後宮の司書になったので、死ぬ気で政争から遠ざかりつつ本の虫になるTS転生者 作:暁刀魚
そして私は──
「──ああ」
「しゅ、秋葉妃──」
寝台の上で服が乱れた秋葉様を押し倒していた。
なお、素蓮の幽霊は部屋の隅で寝取られ性癖を開花させている。
どうして────
話を、秋葉様の私室を訪れたタイミングまで戻そう。
訳を……訳を聞いてほしいんだ。
失礼しますと秋葉様の部屋に入って、秋葉様が寝台に腰掛けてさめざめと泣いていたのだ。
それを素蓮は部屋の隅で身悶えしながら眺めていた。
私はそこに入り込んで、秋葉様に準備ができたとお伝えしたのである。
対して素蓮は「未亡人を口説く!」とか「女誑し!」とか言ってきた。
そうしたら秋葉様が泣きながらすがりついてきて、仰ったのだ。
そして素蓮は寝取られで爆発した。
「素蓮とお別れしたくない、ずっと素蓮といっしょにいたい!」
それから、秋葉様はただただ泣き崩れた。
これはしばらく流れに身を任せるしかないだろう、となって私はただ泣いている秋葉様に寄り添った。
泣き止めば、ぽつりぽつりと素蓮とのことを話してくれると思って。
なお、素蓮は秋葉様の言葉で復活した。
なんなんだこいつ。
しかし──
「……素蓮は。私が悲しんでいるとずっとこうして寄り添ってくださいました」
やがて、秋葉様はそうこぼした。
「ずっと……ずっと、ずっとずっとずっと……」
そして、なんだか……雲行きが怪しくなってきたぞ?
「貴方もそうやって、何も言わずに寄り添ってくださいましたね──幽蘭様」
ぞくり、と背筋を震わせる。
視線を向ければこちらを見上げて、どこか危うい雰囲気の笑みを浮かべる秋葉様がそこにいた。
まずい、と思うよりも早く──
「──素蓮」
秋葉様が、私を抱きしめながら寝台に倒れ込んだのだ。
素蓮は両手で顔を覆いながら、その隙間からチラチラこっちを見ている。
それでいいのか!? 主が結構やばい勘違いしてるぞ──!
と、というか、逃げられない──!
同じ女子すら、こんな簡単に組み敷かれてしまうのだ、私は──!
う、うおおお!?
「素蓮、素蓮、素蓮!」
「お、落ち着いてください秋葉妃!?」
「そんなことをいって、本当はもう私に会いに来てくれたのでしょう? 幽蘭様のお体を借りて!」
く、くおお、まずいまずい、このままだと本当にまずいことになってしまう!
幾ら秋葉様の方からやってきたとは言え、妃とこんなことになったってバレたら首が飛ぶ!
故に私は焦ってもがき、結果的にお互いの立ち位置が反転。
「──ああ、素蓮」
「しゅ、秋葉妃──」
冒頭にもどるわけだ。
で、この状況、凄まじくやばい状況で──
「幽蘭、準備が終わりまし────」
なぜか私たちを迎えに来たのが安延様だったわけでして──
どうして安延様をひとりでここまでお使いに出してしまうのですか、どうして……
え、安延様が自分で行きたいと言い出したし、安延様は私が渡した分書を持ってる?
ああ……
「……あ、安延様」
「……幽蘭」
たっぷりお互いに沈黙して、見つめ合う。
秋葉様はその間、なんだか目を潤ませてこっちを見上げるのみ。
「な、なるほど……つまり幽蘭、あなたは秋葉を
「何言ってるんですか!?」
安延様がとんでもないことを言い出したので、がばっと起き上がってそちらに向かって叫ぶ。
明らかに意味深な言い方してますよこの人!
「わかっています、わかっています幽蘭。ここ最近、私の護衛をしてくれている方から教えていただきました。傷ついた
「誰ですかその大馬鹿者は!?」
マジでありえんだろ、一体誰がそんなこと教えたんだ。
妃なんだぞ!?
というかなんで、素蓮は安延様に「いけー! やれー!」みたいな煽りを入れてるんだ。
もはや話は、完全に収拾がつかないところまで来てしまった。
安延様は納得した様子でうんうん頷いてるし、秋葉様は顔を赤らめて完全に「待ち」の姿勢だ。
素蓮は安延様の背中を押して、私と秋葉様のくんずほぐれずに巻き込もうとしている。
いやホントどうなってるんだこれ、全く状況が理解できんぞ。
こうなったら……
「じゅ、準備ができたのでしたら、私はそちらに向かいます。し、失礼します!」
「あ、幽蘭!」
「あぅ……」
逃げるんだよおおお!
