テイワットでエロ漫画つくった結果www 作:鉄棒ぬらぬら
(エロ漫画要素は)ないです
「おはようございまーす」
「あら、おはよう」
モンドに越してから早一週間。
予想外の展開こそあったものの、今日から本格的に騎士団からの仕事を始めることにした。手始めに打ち合わせ。城内が人々の活気に満ちる午前10時前、騎士団側の担当編集にあたるリサさんの根城たる図書館にやってきた。ちらほらと利用者の姿が視界に入る。何人かがこっちを見てひそひそと囁き合っていた。少し居心地が悪い。
「……あ゙っ! リサさん、これ……」
「うふふっ、先生には少し懐かしいかしら? とっても人気で、予約が半年先まで埋まっているの」
「それはそれは、ご贔屓のほど誠にありがとうございます?」
テーブルの上に置かれた数冊の薄い本……「秒で分かる! 大盗賊レッド・ミラー」「ざっくり覚える 古代の砂漠文明」「マンガで学ぶ 雷電五箇伝」などなど、全部学生時代の私が作った同人誌だった。確か稲妻に帰省するたびにイベントで出したっけ。ちゃんと自分なりに資料集めて実地調査も頑張ったうえで書いたけど、正直今となっては拙くてちょっと恥ずかしい。……よくよく考えてみれば、まだ生きている当事者が結構いるのでは? もし彼らが読んだら、アレが違うコレが違うとダメだしされまくるのでは? これだから長命種がたくさんいる世界は。解釈の余地が出ないじゃないか。
「えー……はい、打ち合わせしましょう。子供向けの本、でしたね。私の専門からは外れますが、元素論が一冊目でよろしかったですか?」
「そうよ。複雑な要素が多いから理解が難しいけれど、子どもたちに伝える上で余分な情報を削ぎ落し、分かりやすく再構成する必要があるわ」
「なるほど、分かりました……とりあえず擬人化が安牌ですかねぇ」
風元素ちゃん、水元素ちゃん、と頭の中でふんわり思い浮かべる。正面に座るリサさんの手元には分厚い書籍が何冊も積み上げられていた。背表紙には「元素理論序説」「地脈エネルギー学大全」などとある。すべて素論派なら必ずお世話になる学術書だ。私も興味本位で目を通してみたけど、典型的文系人間には複雑怪奇で解読に半年かかったのが懐かしい。
騎士団からの依頼とは、図画を多用した子供向け教育・学習用書籍……有体に言えば学習マンガの制作である。昔作った薄い本がモンドにまで流れてリサさんの目にとまり、騎士団でも作ろうという話になったらしい。果たして誰が買ったのか。第一号は元素や地脈の話、いわば素論派的テーマに準じた内容と決まっているが、今後は医学や工学、歴史といった多種多様なジャンルにまで手を広げて刊行したいのだとか。中々遠大な目標だ。
「それと、もし先生の手が足りなくなった場合、こちらで人員を増やすつもりではいるの。ただ、彼、絵はともかく漫画は練習したいそうだから、手伝いが必要になりそうならなるべく早めに教えて欲しいわ。構わないかしら?」
「分かりました。……すごいですね。練習すれば漫画も描ける人材がいるとは、さすが西風騎士団。優秀な人材には事欠きませんね」
「これでも人手不足であちこち参っているのだけどね。……あら、噂をすれば」
二人分の落ち着いた足音が耳に入る。ふと視線を向けると本を何冊も抱えた、初対面だけど知っている二人の姿が目に入った。
「リサ、借りていた資料を……おや、出直した方がいいかな」
「大丈夫よ。カウンターに置いておいて。丁度良かったわ。先生、紹介するわね。こちらはアルベドとスクロース。うちの錬金術師なの。アルベドは絵が得意で、さっき言った手伝いの候補にあがっているのが彼なのよ」
「そうなんですか。アルベドさん、スクロースさん……初めまして。この度モンドに越してまいりました、小笠原白雪と申します」
そうだったそうだった。錬金術師アルベドは行秋の小説の挿絵担当だった。絵心は確かに申し分ない。しかし頑張れば漫画も行けるとかハイスペックすぎる。騎士団の絵担当と言えば大団長も可愛らしくも味のあるイラストだったような。グッズ化すれば普通に売れそうな気もする。取り留めのないことをつらつらと考えていると、彼の傍らに立っていた少女──スクロースさんが何だか気合いのこもった面持ちでこちらに近付いてきた。
