グレンラガン×艦これ <紅蓮の男が世界を変える> 作:ざつざっつ
なんだかんだ、2話目です。
艦これ設定と違うとか、色々意見等あると思いますが、勢いとノリが売りなので合わないと思った方は、迷わずブラウザバックしてください。
色々詰め込んだら、めっちゃ文字数増えました。荒削りで申し訳ないです。
1話見てくださった方、ありがとうございます。
朝日が窓から差し込み、部屋の中を柔らかく照らしていた。
普段ならば、騒々しい目覚まし時計の音に叩き起こされ、慌てて階段を駆け下りる時間だ。
しかし、今日の吹雪は違った。
昨晩から殆ど眠れていないのだ。
「……はぁ」
何度目か分からない溜め息を吐きながら、吹雪はベッドの上で膝を抱えていた。
机の上には昨日届いた海軍からの封筒が置かれている。
昨夜、院長夫婦に事情を説明をしようとしたが、どう言えばいいのか分からなかった為、説明が出来なかった。
ただ、吹雪自身が一番混乱していた為、結局は明日やって来るという艦娘達の話を聞いてから考えようということになった。
「艦娘……かぁ」
吹雪はぽつりと呟いた。
昨日までは、テレビの向こう側にいる存在だった。
海の上を自由に駆け、巨大な敵を相手に戦う少女達。
そんな存在に自分がなれるかもしれないと言われても、どう反応すればいいのか分からなかった。
「……私なんかが、なれるのかな」
自分の手を見つめる。
小さくて何の変哲もない手だった。
この手で何が出来るのだろう。
深海棲艦と戦う?
海の上を走る?
そんな事、想像すら出来ない。
「……怖いよ」
誰に聞かせるでもなく呟いた言葉は、静かな部屋の中に消えていった。
その時、階下から院長の声が聞こえてきた。
「吹雪ちゃーん!朝ご飯出来たよー!」
「……はーい!」
吹雪は慌てて返事をすると、ベッドから立ち上がった。
いつまでも考えていても仕方がない。
そう自分に言い聞かせながら、制服に袖を通す。
だが、胸の奥に広がった不安は、どうしても消えてくれなかった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「それで、長門さんから聞いた話だと、ここで間違いないのよね?」
「住所は合ってるわ。示威波町三丁目……この辺りの筈よ」
朝の示威波町。
まだ人通りの少ない住宅街を、2人の女性が歩いていた。
1人は肩まで伸びた茶色の髪を揺らしながら、手元の地図と周囲の建物を交互に見比べている。
もう1人は長い銀髪を靡かせ、どこか不機嫌そうな表情で辺りを見回していた。
重巡洋艦、足柄。駆逐艦、叢雲。
彼女達は昨夜、長門から命じられた任務を遂行する為、示威波町へとやって来ていた。
「……ねぇ、足柄」
「んー?」
「本当にこの道で合ってるの?」
「合ってるわよ。多分」
「多分って何よ!」
叢雲は思わず声を荒げた。
「さっきから同じ場所を3回も通ってるじゃない!」
「仕方ないでしょ!この町、道が入り組んでるんだもの!」
「だから最初から私に地図を渡しなさいって言ったのよ!」
「はいはい、分かったわよ」
足柄は少し不満そうに地図を差し出した。
叢雲はそれを奪い取るように受け取り、現在地を確認する。
「……あ」
「何?」
「……一本、道を間違えてたみたい」
「ほら!やっぱり!」
「うるさいわね!アンタが適当に曲がるからでしょ!」
2人は朝っぱらから言い合いを始めた。
しかし、そんなやり取りをしているうちに、目的の建物が見えてきた。
小さな庭と、少し古びた二階建ての建物。
門の横には、手作りらしい木製の看板が掲げられている。
「……ここね」
足柄は看板を見上げた。
「随分と小さな施設なのね」
「そうね。でも、綺麗に手入れされてるわ」
叢雲の言う通り、建物自体は古いものの、庭には色とりどりの花が植えられ、窓も綺麗に磨かれていた。
子供達の笑い声が、開いた窓から聞こえてくる。
足柄は一度、制服の襟元を整えた。
「さて、お仕事開始ね」
「……変な事言って怖がらせないでよ」
「分かってるわよ!」
足柄は苦笑いを浮かべながら、玄関の呼び鈴を押した。
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「はーい、どちら様ですか?」
玄関の奥から女性の声が聞こえた。
程なくして扉が開き、エプロン姿の女性が顔を覗かせる。
「おはようございます。私、海軍所属の足柄と申します」
「同じく、叢雲と申します」
2人は軽く頭を下げた。
その言葉を聞いた瞬間、女性の表情が変わった。
「天道 吹雪さんの件で伺いました」
「ど、どうぞ上がってください。主人も呼びます」
院長は2人を中へ招き入れた。
玄関に入ると、温かな朝食の匂いが漂ってきた。
奥の方では子供達が何やら騒いでいる。
「へぇ……賑やかなところね」
足柄が小さく呟いた。
「えぇ。毎朝こんな調子なんですよ」
院長は笑いながら答えた。
「さぁ、こちらへどうぞ」
2人は案内されるまま、居間へと向かった。
