テイワットでエロ漫画つくった結果www 作:鉄棒ぬらぬら
基本的に、私の創作動機は「無いから自分で作る」という一点だ。
あらゆるエンタメが飽和していた前世と比較し、インターネットもないこの世界は好みに合う作品を探すだけでも一苦労する。
とりわけ海外作品ともなると手に取ることすら困難だ。
そして隈なく探しても見つからないことすら珍しくないため、いっそのこと自前で用意したほうがコスパが断然よい、という根拠で今まで創作活動に勤しんできた。
時間を少し昔に戻す。
フォンテーヌでアリゲート共々こっそりエロ本を作っていた頃、たまにファンから報酬と引き換えにファン好みの一枚絵をかき上げるリクエストを受けていた。
「黒髪眼鏡っ子触手責め顔射」とか「ロリ蟲姦」とか「髭面褐色中年男性搾精牧場(搾乳差分あり)」とか「ふたなりボテ腹人妻二穴責めアヘ顔ダブルピース」とか独特かつ細かすぎて逆によく分からない性癖を表現するのは、一クリエイターとして技術を示すまたとない機会なので、とっても楽しくやらせてもらっていたのだ。
前世でもあった有償リクエストのアレである。
そんなある日、新作エロ漫画の製本作業をしながら、ふと思い立って傍らで同じく作業に勤しむアリゲートに尋ねた。
有償リクエストのように、前世にあって今のテイワットにないエロコンテンツを頭の中で思い浮かべていて、この世界でも実現性の高いものに思い当たったのだ。
「思ったんですけど、エッチな映影ってないんです?」
「エッ……なんて?」
「なにって、シンプルにエロい映影のことですけど……精々一部の恋愛もので濡れ場が多少ある程度でしょうか? もっと濃いのが摂取したいのですが」
本棚に入っていた一冊を抜き取る。過去に刷ったエロ小説だ。
稲妻を舞台にした、因習と陰謀が渦巻く伝奇ホラーミステリーで、エロ要素は文量としてはそう多くないものの、非常に濃厚に仕上げた作品だ。
「こういうの、上手いこと映像化とかできませんかねぇ。やはりお上の目が厳しい?」
パラパラとめくりながら呟いた。
語りかけた相手が何も反応を示さないので、アリゲートに目を向けたのだが、すぐに視界に入れたことを後悔した。
恍惚としたため息を吐き、体を震わせている。瞳は感激か興奮かは分からないがとにかく潤んでいるのが見て取れた。
普通に怖いので思わず後ずさったがアリゲートはすぐさま距離を縮め、私の手を取り耳元で囁いた。
「先生……やはり貴方が神だったのですね」
かくして、火が付いたアリゲートの熱意によって(たぶん)世界初のAVだか成年向け映影だかの制作活動が決定したのであった。
前世ではスマホを始めとした各種ツールのおかげで、素人でも結構気軽に映画制作に取り組むことが出来たのだが、テイワットにそんな便利なものはない。
必要となった様々な機材──当然中古──を何とかかき集め、あの手この手口八丁手八丁を駆使して人員を確保した。最大のネックだった役者に関しては、サーンドル河で働いていた娼婦と男娼──無人販売所の近隣の店から来てくれた──が立候補してくれたのだ。
高い報酬を提示したとはいえ、性的行為の撮影及び公開という高いハードルにも恐れることなく身を投じるとは、中枢機関の目が届かないフォンテーヌの日陰にも、中々どうしてたくましく根を張り生を謳歌する人々がいるものだ。中には脚本の「新世界の神」に釣られて応募したミーハーなヤツもいたけれど。
そんなこんなでスタートした映影制作。
しかしカメラの前に立つのは一般娼婦と一般男娼であり、演技に関しては素人だ。その他寄せ集め製作スタッフも実際の映影制作に関する経験など皆無。かといって、ストーリーのスの字もない、ただ裸の男女が絡み合う光景をひたすら接写しただけの映像にしてしまうのは少々勿体ない。
遠方に暮らしていた幼馴染が突然訪ねてきたとか、妻を亡くしたばかりなのに義母が誘惑してきたとか、借金返済に追われていたら謎の富豪に娶られたとか、簡素でも物語を仕込んでおいた方が、映影としての言い訳もたつし、観客に向けて没入感を演出できるだろう。
思えば、私史上最も忙しく動き回っていた時期だったかもしれない。
