ボッコボコにしてやんよ!! 作:おいらだぜ!
「なんで相手が島田流なんだよぉああああああ!!!?」
「お姉さま!落ち着いて!」
おいらボコだぜ!?初試合って言うから身内で非公式試合だと思ってたぜ!
それが何で相手が島田流!?いやこの世界の戦車道は大抵が西住流か島田流の関係者だからそれはいいんだけども!
「………」
「………」
問題はさぁ!なんで島田流の家元である島田千代様がご来賓として招待されてるのかなぁ!?
西住師範とバチバチじゃないか!こんな小規模かつ非公式な催しで何で二大流派の長が集合しているのさ!
あ、おいら分かったぞ!おいら達は西住師範達の用事の前の見世物なんだな!
ん?という事は負けた方がいいのか?こっちがホームとは言え向こうはゲストな訳だから……どうすればいいんだ?接待プレー?
でもでも、負けたらおいら西住師範に何されるか分からないぞ!個人事業主は発注者や元請にはそこそこ弱いんだ!
そんな事を考えていると西住師範が席を外してこっちに向かって歩いてきた、もしかして重要な伝達事項かも!
「島田流を徹底的に潰しなさい」
「相手の胃がねじ切れるほどの屈辱を与えます!!」
そこまでは言ってないよ?みたいな顔してるけど西住師範の気合は十分伝わったぜ!!
ところでなんで西住師範はおいらを高い高いしてるんだ?流石にカチューシャ程小さくはないから重くないか?
というかみほちゃんとまほちゃんいるじゃん!ちっちゃーい!うわー抱き着いてきてかわいいー!
イベント進行とかに使う用のボコヘッドを用意しておいてよかったぜ……。え?ボコグッズの注文?喜んでー!(クソデカ立礼)
さーて西住師範から大義名分と収入を頂いたから(初試合だけど)本気で本気出すぞー!
今回のルールは3on3の殲滅戦、平地と森林がまばらに存在する西住流の訓練場の一つだ!貸し切りだぞ!
こちらは38(t)とⅢ号戦車二両、相手はマチルダⅡ三両だ。
お相手バチバチに手加減なしじゃないか!センチュリオン三両とかじゃなくて安心だぜ!
しゃあっ!早速でけぇ挨拶を一発ぶちかましていくぞ!勝負は一発目が肝心だからな!!!
「あのあのあの……本日は、よ、よろしくお願いいたします……」
(声ちっさ!)
二大流派の西住流と島田流は相容れず、あるいは分かたれてこその両者ありと歴史は深く長い。
それでも互いに敵視して、こういった小競り合いも時にして起こりえる。
しかし―――これは予想外だった。
「ううぅ……怖いよぉ」
「ご、ごめんなさい!私達のリーダー……戦車道初めて二週間なんです。人見知りも激しくて……」
「それは……なんともまぁ」
なんというか小柄で、猫背でおどおどして、眼帯とか包帯とかつけてて、涙目で、しかも戦車道歴二週間?それが今回の相手のリーダー?
今回は島田流の家元までご来賓されているんだ、両陣営ともに負けて恥をさらすわけにはいかないこの状況で前に出される選手がコレ?
しかし油断は出来ない、選手の一人がどうであれ戦車は動くのだ。
「それでは、一同、礼!」
「「よろしくおねがいします!!」」
それぞれが初期位置に移動してエンジンを始動する。
ギアが繋がり、緩やかに巡航速度で進行を開始、そのまま陣形を組む。
戦車が三両のみという事で普段とは勝手と違うが、必要なのは全周囲に警戒を行いながら先手を打つ事だ。
この数では一両のみで偵察を出すにも難しいまま、一列縦隊でのそのそと歩みを進めている。
エンジンの音も、土煙も、何かが動いた違和感も感じない。手元の地図を見返して幾つかの当たりを付けなおす。
やはり散開すべきか、しかし減った分の戦力比はミクロ的には俄然不利。
高所を取る、罠を張る、裏を取る、島田流の教えを手持ちの札の様に弄れども事態そのものは変わらない。もしかして敵はそもそも動いていない?