「白雪先生……すごい、本当にお話から飛び出してきたみたい……えっと、はじめまして。スクロースです。先生の著作はたくさん読んでます。その、ご迷惑でなければ、サイン、いただけませんか……?」
「構いませんよ。推しキャラとかいらっしゃいましたら、一緒にお描きしますが」
「本当ですか! でしたら、うーん……そうですね。『大正ロマンスブルー』の、まち子さんをお願いします」
大正。
当たり前だがテイワットには本来存在しない概念だ。しかし私は前世から大好きだった大正テーマの作品が欲しかった。無いなら一から作るしかない。なので自分で創り上げることにした。表向き「稲妻とフォンテーヌを融合した」という触れ込みの物語で、同じ世界観を共有する一大シリーズものとして現在まで続く、小笠原白雪最大のヒットシリーズだ。第一作が女学校を舞台にした恋愛漫画だったので、特に十代から二十代の若い女子に人気を博しているらしい。誰か同じ大正ものを作ってくれないかなと願っているのだが、題材が難しいのか現在まで新作を出した作家はいない。
「はい、どうぞ。やはり外見を指摘されることが多いですね。フォンテーヌでもよく私が小笠原白雪ではないかと話しかけられました」
「ありがとうございます! それはもう、一目見れば白雪先生だって絶対に気付きますよ」
それは、まぁ……頭にリボンつけて、着物の伊達衿や袖口にフリルとレースをふんだんに使い、袴っぽいスカートに加えてブーツを履いた、いわゆる和風ロリータとか大正風スタイルなんて着ている奴はテイワットのどこにもいないだろうけど。
自分の装いを見下ろしながら納得していると、助手の様子を見守っていたアルベドさんが顎に手をあてて考え込む姿勢をとった。
「稲妻とフォンテーヌの融合……『大正』シリーズはそういう話だったね。その服も、自分で作ったのかな?」
「えぇ、そうですよ。古着を解体したり、布から選んだり、色々工夫して作りましたよ」
「アイテムの描写がすごく丁寧だったけど、実物として目の当たりにすると現実感がグッと増すわね。何より、先生にとても似合っていて素敵だわ」
「何だか面映ゆいですね。何せ上背が足りないもので、コーディネートの悩みは尽きないのですが。皆さんがそうおっしゃるのであれば、これで良いのでしょう」
ひらひらと袖を揺らす。邪魔しては悪い、と二人は資料を返却し去って行った。
「では今日のところはこのくらいで……あの、図書館で多少の作業はしても大丈夫ですか?」
「構わないわ。お好きな席を使ってちょうだい」
微笑むリサさんにありがとうございます、と一礼する。折角だから、とこのまま図書館の一角でアイディア出しと大雑把なプロット構成を考えることにした。気分転換でいい感じに作業がはかどりそうだ。
「あのー、すみません」
「はい?」
不意に話しかけられた。声の方へ視線を向けると、複数名の少女たちが集まっていた。彼女たちは、打ち合わせ前にちらちらとこっちを伺っていた利用客ではないか?
「あなたは、本当に、小笠原白雪先生ですか?」
「私以外に小笠原白雪が他にいるとは耳にしていませんが」
「じゃあ本物の白雪先生?」
「私の偽物がどこかにいるなら見てみたいですね」
きゃあ、と黄色い声を上げる女の子たち。感極まったかのようにずずいと私に詰め寄ってくる。
「やっぱり! エンジェルズシェアの前にいましたよね?」
「モンドにはいつごろ引っ越してきたんですか?」
「はあぁ……先生と同じ空気を吸えるなんて、わたし、ひょっとして一生の運を使い果たしたのでは……」
「……え、何? 白雪先生? 本物?」
「あのすみません、魔法少女シリーズに関して聞きたいことが」
釣られたようにわらわらと集まってくる利用客たち。静かにするのが鉄則の図書館は、ワイワイと盛り上がる声が収まる気配がない。一度はリサさんの一喝でいなくなったものの、しばらく時間を置くとまた人が集まりだす。
うーん。
こりゃ仕事になんねーな。
***
数日後の昼、天気は曇り。空は重たい雲に覆われているが、それを物ともしないかのように地上の街並み、とりわけ騎士団の庁舎周辺は賑わっていた。
「せんせい! サインください!」
「まぁ、小さなプリンセス。『どうかあなたにバラのような幸福を』……はい、どうぞ」
「ローズ様だぁ……! ありがとうございます! ばいばい!」
