中は眼鏡を外すべきか否か、靴下は脱ぐべきか否か、といったところか。
あんまり熾烈になりすぎても掲示板が紙だらけになって困るので、性癖議論の仲裁代わりに、表名義で出した漫画の描き方・小説の書き方の本の広告を掲示したら、そっちの売上が急増して版元から不思議がられたこともあったか。次第にファンアートなんかも増えて、賑やかな様相になっていたのを覚えている。
「なんだか思い出話ばかりになってしまいましたが……結局あなた、何故モンドへ? ただの生存確認ですか?」
「うんにゃ、向こうで騒ぎになりすぎて営業が厳しくなっちまったからな……せっかく先生が引っ越したなら、こっちでやろっかなって」
「えっ、そうなんです? しかし、販売用のマシナリーなんて、こちらで同じものを用意するのは厳しいですよ。特にエネルギー源がですね」
「そこは頑張って何とかする! そーいや、お兄さんって騎士の人? 花街とかに顔が利く方とか、出来たらご紹介してほしいんすけど」
ガイアさんとアリゲート、ワイワイと盛り上がる二人はこのまま営業開始まで居座って一緒に呑むつもりのようだ。
私はアルコール類は嗜んだりしないので適当にお暇させていただこう。
「申し訳ございません、いきなりお邪魔して騒ぎ立てて」
「……いや、貴女も苦労したんだろう。表裏両方のファンとして、モンドでは自由な活動が出来ることを祈っているよ」
「ふふ、ありがとうございます。では、私はこれで失礼します。アリゲート、あなたも余り迷惑を掛けないように」
「あいよ~また打ち合わせしような~」
一礼して踵を返し、酒場を出る。
辺りは美しい夕焼けに染まっていた。
「あ、そういえばメリュジーヌ本、正式に全部発禁認定だってさ。パレ・メルモニアが回収中~」
「そうですか。まぁそうなりますよね。作ってる最中は視野が狭くなっていましたが、今思えば禁じられるのも当然です」
「俺としちゃー、ド畜生がって感じだけど。せっかく装丁とかもなけなしの銭振り絞って気合い入れまくったのに」
「稲妻では普通に販売されていますから、良しとしましょうよ」
「でもお上に回収されてない分がまだ高額で出回ってるんだぞ! こっちの懐には1モラだって来ないのに! 知らんアホの金儲けに利用されるとか、マジ許せねぇ」
「その転売ヤーも、貴方にだけはアホ呼ばわりされたくないでしょうね……」
Q.エロ漫画を作るとどうなる?
A.最高審判官の仕事と心労が増える
ディルックとガイアのお気に入り薄い本は捏造です
~メリュジーヌのエロ漫画に関する経緯~
そもそもの前提として云百年前にとある学者がメリュジーヌを解剖・調査して得られた情報をまとめた本が刊行されたことが始まり。後にこの本はヌヴィレットの意向でフォンテーヌでは全面的な発行・所持禁止となり、学者も罰せられた。
しかし他国では密かに流通しており、スメールのとある古書店で売られているのをたまたま白雪が発見。絵画の資料に最適だと購入した。
ただ購入した本は古さゆえか変な臭いがするうえ、デカくて場所をとるし重くて読むのも一苦労だったため、内容の一部を模写したスケッチを手元に残して本は稲妻の八重神子宛てに送って保管してもらった。
問題のエロ漫画はメリュジーヌの生態や身体の構造を正確に記しており、間違いなく例の解剖本が関わっているだろうと睨まれていたのが騒動の原因。
なお表現規制に関してはロシや人身売買の元締めが裏から手を回して推し進めたという経緯。
合法的に白雪たちの活動を抑制する目的で行われたのだが、懲りずにあの手この手で新作を出し続けたので実力行使に踏み切ったのが前回の話。
~オリキャラ紹介~
アリゲート君
前科一犯。要塞での刑務活動で機械いじりに夢中になって出所後機械工になった。
推し作家の自宅特定と凸するあたり大概頭フォンテーヌである。
名前の由来はalligator、すなわちワニ