漫画とかのネタに使えないかと映影の制作過程についてある程度齧っていたために色々と頑張る役回りになってしまった。脚本や演出、演技指導などの映影の中核部分から小道具に衣装といった細部の調整も私が担当した。撮影も結局私が担っていたっけ。本来カメラ担当だったアリゲートの奴が「勃起しちゃって集中できないよぉ」とかほざくから。一番大変な編集作業はやってくれたからいいんだけど。
正直、普通にエロ漫画作ったほうがよっぽど楽だと自身を持って言える。良い学びになったから結果としてはプラスだと思いたい。
作品を完成させただけではこの計画は完了したとはいえない。大衆のもとに届けられて初めてその作品は産声を上げたといえる。
とはいえあからさまなエロ映影を陳列してくれる店など存在しない。なのでアリゲートが運営していたエロ本無人販売店は新たにAV無人レンタルを始めた。販売所のすぐ隣にミニシアターを作り、公開から一週間は無料で全編見放題、期間が終わったら冒頭及びハイライトの切り抜きをサンプル動画として店頭で放送。
かくして性に飢えた獣たちによって我々の著作物は凄まじい勢いで大ヒット……はしたけど結局パレ・メルモニアに摘発されたのであった。いやまぁ、話題性は十分だったし、製作費全額賄えてプラスお釣りがくるぐらいには稼げたんだけど。
加えて心配な件が一つ。
協力してくれた役者たちが後ろ暗い奴らに絡まれるようになってしまったという。
彼らが娼婦・男娼として働いてる店があるサーンドル河は、もとより棘薔薇の会のシマだから、幸いにして大ごとにはならなかったようだが。
振り返ってみれば、そいつらは私を殺そうとした連中とグルだったのだろう。ロシを始めとした裏でやりとりされるはずだった金を見境なく吸い上げる輩なんて排除されるのは至極当然のことである。
また、後に風の噂で耳にしたのだが、フォンテーヌでは高額な家庭用の映影再生機が飛ぶように売れたとかなんとか。
いつの間にやら某プレイボーイ創業者みたいなことをしてしまっていた。この際バニーガールも私が発明したってことにしたらダメかな。
***
そして、現在。
「スケベが描きてぇ……」
「疲れているのか?」
モンドに越してから一月以上経った頃。
騎士団発の学習漫画第一号のペン入れに打ち込んでいた私は、猛烈なスケベ欲に苛まれていた。
全年齢に取り掛かってるときは成人向けが、甘い恋愛作品の場合は殺伐バトルものが、おっぱい描きまくってるときは筋肉を摂取したくなるのだ。
エンジェルズシェアのカウンター席。
ノンアルコールのドリンク二杯だけで管を巻く不良客を実行している私にも、ディルックさんは優しく対応してくれる。
バーテンダーとして働いている時の所作をガン見で観察しているときも苦情ひとつ言わないあたり、本当に優しい人だ。
「そうかもしれませんね、疲れたときほど単純なエロが身に染みるんです。おっぱいのラインをシャーってしたり、僧帽筋から三角筋、上腕二頭筋にかけての流れをサササーってやったりしたいんです」
「その擬音語は描画を表現するのにふさわしいのか疑問なんだが……まぁ、たまの気分転換も悪くはないと思うよ」
そう言いながら、ディルックさんは三杯目のドリンクをこちらに差し出す。カシスオレンジ風のモクテルだ。
大変美味。モクテルひとつにも一切妥協しない。すげぇぜエンジェルズシェアは。
不意に、隣に人の気配。
鼻をくすぐったのはやや重ための薔薇の香り。
「あースンマセン、おとなり座っていいですかぁ?」
「えぇ、どうぞ──あれっ、エストリエさん! 生きてましたか」
「アハハ、生きてる生きてる! 久しぶり~センセ」
隣の席に座ったのは、かつてアリゲートたちとやっていた映影の制作に参加していた娼婦の一人、エストリエさんだった。
素人ながら演技力に長けており、さらに妖艶な美貌を持ち合わせる彼女は複数の作品にヒロインとして出演し、一躍大人気女優と崇められていた。彼女が身を置いていた店の売上に多大な貢献をしたらしく、店主に感謝されたことも今となっては懐かしい。
この香りは間違いなく、彼女が愛用していた香水から漂うものだ。
「何か頼まれます?」
「えー、じゃあセンセが飲んでるの」
「ノンアルですけど、いいんです?」
「いいの。同じやつくださーい」
「かしこまりました。どうぞごゆっくり」
