後宮の司書になったので、死ぬ気で政争から遠ざかりつつ本の虫になるTS転生者 作:暁刀魚
というわけで、私たちは宮廷書庫へとやってきたのだ。
そこはこの国最大の図書館であり、蔵書の数は後宮書庫の比ではない。
あそこは小さい蔵、程度の大きさだったからな。
さながら一つの迷宮、あるいは神殿。
ただそこにいるだけで、一応本の虫を自称する身としては気が引き締まる思いである。
「それにしても……外はアレだけ寒かったのに室内はそこそこ暑いですね……はぁ、ここまでの運動で少し体が火照ってしまいます」
「最後まったく動いていなかっただろうが」
今は年の瀬も近づいてきた寒い時期であるため、外を出歩くのに外套は必須。
肉に熱量を蓄えられないうすほそである私は、当然着込む必要がある。
結果的に移動中に服は熱が籠り、温かい室内でこうしてちょっと熱いなぁという気分になってくるわけだ。
外套を脱いで、先程まで自分が座っていた台車の一角に置く。
それだけでもまだ暑いので――
「はあ、あつい」
「ってえ、何してるの!?」
「って、何してるんだお前は!」
服をパタパタさせたら、それはもう凄い勢いで突っ込まれた。
「何って、暑いから風を送り込んでいるのですが?」
「ここ人前! 人前!」
「別に、普段だってしてるでしょう。春杏に見られても私は気にしませんよ」
「俺がいるだろうが!」
「弟が何を言ってるんです」
この二人は、私にとって身内判定だ。
昭華様に見られたら怒られそうなので嫌だし、紅玉様はじめ貴妃様たちに見られたら死ぬしかない。
だけどこの二人はまぁ、別にいいだろう。
「よくないの! 何度でも言ってるけど、よくないのー!」
「何が良くないんです? 理由は語ってくれませんよね」
「そ、それは……うぅ……」
なにやらモジモジし始める春杏、ダメとは言うけど理由が分からないんじゃこっちとしても直しようがないのだ。
と、そんな春杏を見て、何やら凌雲がハッとしてから何かを理解したように頷いていた。
そんな凌雲を見て、春杏もどこか察した様子で遠い目をする。
く、なんだなんだ。
「とにかく、まずは持ってきた本を棚に戻しますよ。急ぎましょう」
「あ、逃げた!」
「おい待て!」
なんか、二人が共謀しそうな雰囲気を感じる。
私にとって都合の悪い方向に!
ここは一時撤退だ!
■
――というわけで、その後。
あの後、三人で手分けして本を戻すことになった。
しかしある程度土地勘のある私と春杏と違って、凌雲は書庫に来るのが初めてらしい。
すぐに右も左も分からない凌雲は私を頼り、結果私と凌雲は二人で本を戻すことに。
「くそ……広すぎだろ、この書庫」
「そういうものです。それだけここには知識が収められ、人類の歴史を紡いでいるのですよ。実に素晴らしい」
「本の虫め……」
なんて話をしながら、書庫の中を進む。
私の分の本も運ばせているので、実に楽ちんだ。
「それで、最近はどうなのですか?」
「どうって、まぁ気楽にやってるよ。上は女帝がどうとか幼帝がどうとかで騒がしいけど、俺はまだまだ下っ端だからな。
「承淵というと、先程一緒にいた二大出世頭の」
「そう。俺は武一本だけど、あいつは立ち回りが上手いからな」
最近の身の上話は盛り上がりやすい。
といってもこっちの話は、あまり話せることがないんだよな。
紅玉様周りの関係は話すと政治に影響を与えそうだし、禁書に関しては以ての外。
凌雲は私が特異な力を持っていることは知っているが、深入りしようとはしてこない。
私の意向を汲んでいるのだろう。
自然と、春杏との話が主となってくる。
「あんないい子と仲良くなれたんだ、手放すなよ。そもそも、どうやってあんな子をたらし込んだんだ」
「たらし込んだとは失礼ですね。道に迷っていた春杏に道案内をしただけですよ。その後、書庫で再会して以来懐かれてまして」
「ははぁ、アンタらしい……っと、次の本は随分と高くに収めないといけないんだな」
と、その時だ。
この書庫はとんでもなく広く、そして縦にも長い。
簡単に言うと、足場を持ってこないと届かない場所に本を収めなくてはならないことがある。
六尺越えの巨漢である凌雲でも届かない場所があったりするのだ。
「足場を探してくるか」
「面倒ですね、こうしましょう」
「は? どうやって――」
「昔からよくやっていたでしょう。ほら、肩を貸しなさい」
言いながら、私はよじよじと凌雲の背をよじ登る。
あーもう、昔は楽に登れたのに、随分と高くなってしまったなぁ。
くそ、もう少し私に運動能力があったら!
