後宮の司書になったので、死ぬ気で政争から遠ざかりつつ本の虫になるTS転生者 作:暁刀魚
というわけで、私が化生素蓮の生みの親でした────
『責任とって?』
「ぎうぅっ」
『そんな反応するほど!?』
だ、だって……何か嫌な予感するし……多方面から鋭い視線が飛んできそうな気がするし……
わ、私は(今回以外は)何もしてないぞ(多分)。
──こほん、とにかく状況を確認しよう。
私が素蓮を”解体”したあの場所で、化生素蓮は生まれた。
この時はまだ素蓮ははっきりとした意識がなく、だから私も解析中だったにも関わらず感知できなかった。
元々、私が意識して解析してない物品には解析が効きにくいのが、うちの禁書の弱点だからね。
で、私の意識が分書から元いた書庫までもどると、同時に素蓮も後宮まで戻ってきたという。
ただし、紅玉様の元に。
『これがどういう原理でそうなったのか、私はよく分からないんだけど……』
「今の素蓮は、自分を生み出した存在に強く引き寄せられる傾向にあるのだと思います。貴方を生み出したのは私と、素蓮自身と、それから秋葉様」
『ええと……その中でもっとも強く私を求める人の所に、吸い寄せられたってこと?』
「そういうことになりますね、おそらく」
私は素蓮を完全に解体したと思ってるし、素蓮本人は実際解体されてるし。
その時、素蓮を強く意識していたのは秋葉様だけだっただろう。
ちなみに、素蓮はそれからずっと秋葉様の側から離れられなかったという。
これも、理由は非常に単純だ。
『ああ、生み出した人に引き寄せられるから、秋葉様の側から離れられなかったのね、私』
「そして私も貴方の誕生に関わっているので、貴方を秋葉様の元から離して連れてくることができたわけです」
『なるほどぉ』
とりあえず、大体の事情はわかった。
紐解いてみれば、どうしてこうなったのかは割とシンプルな理由だ。
しかし、問題はこの後。
「……素蓮、貴方はこれからどうするつもりですか?」
『どうするって……成仏するまで秋葉様を見守るつもりだけど』
「──
『……!』
ここまでの話は、本人にとってあまり自覚のない話だったのだろう。
元々、禁書や呪いといった現象について、そこまで詳しかったわけではない。
当事者意識も薄かったはず。
だから、理解しているとはいっても、ピンと来ていなかったはずだ。
「貴方は、貴方の生き方を選ばなければなりません」
私の言葉に、素蓮は押し黙った。
『……秋葉様にずっと付き従う、っていうのは?』
「それは
『秋葉様から離れることができないのに?』
「離れる方法はいくらでもあります、例えば、貴方と秋葉様の関わりを私が”解体”したり、とか」
『…………そっか』
素蓮は難しそうに考える。
『……私が秋葉様の元から離れるのも、一つの選択肢ではあるんだよね』
「はい」
『私は、厳密には本当の素蓮じゃない。私にとって私は私だけど、秋葉様にとってもそうだとは限らない。だから私は……秋葉様が一歩前に踏み出すためにも、秋葉様のところから
「それは違います」
『えっ?』
私は力強く否定した。
「確かに、死者は旅立つものです。生者は死者と別れを告げて、新たな一歩を踏み出さなくてはいけません。それが道理というものです」
『……なら』
「ですが貴方は死者ではありません。化生という、
人と少し、生き方が違うだけ。
そこに、道理なんてありはしない。
物語のようなお約束は存在しないのだ。
生きることに道理なんてあったら、人生はもっと簡単だったはずだろう?
