後宮の司書になったので、死ぬ気で政争から遠ざかりつつ本の虫になるTS転生者   作:本のむしむし

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七 マジかお前系ボドゲ部

 すこしだけチラッと、ボードゲームで休日を潰すことがあると言ったが、私はこの世界に転生してから結構ボードゲームを嗜んできた。

 これも祖母の影響が大きい。

 というか、祖母の暮らす下町には結構な数の博徒がいて、そいつらが祖母をめちゃくちゃ慕ってたんだよね。

 なので、孫である私も親しく接してくれた。

 無頼漢である彼らを味方につけると、危ないことに巻き込まれた時に頼ることができるのだ。

 まぁ、一応禁書の力で自衛ができる私だけど、あまり大っぴらには使いたくないからね。

 

 で、そんな趣味を私は後宮でも少しだけ楽しんでいるわけだ。

 相手が誰かと言うと同じ女官……ではない。

 はっきり言って、同年代の女官は私の相手ができないのである。

 そこはどうしても年季というか、前世の経験と今の人生での経験が勝ってしまうというか。

 なので、本気を出せる相手はもっぱら昭華様や、その部下の陳徳殿がほとんど。

 二人とも滅法強いんだよね、ボドゲ。

 年の功を感じる老練さというか、強かさがある。

 昭華様は忙しいので、予定が空いやすい陳徳殿が主な私のボドゲ仲間かな。

 というか昭華様は明らかにボドゲ自体にはそこまで慣れていない。

 単純に頭がいいからボドゲでも強いだけで、ボドゲだけなら定石を学んでいる私や陳徳殿の方が強いのだ。

 だけどもう一人、欠かせない相手がいる。

 誰かって?

 

 

 ――阿華様だけど。

 

 

 おいどうしたんだ昭華様。

 そんなお前マジか――みたいな顔で天を仰いで。

 あ、もしかして混ざる? 私と阿華様はいつでも大歓迎だけど。

 

 

 ■

 

 

「――チー」

 

 お菓子を作り終えて、しばらく。

 私はそれを紅玉妃の元まで届けに行った。

 暇だからとついてきた昭華様とともに部屋へ向かうと、そこにはぐっすり眠る紅玉様の姿が。

 ちょうど安延様と阿華様も部屋にいて、三人にお菓子を振る舞う。

 阿華様の笑顔に、何やら昭華様がたじろいでいた。

 苦手なんだろうか。

 で、私の休日に偶然阿華様と安延様の暇な時間が重なった、ということは……だ。

 

 ――やりましょう、遊技盤(ボドゲ)。

 

 私の提案で、そういうことになった。

 今回はちょうど四人メンツがいるので、この世界において『雀(ジャン)』と呼ばれるボードゲーム。

 いわゆる麻雀だ。

 まぁ、だいぶルール違うけどね、中国式とも結構違う。

 用語は中国式に近いかな?

 

「――フーです、安延様」

「おっと、これはやられてしまいましたね、幽蘭」

「…………すぅー」

「どうしたんです、昭華様」

 

 何やら私の行動に、深く、あまりにも深い呼吸をする昭華様。

 そして、何故か振り込んだのに嬉しそうな安延様。

 ニッコニコの阿華様。

 三者三様の面持ちである。

 

「汝(なれ)……加減というか、忖度というか……そういうのはせぬのか?」

「昭華、遊技盤……特に『雀』は運が大いに絡む遊技です。勝ち負けは時の運、忖度など不要ですよ」

「……と、安延様がおっしゃいますので」

 

 それに、だ。

 

「加えて言えば……忖度などしている場合ではないでしょう」

「……まぁ」

 

 私の言葉に察したのか、ちらりと二人してある人物に視線を向ける。

 ――阿華様だ。

 多分、昭華様にとっても、私と阿華様に対する印象は同じらしい。

 

「は……阿華様は、遊技盤において恐ろしいほどの強さを有しておりますからね」

 

 その視線を察したのか、くすくすと笑いながら安延様がおっしゃる。

 そう、そうなのだ。

 阿華様、何か知らないけどめちゃくちゃ強い。

 私の知る限りボドゲ最強だった婆さんよりもさらに強いのである。

 今回は運が大いに絡むゲームとはいえ、素の実力は間違いなく阿華様がぶっちぎりだろう。

 

「そう言っていただき光栄ですわ――安延様」

「はい」

 

 そうして、微笑んでいるばかりであった阿華様が、ゆっくりと細めていた瞳を開く。

 それだけでもう、私と昭華様が引きつってしまうのだから、恐ろしい胆力である。

 マジ怖ぇ。

 

「――ですので、ここからは全力で参りましょう。かかってきてくださいまし、幽蘭、昭華」

 

 そして、口にされた言葉の圧は、もはや尋常ならざるものではない。

 まるで、この世全てを支配する王者の気風。

 ああ、なんとも恐ろしい。

 でも、だからこそ挑み甲斐があるのだ。

 隣で昭華様が、私の反応に何やらドン引きしているけれど、知ったことではないぞ。

 

 勝負とは、人生だ――!