あるいは道術が使えたら!
「おま、何やって!」
「静かにしてください、ここは書庫ですよ?」
「いや、そうじゃな……ああもう!」
凌雲が一向に助けてくれないので悪戦苦闘していたら、何やら向こうが騒ぎ始めた。
まったく、少しは気を利かせてくれないものかね。
弟だろ?
「くそっ!」
最終的に、毒づきながも私を背負ってくれた。
肩車、というやつだ。
うんうん、これなら本が自由に届くぞ。
空いている場所に、本をササッと入れていく。
「よし、このまま行きましょうか」
「はぁ!? もう本は収めただろ!」
「私が楽をできます。それに、また高い場所に出くわしたらもう一度こうするのですか?」
「次は足場を持ち運びながらだな……! というかさっきまで人目を気にしてただろうが!」
「面倒です、それにこんな誰もいない書庫の奥で人に見られることはないですよ。ほら出発」
というか、見られそうなら降りればいいのだ。
私には解析があるし、凌雲は類稀なる
ぶつぶつ文句を言いながらも、凌雲は移動を開始した。
「くそ、なんでこんな……というか、なんでこんな足細いんだよ、ちゃんと食べてるのか?」
「おや、
「人が本気で心配しているんだろ!」
「ああいえばこういいますね……」
「お前……っ!」
おっと、ぶん殴ってやろうかこいつ、の気配を感じたぞ。
しかし今私は貴様の肩の上、しかも貴様は本を持っている!
おらおら、ふとももで挟んでやろう。
ゴツゴツしていて……何一つ柔らかさがないぞ!
「があああああ!」
「うわっ、自傷を始めましたよ!?」
と思ったら、本を片手で持って自分の顔面を殴り始めた。
なんだこいつ……こわ。
とか言ってじゃれている間に、次の目的地へ。
「……さっきより更に高いですね」
「これは足場を持ってこないと届かんだろ」
「いえ、もう一つ策があります。本を手近な所においてください、念のため」
「どうするつもりだ」
「いいからいいから」
凌雲から、本棚に戻す本だけを受け取って、残りの本を適当な所に置いておく。
そして私は――
「足をしっかり支えていてくださいね」
「は――」
凌雲の肩の上で立ち上がった。
「ちょ、ま」
「ぐ、コレでも少し届かない……後少し、少し……」
ちょっと目測を誤っていたがために、ギリギリ届かない位置だった。
仕方なく私は、腕を伸ばして本を収め――
「よし、入りま――」
「わ、わ、わあああ!」
――二人まとめて勢い良く体勢を崩した。
どんがらー。
本をよそに置いておいてよかった。
この時代の本は非常に高価だ。
仮に傷つけていたら、私と凌雲の首が飛ぶ。
んで、衝撃に備えて目を閉じると――ぼすん。
何かが、私を受け止めてくれていた。
これは――
「おや――」
「だ、くそ……」
目を開けると、そこには凌雲の服の上からでも解る胸板がどん。
うわぁ、抱きとめられている。
「えーと、感謝しますよ……凌雲」
「蘭姐! そうやって、出来もしない無茶を考えなしに実行するなって何度も言ってるだろ!」
「わ……久しぶりに呼んでくれましたね、蘭姐って」
「は? あ、いや……」
見れば、私を抱きとめながら倒れ込む凌雲の姿が。
恥ずかしそうに、視線を反らしている。
「とにかく、無茶をした事は謝罪します。誠に申し訳なかったです、次からは足場を使いましょう」
「……分かればいんだよ」
「凌雲にも迷惑をかけました。手伝いの礼も兼ねて、今度美味しいものをごちそうしますね?」
「マジか!? 蘭姐の料理なら何でも大歓迎だ! へへ、手伝ったかいがあったな」
「それにしても――」
私は、思いっきり抱きとめられている凌雲の手に視線を向けながら、言う。
「――退けないんですか?」
「あ、アンタがどけばいいだろ?」
「……ふふっ」
いや、なんというか。
こうやって赤面する弟を見ていると、なんだかからかいたくなってしまうな。
昔を思い出すと言うか、昔もこうやって、凌雲に無茶を言っては困らせていたっけ。
ただまぁ今は――
「――破廉恥」
そう言ってからかうと、一番効果が高いと私は学習してるんだけど。
言ってから凌雲の顔を見たら、それはもう凄い勢いで視線を反らしているのだった。
――なお。
「…………何してるの、幽蘭」
春杏に見られた。
死にたい。
血の繋がらぬ弟君(180cm※若干本編の表現修正)の性癖は破滅させねば無作法というもの……
性癖を破壊されたいお方は、高評価をしていただくと破滅させてくださるそうですよ……
膝でぎゅっぎゅっとしてもらいたい紳士の皆様はよろしければお願いいたします。