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「……つまり、うちの吹雪ちゃんに艦娘の素質があると?」
院長の夫は、目の前に置かれた書類を見つめながら尋ねた。
テーブルを挟んだ向かい側には足柄と叢雲。
その隣には院長が座り、そして少し離れた場所に吹雪が腰掛けていた。
吹雪は朝からずっと落ち着かない様子で、膝の上に置いた両手を握り締めている。
「はい。正確には、艦娘としての適性を示す反応が確認されています」
足柄は丁寧に説明した。
「ただし、通常の艦娘候補とは少し事情が異なりまして……」
「事情、ですか?」
院長が不安そうに尋ねる。
「えぇ。実は、吹雪さんの適性値が既存の測定基準に当てはまらないんです」
「……どういう事でしょうか?」
「私達にも詳しいことは分かっていません」
今度は叢雲が口を開いた。
「司令本部の研究部門でも原因を調べている最中です。だから、まずは鎮守府で詳しい検査を受けてもらいたいんです」
「検査……」
吹雪は小さく呟いた。
「それって……私、病気なんですか?」
「違うわよ!」
叢雲は慌てて否定した。
「そういう意味じゃないわ。艦娘としての素質があるかどうかを、もう少し詳しく調べるだけよ」
「……そう、ですか」
吹雪は俯いた。
しかし、表情は晴れなかった。
院長の夫は書類を置き、2人を見つめた。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「はい、何でしょう?」
「もし、吹雪ちゃんに艦娘としての素質があると分かった場合……その子はどうなるんですか?」
足柄と叢雲は、一瞬だけ顔を見合わせた。
「……正式な艦娘として、訓練を受ける事になる可能性があります」
「それは……」
院長の声が震えた。
「戦争に行くんですか?」
その問いに、足柄はすぐには答えられなかった。
嘘をつく訳にはいかない。
だが、目の前にいる少女と、その家族に対して告げるには、あまりにも重い言葉だった。
「……将来的には、その可能性もあります」
足柄は静かに答えた。
「ただし、今すぐ戦場へ出るという話ではありません。まずは検査を受けてもらい、その後のことは本人と保護者の方の意思を確認してから決めることになります」
「……戦争」
吹雪の口から、小さな声が漏れた。
頭の中で、何かが音を立てて崩れていくような感覚がした。
昨日までは、ある種のヒーローに憧れるような、どこか現実味のない話だった。だから、実際に話を聞くまでは特に深く考えていなかった。
艦娘の素質がある。そして海軍から手紙が来た。
それだけだった。
しかし、今、目の前にいる本物の艦娘達が告げた言葉は違った。
戦争。深海棲艦。
命を懸けて戦うということ。
それらが急に、自分のすぐ目の前へ迫ってきた。
「……私が?」
吹雪は震える声で尋ねた。
「私が……戦うんですか?」
「吹雪ちゃん、落ち着いて」
院長が優しく声を掛ける。
しかし、吹雪の耳には届いていなかった。
「だって……私、普通の中学生ですよ?学校だって……勉強も運動も、そんなに出来ないし……」
「吹雪ちゃん、まだ決まった訳じゃないのよ」
足柄が落ち着かせようとする。
「まずは検査を受けて、それから……」
「でも!」
吹雪は思わず立ち上がった。
椅子が床を擦り、大きな音を立てる。
「でも、もし艦娘になったら……私、ここに帰って来られなくなるんですか⁉︎」
「それは……」
「もう、みんなと会えなくなるんですか⁉︎」
足柄は言葉に詰まった。
絶対に帰って来られる。
そう言って安心させることは簡単だった。
しかし、戦争に絶対など存在しない。
「……そんなの、嫌です」
吹雪の目に涙が浮かんだ。
「私……ここが好きなんです。院長先生達も、みんなも……」
言葉が上手く出てこなかった。
胸の奥から込み上げてくる感情を、どうすればいいのか分からない。
「……何で、私なんですか?」
誰も答えられなかった。
「何で……私なんかが……」
「吹雪ちゃん……」
院長が手を伸ばした。
しかし、吹雪はその手から逃れるように後ずさった。
「……ごめんなさい」
小さく呟いた。
「私……無理です」
「あ、待って!」
足柄が立ち上がる。
「嫌です!」
吹雪は叫んだ。
「帰ってください!私、艦娘になんてなれません!」
そのまま玄関へ向かって駆け出した。
「吹雪ちゃん!」
院長の声が響く。
しかし、吹雪は振り返らなかった。
靴を乱暴に履き、玄関の扉を開け放つ。
眩しい朝日が目に飛び込んできた。
吹雪はそのまま、外へ飛び出した。
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「……行っちゃったわね」
叢雲は開け放たれた扉を見つめながら呟いた。
足柄は深い溜め息を吐いた。
「……ごめんなさい。私達の説明が悪かったのかもしれません」
「いえ……」
院長の夫は首を横に振った。
「吹雪ちゃんにとっては、あまりにも突然の話ですから」
院長は心配そうに玄関を見つめていた。
