四時の交差路   作:冬崎すのー

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一章【1-2】

 

人間の里・夜

 

 

 人の往来が最も賑やかな大通り、咲夜とレミリアは二人きりで歩いていた。とはいえ、構図としては咲夜を引っ張るレミリア、といった様子だが。

 

「咲夜ぁーーーー!

 次はあっちよ、あっちいきましょ!」

 

 

 いつどこでレミリアが耳にしたのかは知らないが、今日は人里で祭りが行われている。そしてレミリアはお祭りというものを一度経験したかったらしく、咲夜にお供するように声をかけた。

 今までに経験したこともなかったためか、レミリアは非常に楽しそうにしている。それはどれくらいかというと、あちらこちらに回り咲夜のことなどお構いなし、といった程に。

「お嬢様、慌てなくても大丈夫ですよ」

 そんなレミリアを咲夜は少し後ろにつきながら見守っていた。しかし、人里で祭りをやっている事は咲夜も耳にしていたがレミリアと同じくこのお祭りに参加するのは実は今日が初めてでもある。

 そんな初めて経験するお祭りの雰囲気を、咲夜は肌で感じ取る。

 

 ――――早苗が言っていたお祭りとは印象が大分違う気がするけれど。

 ――――まぁここは幻想郷だし、妖怪もお祭りに参加しているからかしら。

 

 そんな事を考えながら屋台を見回すと、咲夜の知っている顔ぶれが何人か見かけられた。

 人形遣いに道具屋の店主、夜雀や付喪神の姉妹に果てには百鬼夜行の鬼までいる。

「それにしてもうるさいわねぇ……宴の時も思うけど、もう少しお淑やかに出来ないのかしら」

 ――――お嬢様も人の事を言えないですよ。

 そう思った咲夜だがそれは口にしない。何せレミリアはこういう性格なのだから、言ったところで直さない。

 だがそれ以上に、咲夜は今のレミリアが好きだったから。

 だから「そう思わない、咲夜?」と聞かれた時は少しだけ戸惑った。

 

「けれど、君も大概じゃないか?」

 

 その瞬間、つい最近どこかで聞いた声を咲夜は耳にする。

 この声を聞いたのは確か、少し前の異変にレミリアと博麗神社に足を伸ばした時。

「げ」

 レミリアもその相手が誰か理解して、途端に嫌そうな顔を浮かべた。

 けれどそれは必然だろう、生粋の妖怪であるレミリアからすればそれこそ天敵に出会ったような物だ。

「おいお前、太子様に声をかけられたのにその態度はなんじゃ!」

 その隣には御付きの仙人が一人。彼女の名前は物部布都、こっちも顔は先の騒動で見ているけれどそんな事は咲夜にとってはどうでもよかった。

 

 

「――――今、なんと仰いましたか?」

 

 

 誰が何をするよりも早く、咲夜は布都の背後を取り喉元にナイフを突き付ける。同時に布都は委縮して一瞬だが硬直した。それこそ当人以外から見れば、まさに瞬間移動。そんな誰も反応できない芸当に、ついてこれた者は誰一人として存在しない。

「貴方の気持ちは分かるが十六夜の者よ。此処は祭りの場だ。

願わくば、刃を収めてはいただけないだろうか」

 彼の人間……いや、もはや聖人と言った方がいいだろう。布都の隣にいた彼女――――豊聡耳神子――――はまるで分かっていたかのように咲夜に向け牽制の意を向けてくる。そして、その醸し出す雰囲気だけで咲夜は悟った。

 

 ――――少なくともまともにやり合えば分が悪い……いや、違う

 ――――勝て、ない…………?

 

「咲夜」

 レミリアは咲夜に言葉をかけて、視線で合図を送る。今すぐ引いてその刃を収めなさい、と。

 そうして数秒だけ考えたが、大人しく咲夜はその場を引き下がった。

「悪気はなかったのだが……うちの布都が粗相をして申し訳ない」

 対する神子は少しばかりバツが悪そうに会釈をする。ただ柔和に笑みを浮かべて恭しく頭を下げた。

 ただ、それだけの事。

 だというのに、咲夜はなんともいたたまれない心持ちになる。

 そしてほとんど反射のようにおやめ下さいと口にしていた。

 

「こら、咲夜」

 

 言葉にしてから咲夜は自分の犯した愚に気付く。確かに咲夜は人間だし、目の前にいる聖人と呼べる人を本能的に敬うのは当然かもしれない。だが咲夜の主人は今此処にいるレミリア・スカーレットただ一人だけ。

