ボッコボコにしてやんよ!! 作:おいらだぜ!
「初めまして、西住師範。
「いえ、むしろこちらまでご足労いただき感謝いたします」
西住流、その本拠地である熊本の屋敷は宗家としての威容を放つかのように構えていた。
しかしそこはあくまで家であって、書斎や応接室などがあっても訓練所などは別に存在するらしい。
そりゃあ飯食ってる時とか人呼んでる時に砲撃音してたら五月蠅いもんな、そんなもんだろう。
「ボコられグマ、いつも娘達と楽しく視聴させていただいています」
「まじk―――……本当ですか?」
「ええ、私としても非常に興味深いので」
おいらが知らないところで家庭を歪めちまった!家族で食卓を囲んで晩飯を食いながら、ボコボコにされる畜生を嗤うモンスターハウスにしちまったんだ!!
「ええっと……実際どうでしたか?ちょっと内容に問題があるような気もするのですが……?」
「問題ですか、それについて一つ気になる事がございましてお呼びしたのです」
「へ?問題ですか?」
「ボコの戦闘シーンがありますよね?」
戦闘シーン?あるよ、はしゃいだ挙句に只管ボコボコにされる奴がな!!
「は、はい。何か気に障るところがございましたでしょうか?」
「まず初めに、ボコ達の戦闘シーンは戦車道の試合を参考にしていますね?」
「あ、はい」
そうなんです、戦いの場面が薄いかなぁと思って砲弾の代わりに岩を投げたり、待ち伏せしたり、ゲリラ戦を仕掛けるシーンなどを用意していました。
ゲリラ戦を仕掛けておいてヘイトを集めたボコがボコボコされるシーンは何故かシークバーでリピートが多いらしいよ。不思議だね。
「何より一番気になるのは―――この戦闘シーンは対西住流や対島田流を前提に構築されていませんか?」
――――あ、バレた!!
「大変申し訳ございません、ご不快に思われたのであれば謝罪いたします」
「いえ、それには及びません。あくまで何故なのかが気になっただけですから」
小久保心穂という名前は、戦車道に刻まれてはいなかった。
西住流とてスカウトチームは存在するし、ジュニアからハイスクールまでの公式試合を分析する部署すら存在するのだ。
その上で、小久保心穂という名前はどこにも存在しない。一生の内に少なくとも戦車道の試合に関わった事はない人間なのだ。
「私、戦車道が好きなんです。だけど戦車に乗る事すら出来なかった」
「戦車道が好きで、本を読んで、動画を見て、戦車道が好きで、西住流や島田流も好きで、戦車道が好きで、戦車が好きで―――」
「全てが戦車に見えました、車も船も飛行機も、殴りかかってくる不良共ですら」
「戦車の動画を見ながら戦車の本を読んで、ノートの内容は授業よりも戦車の事ばかりで、戦車道の空想をしながらご飯を食べて、風呂に入って、戦車の事を考えながら夢を見ます」
「私にはハンデがあって、それでも諦められなくて。私には友達も仲間も居ないから、夢の中で戦車は一両だけ。だけど相手は無限に強くて、無限に湧き出てくる」
「空で言える位に読んだ、夢見た西住流や島田流の戦車がずっと襲ってくる。逃げても隠れても立ち向かっても」
「それが嬉しくて、自分を増やして、そうしたら相手も増えて、ボコボコにされて」
「ずっとずっと、ずーっと、
それは端的に言って狂人の戯言だった。門前の小僧習わぬ経を読む、という諺があるが戦車道でもあるとは思わなんだ。
「もし、戦車に乗れるとしたらどうしますか?」
「乗ります」
「……それが西住流の戦車だとしても?」
「乗ります」
彼女には希望は無いが可能性がある。熱い鋼鉄を打つ西住流、人を煙にまく島田流。
そのどちらにしても
鉄は錆びつき、煙は飛ばされる。二大流派として栄える戦車道の根本から圧し折る存在へと育つかもしれない。
「必要な物は私が用意します、準備が出来次第戦車道の訓練に参加しなさい」
「ありがとうございます。次いでに一つ、差し出がましいお願いを聞いてはいただけないでしょうか?」
「何でしょう」
「ボコ仕様の塗装を入れていただきたいのですが」
「好きにしなさい」