「……あの子、大丈夫かしら」
「少し、一人にしてあげてください」
「ですが……」
「吹雪ちゃんは、昔から何か悩み事があると、一人で考え込んでしまうところがあるんです」
院長は小さく笑った。
「でもね、あの子には昔から頼りにしている人がいるんですよ」
「頼りにしている人?」
叢雲が首を傾げる。
「えぇ。ちょっと……いえ、かなり騒がしい男の子なんですけどね」
院長の夫は苦笑いを浮かべた。
「今は訳あって、町の駐在所にいるんです」
「……駐在所?」
足柄と叢雲は顔を見合わせた。
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吹雪は走っていた。
どこへ向かうのかも考えず、ただひたすらに足を動かしていた。
住宅街を抜け、商店街を通り過ぎる。
途中、何人かの知り合いに声を掛けられたが、返事をする余裕などなかった。
「はぁ……はぁ……!」
息が苦しくて、胸が痛い。
それでも、足を止めたくなかった。
止まってしまえば、またあの言葉が頭の中に響いてくる気がした。
艦娘。戦争。深海棲艦。
「……何で、私なの……!」
吹雪は唇を噛み締めた。
怖かった。
自分が知らない世界へ連れて行かれることも。
大切な家族と離れることも。
そして何より、自分にそんな大きな役目が務まるのか分からないことが。
「……私、何も出来ないのに……」
学校では、いつも周りに置いていかれてばかりだった。
何をやっても上手くいかず、失敗しては笑われる。
そんな自分が、誰かを守るために戦うなんて。
無理に決まっている。
そう思った。
だが、その時。
ふと、一人の男の顔が浮かんだ。
『上を向いて歩け、吹雪!』
昨日、聞いたばかりの声だった。
『馬ァ鹿、アニキって呼べって言ったろ!』
「……カミナさん」
吹雪は足を止めた。
息を整えながら、顔を上げる。
目の前には、見慣れた商店街が広がっていた。
その先にあるのは、小さな駐在所。
昨日、カミナが連れて行かれた場所だった。
「……あの人なら」
吹雪は小さく呟いた。
「カミナさんなら……何て言うんだろう」
きっと、笑うだろう。
いつものように大きな声で。
そして、馬鹿みたいなことを言うに違いない。
それでも。
今の自分には、その言葉が必要だった。
吹雪はもう一度走り出した。
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「……暇だ」
駐在所の奥。
簡易留置所の中で、上野カミナは大きな欠伸をしていた。
昨日からずっとここに閉じ込められている。
最初こそ大声で文句を言っていたものの、駐在の男が一向に取り合わない為、今ではすっかり退屈していた。
「おーい、オッサン!」
「何だ!」
「腹減った!」
「さっき朝飯を食わせただろうが!」
「こちとら、育ち盛りなんだぞ!」
「そう言うなら、普通お前の年齢は学校に通ってるんだよ!」
「いいか!飯ってのはな、もっとこう……魂にガツンと来るモンなんだよ!」
「喧しい!黙って反省してろ!」
カミナは鼻を鳴らした。
「へっ、相変わらず頭の固ぇオッサンだぜ」
「お前にだけは言われたくないわ!」
そんなやり取りをしていた時だった。
駐在所の入口が勢いよく開いた。
「カミナさん!」
聞き慣れた声に、カミナは顔を上げた。
「……お?」
入口には、肩で息をする吹雪が立っていた。
髪は乱れ、頬は赤くなっている。
何より、その表情が普段とは違っていた。
「……吹雪?」
カミナは眉をひそめた。
「どうした、そんな顔して」
「カミナさん……!」
吹雪は留置室の前まで駆け寄った。
「おいおい、何だよ。そんなに慌てて」
いつものように笑いかけようとしたカミナだったが、吹雪の目に涙が浮かんでいる事に気付くと、表情を変えた。
「……何があった?」
その声は、先程までの騒がしさが嘘のように静かだった。
吹雪は唇を震わせた。
「私……どうしたらいいか、分からなくて……」
「……あぁ」
カミナは短く答えた。
「話してみろ」
その一言に、吹雪の目から涙が零れた。
吹雪は全てを話した。
昨日、届いた海軍からの手紙。
今朝、孤児院を訪れた2人の艦娘。
自分には特別な素質があるという事。
そして、もし艦娘になれば、いつか戦場に立つことになるかもしれないという事。
カミナは途中で口を挟むことなく、黙って聞いていた。
普段の彼からは想像も出来ない程、真剣な表情だった。
「……それで、怖くなっちゃって」
吹雪は俯いた。
「みんなと離れるのも嫌だし……戦うなんて、私には出来ないと思うし……」
「……そうか」
「でも……」
吹雪は顔を上げた。
「でも、私……何も出来ないままでいいのかなって……」
カミナは何も言わなかった。
「ニュースで見る艦娘の人達は、みんな頑張ってるのに……私だけ、怖いからって逃げて……」
吹雪の声が震えた。
「……ねぇ、カミナさん」
「ん?」
「私……どうすればいいのかな」
吹雪は必死に言葉を探した。
「私なんかに……何が出来るのかな……」