 

 

 ■

 

 

「御無礼ですわ」

 

 ――負けました。

 三人まとめてボッコボコにされました。

 どうやら、途中まで黙ってゲームを見守っていたのは、こちらの流れを観察していたかららしい。

 いわゆる見(ケン)というやつだ。

 それが終わったら、あとはまさに疾風怒濤。

 こちらが手を貼る前に既に手を完成させ、まるでこちらの牌が透けているかのように狙い撃ってくる。

 いやぁ、完敗でしたね。

 普段ならもう少し戦えるのは、一緒に卓を囲む紅玉様や安延様に、阿華様が遠慮しているからだと思いたい。

 最後は昭華様と二人がかりで挑むも、完敗である。

 精根尽き果てた様子で、昭華様は自分の分のスイポテを抱えて帰っていった。

 今は、眠る紅玉様と安延様を二人とも膝枕しながら、阿華様が愛おしそうにその髪を撫でている。

 私はと言えば、卓の片付け中だ。

 ここの侍従長様にまかせてもいいのだけど、何か死んだような顔で片付ける事が多いから、あの人。

 で、二人きりになったので、折角だから聞いてみることに。

 これくらいなら、問題はないだろう。

 

「――阿華様は、どうしてそれほど遊技盤が得意なのですか?」

「……ふふ」

 

 あ、めっちゃ嬉しそう。

 そんなにうれしい質問だったのか?

 

「――遊技盤には時に儀式、あるいは神事としての側面があるのですわ」

「……儀式」

「はい。私はそのために遊技の腕を磨いて参りました」

 

 貴妃様になると、そういう仕事も発生するのか。

 巫女というのは神聖さが必要で、そういうのを尊い血筋のお姫様は満たしやすいからな。

 なんとも大変な話である。

 

「なので、実をいうと遊技はあまり好きではなかったのです」

「――それは」

「やれと押し付けられてする遊技ほど、つまらないものはないでしょう?」

 

 すぅーーーーーーー。

 内心、天井を仰いだ昭華様と同じ気分に私はなった。

 やっっっっっべ。

 

「ですが、貴方との遊技は違いますの、幽蘭」

「そ、そうなのですか?」

「ええ、だって貴方は――常に勝負に対して真剣でしょう?」

「……まぁ」

 

 祖母には、勝負は人生、難しさはそう変わらないのだからどちらも真剣に挑め、と。

 そう何度も口酸っぱく言われてきた。

 料理に関しても似たようなものだ。

 あの人は、自分の好きなものには全力な人だったな。

 

「……ふふ、善いですね」

「善い、ですか」

「ええ、とても善いのですわ。あんなにも楽しげに勝負を挑んできた人は、初めてでしたの」

 

 な、なんだか恥ずいな……それは。

 紅玉様達と三人で札遊びをしているところにたまたま私がやってきて、阿華様の強さに惚れ込んだんだっけ。

 他二人を楽しませつつ、かつ自分は強いのであると二人に見せながら立ち回っていたのだ。

 挑み甲斐のある敵を、演(・)じ(・)て(・)い(・)た(・)。

 忖度しつつも、なお強い。

 それがなんとも、印象に残ったことを覚えている。

 

「こと遊技以外の知恵比べであれば、強いのは昭華の方なのですがね」

「まぁ、あの方も底が知れませんからね」

「ええ。特に……”駒”を動かすことには長けていましてよ?」

 

 あの人、後宮の管理人だと思ってたけど、軍略もいけるのか?

 なんとも才能あふれることで。

 昭華様と阿華様の遊技盤における強さの違いは、遊技盤そのものを勉強したかどうかだという。

 どうも阿華様って、定石とか戦法とか、そういう遊技盤において覚えなくてはいけない知識がないまま戦っている。

 それであの強さか……それはそれで恐ろしいな。

 

「そうだ、幽蘭。――貴方は道術の類を信じますか?」

「急な話の振り方ですね」

「きちんと”振り”はしておりますのよ? 私が遊技盤を儀式として習ったのは、神にそれを奉じ、神力を得るためです」

 