「ばいば~い。──はい、次の方~」
「先生! 先生の本はいつも俺の冒険心をたぎらせてくれる! どうか、俺の相棒の鎧にサインを頼む! 胸当ての中央に大きく!」
「騎士様、それ普通に支給品ですよね? 普通に色紙を飾ってください。はい、どうぞ」
厳つい騎士の男が元気に感謝を述べて去って行った。行列は途切れる気配がない。思った以上の大盛況ぶりに数日前の判断を間違えたかと後悔が胸の内をよぎったが、また人が集まって仕事にならなくなるよりはマシかなと思い直し、ぐぐっと背を伸ばして姿勢を正した。
というわけで突発的に始まったサイン会。普通に出歩いているだけでチラチラ見られたり話しかけられたと思ったら長々と作品の自己解釈を語られたりと生活に支障が出始めてきた。そこでいっそ大々的に対面する機会を設ければ落ち着くのではと考え、ジン団長の許可を得て騎士団本部の玄関広間を借りて机と椅子だけの簡易会場を設けた。あちこちで噂になっているのか行列は広間からはみ出て外まで続いている。噂を聞いた市民たちどころか騎士まで並んでいるようだ。みんな暇なの? 仕事してる? いやいきなり突発イベント起こして列整理とかに騎士団の人手を借りている立場が言えたことではないんだけど。
しかし、知ってる顔が何人も並んでいるというのはさすがに驚かざるをえない。
「白雪先生! 『はいいろオオカミ』シリーズ、全部読んでるぜ! 俺もすごい冒険してみたいな……ほら、レザーも」
「先生……オオカミは、吹雪の向こうから、もう帰ってこない?」
「それはまた続きをお楽しみに、ですね。……まぁ、書き手の想定以上にシリアス路線に入っちゃいましたが」
二人の少年は割と初期の頃に出した冒険小説のファンらしい。最近忙しくて更新が止まってるからそろそろ新作を出したいな。
「リジーの最期がずっとずっと頭から離れなくて、睡眠に支障が出ているのよ! この恨み、忘れないんだから」
「それはそれは、長く記憶に残る作品を仕上げられたこと、とても光栄に存じます」
旧貴族の末裔はドロドロ復讐系恋愛小説に心を奪われてしまったようだ。前世のダーク系作品の数々を元に自分が考えた至高の「闇」を創り上げようと奮闘した甲斐があったと思う。
「先生、ファンです……じゃない、コホン。──天駆ける白光の乙女は、その心を誰に預けるのか……黒の騎士か、波濤の聖者か……それとも炎獄王であろうか?」
「よく聞かれるんですよね、それ。ぶっちゃけ予定は未定なのですが……しかし炎獄王をチョイスとは、中々好みが渋いですね?」
眼帯を付けた少女は、魔法少女シリーズ第三作における恋の行方が気になって仕方ない様子だ。彼女より前に並んだ面々からも同じ質問が何度も繰り出されたのだが、本当に何も考えていないので正直回答に困る。
「前にも言ったが、僕は表名義もファンでね。少し前は推理小説をよく読んでいたよ。最近は忙しくて中々手が付けられないでいるが」
「まぁ、ありがとうございます。ところで推しヒロインとかお伺いしてもよろしいですか?」
アカツキワイナリーのオーナーもわざわざ足を運んできたようだ。せっかくだし少し踏み込んだ質問もしてみたのだが、ノーコメントとされてしまった。まだ出会って大した時間経ってないし、そこまで親しくもないから当然か。
「あたたたた……座りっぱなしはやはりきついですね。少々お待ちを~」
「おい、どこ行くつもりだ! グズグズしてないでさっさとしろ!」
「ハァ~???」
体の関節が疲労を訴えてきたので、体操でもしようと椅子から立ち上がった途端、いきなり舐めた口きいた輩が絡んできやがった。喧嘩売られているなら買うしかない、と相手を睨み付けると、横から制止するように声を掛けられた。
「そこまでだ。白雪さんは落ち着いて」
すっと、真っ直ぐ伸ばされた腕が私の前に差し込まれる。無意識に一歩下がると、横からするりと入ってきたのは小柄な影──アルベドさん。万が一の際に備えた見守り要員として少し離れた場所に立って静かにし続けていた彼は、クソ客の前に割り込んだと思ったら、相手のことを頭のてっぺんから爪先までじっくりと観察していた。
「何だ、お前は、邪魔だどけ!」
「アルベドさん?」
「少し装いを変えているようだけど……キミ、さっきも並んでいたね。サインは一人一回までだよ。あぁ、後ろに並んでいるキミたちもだ」