カミナはしばらく黙っていたが、やがて、ゆっくりと立ち上がった。
「……吹雪」
「……な、なに?」
「お前、馬鹿だな」
「……え?」
突然の言葉に、吹雪は目を瞬かせた。
カミナは腕を組み、いつものように笑った。
「何が出来るか分かんねぇ?そんなモン、俺だって分かんねぇよ!」
「……そ、そんな」
「当たり前だろ!まだやってもねぇんだからよ!」
カミナは豪快に笑った。
「いいか、吹雪。お前が今まで何をやってきたとか、何が出来なかったとか、そんなモンは関係ねぇ!」
「……でも」
「でもじゃねぇ!」
カミナは吹雪を真っ直ぐ見つめた。
「お前は今、何がしたいんだ?」
「……私が?」
「そうだ!」
吹雪は言葉に詰まった。
何がしたい。
そんな事、考えたこともなかった。
ただ、毎日を過ごしていた。
学校へ行き、家に帰り、みんなとご飯を食べて遊ぶ。
それが当たり前だった。
だが。
「……私」
吹雪は小さく呟いた。
「私……みんなを守りたい」
カミナは黙って聞いていた。
「院長先生達も……孤児院のみんなも……」
吹雪は拳を握り締めた。
「それに……カミナさんも」
「……へっ」
カミナは口元を緩めた。
「いいじゃねぇか」
「……でも、怖くて」
「そりゃそうだろ」
あまりにもあっさりとした返事だった。
吹雪は驚いて顔を上げた。
「……え?」
「怖ぇモンは怖ぇんだよ。そんなモン、当たり前じゃねぇか」
カミナは笑った。
「だけどな、吹雪」
その声が、少しだけ低くなった。
「怖ぇからって、お前のやりたい事まで諦める必要はねぇだろ?」
吹雪は息を呑んだ。
「出来るかどうかなんざ、後で考えりゃいい。まずはお前がどうしたいかだ!」
「……私が、どうしたいか」
「そうだ!」
カミナは胸を張った。
「お前がやりてぇってんなら、やってみりゃいい!失敗したら、また立ち上がりゃいい!それでも駄目なら、何度でもやり直しゃいいんだ!」
吹雪の目から、再び涙が零れた。
しかし、先程までとは違っていた。
「……カミナさん」
「ん?」
「私……本当に出来ると思う?」
カミナは一瞬、呆れたような顔をした。
そして。
「馬ァ鹿!」
大きな声が駐在所中に響いた。
「俺が信じてる吹雪を、お前が信じねぇでどうすんだ!」
吹雪は目を見開いた。
カミナは笑っていた。
いつものように、何の迷いもなく。
「いいか!お前が自分を信じられねぇってんなら、俺を信じろ!」
「……カミナさん」
「お前が信じる俺を信じろ!」
吹雪は唇を噛み締めた。
胸の奥で、何かが熱くなっていく。
ずっと自分を縛り付けていた不安が、少しずつ解けていくような気がした。
「……う、うん!」
吹雪は涙を拭った。
「私……やってみる!」
「おう!いいか、お前の運命はお前が決めろッ!」
カミナは満足そうに頷いた。
「それでこそ俺の妹分だ!」
吹雪は笑った。
昨日からずっと浮かべることが出来なかった、心からの笑顔だった。
「……ありがとう、アニキ」
その言葉を聞いた瞬間。
カミナの動きが止まった。
「……お?」
「……え?」
吹雪は自分が何を言ったのか気付き、顔を真っ赤にした。
「ち、違っ……今のは……!」
「……へっ」
カミナはニヤリと笑った。
「ようやく呼んだな!」
「も、もう!からかわないでよ!」
「馬鹿野郎!嬉しいに決まってんだろ!」
カミナは豪快に笑った。
その声につられ、吹雪も笑った。
駐在所の奥から、男の怒鳴り声が響く。
「お前ら!ここを何処だと思っとるんだ!」
しかし、2人はもう気にしていなかった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「……結局、駄目だったわね」
示威波町の商店街。
足柄は肩を落としながら歩いていた。
隣を歩く叢雲も、どこか浮かない表情だった。
「仕方ないでしょ。本人が嫌だって言ってるんだから」
「そうなんだけどねぇ……」
足柄は深い溜め息を吐いた。
「長門さんに何て報告しようかしら」
「そのまま報告すればいいじゃない。本人が拒否したって」
「簡単に言うわねぇ」
「事実でしょ?」
叢雲は腕を組んだ。
「長門さんだって、無理に連れてくるなって言ってたじゃない」
「……そうね」
足柄は頷いた。
彼女達は既に孤児院を後にしていた。
院長夫婦には、今回の件について改めて連絡することを伝えてある。
だが本人が拒否した以上、これ以上無理強いするつもりはなかった。
「……でも、気になるわね」
足柄が呟いた。
「何が?」
「あの子の素質よ」
「……そういう事ね」
叢雲も少しだけ表情を曇らせた。
既存の艦娘とは異なる反応。
判定不能。
司令本部ですら詳細を把握していないという、謎の適性。
「……一体、何者なのかしらね」
「さぁね」
叢雲は肩を竦めた。
「でも、本人が望まないなら、それまでよ」
「……そうね」
足柄は空を見上げた。
雲一つない青空が広がっている。
遠くから、海鳥の鳴き声が聞こえた。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