「だから、あなたは選ばなくてはならないのです──素蓮」
『そんなの……難しくて選べないわよ……私って今まで、自分で人生なんて選んだことないのよ?』
「難しくとも、です」
この時代に、自分の人生を自分で選べる人間は少ない。
自分で自分の価値を決められる人間は、もっと少ないだろう。
私はある程度自分で生き方を選べたが──自分で自分の価値を決めることはできなかった。
今もまだ、できていない。
そして素蓮は死んだままだった方が、幸福だったのではないだろうか。
さっきまで素蓮はとんでもなくハイテンションだった。
しかし、最初に書庫へ入ってきた時の素蓮は、実をいうと
そりゃそうだ、隣で秋葉様がずっと悲しみ続けていたんだから。
自分は確かにそこにいるのに、言葉を伝えることができない。
そんな状況がずっと続けば、誰だって疲弊する。
化生とは言え、今の素蓮は生きてているんだから。
素蓮は私が自分に気付いているという反動で、ああなっていただけだったのだ。
……結果として彼女に選択肢を与えてしまったのは、私だ。
だから責任を取る……というのはある意味で必要な事である。
『──幽蘭は選んだんだよね』
「私は、貴方をこうした責任を……」
『それは、真実に気づいたからでしょ? あの時も幽蘭は、秋葉様に言う必要なんてなかったじゃない? ──私の言葉を、伝えられる……って』
「放っておけなかっただけですよ」
化生素蓮の存在はさておいても、私には秋葉様に言葉を送るための手段があった。
聞いてしまったから、放っておけなかったんだ。
「それに、ほとんどの事は安延様や阿華様や昭華様達にやっていただきました。私はただ、指示を出しただけです。それくらいなら、昼行灯志向な私でも気になりません」
『だとしても、よ。かっこよかったの』
思い出しながら、素蓮は私の言い方を真似する。
『──
「気恥ずかしいですね、それは」
なんとも、他人のマネは気恥ずかしいものだ。
そうやって照れる私をみて、素蓮は笑った。
素朴に、楽しげに。
けれどもそれと同時に──
『……私にも、そんな強さがあれば……』
──素蓮の頬から、雫が溢れた。
『汚名を被ってでも秋葉様を守るっていう強い意思があれば……私は死ななくても、すんだのかしら』
化生とて、命は命。
それを涙が、何よりも雄弁に証明していた。
「──最初から、答えは決まっていたのではないですか?」
『……ええ』
「なら、何をためらう必要があるのです。たとえ難しくとも、生きるためには選ばなくてはならない選択肢があります。今がそれを選ぶ時なのですから」
『わかってるわ』
そうして、涙を拭うと素蓮は前を向く。
『秋葉様が私を私と見てくれないなら、見てくれるまで私は努力する。秋葉様が私を受け入れてくれなくとも、いつまでだって秋葉様を守る』
「そうですね」
『そのために──』
そして、私に手を差し伸べた。
『私を、もう一度秋葉様とお話できるようにして』
「承知しました」
私もまた、その手を力強く掴む。
方法は、と問われたら”ある”と私は応える。
幸いにも、これまでやってきた準備が無駄になることはなさそうだ。
「──置いていかれるということは、とてもつらいことなのです。今の秋葉様は私を素蓮と同一視してしまうくらい、不安定になっています」
『う……秋葉様があんな顔を幽蘭に……何か……頭が爆発しそうだわ……』
「今の貴方は人ではないので、爆発したら本当に爆発するのでやめてくださいね?」
というかしてたし。
多分本人自覚してないけど。
「ですから、今の秋葉様を宥めるのは本当に大変だと思います。それでも、やりますか?」
『任せて、私と秋葉様は幼い頃からの付き合いなのよ』
「ですか」
『……ええ、ずっと、ずっと。ずっと二人で生きていくつもりだったの。私が秋葉様を守りきれなかった時以外は』
ああ、うん。
人生とは、何事も最初に描いた計画からズレていくものだ。
私も────覚えがある。
だけどまぁ、素蓮はこれからもう一度新しく”それ”を始めるのだ。
どれだけ”それ”が難しかろうと、大変だろうと。
「なら、行きましょう。素蓮──貴方は一体、どうしたいですか?」
『私は……今の私が秋葉様にとって私じゃなくとも──』
高らかに、素蓮は宣言するのだ。
『それでも、一緒にいたい』
さて、儀式を始めよう。
儀式の目的は、盛大に代わりまくってしまったけれど。
やるべきことは、何一つだってかわっていない。
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