「んげっ……言いがかりはやめろ! 何の根拠があってそんなことを、とっととサインをよこしやがれ!」
「おや。もしや転売ヤー? いるとは思っていましたが」
「なるほど。転売、そういうリスクも考えないといけないのか。とにかく、君たちに渡すものはないよ」
「何だと!」
男は焦ったように声を荒げて詰め寄るがアルベドさんは涼しい顔で受け流す。気づけば騎士たちが集まっており、緊迫の空気が漂っている。何とか上手いこと穏便に収拾を漬けられないだろうか。
「ふーむ……私のファンではない人に来られても。あなたはファンですか? それとも人が集まってるから来てみただけの人?」
「! ファンに決まってるだろ、当たり前だよ先生! 俺はしっかりと、全部の作品に目を通したからな!」
「それではクイズです。『彼岸より愛を込めてEXTRA』において、帰ってきたユリアが巡った場所はどこでしょう?」
ぽかんとした顔。何の話をしているのか分からない、と表情に書かれている。
「ほらほらどうしました? 後ろの方々も答えてもらっても構いませんよ?」
そう声を掛けると、後列の転売ヤーたちは、居心地悪そうに視線を右往左往させた。すると、転売ヤーの列の後ろから、元気な声と共に手が挙がった。
「ハイハイハイ! 養父の生誕地アーヴェスト村、祈念聖堂跡地、エルグラント山、の三か所です!」
「おぉ~素晴らしい! お嬢さん、初期の作品、それも小部数のスピンオフまで目を向けてらっしゃるなんて! 私感激しました!」
「えへへ、稲妻に親戚がいてですね。うちに娯楽小説、いっぱいあるんです」
列の奥の方、元気いっぱいに答えた眼鏡の少女。照れくさそうに頬を掻いている。転売ヤーの男は何が起きたのか分からないのか、呆けた顔のままだ。ふふん、と笑って、腰に手を当てて男に向けてビシッと指さす。
「私の質問に全部答えられたら、あなた達にサインを渡しましょう。ではでは、第二問ですよ!」
そんな感じでクイズの応酬が繰り広げられているうちにどこかで諦めがついたのか、転売ヤーたちはすごすごと帰って行った。普通に並んでいた正当なファンには好評だったため最終的にクイズに答えられたらサインを渡す、という形になった。考えるのが大変すぎて少し後悔したけど。
そうこうしているうちに並ぶ人がまばらになっていき、やがて日が沈みかかった頃にサイン会はお開きとなった。
「あー腕が疲れた。アルベドさん、先程はお手数おかけしました。穏便にまとまってよかったです」
「気にすることはないよ。ボクは割り込んだだけで何もしていない。解決したのは他でもない、白雪さんの手腕のおかげだよ」
「それでも、騎士様に居て頂けるだけでも心強いものですよ」
本部にちらほらと騎士たちが戻ってきた。列の整理で度々トラブルが発生していたらしく、対処に追われた騎士たちにもやや疲労の色が見える。後片付けの最中、雑談に興じる。
「アルベドさんも八重堂の小説で挿絵を手掛けてらっしゃいましたよね」
「あぁ。『沈秋拾剣録』といってね、白雪さんも読んだことはある?」
「もちろんですよ。とっても面白かったです。白亜先生の挿絵も素敵でした。……その、今すぐじゃなくていいので、白亜先生にサインを頼んでもいいですか?」
「ボクが? 構わないけれど、枕玉先生じゃなくていいのかい?」
「もちろん、いずれ枕玉先生からも頂きます。お二人のサインを揃えたいんですよ」
「つまりコレクション目的ということかな」
元の状態に戻った広間を眺めて、一息ついた。
「何だか今日は新鮮な気分でした。改めて私への評価を認識する良い機会になりましたね」
「白雪さんは、他者からの評価を気にしていたということかな」
「むしろ今までは色んなことに忙殺されて気にする余裕がなかったんですよ。こうして読者の方々と交流する機会もありませんでしたから。だから今回のサイン会は大いに学ばせて頂きました。ふふっ、白亜先生もいつかはサイン会とか、どうです?」
「ふむ……今日のように、か。それもありかもしれないね」
挿絵についてですが
あくまで暫定的なものなので今後しっくりくる画像が生成できたら普通に外見設定を変える可能性があります
とりあえず黒髪清楚系という点だけ覚えておいてください