注文を受けたディルックさんがドリンクを作る傍ら、私たちは近況話で盛り上がった。
「大丈夫でしたか、あれから。私とアリゲートは色々あったのですが……」
「んー、まぁこっちもそれなりに諸々って感じ? とりま、参加してたやつらはみーんな生きてるよ」
「そうだったんですね。皆様無事でいらっしゃるなら何よりです」
アリゲートがこっちに来てからというものの、無人販売所がどうなったか全く分からないので少し心配していたのだ。
その辺りを尋ねてみると、エストリエさんは気楽な態度で答えた。
「えー何かね、騒ぎになってた」
「騒ぎ、と言いますと」
「あの本屋さん? すっごい荒らされちゃって、シアターもぐちゃぐちゃにされててさー。誰がやったんだーとか、あるもの全部持ってけーとか、新作よこせーとか、皆好き勝手言ってたよ」
「普通に大騒動ですね……何とか治めたいところですが、迂闊に顔を出したところで殺されるでしょうし……」
「え、何。センセ殺されんの? ウケる」
「──お待たせしました」
「どもー。……うまっ! さすがモンド、ノンアルにも妥協なしってか!」
差し出されたカシオレ風モクテルを片手にけらけら笑うエストリエをよそに一人うんうんと唸る。のんきにモンド暮らしを満喫していたらまさかそんなことになっていたとは。原因の一端を担う立場の人間としては上手いこと騒動を鎮めたいのだが、のこのこフォンテーヌに戻ったところでまた追い回されるのがオチだ。
背後で、来客を告げる鐘がカラコロと響いた。
「──ちーす。おっ、先生いんじゃ~ん、ってエストリエたん!!! 何コレ、奇跡? 会いに来てくれたの???」
「やほーアリゲート君、顔みれただけでもあーし超満足って感じ~」
ウキウキ顔でエストリエさんの反対隣に座って、ディルックさんに蒲公英酒を注文するアリゲート。何の話してたの、と聞かれたのでエストリエさんから伺ったフォンテーヌの近況についてと説明した。ふんふんと聞き入れていたアリゲートはしばらく考え込むと、指を立てて話をまとめた。
「つまり……製作陣の状況がどうなってるか分からんから、新作欲しさにフォンテの客が騒いでいると。先生が望む通りに騒動を抑えるなら、シンプルに新作出して生存報告とか? ちゃんと出るよって安心感が欲しいんじゃね? いや知らんけど」
「新作ですかぁ。最近は全年齢の方が忙しくて少し余裕がないですね。いずれは新しいスケベを出したいのですが」
「ふーん、やっぱり忙しいんだね。あーしも手伝えることは特になさそー」
お喋りでやや乾いた喉をドリンクで潤す。
一方、ぐびぐびと勢いよく酒を飲んだアリゲートは、ガンと音を立てて杯をテーブルに置き、息を吐いて剣呑な目つきでこちらを睨んだ。
「いーや待ちたまえエストリエたん。俺たちでも手伝えることはある。というか、俺たちだからこそ出来ることもあるンだ」
「へ?」
「はい?」
「もう一度やるぜ、『新世界の神』プレゼンツ、新作ビッグ映影をなぁ……!」
「おぉ? おぉー!」
「正気ですか?」
一人勝手に盛り上がるアリゲート。しかしスイッチが入ったかのように懐からノートを取り出し、何やらすごい勢いで書き込み始めた。
あの様子ではきっと止めても止まらないだろう。
そんなわけでフォンテーヌのファンたちに向けて、学習漫画の傍ら新作エロ映影制作が決定したのである。
制作過程はオールカット。
半年以上に及ぶ撮影を経て、新作映影「狩人と風の詩」が完成した。
集落から離れ一人で暮らす狩人が、泉のほとりで風の精霊と出会い、心を交わし、やがて集落に押し寄せる悪龍を共に討伐する、スローライフファンタジー。
作中における狩人の日々の営みは、実際に狩りを生業とするモンドの職業狩人たちに密着取材を行い、エンタメを崩さない程度にリアリティを追究した。
悪龍とのバトルはミニチュア撮影を始めとした自分が覚えている限りの特撮技術を駆使して、臨場感たっぷりに仕立て上げた。
モンド城市街地の一角、ゲームには存在しない花街。
その中にある建物を借りて、アリゲートは完成した映影の試写会を開催していた。
この国では馴染みが薄い機械の研究を単身で挑むアリゲートは、研究成果の一環として本場フォンテーヌから映影の再生機を持ち込んでいた。