「そうね」
二人は町の出口へ向かって歩き出した。
その時だった。
「待ってください!」
背後から声が響いた。
足柄と叢雲は振り返った。
そこには、息を切らしながら走ってくる少女の姿があった。
「……吹雪ちゃん?」
足柄が驚いた声を上げた。
吹雪は二人の前まで来ると、膝に手をつきながら息を整えた。
「はぁ……はぁ……!」
「ちょっと、大丈夫?」
叢雲が心配そうに尋ねる。
吹雪は顔を上げた。
「……あの!」
2人は黙って続きを待った。
「さっきは……ごめんなさい!」
吹雪は頭を下げた。
「突然、あんなこと言われて……怖くなっちゃって……」
「……いいのよ」
足柄は優しく答えた。
「誰だって驚くわ。無理もないもの」
「でも……!」
吹雪は顔を上げた。
その目には、先程までの迷いとは違うものが宿っていた。
「私……考えたんです」
「……何を?」
叢雲が尋ねた。
「私に何が出来るのか……どうしたいのか……」
吹雪は拳を握り締めた。
「正直、まだ怖いです」
足柄は黙って聞いていた。
「戦争なんて、私には想像も出来ません。艦娘になれるかどうかも分かりません」
吹雪は一度、深く息を吸った。
「でも……!」
その声が、少しだけ大きくなった。
「私、みんなを守りたいんです!」
足柄と叢雲は目を見開いた。
「私を育ててくれた院長達も、孤児院のみんなも……この町の人達も!」
吹雪は真っ直ぐ二人を見つめた。
「だから……!」
少しだけ声が震える。
しかし、今度は目を逸らさなかった。
「私……やってみます!」
足柄はしばらく何も言わなかった。
そして、ゆっくりと微笑んだ。
「……そう」
その声は、どこか嬉しそうだった。
「よく決めたわね」
「……はい!」
叢雲は腕を組み、吹雪を見つめた。
「……言っておくけど、簡単じゃないわよ」
「分かってます」
「訓練だって厳しいし、思い通りにならないことも沢山あるわ」
「……はい!」
「それでも?」
吹雪は頷いた。
「……やってみたいです!」
叢雲は一瞬、驚いたような顔をした。
そして、小さく笑った。
「……ふん」
視線を逸らす。
「まぁ、悪くないんじゃない?」
足柄はそんな叢雲を見て、思わず笑った。
「ふふっ、素直じゃないんだから」
「うるさいわね!」
2人のやり取りに、吹雪も思わず笑みを浮かべた。
先程までの重苦しい空気が、少しだけ和らいだ。
「それじゃあ、改めてよろしくね。吹雪ちゃん」
足柄は手を差し出した。
吹雪はその手を握った。
「はい!よろしくお願いします!」
その瞬間。
天道 吹雪の運命は、大きく動き始めた。
「……あ、そうだ!」
握手を終えた吹雪は、何かを思い出したように声を上げた。
「どうしたの?」
足柄が首を傾げる。
「あの……一つ、お願いがあるんですけど……」
「お願い?」
「はい……」
吹雪は少し言いにくそうに視線を泳がせた。
「実は……私の知り合いが、今、駐在所にいて……」
「……駐在所?」
叢雲が眉をひそめた。
「はい。その……ちょっとした事情で捕まっちゃってて……」
「……?」
足柄と叢雲は顔を見合わせた。
「その人を……釈放してもらう事って、出来ませんか?」
一瞬、沈黙が流れた。
「……ちょっと待って」
足柄が額に手を当てた。
「どうしてそういう話になるの?」
「えっと……その人、悪い人じゃないんです!」
吹雪は慌てて説明した。
「いつも私のことを助けてくれて……今日も、その人のお陰で決心出来たんです!」
「……だからって、軍の権限で釈放しろって?」
叢雲は呆れたように呟いた。
「そ、そういう訳じゃ……!」
吹雪は顔を真っ赤にした。
「ただ……お願い出来ないかなって……」
足柄は困ったように笑った。
「うーん……事情を聞くだけなら出来るけど、私達に勝手に釈放する権限があるわけじゃないのよ?」
「……そう、ですよね」
吹雪は肩を落とした。
その様子を見て、足柄は小さく溜め息を吐いた。
「……まぁ、いいわ」
「……え?」
「とりあえず、その駐在所まで案内してくれる?」
「……いいんですか⁉︎」
「話を聞くだけよ。約束は出来ないからね?」
「はい!」
吹雪は嬉しそうに頷いた。
叢雲はそんな二人を見ながら、嫌な予感を覚えていた。
「……ねぇ、足柄」
「何?」
「何だか、面倒なことになりそうな気がするんだけど」
「気のせいよ、気のせい!」
足柄は笑った。
しかし。
叢雲の予感は、残念ながら的中することになる。
ーーーーーーーーーーーーーー
「……だから!俺は何も悪い事してねぇって言ってんだろ!」
「だから!昨日から何度、同じ事を言わせるんだ、このバカモン!」
示威波町の駐在所。
朝から続く怒鳴り合いは、昼を過ぎても収まる気配がなかった。
「大体、たかがバイクで走ったくらいで大袈裟なんだよ!」
「お前の場合はそれだけじゃないだろうが!」
「細けぇ事気にしてるとハゲるぜ、オッサン!」
「やかましい!もう手遅れに差し掛かってんだよ!」
そんなやり取りをしていた時だった。
「……失礼します」