「ちょっとそこの聖人、うちの咲夜をたぶらかさないでくれないかしら」

 レミリアはそんな咲夜を守るかのように神子と咲夜の間に立って敵意を投げかける。

 人里で周りに多くの人間がいる、そんな場所であるにも関わらずに。

「たぶらかしたつもりはないのだけれど……何を言っても弁明にはならなそうだね」

 対する神子は苦笑いを浮かべるものの、涼しい顔をしていた。まるで敵意など意に介さないように、飄々としながらも一分も隙は見せないままで。

「お前の様な人間は、私から見たら悪そのものだ。そこにいるだけで人間をあるべき姿に導いてしまう。

 あぁ、本当に忌まわしい」

 レミリアの言う言葉は、真実そのものだった。人間や妖怪には多くの者が存在し、その中には影響力が強い存在もいるだろう。

 もちろんレミリアだって能力も含めて、絶大な影響力を持っている。

 だが、それはあくまでレミリアが意図した相手に対してだけだ。

 今、目の前にいる豊聡耳神子はその影響力は恐らく飛びぬけている。何せ相手はレミリアと同じく、尊ぶべき血筋の存在で。それでいて傲慢な態度を取らずに相手の心情や境遇を理解して、恐らくは同調できるようなそんな人間だ。

 先程の僅かなやり取りだけでも、その思慮深さには果ての無いものを感じ取ってしまうほどに。

 だから……他の人間にとっては違っても、咲夜からすればこの相手は今まであった中でも一番に恐ろしい相手だった。

「私とした事が、少しばかり無遠慮だったね。互いもよく知らないのだから少しばかり雑談に花を咲かせようと思ったけれど」

「へぇ、雑談か。だが相手を間違えているだろう、聖人?

 お前は人間の味方であり、私は人を食らう吸血鬼だ」

 レミリアはそう言うと不敵な笑みを浮かべ、にやりと犬歯を覗かせる。

 だが神子も変わらず受け流すように、二人の距離は平行線のまま。

 そんな、いつまで続くかも分からない言い争いをしているうちに気付けば大きな人だかりが出来ていた。

 

 

「おやおや、随分と面白そうな事をやってるじゃないか」

「はっ!私より目立っている人達がいる……!?」

「あやややや、聖人と吸血鬼の戯れ事ですか?」

 

 

 そこには一癖も二癖もあるような顔ぶれがそろっていた。しかも、こういった者達は得てして大きな騒ぎを好む。まだ言葉にこそしていないが、集まって来た者の殆どは野次馬でありこれから起こる『何か』を期待している。

 

――――冗談じゃないわ、お嬢様を何だと思っているのよ。

 

「お嬢様、行きましょう。相手にするだけ時間の無駄ですわ」

 言うが早いか咲夜はレミリアの手を握る。いつもよりも少しばかり温かく、やはりレミリアは大分頭に血が上っているようだった。だからなのか、引き下がると伝えても一向にその場から動かない。

「咲夜、離しなさい。それにいつかは新参者にも私の力を見せたかったし……いい機会じゃない」

「新参者、か」

 この二人の言葉に同調するかのように、周りの観衆も盛り上がりを見せる。ともすれば、もう引き下がる事も叶わないだろう。何せこうなったら二人とも引くことを知らずにより目立とうとする性格なのだから。

 

「穏やかに話し合いがしたかったのだけど……そうもいかないみたいだね」

「あら、別にいいじゃない?

 どうせこの場は祭りだし、見世物としたら十分でしょう。

 吸血鬼の足元にひざまずく聖人なんて、幻想郷でしか見る事も出来ないな」

「たっ、太子様……」

「大丈夫だよ、布都。それより、一つだけ頼みたい事がある。

 彼女との対話に、邪魔が入らないように尽力してほしい」

「外に出るのも悪くはないわね――咲夜。邪魔だけは、するなよ?」

 

 慌てふためく従者を横目に楽しそうに構える神子。対するレミリアは、翼を広げ空へと舞い上がる。

「それにしても締まらないわねぇ。この私がその姿を見せるのに、紅い月がないじゃない」

「満月には不満かな?

けれどそれについては同感だよ、吸血鬼。やはり、私が活躍する場は太陽の下が相応しい」

「でも問題ないわ、単純な話。月が紅くないのだから――」

「だが悩む事もない。明くる日輪がないというならば――」

 

 

 

 

 

「私が紅い月(よる)になりましょう」

「私が日ノ本(ひかり)になるとしよう」

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