―――時間の感覚が引き延ばされていく中、遂に変化が訪れる。
前方に敵のⅢ号戦車を二両発見したのだ、進行方向はこちら向き、このままでは会敵するだろう。
「斜行陣で構えます」
斜め一列の陣形を組んで敵からの射線を散らし、1:2で分散しながら挟撃の構えを取る。
敵戦車は二両、1対1と2対1で組み合い理想的に進めばこちらがダメージレースで有利を取れる。
あとはどこかで遊んでいるあの新人車長の戦車を仕留めて勝利、ここで方針は定まった。
現代において最適解かつ最高効率と呼ばれる流れは既に研究がかなり進んでいるのだ、だからこそ勝利の型に嵌める為に流派がある。
いくら相手が西住流だとしても、ここまでの流れを組めばこちらの優勢だ。
これ以上にない、最高の瞬間―――――
―――――やってやーる、やってやーる、やーってやーるぜ!
―――――Brrrrrr…
道の端、段差のある丘の上、見通しの悪い草叢と木々の間を抜けて――――
「いーやなアーイツをボーコボコにー!!!」
――――Vroooooooooooooom!!!!
―――敵の38(t)戦車が飛び出して来た!!
前方に視線を引き付けてからの横からの奇襲!これが素人のやる事か!?
しかし完全にジャンプしている戦車は隙だらけだ、精々一発の砲弾を放つ程度であろう。着地したところを狙えばいい。
アドレナリンが時間を圧縮する、視線が風景を点でなぞり―――理解は後で追いついてくる。
「なんで、こっちに飛んでくるのよ」
横から飛んできた敵の38(t)の砲塔の後面には、デカデカと包帯を巻いたボコボコの熊のイラストが描かれているのが良く見える。
重量約9.5トン、最高速度は約40km/hの重量物がこっちに向けて落ちてくる。
「―――なんで、砲身が後ろ向いてるのよ!!!!」
――――Kabooooooooom!!!!!
急いでキューポラに身を隠すも、間も開かずに全身を激しく揺さぶる衝撃が襲い掛かる。
38(t)が後方に向けて37mm砲を発射して
斜行陣の真ん中に構えていた自分の車両が横転した、そのまま38(t)は後方の車両の履帯を打ち抜いて止まる事なく通過していった。
前方一両、二対一で撃ち負ける。中央自車両と後方一両は近距離における戦車交戦中につき車両を修理の為に飛び出す事は叶わない。
自分の体を盾にして戦闘を中止させる行為を未然に防ぐため、ルールにて明文化されているのだ。
横転して動かせない自分達を尻目に相手のⅢ号戦車が通り過ぎて、機動力を削がれた後方車両がまたもや走行不能となる。
こうして一瞬で二両を刈り取られた残り一両の自分達は、切り返して戻って来た38(t)に無防備な上面を打ち抜かれて敗北した。
試合は終了、乗員は全員戦車から降りて輸送車両を待たねばならない。
そうしている内に38(t)の車長が下りて来た、挨拶の時とは違う、不適で獰猛な笑みをしている。
「ねぇ。もう一回、やる?」
負けた自分達が、不貞腐れた自分達の心には何よりも屈辱的だった。
「申し訳ございません、もう動かせる戦車がありません」
「そっか、西住師範にお願いしてⅢ号戦車を貸してもらってもいいけど……違う戦車って難しいよね?」
「ええ、流石に」
「そっかー……残念、それじゃあまた今度だね。―――そうだ、君たちの名前は?」
「……ルミ、です。こっちはアズミ、こっちはメグミです」
「そっかぁ……すごくいい名前だね」
そう言うと私達に手のひらサイズの熊のぬいぐるみを渡して来る、一つ一つが手作りで、それぞれが何故か別の負傷を負っている。
「ボコボコグマのボコだぜ!何度ボコボコにされても諦めない!そんな思いを込めて作ったんだ!」
こうして、回収車が来るまで謎の合唱を聞かされる羽目となったミミミ三人はげんなりした。
しかしこの時のボコが渡した人形によって島田愛里寿と将来縁が出来た事から、ボコは縁結びの神様として一時崇拝される事となる。
「ほら、興味深かったでしょう?」
「確かに、二週間で出来る事ではありませんね」
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