入口から女性の声が聞こえた。
駐在の男は振り返った。
そこには、軍服姿の二人の女性と、見慣れた少女が立っていた。
「……ん?」
男は目を瞬かせた。
「また来たのか?吹雪ちゃん」
「こんにちは……」
さっきまで駐在所でカミナと話して、出て行ってまた戻ってきた吹雪は少し気まずそうに頭を下げた。
その後ろから足柄が一歩前に出る。
「突然お邪魔して申し訳ありません。私、海軍所属の足柄と申します」
「同じく叢雲です」
二人は身分証を提示した。
駐在の男は慌てて姿勢を正した。
「こ、これは!海軍の方でしたか!」
「えぇ。少しお話を伺いたい事がありまして」
足柄は穏やかに切り出した。
「こちらに、上野カミナという男性が拘留されていると聞いたのですが……」
その名前を聞いた瞬間。
奥から大きな声が響いた。
「おう!俺ならここだぜ!俺を西海一の暴れん坊、カミナ様だと知って来たのか⁉︎」
カミナだった。
「……」
叢雲は声の方向を見た。
留置室の中には、赤いサングラスに、派手な格好をした男が腕を組んで立っていた。
鋭い目付き。自信に満ちた笑み。
そして、何よりも目立つのは、その態度の大きさだった。
「……何よ、コイツ」
叢雲は思わず呟いた。
「……あの人が?」
足柄も少し驚いた様子だった。
吹雪は苦笑いを浮かべた。
「……はい。カミナさんです」
カミナは三人を見比べた。
「お?吹雪じゃねぇか!」
「アニキ!」
「何だ、もう戻ってきたのか?」
「そうだけどそうじゃないっていうか…」
吹雪は嬉しそうに頷いた。
「私、決めたから!」
「おう!」
カミナは満足そうに笑った。
「それでこそ俺の妹分だ!」
2人のやり取りを見ていた足柄は、少しだけ首を傾げた。
「……妹分?」
「はい。昔から、兄妹みたいな関係なんです」
吹雪は照れくさそうに答えた。
「……へぇ」
足柄は改めてカミナを見た。
随分と変わった男だ。
少なくとも、普通の人間には見えなかった。
「……それで?」
叢雲が口を開いた。
「アンタ、一体何やらかしたのよ?」
「ん?」
カミナは叢雲を見た。
そして、ニヤリと笑った。
「おう、何だ嬢ちゃん!随分と威勢がいいじゃねぇか!」
「……は?」
叢雲の眉がぴくりと動いた。
「誰が嬢ちゃんよ!」
「いいねぇ、元気があって結構じゃねぇか!」
「アンタねぇ……!」
叢雲が一歩前に出ようとしたところで、足柄が肩を掴んだ。
「はいはい、落ち着いて」
「だってコイツ!」
「今は仕事中でしょ?」
叢雲は不満そうに鼻を鳴らした。
「……ふん!」
カミナはそんな二人を見て、豪快に笑った。
「はっはっは!面白ぇ女共だな!」
「……何なのよコイツ!」
叢雲は早くも頭を抱えた。
足柄は苦笑いを浮かべながら、駐在の男へ向き直った。
「それで、こちらの方は何を?」
「……それがですね」
駐在は深い溜め息を吐いた。
「不良同士の喧嘩に暴走行為、騒音騒ぎ……数え上げればキリがありません」
「……あら、結構ヤンチャな子なんですね」
足柄は目を瞬かせた。
「ただ、一般人に危害を加えた事は一度たりともありませんし、昨日も道路に飛び出した子供を避ける為に急停車したところを確保したんです」
「……なるほど」
足柄は頷いた。
「今回は正式な逮捕手続きではなく、厳重注意と一時的な保護という扱いなんですね?」
「えぇ。本人が少しでも反省すればすぐに帰すつもりだったんですが……」
駐在はカミナを睨んだ。
「この有様でして」
「反省するような事はしてねぇ!」
「ほら、これです!」
足柄は思わず笑いそうになった。
「……随分と元気なんですね」
「元気過ぎて困っとるんです!」
その時、吹雪が一歩前に出た。
「あの……お願いします!」
駐在の男は吹雪を見た。
「吹雪ちゃん?」
「カミナさんを……帰してあげてください!」
吹雪は深く頭を下げた。
「昨日、私が落ち込んでたから……元気づけようとしてくれたんです!」
「……吹雪」
カミナは少し驚いたような顔をした。
「私の所為で捕まっちゃったんです。だから……!」
「馬鹿野郎!」
突然、カミナが声を上げた。
吹雪はびくりと肩を震わせた。いつもの大声に混じる怒りを感じたからだ。
「お前の所為じゃねぇって言ったろ!」
「……でも!」
「俺が勝手にやった事だ!お前が頭下げる必要なんざねぇ!」
吹雪は言葉に詰まった。
その様子を見ていた足柄は、少しだけ表情を和らげた。
なるほど。この男が、吹雪の背中を押した人物なのだろう。
口は悪いし、態度も大きい。
しかし、吹雪を大切に思っている事だけは、十分に伝わってきた。
「……あの」
足柄は駐在へ向き直った。
「今回の件、私達からもお願い出来ないでしょうか?」
「……と、言いますと?」
「こちらの上野さんは、今回私達が保護する予定の少女にとって、大切なご家族のような存在です」
足柄は吹雪を見た。
「吹雪ちゃんは、これから鎮守府で適性検査を受けることになっています」
「……何ですと?」
駐在の男は驚いた。
「吹雪ちゃんが……艦娘に?」
「はい」
吹雪は頷いた。