 道術。

 この世界に存在する超常の力の一つ。

 禁書や呪いと比べると、制御された超常の力といった印象が強い。

 なんというか、ファンタジー世界における魔術、くらいの親しみやすさがある。

 まぁ、存在は秘されているので、そこまで庶民が手軽に使えるものではないのだけどね。

 とはいえ、だ。

 

「信じるも何も、昭華様が時折使っておられますから」

「まぁ」

 

 昭華様と、その部下陳徳殿は道術使い――道士だ。

 禁書に関わる過程で、私は幾度かその力を見てきた。

 直接、ではないけれども。

 何にしても、道士とは基本的に禁書被害を最小限に納め、秩序を守ることを生業とする者たちである。

 

「――貴方の”眼”からみて、そういった超常の力はどう映りますの?」

「阿華様――」

 

 禁書の事を知っているのか。

 この人、やっぱり相当な上位の妃様だな?

 上苑には後宮に入ってこの方、一度も出入りしたことがないからその辺はよくわからん。

 その割にはよく紅玉妃の元へ遊びに来ているし、暇なのだろうか。

 

「そも、禁書と道術は正反対の力ですよね」

「存じておりますわ」

「……であれば、道術が陰に、禁書が陽に分類されることもご存知であると思うのですが」

「ええ」

 

 これ、結構直感的ではないんだよな。

 いわゆる陰陽思想はこの世界においても健在だが、その中で道術は陰に分類され、禁書は陽に分類される。

 しかし実際には道術が秩序を守るための力であり、禁書が秩序を脅かす力だ。

 これって、直感的には逆じゃないだろうか。

 ただ、理由ははっきりしている。

 

「道術は”鎮めるための力”であり、故に陰。禁書は”欲を掻き立てる力”であるがため、陽。ですわね」

「はい、ですから――相反する力は私の眼から解析でき(読め)ないのです」

 

 解体はできるのだけどね、超常の力だから。

 ただ、禁書ほど一方的にサクッと解体、とはいかない。

 まぁこの世に存在する大抵のものは陽だから、早々解析で困ることはないのだが。

 問題は、私が道術を使えないこと。

 禁書を取り込むと道術が使えなくなるんだよね。

 使えたらなぁ、身体強化とかできるから便利なんだけど。

 治癒とかできるから、筋肉痛や疲労を無視できるんだけどなぁ!

 

「……不思議ですわね。同じ力なのに違いがあるなんて」

「そうですね」

 

 にしても、阿華様は何を聞きたいのだろう。

 真意が読めてこない。

 

「ですが貴方は――特別な存在なのですわ」

「はぁ……買いかぶりすぎかと」

 

 うーんなんかこう、致命的なところで噛み合ってない気がするのは……気のせいってことにしておこう。

 

 

 ■

 

 

 ――阿華は楽しげに笑う。

 ああ、本当に、なんと得難い存在なのだこの少女は。

 あ(・)の(・)子(・)もよくここまでこの子を育ててくれたものだ。

 こんなにも楽しそうに、阿華という絶対的な強者に挑んでくる博徒など、どれほどいるだろう。

 遊技とは、どうしても金が絡むものだ。

 時には命すらも。

 それに、負け続けて楽しい人間もそういない。

 だから幽蘭という少女が、これほどまでに勝負を愛していることが、阿華は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

 なお、幽蘭が阿華に対して挑み続けているのは遊技に金や命の絡む博打であるという意識がなく、またあくまで遊びであるという認識だからだ。

 そもそも、この時代の人間と遊技(ゲーム)が日常だった幽蘭の意識はあまりにも違う。

 とはいえ、それだけではない。

 幽蘭は、禁書を殺す禁書という、特別すぎる禁書の持ち主。

 本来禁書は秩序を壊し、道術がそれを守るのが常識。

 だというのに、禁書使でありながら禁書を解体するのが本分なのだから、特別としかいいようがない。

 加えて、皇太后である自分にこんな勝負を挑む胆力。

 これを手放すなんて、人材が大好きで大好きで仕方がない阿華にとって、ありえないことだった。

 

「……雨が振りますわね」

「ですね」

「――一難、起こりそうですわ」

「……ですか」

 

 外を見て、曇り空に幽蘭と眉をひそめる。

 ここ最近宮中で不穏な動きが見られていた。

 事が起きるなら、おそらく今日だ。

 阿華は少しだけ、楽しみだった。

 幽蘭がそれにどのような対応をするのか。

 

 ――彼女が、この陰の気に満ちた雨へ、どのような考えを示すのか。

 それが、とても、とても楽しみでならなかったのだ。

 

 なお繰り返すが、幽蘭は阿華が皇太后だと気付いていないし、阿華は幽蘭が自分が皇太后だと気付いていないことに気付いていない――




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