普通に動かしているけれど、動力源云々の問題はいつの間にか解決したらしい。
機械の前でアルベドさんと話し込んでいる様子を見かけたので、無敵の錬金術が何とかしてくれたのかもしれない。
完成品の試写を見ながら、もはやAV通り越して日活とかそっちの方面に話が広がってきたなぁ、と一人感慨にふけっていると、トントンと肩を叩かれた。
「おや、ディルックさん。いらしてたんですね」
「アリゲートから誘われてね。すごいものを見せてやる、って息巻いていたよ」
「あはは……打ち合わせでは毎度大変お騒がせしました」
「構わないよ。前にも言ったが、僕は表裏両方のファンなんだ」
小声でディルックさんとささやき合う。映像は既にエンドクレジットに差し掛かっている。
観客席からはようやく一呼吸ついたかのようなため息が、あちこちから聞こえてきた。
「あの女優が店に来た時のことが昨日のように思い出される。ささやかな再会がこれほどの大作を生み出すとはね」
「創作の動機なんて案外しょーもないもんですよ。無いから作る。これにつきます」
「なるほど。単純だが、合理的だ。発想や表現だけでなく、行動力こそが君たち最大の武器かもしれないね。それに、君たちが顔を突き合わせて議論しているところを、何度も見たからこそ、君たちの目指した完成を観賞することができて本当に嬉しい。今日は貴重な機会を本当にありがとう。初めて映影を観たけれど、君が手掛けた作品は他にも知りたいな。もし流す機会があったら呼んでくれ」
イケメン、それもプレイアブルに手放しで自作AV褒められるのは些か居心地が悪い。エンジェルズシェアでの打ち合わせで毎度騒いでいるところを知られているためか、余計にそう感じる。
……しかし、ディルックさんがこうおっしゃるということは、恐らく映影というものにモンド人が初めて触れた瞬間だったりするのか。こんなエロ作品じゃなくて、もうちょっとマシな、誰もが知る古典的王道名作映影なんかを最初に観せるべきだった。本当にすいません。
ともかく、随分大掛かりで派手になってしまったが、生存報告としてフォンテーヌの読者たちに届けられたらいいな。
今回のオチ。
完成と共にフォンテーヌへ帰って行った制作メンバーの一人から、数か月後に手紙が来たのだが。
「えっ、今年の千霊映影祭でフリーナ賞を獲ったァ!? ──あ、違う? なんだびっくりした……そうですよね、そんなふざけた話があるわけ──はい? 新しく設けられた『次世代映影賞』? 水神さま直々にお褒めの言葉? さっきから何を狂ったこと抜かしてるんです?」
なお、コメントは以下の通り。
「映影制作というのはそう簡単なことではない。あらゆる手を尽くして人と金を集めてようやく始めることが許されるんだ。そしてそれは決して順風満帆にはいかないものだ。
スポンサーの顔色を窺わないといけないし、スケジュール関連のトラブルだってある。或いはシンプルに天候や政治情勢にだって振り回されるだろう。とかく、映影は様々な問題ごとと向き合う必要がある。制作過程に纏わる問題だけでなく、作品それ自体もまた売れるもの、観衆に受けるものという軛からそう簡単に逃れるわけではない。
長く映影に携わってきた諸君。この『狩人と風の詩』に込められた情熱を感じることができるのなら、まだ青かったころの自分を思い出せるんじゃないかな。本作は大衆の声も評論家の目線も何もかも振り切って、自分が考える最高の作品を作りたいという純粋な想いが見事な結晶となっているよ。 なにより、作中のベッドシーンはただ世間の物差しを避けるツールとして用いているのではなく、狩人と精霊の関係性を表現するうえで重要なピースとして物語を構築している点がさらに素晴らしい。
神を名乗る不遜はこの際流すとしよう。何しろ、確かに彼らは既存の常識を打ち破り、新しい世界を切り開いたのだからね!」
新ジャンル、ロマンポルノが爆誕した瞬間なのであった。
本作世界線のテイワット人に神について問うと
何人かは新世界の神を答えるかもしれない。
~オリキャラ紹介~
エストリエたん
イったふりの演技がめちゃくちゃ上手い。
最近来る客が映影ネタを振ってくるため正直うざい。
ちなみに名前はあくまで源氏名。