「私……やってみようと思うんです」
駐在はしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと息を吐いた。
「……そうか」
その表情には、どこか寂しさが滲んでいた。
「小さい頃から知っとる吹雪ちゃんが、そんな事になるとはなぁ……」
「……おじさん」
「……分かった」
駐在はカミナを見た。
「今回だけだぞ」
「……お?」
「海軍の方からもお願いされとるからな。それに、吹雪ちゃんがこれから大変な思いをするかもしれんのなら、せめて送り出すくらいはしてやれ」
「……へっ!」
カミナは笑った。
「話が分かるじゃねぇか、オッサン!」
「ただし!」
駐在は指を突きつけた。
「次に問題を起こしたら、本当に容赦せんからな!」
「分かった分かった!」
「絶対に分かっとらんだろうが!」
駐在は深い溜め息を吐きながら、留置室の鍵を取り出した。
金属の音が響き、扉が開く。
カミナは大きく伸びをした。
「くぅーっ!ようやくシャバの空気が吸えるぜ!」
「……大袈裟ね」
叢雲が呆れたように呟いた。
カミナはその声に振り返った。
「おう、嬢ちゃん!」
「だから嬢ちゃんじゃないって言ってるでしょ!私には叢雲って名前があるのよ!」
「おう、そうか嬢ちゃん!」
「なんかムカつくんだけど!」
叢雲の怒鳴り声を聞きながら、カミナは豪快に笑った。
足柄はそんな2人を見て、思わず苦笑いを浮かべた。
「……本当に、賑やかな人ね」
「……すみません」
吹雪は申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいのよ」
足柄は笑った。
「でも、少しだけ分かった気がするわ」
「……何がですか?」
「あなたが、どうしてこの人を頼りにしているのか」
吹雪は一瞬驚いたような顔をした。
そして、嬉しそうに微笑んだ。
「……はい!」
カミナはそんな2人の様子を見ながら、首を傾げた。
「……何だ?何の話してんだ?」
「アンタには関係ないわよ!」
叢雲が即座に答えた。
「何だとぉ⁉︎」
再び始まる言い合い。
吹雪と足柄は顔を見合わせ、思わず笑った。
「さて、と!」
駐在所を出たカミナは、大きく両腕を広げた。
「やっぱ外の空気は最高だぜ!」
「……たった一晩で何言ってるのよ」
叢雲は呆れ顔だった。
「へっ!分かってねぇなぁ、お嬢ちゃん!」
「だから!」
「まぁまぁ、叢雲」
足柄は苦笑いを浮かべながら二人の間に入った。
「それじゃあ吹雪ちゃん、これから一度孤児院に戻りましょうか」
「はい!」
吹雪は元気よく頷いた。
「院長さん達にも、改めて説明しないとね」
「……そうですね」
吹雪は少しだけ不安そうな表情を浮かべた。
だが、先程までとは違う。
自分で決めた事だったが、怖くないと言えば嘘になる。
それでも、もう逃げるつもりはなかった。
「……アニキ」
吹雪はカミナを見た。
「ん?」
「私、頑張ってみるよ」
カミナはニヤリと笑った。
「おう!」
そして、吹雪の頭に大きな手を乗せた。
「行ってこい!そして思いっきりやってこい!」
「……うん!」
吹雪は笑った。
その様子を見ていた足柄は、何故だか胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
この男は、一体何者なのだろう。
初対面の印象は、ただの騒がしい不良だった。
しかし、吹雪と話している時の彼は、まるで別人のようだった。
「……ねぇ、上野くん」
足柄が声を掛ける。
「ん?」
「そういえば、さっきも気になったけど、あなた吹雪ちゃんのお兄さんなの?」
「そうだとも!」
カミナは胸を張った。
「血は繋がってねぇが、魂で繋がった兄妹だ!」
「……魂?」
足柄は目を瞬かせた。
「そうだ!血の繋がりなんざ関係ねぇ!大事なのは、ここだ!」
カミナは自分の胸を拳で叩いた。
「……ふふっ」
足柄は思わず笑った。
「変わった人ね、あなた」
「よく言われるぜ!」
「褒めてないわよ……」
叢雲が呆れたように呟いた。
カミナはそんな叢雲を見て、また豪快に笑った。
「はっはっは!」
その笑い声が、穏やかな昼下がりの町に響いた。
だが。
その平穏は、突然終わりを告げることになる。
ーーーーーーーーーーーーーー
最初に異変に気付いたのは、叢雲だった。
「……ん?」
彼女はふと足を止めた。
「どうしたの?」
足柄が尋ねる。
「……何か、変じゃない?」
「変?」
叢雲は海の方へ視線を向けた。
先程まで聞こえていた海鳥の鳴き声が、いつの間にか消えていた。
遠くの港から聞こえていた漁船のエンジン音もない。
代わりに腹の底に響くような、低い音が聞こえてきた。
「……何だ、この音?」
カミナも顔を上げた。
空気が震えている。言葉にすればそんな感覚だった。
足柄の表情が変わる。
「……まさか」
その時。
町中に、けたたましい警報が鳴り響いた。
『緊急警報!緊急警報!』
防災無線から、切迫した声が響く。