ついでに、安延様の背中を押していた素蓮の手をつかみ、引っ張る。
『掴めるの!?』
あ、喋った。
いいからほら、そろそろちゃんと話を聞かせてくださいね!
掴む方法? 私の瞳は現在金色に光り輝いておりまする。
というわけで、さっさと人気のないところまで行くぞぉ!
■
その後私たちは、中苑の外の人気が無い場所まで逃げ込んできた。
「…………はぁ、はぁ……ぜひゅー……ぜひゅー……」
『貴方……本当に体力がないのね……少し走っただけじゃない』
「うる……さい……ですね……」
くそぉ、体力とか関係なさそうな幽霊の体が羨ましい。
同じ儚い系の肉体で、どうしてうすほそと幽霊でこんなにも違うのか。
うすほそ差別だぞ、うすほそ差別。
とにかく、少しずつ息が整ってきたので素蓮に色々と質問していかないと。
「それで、貴方……一体……なんなのですか」
『何って……見ての通り素蓮じゃない。貴方だって一度会ったことあるでしょう?』
「ありますけども……骸もばっちりみてますけども……」
『う……
「冗談にしても笑えませんって!」
とにもかくにも、ばっちり素蓮は意思疎通ができるタイプの幽霊だった。
何だったら、僵尸になってる時の記憶すらあるらしい。
「貴方……幽霊としては何もかも規格外ですね。こんなふうに意思疎通できる幽霊は初めてみました」
『えーと、うーん……多分私って、実際には幽霊じゃないのかも?』
「と、いいますと?」
『幽霊ってこう……陰な感じじゃない? だけど今の私ってなんというか……陽なのよ。こう、感覚的な話だけどね? 解る?』
「あー、なんとなくわかります」
どうやら、今の素蓮は陰陽において陽に分類される存在らしい。
陽に分類されるものと言えば、禁書だ。
とはいえあの場に死者の記憶を読み取って存在を模倣する、みたいな禁書は存在していない。
というか、聞いたこともない。
禁書の効果は千差万別なので、探せばどこかにあるだろうけど、相当格の高い禁書だろうから中々表には出てこないだろう。
ただ、他にも該当する存在がある。
禁書の同類、あるいは、意思を持つ禁書。
すなわち──
「──今の貴方は、
『まぁ、そんな感じはするわよね。私にとっては、今も昔も素蓮は素蓮なわけだけど』
おおう、なんというか……スワンプマンってやつだなぁこれは。
本人の自意識も、見た目も、間違いなく素蓮だ。
だけど根本的には素蓮ではない。
とはいえ、それを気にするのは……多分秋葉様だけだ。
あの人はどういう結論を出すのだろう。
「そもそもどうして、貴方は誕生したのですか?」
『うーん、細かい所はよくわからないのよね。そもそも化生や禁書ってどうやって生まれるのよ』
「人の強い欲望によって発生する、と言われています。といっても、それ以外にも様々な要因がありますが」
『欲望……なんとなく、私の核になってるものは解る。
「──秋葉様の、素蓮ともう一度会いたいという願い」
その二つが混ざり合って、化生としての素蓮を生み出す種になったのだろう。
とはいえ、それだけで化生が誕生できるなら、この世は化生まみれになってしまう。
もっと特異な”何か”が素蓮に注ぎ込まれなければ、化生としての素蓮は生まれないはずだ。
『私がこの世界で存在を自覚する直前、眼の前に光がぱあっと広がったの。その暖かくて力強い光に手を伸ばしていたら、気付いたら”あそこ”に私はいたのよ』
「あそこ?」
『貴方が、昭華様と私を看取ってくれた場所』
ええと──なんかこう、嫌な予感がする。
私は片手を瞳にかざし、その隙間から光を放つ。
解析の光が、素蓮を照らした。
「……その光って、こういう光でしたか?」
『あ、そうそう! すっごく綺麗な光……幽蘭の光だったのね……』
私の禁書は、禁書の中でも特に格の高い禁書だ。
故に、内包された”力”も尋常ではない。
加えてあの場所にいた私は、禁書そのものだった。
分書とはいえ、力の塊であることに代わりはない。
そんなもんが強い願いを持ったまま死にゆく素蓮をぎゅーっとして力を注ぎ込んだら──
『…………つまり、幽蘭が私の
「やめてください!」
なんかこう、ゾワッとした。
めちゃくちゃゾワッとした。
素蓮はちょっとした冗談のつもりでいっているはずなのに! とある人物を思い出して!
ひい、怖い! おギャリ怪人怖い!
というか、本当にどうしようこの後……化生素蓮がいたらこの後の儀式、やる必要なくなっちゃうぞ!?
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