『示威波町沿岸海域に、深海棲艦と思われる複数の反応を確認!住民の皆様は直ちに指定避難場所へ避難してください!』
「……深海棲艦⁉︎」
吹雪は息を呑んだ。
足柄と叢雲は即座に顔を見合わせた。
「叢雲!」
「分かってる!」
2人の表情から、先程までの気楽さが消えた。
艦娘としての顔だった。
「吹雪ちゃん!」
足柄が声を上げる。
「今すぐ避難して!上野君も!」
「避難しろってもよぉ」
カミナはそう言いながら、海の方を見つめた。
遠くの水平線に、黒い影が浮かび上がっている。
一つ。
二つ。
三つ。
その数は、徐々に増えていく。
「……何だ、ありゃ」
「…アレが深海棲艦…」
吹雪は震える声で呟いた。
初めて見る深海棲艦。
テレビの画面越しではない。ソレが今、目の前にいる。
それだけで、足が竦んだ。
「……嘘」
吹雪は小さく呟いた。
「こんな……町の近くまで……」
足柄は歯を食いしばった。
「……まずいわね」
「えぇ」
叢雲も頷いた。
「この距離じゃ、町への攻撃が始まるまで時間がないわ」
二人は即座に通信機を取り出した。
「こちら足柄!示威波町沿岸に深海棲艦を確認!至急、増援を要請します!」
『こちら鎮守府管制!状況を報告してください!』
「大淀⁉︎ 敵影複数!詳細な数は不明!現在、町への接近を確認!」
『了解!直ちに迎撃部隊を編成します!』
「私達は、増援が来るまで携帯火器で応戦するわ!」
『…無理だけはしないでくださいね…』
通信を終えた足柄は、叢雲へ視線を向けた。
「……行くわよ!」
「分かってるわ!」
二人は海へ向かって駆け出そうとした。
しかし。
「……待てよ」
背後から声が響いた。
思わず、足柄は振り返る。
そこには、腕を組んだカミナが立っていた。
「……何?」
「お前ら、アイツらと戦うつもりか?」
「当たり前でしょ!」
叢雲が叫んだ。
「私達は艦娘なのよ!」
「……」
カミナは口元を吊り上げた。
「なるほどな」
そして、海の向こうを見つめた。
黒い影は、確実に近づいてきている。
「……面白ぇ」
「……は?」
足柄は思わず声を漏らした。
カミナは笑っていた。
まるで、これから喧嘩にでも出掛けるかのように。
「ちょっと待ちなさいよ!」
叢雲が声を荒げた。
「何を考えてるのか知らないけど、アンタは一般人なのよ!大人しく避難しなさい!」
「……一般人?」
カミナは叢雲を見た。
そして、ニヤリと笑った。
「そんなモン、関係ねぇだろ!」
「関係あるわよ!」
「目の前で誰かが困ってんのに、黙って見てられるかってんだ!」
「……アンタねぇ!」
叢雲が言い返そうとした、その時だった。
遠くの海から、閃光が走った。
次の瞬間。轟音と共に地面が揺れた。
町の外れにある港の方から、巨大な水柱が立ち上がった。
「きゃあっ!」
吹雪は思わず頭を抱えた。
足柄が咄嗟に吹雪を庇う。
「伏せて!」
爆風が通りを吹き抜け、周囲の窓ガラスが激しく震えた。
「……くっ!」
轟音と爆風で、叢雲は歯を食いしばった。
「もう攻撃してきた……!」
足柄は海を睨みつけた。
「……叢雲、急ぐわよ!」
「分かってる!」
2人は駆け出した。
その背中を、吹雪は呆然と見つめていた。
自分も、いつかあの人達のように戦うのだろうか。
怖い。
足が震える。
しかし。
「……吹雪!」
カミナの声が響いた。
吹雪は顔を上げた。
カミナは、いつものように笑っていた。
「お前は、どうする?」
「……え?」
「怖ぇか?」
吹雪は小さく頷いた。
「……うん」
「そうか」
カミナは笑った。
そして、吹雪の肩に手を置いた。
「なら、今は無理すんな」
「……アニキ?」
「俺達はまだ、戦い方も知らねぇ。だったら、今出来る事をやりゃいい!」
吹雪は目を見開いた。
「……今、出来ること?」
「そうだ!」
カミナは町の方を指差した。
そこには、避難しようとする人々の姿があった。
泣き叫ぶ子供や混乱する住民達。
「……あ」
吹雪は息を呑んだ。
「お前が守りてぇって言った連中が、そこにいるだろ!」
その言葉に、吹雪の表情が変わった。
「……う、うん!」
カミナは満足そうに頷いた。
「よし!行くぞ!」
「……え?」
「決まってんだろ!」
カミナは笑った。
「避難の手伝いだ!」
吹雪は一瞬驚いたような顔をした。
そして、力強く頷いた。
「……分かった!」
2人は町の方へ駆け出した。
その背後では、深海棲艦の砲撃が再び海面を震わせていた。
平穏だった示威波町。
そこで暮らしていた一人の少女と、一人の男。
彼等がまだ知らない運命は、今まさに動き始めていた。
そしてこの日を境に、天道 吹雪と上野 カミナの人生は、二度と元には戻らない事になる。
つづく
例のBGM
深海棲艦の襲撃に揺れる示威波町。
迫り来る脅威を前に、カミナと吹雪は何を選ぶのか。
「私……これ、動かせるのかな」
「動かせるさ!」
「……どうして、そんなことが言えるの?」
「決まってんだろ!俺がお前を信じてるからだ!」
絶望の中、眠れる螺旋の力が目を覚ます!
次回、天元突破グレンラガン! 地の底から、天を突け!